異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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―――数日後。
「は?仕事辞める?」
ミナは素っ頓狂な調子で目の前の親友に問いかけた。
「いや、辞めるんじゃなくて休職だよ、休職。2ヶ月だけな」
空悟はそう言って、7月8月のカレンダーを放ってきた。
「おっと。……つまりアレか。岬や恋ちゃんの夏休みに合わせてダンジョンアタックバリバリやろうぜって腹か」
ミナは少しは納得したという表情をしてから、庭に設えられたビニールプールで遊ぶ小学生女児たちを見つめた。
―――あの後、かけるは普通に目を覚まし、魔法少女となって暴走していた記憶をすっかり忘れていた。
忘れていたかけるは今は水門家の庭で岬や恋と一緒に遊んでいる―――その声が居間にも聞こえてくる。
昼過ぎの一番暖かい時間とは言え、6月初旬ということもありまだ肌寒いときもあるのに、少女たちは元気に水遊びをしていた。
ミナは体を冷やすといけないからと、遊び疲れた彼女たちのために既に風呂を沸かしている。
幸いにして、かけるの健康には何らの影響もなく―――魔力切れで倒れた恋もピンピンとしていた。
もちろん神社は無事で―――少しだけ廻が不甲斐ないと落ち込んでいた事だけがいつもと異なること。
全員が無事だったことは喜ばしく。
少女たちの笑い声も微笑ましい事件の結末ではあった。
ここからはその時の話となる。
―――影山家の寝室。
「……はぅ?」
意識が徐々に覚醒していく。
覚醒した意識は世界を認識して、やがてかけるはゆっくりと体を起こした。
起きたかけるは自分がベッドに寝かされているのがわかり「……えっと」と困惑した様子であたりを見回した。
―――たしか自分は今寝かされている兄のベッドではなく、自分の部屋の布団で寝ていたはずだ。
前と違って身体が自由に動くのが楽しくて、かけるは自分の部屋の寝具を布団にしてもらっていた。
それが何故兄の部屋のベッドで寝ているのか、ボーッとした頭では理解が難しかった。
「……あ、変な夢見たんだった」
かけるは立ち上がって、夢の内容を思い出そうとする。
「えーと。かっこいいお兄さんと一緒にロボットで魔王と戦った夢だ。でっかいドラゴンが助けに来たけど負けちゃって……で、きれいな黒いお姉さんがボクをお棺に入れて……うわ、怖い」
内容は支離滅裂で実に夢らしい内容ではあったが、普通なら起きてすぐさま消えていくような他愛ない内容でも、何故か脳裏に焼き付いて消えてくれなかった。
「……あれ?」
ふと気づくと彼女は泣いていた。
涙をこぼしていた。
なぜかはわからないが、昔の友達ともうあんまり会えなくなった時、そうだ、友達が転校してしまったようなそんな気持ちになっていることに彼女は気づく。
「……なんだろ。なんでかな……なんでだろ?」
涙を拭って、着替えようと部屋の外へ出るところで―――
「起きたかかけるううううううううう!!!」
大音声で叫び涙を流す影山総司の姿があったのだった。
「心配したぞかける!ミナさんがお前を背負って来た時は気が気ではなかった!!6時前に遊びに行くと飛び出していったときから心配していた!!!」
どこまでも響き渡るような大音声で総司はかけるをしっかと抱いて涙を流していた。
その後ろには―――黄昏の傭兵団の―――ミナと岬、恋の姿があったのである。
時間は12時半ごろ。
「ああ、起きたのねかけるちゃん。おはよう」
見ればミナがシチュー鍋を持って歩いている。
兄の部屋は台所と直結しており、その台所でエプロンを付けたミナと岬が歩き回っていた。
