異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第179話 「そら全力でぶん殴って動けなくなるまで魔力を発散させるだけだぜ」

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「ぐ、ううううう……!」

 

「どうした!?大丈夫か!?」

 

コクピットの後ろに転がされているかけるが急に苦しみだした。

 

『熱量増大。これまでの62倍の『魔力』らしきエネルギーを検知。危険です』

 

秋遂が廻へと警告すると、廻も彼女の身体を走査する。

 

「……まずいな、これは」

 

現在、秋遂は海面へと降下中である。

 

このまま彼女を放逐するわけにも行かず、機体の制御を執ると「―――無人の、秋遂の光学・電波迷彩で誤魔化せそうな場所、か」と呟いた。

 

そのまま海没し様子を見るはずだった秋遂は進路を変えて、ある場所を目指した。

 

―――場所は、蒼沫湾の沖合500km。

 

近年隆起して誕生したまだ名前もついていない新島であった。

 

「少し我慢したまえ!すぐに到着する!」

 

光学・電波迷彩が解けない速度―――時速4000kmほどで彼は秋遂を飛行させる。

 

ついたのは、それから数分後のことであった。

 

―――到着しました。どうしますか?

 

秋遂の言葉が直接廻の電子頭脳へと届く。

 

「無論、一度彼女を外に出す!」

 

そう叫んで廻はかけるを背負うと、開け放たれたハッチから外へと飛び出した。

 

コクピットが存在するのは秋遂の腹部。

 

約10mほどの跳躍は廻にとっては階段を降りるのと全く変わることはない。

 

背負ったかけるに衝撃を与えないよう柔らかに着地した廻は、彼女を砂地へと寝かせた。

 

「うう、うぁぁぁぁぁ……!」

 

かけるはのたうち回るほどではないが、苦しげに頭を振り、そしてうめき声を上げ続けている。

 

「異常は……この熱量増大のみか。他に疾患、損傷はない―――これは体内の魔力が暴走している?やはりミナやルルに診せなければわからんか……」

 

彼はどうにもならんな、と頭を振る―――すると。

 

仰いだ天が割れ、そこから―――「無事ですか、廻さん!」とまず岬が飛び出してきた。

 

「岬!?―――それに皆!」

 

すぐに彼女の後を追うかのようにミナたちが割れた空から落ちてきた。

 

「良かった!まだ完全に暴走しているわけじゃないみたいね!」

 

「ミナ!これはどういうことだ?!」

 

「説明は後―――岬、虹のかけらを―――!」

 

廻の言葉にミナが叫んで、そこで彼女は―――

 

「……まずいのです」

 

岬が尋常ではなく青い顔をして、苦しむかけるを見つめていた。

 

「どうしたの岬……って、まさか!」

 

ミナも何故岬がそのような顔をしているのか、一瞬で気がついた。

 

「……かけるちゃん、前まで足が動かなかったとかなんかそんなこと言ってたわね……!」

 

「そこまでではないのですが、かけるちゃんはもともと身体が弱くて運動もろくに出来なかったそうなのです。それが改善してななかちゃんたちと遊べるようになったのは―――この半年ほどの間なのですよ」

 

そこまで岬が言って、それを恋がつなぐ。

 

「―――つまり、魔法少女になってるから身体がマシになってるってことだよな。アウステルの呪いは解けても、そっちは解けるかわかんないよな……」

 

それはつまりどういうことかと言えば。

 

彼女から虹のかけらを剥がし、それをもって魔力を封じてしまえば彼女は病弱な状態へ戻ってしまうかも知れないということだ。

 

もちろん、そのほうが周りにとっても良いことは良いだろう。

 

何より魔法少女―――魔女の秘密を岬と恋は知ってしまった。

 

即ち、不老となり、いずれ精神が耐えられずに自死を選ぶであろう事実を。

 

ガドゥルが嘘をついていない限り、それは真実だと言っていいだろう。

 

だとするなら、とも思うが……

 

