異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第180話 「ぶっつけ本番でやれって?」

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ガシイ、とかけるの両腕でそれは止められてしまう。

 

『ぬうううう……私よりも更に剛力とは……!実は強かったのだな、むくろ!』

 

ガドゥルがそう叫んで―――飛んだかけるにテコの原理で腕をもぎ取られてしまう。

 

「うぁぁあっぁぁ!!!」『ぐぬうッ!痛みがないのはいいが、これは―――!』

 

その自分の下僕となった龍に、ルルは「封印術を、物理的な封印術を施します。ガドゥルさんはダークブリザードブレスで出来るだけ―――数秒でも良いのでかける殿を押し留めてください」と指示を出した。

 

ミナはその言葉にチラと後ろを振り向き首肯して、その流れで間違いないとばかりにフェンリルの召喚を始める。

 

『心得た。オオオオオオオ―――!!』

 

「厳しき凍てつく蒼き孤狼フェンリルよ!吹き荒れ大地を凍てつかせよ!その牙ですべての熱をひれ伏させよ!」

 

狼と腐龍が周囲を完全に凍りつかせている光景に、空悟は「寒ィなおい!」と叫んで後ろへ下がる。

 

そして、瞬間に―――竜の兜が輝いた。

 

『―――竜の兜は原初の魔王を斃した竜人の勇者の物。その力は味方の竜の力を上げるのだ!』

 

ブレスを吐きながら器用に話すガドゥルの吐息の勢いが、突然に跳ね上がる。

 

『廻!冷凍光線だ!』

 

『承知した!やれ秋遂!』

 

すぐにも秋遂の口にあたる部分から、青いレーザーのようなものが発射され、それは如何なる作用があるのかダークブリザードブレスとフェンリルによって押し留められているかけるを更に凍てつかせていった。

 

「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

流石にこれはかけるでもすぐに抜くことは出来ず、そのまま凍りついていく。

 

瞬間、ルルの声が時空へと響き渡った。

 

「「―――世界を支配する偉大なるロジックよ」」

 

二口水晶から、ルルの口から魔法の言葉が紡がれていく。

 

「星の光を星海の彼方より降らせ牢獄と成せ。光とは波なり、波とは粒なり、粒は肉となるなり。光と肉は同じもの故に!」

 

「極光の彼方より永久の氷壁をこれへ。凍結とは停止なり、停止とは静止なり。永劫に汝の生を留め置かん」

 

冷気と光がオーロラを成し、オーロラがかけるへと降り注ぐ。

 

降り注いだ光と冷気は棺と化して、かけるを納棺していった。

 

「ブライトネス・プリズン!」「フローゼン・ウォール」

 

最後に呪文が完成し、かけるは完全に十字架の中へとしまわれ―――その魔力を徐々に霧散させていっているのがミナにもルルにも、この場にいる総ての魔力を感知できるものは悟っていた。

 

「―――すいません、ミナさん。おそらくはこれでは不十分です……彼女の、いえ、彼女に力を与えているものたちは想像以上に『重い』……!僕にはこれが精一杯のようです」

 

ルルは杖をついて瞑目し、すぐに刮目してミナの瞳をじっと見つめた。

 

「ぶっつけ本番でやれって?」

 

「ミナさんならできるはずですよ」

 

真摯なルルの瞳にミナはついつい愚痴をこぼし、それを真面目な微笑みで返されたミナは大きなため息をついた。

 

「完全な停止を、それも時間と空間にとどまる完全な停止をしなきゃ駄目、か」

 

「どういうことだ?」

 

空悟に聞かれたミナは「そうさ。文字通り停止させなきゃならねえ。物理的には凍結した。魔的には停止させた。後は空間を止めないとあの魔力は霧散仕切ってくれないらしい」と諦めたような口調で微笑む。

 

「しかもそれだけじゃ足りない。時間的に停止させないといけないんだが、停止の呪いなんか今は無理だからな―――だから」

 

その上で完全に呪いを解くためには、岬の力が必要なのだ、とミナはきっと十字架を破壊しようと身じろぐ魔法少女を睨めつけた。

 

『またぞろ危険な術を使うということだな』

 

「そりゃもちろん。夕ちゃん、ガドゥルさん、廻さん、秋遂さん。岬たちにダメージはミリとも負わせられない。全員、岬たちを守って」

 