「あれぇ?なんでミナさんたちがいるのぉ?」
兄に抱きしめられながら、寝ぼけ眼でそう聞いてきたかけるに兄は「うむ!お前が遊びに行くと言って出ていった3時間ほど後、水門さんたちが我が家にお前を背負ってやってきたのだ!はしゃぎすぎて眠ってしまったとな!」と耳元で叫んでくる。
「お兄ぃ、声でっけぇってばあ……うーん、でも、確かに岬ちゃんのところに遊びに行ったような、っていうか遊びに行った先で会ったような……?」
かけるは頭の上にはてなマークをいくつも出しているような様子で首を傾げる。
「きっと、あんまり楽しくて我を忘れちゃったのよ」
「まーまー気にすんなって。あたいら楽しかったからさ」
ミナと恋がそう言って、岬が「無事で良かったのですよ。さぁ、お昼ごはんはきのことクワイのシチューとバターライスなのですよ。食べますですよね?」と言って、フライパンからパセリの入ったバターライスをよそっていた。
「あ、うん。食べる」とかけるが答えたことに岬はニッコリとして、「さぁさぁお兄さんも席について。ご飯食べましょうですよ」としゃもじを立てて少女は笑った。
「うむ!オレ一人では全体的にトレーニング用の食事になってしまうからな!」
総司の大きなことが響く中。
「……ガドゥルは、だいじょぶかな?―――ガドゥル?」
小さく呟いてまた首を傾げたかけるに気づかれないよう、ミナは「いずれ会えるわよ」とやはり小さく呟いたのであった。
翻って6月の水門家にて―――
「まぁ俺としては真面目に今回は殆ど役に立ってない。廻は……あの状態のかけるちゃんを相手しなきゃならんかったんだし、仕方ないが、俺は違う。同じように岬ちゃんや恋ちゃんも不甲斐なさを感じていると思う。だから、最低でも半月はダンジョンに篭もって修行をしないといけないと思う」
―――できれば時間のおかしくなった階層で、だ。
言外に空悟はそう言って、目の前のお茶を飲んだ。
今日は妻を連れてくることはなく、車で来ているので酒は無しである。
――― 一方でバイトが休みのミナは、平然と6月故にいっそう美味しくなってきたキンキンに冷えたビールを飲んでいた。
「ずりーなー」
「いや、突然来たお前が悪くねーか?オレもう今日は飲んで岬たちの相手して終わるつもりだったんだけど」
休職するとかしないとか言ってる人間に代行を頼ませるわけにも行くまい、とミナはそう言ってため息をついた。
「だいたい清水さんはOK出してんのか?」
缶を掴んだ右手の人差し指を親友に向けて、ミナはジト目でそう聞いた。
「ああ、もちろんだ。文も働いているし、2ヶ月やそこらで尽きるような蓄えじゃねえさ」
きゅうりの浅漬を爪楊枝で持ち上げてボリとかじった空悟は、そうして「そっちこそ大丈夫なのか、貯金」ときゅうりの汁がついた爪楊枝でこちらを指してくる。
「……まぁ、しばらくは大丈夫だよ?オレもカーチャンも働いているし?でもまぁ……考えないことはない」と腕を組む。
少なくとも大して使うものもなく、母の収入が十分だった彼であった彼女の貯金は数百万といったところだが―――いつかは尽きるだろう。
「まぁ、貴金属は大量に持ってるからな。処分の方法をカーチャンに相談してみるよ」
ミナは肩をすくめて台所を見た。
「……で、ルルくんがお前のつまみ作ってんのか」
「いいじゃん。作りたいって言ってんだから。あいつの無限のバッグはここにあるから余計なものは入れらんないだろ」
ミナはそういって「結局、アウステルがかけるちゃんの家に手を出した理由はくっだらねえ理由だったしなあ」と渋い顔をした。
「ああ。まさかこっちの世界に転移した時に見つけた美少女の家だったから、とかさぁ……」