「なら仕方ない。死ぬ気でやるぞ!」

 

下手な考えを口に出す前に、ミナは既にバッグから上古の森人の戦装束と黄昏の剣を取り出していた。

 

「ルルも魔神のローブに着替えてよ。それと限定解除1分出すから、ガドゥルさん召喚してね」

 

こともなげにそう言って、従者もまた「はい、わかりました」とあっけらかんとした答えを返していた。

 

「え、えっ?」

 

『いいのか、貴様』

 

戸惑う岬と呆れる夕に、ミナは「いや、だって身体ろくに動かない50年と身体動くけど500年生きなきゃいけないなら後者のほうがマシでしょ……?」と真剣な表情で返して最強装備に着替える。

 

無為に過ごすことに上古の森人は慣れきっていてつまらない、とはミナ自身が同族へと抱く感想の一つだが、彼女も十分にその体に引っ張られていることの証拠の一つと言える言葉であった。

 

五体満足で過ごす無為な時間と、満身創痍で苦しむ有意義な時間なら当然前者を選ぶし、それがどれだけ長くても気にしないのが生粋の森人というものなのである。

 

ミナは後者を選ぶ方だが、それでもかけるがそうであると決められる年でないくらいはわかる人間だ。

 

故に、虹の欠片を引き抜くのは今回はなしだと、ため息交じりに笑ったのであった。

 

「それはともかくとしてだな。どうやって止めるんだ、アレ」

 

空悟が竜の兜を被り直し、今津鏡を抜いて苦しむ少女を見つめながら苦笑すると、ミナは―――

 

「そら全力でぶん殴って動けなくなるまで魔力を発散させるだけだぜ」

 

あっさりと言って、ミナはカレーナの剣を抜いて地面に突き立てた。

 

『あにするんじゃ、孫。もう少し丁寧に扱えい』

 

祖母がグダグダと文句を言うが、ミナは意に介せず「ちょっとまってよ。ルルの封印限定解除しないと」と微笑んだ。

 

「全く、日に2度もあんたの封印解かなきゃならないなんて。あっちの世界でもほとんどなかったと思わない?」

 

ミナが手をルルの額にかざしてそういうと、「漫然としていてはあの精霊の言ったように僕らは死んでしまいますよ。いいことではないですか。漫然と過ごしているうちにはこれは入りませんよ」と深く深く、まるで花畑が一斉に咲き誇ったかのようにルルは笑って主の手を取った。

 

「抜かしなさいよ―――森人の勇者が死の王へと、我らが偉大なる調律者ディーヴァーガの名と契約において命を下す。我が同胞、我が戦友、我が下僕。竜の躯を世に蘇らせ、魔に染まりし少女を救いなさい」

 

「主命、たしかに。ルル・ホーレスは主との契約に従い、死すらも葬らん」

 

ルルはミナの手のひらに口づけして立ち上がる。

 

その瞳はかつて「ワタシ」と彼が名乗っていたときと同じ妖しげな色に染まり―――

 

「―――死よ、死の死たる死よ。遍くに終わりを告げるものよ。時のうちに朽ちしモノ、大いなる竜を蘇らせよ」

 

呼び出す竜は唯一つ。

 

目の前の少女と同じ姿を持つ、かつての残滓、影山の女の躯を想った一匹のドラゴンだ。

 

『朽ちよ、朽ちよ、朽ちよ。甦れ、甦れ、黄泉帰れ。我は死より深く、汝の王なるものぞ。目を覚まし、醒まし、冷ませ―――リボーン・ドラゴン』

 

海より隆起した火山岩の大地より、崩れ落ちた龍が蘇る。

 

瞳は爛々と輝き、その吐息は闘志を示していた。

 

『むくろ―――否、むくろを受け継ぎしかけるよ!我が止めよう、我らが止めてみせよう!!』

 

起き上がりし龍の名はガドゥル。

 

かつて天護の森を守りし龍王は不死の王の眷属として立ち上がる。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

