異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第18話「あははは!じゃない!!」

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「うーん、食べすぎたか……」

 

すでに時間は深夜2時過ぎ、いわゆる丑三つ時という時間である。

 

0時前にエルフの酔い醒ましを口に放り込んだ今野夫妻をタクシーに放り込んだミナは、そのまま腹いせに鍋と飲み放題おかわりを頼んで、食い散らかすように飲みに飲んで食いに喰って2時間以上が経過していた。

 

朝4時まで開いている店で良かったと思いながら、そのA県内で主に展開しているチェーン居酒屋「ミゾロギ」から出ると空は澄んだ星空であった。

 

「でもやっぱり星空はあっちのが綺麗ね。あの世界には空まで届く夜の明かりがなんにも無いからだろうけど」

 

不夜城の如き王都でも、鉄と火と酒の香りが煌々と燃え盛る山人の都でも、現代社会の夜の明かりを超える光にはならない。

 

「……まあ違うことはいいことね。どこも同じだったら冒険する意味がないもの」

 

「そうですね。さて、帰りますか」

 

勘定を終えルルも外に出てくる。

 

手に持ったレシートにはちょっと4人で飲んだにしては多すぎる金額が記載されていたが、ミナはあえて見ないふりをして、貯金の残りをほんの少しだけ心配する。

 

そうしてもう一度空を見上げて、赤ら顔を星の光に晒した。

 

「そうね……しかし相談しただけであそこまで言われるとは……」

 

「人の恋路を邪魔するとケルビーに沈められるって言いますからね。今回は二つ返事でOKを出したコンノ殿も悪かった。でも、だいたいミナさんが考えなしだからです」

 

ピシャリとルルが言い渡すと、ミナはグッと言葉に詰まって呻く。

 

呻いて「まあとりあえず楽しかったとは思うし、ここから行動のヒントは得たと思うわ」と言って家路へと歩みだした。

 

「そうですか。では、使い魔は回収してしまいますね」

 

「そうして。これはもうあの家見張るくらいじゃ駄目だもの。ルル、帰ったら結界。千里眼よ」

 

バッグをくるくると回して少女は笑う。

 

「伊達にこっちは何百年も生きてるわけじゃなーい!力技の百や二百のストックはあるワーイ!!」

 

大して大きな声ではなかったが、冬の丑三つ時に響く高い声だ。

 

空には青い目玉の子犬が眠たげに瞬いていた。

 

 

 

翌朝、まだ空が白み始める前のこと。

 

たまたま早く起きてしまった茜は庭で元息子現娘が怪しげな文様を庭に描いているのを見て、こめかみの痛みを抑えるので必死だった。

 

ミナは時々バッグから白い石を取り出しては「ふん!」と力を入れて粉々にして絵の具にしている。

 

「三郎……?近所迷惑だからやめなさい?」

 

「おはよう、カーチャン。大丈夫!すぐ終わるし!」

 

そう言いながら手を止めない娘に本当に頭が痛い母親であった。

 

「あのねぇ……」

 

「いや、これは違うんだって。マジですぐ終わるから!」

 

ミナは白い石をもう一つ砕き、それをパラパラと地面に撒いた。

 

「例の幽霊戦車の事件を解決するには絶対必要なことだから、ね?許してくれよ……」

 

「はいはい……マジで後でお隣さんになんか言われたら張り飛ばすからね!」

 

茜はそう言って、縁側に腰を下ろして盛大なため息をついた。

 

その様子に冷や汗をかきながら少女は頭を下げると、描かれた文様……漢字を多く使った曼荼羅めいた魔方陣の真ん中に立ち、黄色い杖を取り出した。

 

「ミナ・トワイライトが陣に問う。汝はなんと生まれしものか?」

 

『我は見張るもの、見通すもの、汝が望む眼となり耳となるものなり』

 

「是也。爾が名は千里眼なり」

 

これは結界の一つ、陰陽術の第六位階千里眼の結界である。

 

パァ、と地面に描かれた魔方陣が輝くと消え失せる。

 

そしてミナは「座標固定。上空300フィー。よし、よく見える」とつぶやいた。

 