夕の言葉にミナはそう返して、岬達を見た。

 

「ふたりとも、何があっても絶対に魔法は使わないでね。あなた達が切り札、最後の切り札よ」

 

ミナの言葉に秋遂の足の後ろにいた二人はこっくりと首肯して「頑張ってなのです」「かけるちゃんなんとかしてくれ」と勇者へと頼む。

 

「まーかせて。空悟、おめーはガドゥルさんのパワーを上げるのに専念しててくれ。兜に意志を載せてくれればいいはずだぜ」

 

「おう、任せてくれ。全く、無茶を言うのは昔は俺の方だったはずだけどよ」

 

空悟の軽口にミナは「そいつぁすまねえな」と苦笑して返して、精霊へと呼びかける言葉を紡ぐ。

 

『ミナよ!むくろを、かけるを頼むぞ!』

 

ガドゥルの声が響き。

 

『岬、大丈夫だ。大丈夫だよ』

 

コクピットの廻の声が岬へと降り注ぎ、岬は一つ首肯して微笑み。

 

「―――実りの風、爽やかなる南風、豊穣王ノトスよ。その空へと至った王の力をここに顕現せしめん」

 

『汝、我等が同胞なり。我等、汝が戦友なり。我等古の契りと新たなる契約の下に汝に希う』

 

ミナはカレーナの剣を掲げ、カレーナの唄うが如き精霊の言葉が虚空へと投げかけられる。

 

びょう、と風が吹く。

 

湿っているのに、爽やかな、不思議な風が訪う。

 

それは豊穣をもたらすという南風。

 

薄着の少年の姿をした精霊―――本来の形の風の上位精霊ノトスが顕現し―――

 

『済まん。これも私が至らぬが故』

 

精霊は一言謝罪の言葉を発し、その手に握られた盾をかけるの収められた十字架の棺へと向けた。

 

「星を止めよ、空を止めよ、渦よ起きよ、渦は巻き込み、大禍とならん」

 

『空よ渦巻け、停止せよ。静止せよ。静止は次の起こりの前触れなり』

 

空気が渦を巻いているのではない。

 

空間が渦を巻き、ねじれ、戻り、その空間を時の中につなぎとめ、停止させる。

 

完全な停止。

 

空間の凍結が起きていく。

 

「アァァァァァァァァァァッ!!」

 

それでもかけるは動こうと、その膨大な魔力をつぎ込んで暴れるが―――しかし。

 

「これでおしまいよ!―――空の王となりしノトスよ!彼の者を虚空へと繋ぎ留めよ!!」

 

それは既知の精霊術ではない。

 

名付けるとすればヴォーテクス。

 

総てを虚空へ停止させる渦を作り出す、空間の精霊術であった。

 

その渦が消え去った時、そこには瞑目し安らかに眠っているようにも思えるかけるの姿。

 

術は完全に成功していたのである。

 

「よっしゃ!今よ岬、恋ちゃん!!」『あっ!?我を杖にしようとするな!』

 

ミナがよろめきカレーナの剣を杖にして立位を維持しつつそう叫ぶと、既に用意はできていたのか―――

 

「了解なのです!恋ちゃん!」「ああ、あたいの魔力を全部岬ちゃんに!」

 

そう叫んで恋は岬の両肩を両手でしっかとつかみ、岬はその翼の生えた杖をかけるへと向けた。

 

「悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ。天の道を思い出させるのです―――!さぁお眠りなさい!アナン・レインボー・フラワー!チャージアップなのです!!」

 

咲いた向日葵は棺に眠る少女を包み……太陽を象徴するその花は、光と氷と虚空の棺を溶かし、かけるの魔力を霧散させていく―――否。

 

結晶となって魔力を吸い取って、やがてキラキラと煌く宝石となっていった。

 

「おやすみなさい!かけるちゃん!ゆっくり休んで、また遊びましょう!」

 

岬がそうして後ろを向き、魔力切れで倒れ込む恋を抱きとめる。

 

かけるは棺から開放され、そしてゆっくりと地面へと落ちていき―――

 

ズシン、とガドゥルの残された片腕が彼女が地面にぶつかる前に拾い上げた。

 

『むくろ……いや、かけるの魔力は総て消え去ったようだな』

 

ふう、ともはやつかなくていい吐息を吐いてガドゥルは安堵する。

 