泣き叫ぶようにかけるは立ち上がって、どう見ても正気ではない輝く瞳を勇者たちに向けてきた。

 

その瞳はまるで紅玉のごとく。

 

放つ魔力は黄金。

 

こちらの世界の伝承にあるミダス王が如くに、周囲の大地を金色に染め上げている。

 

「……あたいたち、もしかして足手まといかな……?」

 

「魔力が切れてるですからね……!」

 

恋と岬は杖を彼女に向けながらも、しかし既に殆どの魔力を使い切ってしまっている。

 

これ以上戦えば、魔力切れで昏倒しかねないのだ。

 

「あなた達は切り札よ!絶対に、一つも魔法を使わないで秋遂さんの後ろで休んでいて!ここは私たちでなんとかするわ!」

 

ミナが叫ぶように指示すると、「わかったのです!」と岬は素直に返して、恋の肩を掴んで屹立する秋遂の後ろへと回った。

 

「ちょ、岬ちゃん!」「ミナちゃんの言うとおりなのです!倒して止めるのであれば、最後はレインボーフラワーを使わなければならないのですよ!」

 

そう。既に魔力が切れかかっている二人では、それがおそらくは精一杯なのだ。

 

そしてホーリーフィックス以上の浄化力を持つのが―――岬のアナン・レインボー・フラワーなのだ。

 

「廻さん、秋遂は動ける!?」

 

「無論だ!燃料切れはありえん!」

 

廻がそう叫んでコクピットへ再び乗り込み、夕が『ヘマをするなよ』と揶揄するかのように声をかける。

 

「もはやありえん―――油断するなよ、その少女……音速を超えて飛行するぞ!」

 

秋遂が起動し、ゆっくりと空に上ると同時に―――

 

「う、うううううう―――!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

かけるが、むくろとひとつになったかけるが、身の内の魔力を暴走させながら動き出した。

 

『むくろ―――おおおおおおおおお!!!』

 

瞬間、ダークブリザードブレスがガドゥルの顎より放たれ、かけるの周囲を黒い―――まるでブラックダイヤのような氷の結晶で覆い尽くしていく。

 

「ギィィィィィィィィィィィィィッ!!」

 

霊斬るような、歯軋る叫びが海に浮かぶ大地に響き渡った。

 

その叫びで暗黒の氷は砕け散り、そしてかけるは口から蒸気を吐きながら歩みだした。

 

「ゴォァァァァァァァァァァ!!」

 

かけるは叫び、不可視の障壁を周囲に貼っていく―――それはまるで黄金の壁のように。

 

「うーん……これどうしよっかなあ……」

 

ミナは黄昏の剣とカレーナの剣の二刀流でジリジリとかけるに近寄りながら間合いを計りつつそう言って苦笑する。

 

獣の叫びを上げる少女は、再びの暗黒吹雪を踏み潰してゆっくりと近づいてきていた。

 

「銃は……無意味そうだな、こりゃあ」

 

「鉛玉で止められるとは思えねえな、これ」

 

『殺人光線はそれなりの意味を成すだろう』

 

前衛の3人がそう軽口をたたき、後衛のルルは「とりあえず限定解除は時間切れなので、僕はいつもどおりに支援しますね」と笑っていた。

 

「グルルルルルル……」

 

「だ、だいじょうぶなのか、あれ……」

 

喉の奥から唸り声を上げる少女、髪の毛は逆立ち目は輝ききらびやかな魔法少女の衣装もその魔力で徐々に破損してきているその姿は、もはや獣そのものと言って良い。

 

そのかけるの様子に恋は心配そうに岬に声を掛けた。

 

「……まぁ心配はいらないとあたしは思うのですよ。今までもどうにかなってきたことですし」

 

岬はそう苦笑して、「それでも―――あの精霊が言ってたように邪神にミナちゃんが負けてしまうのであれば、きっとあたしたちが原因だと思うのです。だってあたしたちはミナちゃんが本気になったら絶対に勝てない……弱いのです」とうなだれる。