「これで終わりだよ、カーチャン。ね?特に近所迷惑とかじゃないでしょ?」

 

ニコリと笑う娘に、茜はもう一つ大きなため息を付き、白い息を握った拳骨に当てると立ち上がってミナの脳天に拳骨を食らわせる。

 

ゴチン、と音がして「なんで!?」と抗議する娘に、「朝方にピッカラピッカラ眩しいんだよ!」と一喝して茜は寝室へと戻っていった。

 

えー、とまだ不満そうなミナが家の中に戻って時計を見ると、まだ午前5時。

 

只人が二度寝をするにはちょうどよい時間だった。

 

 

 

千里眼の術は正しく働いていた。

 

これは地面に描いた陣が機能する数時間から数日の間、遠くの固定座標を視線を気づかれずに覗く術である。

 

ミナの技量であれば、最大3つの視点を確保できるし、神や魔王といったミナでも勝てない、あるいは大苦戦する存在でもなければ見破ることは不可能。

 

使い魔に見張られていることにより幽霊戦車は行動を停止しているのだろうとミナは考え、空悟の言うとおりに放置することとしたのだ。

 

ただしこの術でもっていつでも対応できるようにして。

 

監視カメラを設置するようなものである。

 

現在設定している座標は最大の3つ。

 

一つは思い出鏡、二つ目は崎見邸、三つ目は目撃例の多い森北山町の田んぼの多い地区の上空270mほどの場所である。

 

視点は術によって処理され、右目の視界をジャックする形で彼女に知らされる。

 

欠点は右か左どちらかの視界が術中にあるうちは殆どなくなってしまうことである。

 

それについてはルルの使い魔のカナリヤにインビジブルをかけて右肩に置くことで解消している。

 

「最初からこうしてればよかったんじゃないですか?」

 

呆れた目線の少年に、少女はあっけらかんと答えた。

 

「だってこれ遠近感から片目の視界から何かあった時使う感覚がかなり失われるもの。ふつーの見張りでいいならそっちのほうがいいでしょう?それに、放置しろって空悟に言われるまで、真面目にこの術の存在自体を忘却の彼方に捨ててたし」

 

おでんの汁を継ぎ足しながらミナは笑った。

 

「魔法と言っても万能じゃないのは本当に不便ね。神様たちが羨ましいわ」

 

ソーセージや牛すじを煮ていた層の汁をちくわぶや大根を煮ている層に移し、ミナは言う。

 

だが、そんなに都合のいいことなどこの世のどこにも、あちらの世界にすらどこにも存在はしなかった。

 

人間など、知恵持つもの、祈り持つものなぞ偏に風の前の塵に同じ。

 

塵芥に過ぎぬ人間成ればこそ、只人も森人も小人も山人も、ありとあらゆるものが懸命に生きている。

 

それが楽しいからこそ。

 

「だからこそ、人はただ行くしかないのね。レ○ンボー○ンもそう言っているわ」

 

「なんですかそれ」

 

「今見ると突っ込みどころ満載の特撮番組。どこがどーとは言わないけども」

 

おでんに蓋をしたミナは右目が別の視界にジャックされているという不快感をごまかすかのように、栄養ドリンクを一本、キャップを片手で開けて飲み干した。

 

もちろん自分の所持金からお金を出してドラッグストアで買ったものなので、誰に文句を言われる筋合いもないものである。

 

「本当にこのまま……何も起きないのが一番よね」

 

飲み干した茶色い瓶を見つめて、そうミナは独り言ちたのであった。

 

 

 

果たしてミナの願いは叶うのか、と問われれば否というほかはない。

 

動きが現れたのはクリスマスイブの前日23時ごろのこと。

 

すなわち聖夜の前夜を1時間前に控えた夜のことであった。

 

 

 

「だいじょぶかな!?私オートマタはあんまり信用できないんだけど!」

 

「大丈夫ですよ。僕が傀儡の術を失敗するわけがないじゃあないですか」

 

二人は走っていた。

 

飛ぶように走っていた。

 