そして再びその体は崩れていった。

 

再び彼女が地面に落ちないように、その体をミナへと預けてガドゥルは笑う。

 

『ではな、不死の王殿。それに我が旧友とその孫娘よ。私の存念は十分に解消された……後は好きな時に呼び出すがいいだろう』

 

それだけを残して―――

 

「……が、どぅる……?」

 

一瞬、薄く目を開いたかけるがそう呟いたことを確認して、満足そうに砕けていったのだった。

 

『まったく真面目な奴め。さて、少女らは無事かな?』

 

はぁ、とため息をついたカレーナに答えるがごとくに声を発したのは岬であった。

 

「かけるちゃんは無事……なのです……はぁ、よかったのです……」

 

彼女は気絶した恋を抱きしめたまま地面へとぺたんとへたり込んで、どこからか伊達眼鏡を取り出してかける。

 

「そうねーいや、大変だったわ……って、これ何かしら?」

 

かけるをお姫様抱っこしつつ、かけるのいたあたりを見たミナは一つの宝石を見つけた。

 

「なんだべな、これは」

 

拾い上げたのは竜の兜を脱いだ空悟だ。

 

「向日葵の形をした宝石……?」

 

空悟がそういうと、虚空から声が聴こえる。

 

―――それは夏の象徴。かける―――むくろとそこの少女らの魔力が合わさってできた種。君たちの力となってくれるだろう。

 

『ノトスよ。晩春とはいえまだ春なんじゃがの』

 

そろそろ6月になるが、暦の上ではまだ5月であることにカレーナがツッコミを入れると、苦笑らしき笑い声を残して声は消え去った。

 

それで今回の戦いは終わりである。

 

あとに残ったのは―――

 

安らかに眠るかけると、うなされる気絶した恋、そして。

 

『ところで廻。ここはどこだ?情報連結を頼む―――は?太平洋の新火山島?』

 

『―――すまん。神社を破壊するために現れたかける殿から神社と街を守るために戦闘を行わざるを得なかった』

 

夕の質問に即座に情報を送信した廻は深い深い溜め息をつく。

 

「……こりゃあどうやって帰るかを算段したほうが良さそうだなあ」

 

空悟は今津鏡と近くに落ちていた一〇〇式機関短銃、竜の兜を自分のリュックサックにしまいながら天を仰いだ。

 

『提案します。当機体は子供であれば後部座席に3人まで積載可能です。まず岬様、恋様、かける様なら十分に搭乗することが可能です。そして本土まで送り届けた後に、他の皆様を輸送するという案がもっとも合理的かと存じます』

 

「それしかないか……はぁ、もうほんとどうなってるのよ」

 

考えなければならないことがまた増えてしまった。

 

―――ミナたちはグリッチ・エッグへ戻れなかった、というのがアウステル―――ノトスの話だ。

 

即ち、このままではもしかすると本当に邪神に斃される未来が待ち受けている可能性が高い。

 

精霊は嘘をつかないのだ。

 

「それだけじゃないもんなあ……他にもこっちの世界に上位精霊が来てるかも知れないって、マジかよ……」

 

ミナは口をへの字に曲げて、今後に思いを馳せる―――が、答えが出ることは今はないだろうと諦めてかけるを秋遂の差し伸べられた手に寝かせた。

 

「んじゃー、岬たちのことよろしくね、廻さん、秋遂さん」

 

ミナは呟きのことを忘れたかのようにそうして同じく秋遂の手に乗った岬とまだ気絶して岬に背負われている恋を見送った。

 

「また後でなのでーす!」

 

岬が手を振っているのにミナも振り返して、コクピットに三人が入っていったことを確認して、それから海を見た。

 

海はどこまでも青く。

 

「なぁに、心配はありませんよ。僕らは知ることが出来たのです」

 

「未来になにかよくないことが起きることだけはわかったんだ。後はやるだけさ」

 

ルルと空悟。

 

今とかつての最も親しかった男たちがそういって笑う。

 

「歴史の修正力なんてSF設定、オレは信じてないしな」

 

ミナは発進する秋遂を見上げながら、手で髪をすいて笑い返した。

 

空は晴れ、海はどこまでも青く。

 

流れる雲はあの狂った精霊の作った―――むくろたちがいた空間よりも遥かに綺麗だ、と勇者は思うのであった。

 

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