 

近接戦闘でミナを一時圧倒するほどの力を示した廻や夕に比べれば。

 

「あたいらも考えねーと駄目か」

 

ミナは彼女の前世の寿命である時期までしかこの世界にいることは出来ない。

 

それは後半世紀後なのか、数年後なのか、それとも明日なのか。

 

そしてそれを待たずにミナは邪神に敗れてしまうのであれば。

 

「きっとあたしたちが弱いうちに敵は仕掛けてくると思うのですよ」

 

前を見ればかけるがミナに殴りかかっている。

 

ミナはその魔力の塊のようになった彼女の攻撃を、二本の剣でいなし、流し、押さえつけていた。

 

自分にはそんな事はまだ出来ない。

 

ミナが作った隙に、空悟がかけるへ切りかかっているのも見えた。

 

今の空悟のように、実力が隔絶している相手に挑みかかることができるかどうかは……恋にはわからなかった。

 

「力が欲しいか?ならくれてやる、とお誘いが来ても乗るわけにはいかないのですが、やはりあたしたちは……」

 

「強くならないと」

 

恋が岬の言葉をつないで拳を握った。

 

戦いは……どうやらミナたちが優勢なままに進んでいるようだ。

 

「魔力がいくらあっても、獣のように振り回すしか出来ないのでは僕らの敵ではありませんね」

 

かけるをなるべく傷つけないように、ルルはエネルギーボルトを連続で放ちつつ封印魔法の準備を始めている。

 

「指向性を持ったらヤバイのだわ!というか、今時点で私以外有効打入れられてないのがヤバイ!」

 

ミナはカレーナの剣の柄でかけるの拳を受け、黄昏の剣を振った。

 

ザクリ、と腕に大きな傷ができるが、それはすぐに魔力で補填されて再生する。

 

ほとんど一瞬だが、確実に魔力は削れていることがミナとルルにはよくわかった。

 

「じゃあどうする!このまま攻撃を続けるのか!」

 

「かけるちゃんが正気に戻るまでな!」

 

空悟が今津鏡でかけるの太ももを斬るが、ミナほどダメージを与えられていないのか魔力の総量に殆ど変化はない。

 

それは夕の鉄拳でも、殺人光線でもほぼ同じだが、牽制にならないわけではないことだけが救いだった。

 

『了解。殺人光線、照射!』

 

「うううううう!!あああぁぁぁぁ!」

 

かけるは鬱陶しい、というかのように手を払い殺人光線を弾く。

 

夕の放つ破壊の光はかけるの魔力の衣にある程度ダメージを与えられるようだが、肉体には全くダメージを与えられていなかった。

 

『三人とも下がれ!眼部殺人光線を照射する!機動戦に移られると此方が不利だ!』

 

そう。かけるは秋遂のマッハ5に達する格闘戦速度へと「ついてきた」。

 

そんな機動戦闘を挑まれれば、対応できるのはおそらく秋遂だけだろう。

 

ミナが勇者としてどこまで速度を出せるかはわからないが―――

 

秋遂から『今の影山かけるの肉体強度、魔力、再生速度なら胸部熱線砲も使用できます』と声が聞こえてきた。

 

瞬間、秋遂の眼から廻や夕の殺人光線の数十倍の威力の光線がかけるへと突き刺さり―――数秒照射が継続するが―――

 

しかし、それは完全に効果を発揮したわけではなく―――

 

光線が起こした熱により蒸発した砂が起こした爆発。

 

その砂煙が消えていくと―――現れたのは口端から蒸気を放つかけるであった。

 

「ガァァァァァン!!!」

 

魔力量は確かに数段下がったが、未だにかけるは全くピンピンとしてミナへと襲いかかってきた。

 

『やはり、なんとか私が留めるしかないか!』

 

ダークブリザードブレスが効かなかったことで沈黙していたガドゥルがその身体を動かし、その強力な腕をかけるへと振るう。

 

しかし―――

 

 

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