自転車は母のものだ。壊すわけには行かないし、なにより本気でバフ魔法をかければ走ったほうが早い。

 

ミナの目に見えたのは、崎見邸の前に戦車が現れたことと、崎見老人が戦車から現れた蒼白い男に戦車に無理やり乗せられて連れ去られたところだ。

 

ミナの目配せと冷汗を見たルルは即座に自らの無限のバッグから二人によく似た自動人形……簡単な受け答えなどが可能な魔法のオートマタにコンビニの制服を着せておいてきた。

 

人除けの結界も使ったのでまず人は来ないはずなので問題はないはずだった。

 

そしてそんな人形たちに後を任せ、本人たちは崎見老人を救うため現場へと急行している最中である。

 

「まさか店長を拉致するほど物理干渉が可能なゴーストだとは思いませんでした」

 

古代語魔法の加速と浮身の魔法を拡大してかけた二人は時速にして60㎞を超える速度で走っている。

 

戦車は千里眼で未だに捕捉中だ。

 

「こっちよ!森北山町のほう!ってか、こないだオークキングぶっ殺したほうじゃないの!」

 

ミナはよくまだ町の道を覚えて切れていないルルを先導していた。

 

彼女の言った言葉にルルはあっけらかんとして笑い出す。

 

「……あー、なんかわかったかもしれませんね、あはははは」

 

「あははは!じゃない!!」

 

人目を避けるため細い道や林の中を駆けていく。

 

それはほぼ直線移動と同じであり、10分もかからないうちに森南河町から森北山町へ向かう市道あたりで会敵すると思われた。

 

 

 

時間は20分ほど前にさかのぼる。

 

ここは崎見老人の居宅である。

 

庭には彼の母の愛おしんだ草花と木々が冬の眠りに包まれて今は寂しくある。

 

月は半月、下弦の月。

 

庭の杏の木の前で崎見老人は一人酒を飲んでいた。

 

随分昔、母がこの木のことを話していたことがあったような気がした。

 

うつろな記憶だ。無理もない、おそらくは彼が幼い日のことだ。

 

彼の母はあまり笑わない女性だった。

 

しかし、この木の前と父の墓前、そして彼の誕生日にだけは美しい笑みを浮かべていたことを思い出す。

 

「……まったく、私がそんなモノとはネ。この眼と私の若さ、母の晩年を思えば不思議ではないのが全くなんとも度し難い」

 

店でかけているモノクルを外し、老眼鏡を身につける。

 

「私も年をとった。友も多くは死に、生きているものももう会うことも少ない。母さん、私に何をさせたいんだい?」

 

ぐ、とグラスの中の苦い液体を老人は呷った。

 

つまみにしているのはミナからもらったおでんダネで作った焼きちくわぶだった。

 

そういえば母は何が好きだっただろう。

 

あまり好き嫌いを言わない人でもあった。

 

「今更、とは言わないが……ね。あのお嬢さんが来たのがなぜかなどわからない。どうすればいいのかもわからない。幽霊戦車なんて、言われても困るさ……」

 

男は内心を独り言ちて、苦く笑った。

 

月明かり、星明かりが酒を照らす。

 

彼の若々しい肉体も。

 

ふと、杏の木の天辺を見上げる―――月がかかるその頂には―――見知った何かが、いた。

 

背筋が凍る。

 

目が、体が動かない。

 

グラスが手から離れ、地面に落ちて鈍い音を残して転げた。

 

見知った何かが、何であるかを理解したくなかった。

 

理解したくなかったのに、理解してしまった。

 

それは―――

 

少女の姿をした妖精の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

―――闇人は、死ぬと呪いを残す。

 

それは正しくそのとおりだった。

 

彼が見たそれは―――まさしく、まさしく。

 

まさしく、三年前に事故死したはずの―――

 

 

 

そこからは電光石火であった。

 

彼の母の姿をした何者かが、少なくとも日本語ではない言葉で何かをいうと、杏の木を突き抜けてカーキ色の軍服に身を包んだ青白い男たちが四人現れる。

 

「か、母さ……これは……」

 

―――Ahhhhhhhhhhhhhhhhhh……―――

 

白い髪の女は声にならない声で歌う。

 

すると青白い男たちは崎見老人を両脇から取り押さえる。

 

「な……なんなんだ……本当に、呪いだとでも……」

 

青白い男たちは彼を連行するかのように連れて行く。

 

連れて行かれた先には―――

 

父の遺影に写っていた戦車。

 

崎見剛の乗っていたはずの、九七式中戦車が鎮座していたのである。

 

「く、そ……!」

 

必死で抵抗しようとする崎見老人であったが、しかし青白い男たちの膂力は老人の彼を遥かに超えていて、身動きすらできない。

 

青白い男たちは母のような何かと同じ言語でボソボソと話すと、彼を戦車のハッチに押し込もうとする。

 

やはり抵抗は無意味で、あっさりと戦車の中に放り込まれると、古びた麻のロープで手足を縛られ地面に転がされた。

 

殴る蹴るなどの暴行は加えられなかったが、椅子が操縦席しかないその戦車の床は汚く、そして冷たかった。

 

「ぐっ……!」

 

老人に青白い男たちは興味をなくしたように、戦車の始動準備を始める―――

 

そして戦車は動き出した。

 

不思議なことに、ディーゼルエンジンの駆動音はするのにもかかわらず、熱をどこにも感じない。

 

それを疑問に思いながら崎見老人の意識は闇に落ちていくのであった。

 

 

 

林の中から飛び出し、そのまま直角に近い角度で市道へとなだれ込み、それを見てしまってブレーキをかけてビビる車を追い越して走る。

 

術で一時的に遠近感をなくしているミナの服は枝や何かによってすでにぼろぼろである。

 

ルルはそれを見てリペアーの魔法を唱えつつ並走する。

 

細いアスファルトの道を走る戦車を見つけるのはすぐのことであった。

 

「ようし!止まれッ!止まらないなら壊すッ!」

 

ミナは戦車の進行方向を塞いで、両手に弓矢を手にして立ちはだかる。

 

弓は半グレを殺したものではなく、和弓に近い大きさだが不思議な光沢の金属でできている。

 

大型の魔獣を屠るために使う魔法の弓だ。

 

ミナがこれによって真銀の矢を放てば、同じ真銀で作られた板の10cmは軽く貫く。

 

最大厚でも装甲板50mm程度、それも鋼鉄の装甲でしかないチハでは容易に貫通されてしまうだろう。

 

戦車は止まらない。

 

ミナの警告を無視して近づいてくる。

 

「警告は無意味か……」

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ。赤き牙を砕く力に変えて剣に矢に与え給え。ホーリーウェポン!」

 

ルルがそう唱えると魔法の弓に光が宿る。

 

ミナはゆっくりと弦を引くと同時に千里眼の術を解いて、両目で車長がいるであろう場所に狙いを絞る。

 

崎見老人がそこにでもいない限りは問題がないはずだ。

 

自分で所有していることもあり、九七式中戦車の中は十分に理解していた。

 

「今!」

 

ヒュウっと弦が放され、矢が飛ぶ。

 

ギン、と音がして砲塔防盾にミスリルの矢がドスリと刺さった。

 

しかし、戦車は一瞬止まっただけで、再びキュラキュラとキャタピラ音を上げて迫ってくる。

 

「ええい!市中で爆発系の魔法なんか使えないわよねぇ!ルル!」

 

「駄目ですよ、ミナさん。25ドルプくらいあるでしょ、あれ。あれを運べる魔獣なんて召喚したら大騒ぎですよ」

 

以心伝心で彼女がやりたいことを察するルルだが、それは駄目だと言って杖を構えた。

 

幸い民家からは多少遠い場所だが、このままだと目撃者が出てしまいかねない。

 

しかし、中に囚われている崎見老人を見捨てるわけにも行かない。

 

「……」

 

がちゃり、と砲塔のハッチが開くと青白い男が顔を出す。

 

無言でこちらに圧力をかけてくるが、ミナにそんなものが効くはずもない。

 

今までの人間とは違うことを悟ったのか、男はハッチを閉じて中に引っ込む。

 

それと同時に刺さったミスリルの矢が砂のように砕けて崩れた。

 

「ああっ!補充利かないのに、なんてことを!」

 

ミナがぐぎぎと悔しがる横で、ルルは冷静に正体を見破ろうとしていた。

 

(……アンデッドなのは間違いない。だが、僕を見て怯まない怯えない。破壊神様の聖別がされた真銀の矢が全く効いていない。ということはネクロマンシーで創られたものでも古代語や暗黒の魔法で創られたものでもない。そうなると考えられるのは……)

 

ルルは可能性を潰していくと、最後に残ったものをまずは試してみることとした。

 

杖を戦車にかざし、ミナに言う。

 

「ミナさん、リムーブカースを試してみましょう。ダークエルフの呪いが生み出したものかも知れません」

 

「……マジ?ダークエルフの呪いだけでこれを生み出すのは……いや、あるか。ハニーファが研究してたあれ?」

 

心当たりを思い出したミナはルルに確認した。

 

「ええ。ホーリーウェポンを付与された真銀の矢でダメージを負った様子がないということは、邪悪なる力で創られたものではないということですから」

 

「呪いそのものは邪悪ではない。聖なるもの、正しいものでも人に、世に呪いを残す……だから、それを応用すれば光のアンデッドを作れるはずだ、か。初めてあのおっぱいのマッド研究が役に立った気がする!」

 

ミナは弓をしまい、今度は白い杖、調和神の聖杖を取り出した。

 

「世界を調律する我等が祭神よ」

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ」

 

白い杖と黒い杖が戦車に向けられる。

 

しかし、そう簡単にはうまく行かない。

 

戦車は脅威を感じたのか、砲塔と機関銃をこちらへと指向する。

 

だが、二人の詠唱は止まらなかった。

 

「「―――停止と切断を。世界と心に縛られし執着を絶つ力を与え給え。リムーブカース!」」

 

一式四十七粍戦車砲が砲弾を発射するとほぼ同時だった。

 

ドン、と発砲音がして二人の背後のアスファルトとその下の砂利や土が爆ぜる。

 

新砲搭チハの47mm砲が火を吹いた証拠だ。

 

しかし、弾が直撃することはなく、光は戦車の足元に魔法陣を描き、その魔法陣はくるくると回りながら上昇して―――

 

その姿にミナは驚愕した。

 

―――その跡には、崎見老人は当然いた。

 

しかし、それだけではなかった。

 

「嘘でしょ……いや、嘘じゃないわね。何があっても不思議じゃないのだもの、バグダンジョンってやつは」

 

そこには、そこには。

 

「うちのチハたんじゃん……これ……!」

 

それはかつてミナがジャングルのダンジョンで見つけた九七式中戦車チハの残骸そのもの。

 

傷も、錆びついた外見も、何もかもミナの記憶の中のそれそのままだった。

 

「……やっぱりこれも私関連か……クソ邪神め……!」

 

ミナは吐き捨てるようにそう言って、おそらくは70年以上前に砲弾を受けて穴の空いた車体の、その穴から見えている縛られた崎見老人を助けるためにハッチを開けるのであった。

 

 

 

「助かりました。ミナさん、ルルさん」

 

コートに付いた埃、砂や泥をミナの浄化魔法で落としてもらった崎見老人はそう言って微笑んだ。

 

幸い怪我は特になかったが、念の為ミナがリトルヒールもかけていた。

 

ルルはその様子を見ながら、戦車が放った47mm砲弾が開けた穴をリペアーで塞いでいる。

 

「話していただけますか、何があったのか」

 

「……わかっています」

 

ミナの質問に沈痛な面持ちで崎見老人は答えた。

 

「場所を変えましょう、人が集まってくるといけない」

 

ルルはそう言うと、自分の無限のバッグの中に残骸の戦車を入れ始める。

 

「そうね。崎見さんもよろしいですか?」

 

「ええ……」

 

時間は0時過ぎ、日付は変わりクリスマスイブが始まっていた……

 

 

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