呆れたと言った風情で柴漬けを口にして渋いお茶で洗い流す空悟に、「まぁそれでも神社に反転の結界を張り、手近な妖精郷に人外を吹き飛ばすようにしてたのは純粋に良心からだったようですね」とベーコンを焼いているルルが微笑んだ。
『我の妖精郷に来たものはおらなんだから、ま、あの社に訪う人外などおらんかったちゅうこっちゃろなあ』
戸棚に立てかけられているカレーナがつまらなそうにあくびをした。
「おいおい、気をつけろよ。それ刀剣登録なんかできないやつだろ。見えるところに置いておくなよな」
空悟がそうミナに注意すると、「たまには出してやんないと、きっと後で出した時やかましいからな……」とげんなりした顔で祖母の剣に目を向けた。
『ノトスのヤツは昔から稚児趣味でのう。こちらではロリコンと呼ぶのであったか。我も彼奴と契約したのは1000歳かそこらの頃よ』
ケラケラと楽しそうに笑う祖母の声に、ミナは「あーまあそっすね」と苦笑する他なかったのである。
「うーん、しかし貴金属売却は早めに考えないといけないよなぁ。研究所ダンジョンで手に入れた金貨や銀貨もそこそこあるしな」
ミナは祖母の話を強引に打ち切るように、金策の話へと舞い戻ってきた。
それら貴金属類はぶっちゃけて言えば、仲間で山分けしなければならない性質のものである。
しかし今は出来ていない。
それは当然の話で、現代は金銀のたぐいの取引だってそうそう簡単には行かないのだ。
「溶かしてインゴットにして売れば多分数千万円はくだらねえと思うんだけど、そんな出どころ不明な金銀買うやつがいるかって話で……カーチャンに相談とは言ったが、そこまで大量に売るとなるとどうなんだろうな?」
ミナがうむう、と唸ると、空悟は「警察官として言わしてもらうと、ぶっちゃけ思いっきり警察がマークしてくると思うぞ。税務署も目をつける。加えて俺とも仲良いってバレたら厄介なことになる」と返してきた。
そしてうまい方法はないかと腕を組んで口をへの字に曲げてうーんと唸る。
結局、出てきた結論は先程と同じ。
「―――やっぱカーチャンに相談してみるわ」
「何だったんだこの時間は……」
親友同士はお互いに呆れつつ、テレビをつけた。
お決まりの惟神テレビにチャンネルを変えると、そこでは1995年に惟神テレビがローカル枠で作った「超次元航空記デュラハン」というロボットアニメが放送していた。
行方不明となった秘匿戦略兵器の起動ユニット「デュラハンの首」を巡る大国同士の攻防を描くSFロボットものである。
ローカルアニメながらそれなりに評価は高く、某ロボット集合もののシミュレーションRPGにも1度だけ出たことがあるらしいのだが、参戦したのがあまり売れなかったハードで出た4作目であったせいか、それ以降参戦したことはない。
「俺ら小3くらいの頃のやつだっけ、これ」
「参戦したのがワ○ダー○ワンでさえなきゃなあ……」
空悟の言葉にミナはしみじみとそう言って、ため息をついた。
「いい加減グダグダしてても仕方ねえな……俺はもう帰るわ。文もガキどもも待ってるしな」
そうしてぬるくなった茶を飲み干した空悟は立ち上がって居間の戸を開けて出ていく。
「おう、またなー。気をつけて帰れよー」
ほろ酔い気分のミナに「そっちこそ飲みすぎんなよ」と苦笑を返して空悟は去っていく。
「そっかー休職してまで冒険について来てくれるのかぁ……」
ルルの作ったカリカリになるまで焼いたベーコンをバクリと食べてミナはそう独り言ちた。
「ま、いいんじゃないですか?ダンジョンで拾ったものをお金にできれば公務員の年収よりも遥かに大きな臨時収入となるでしょうし」
ツマミの乗った皿を置いて、そのままミナの向かいに座ったルルにそう言われたミナは「そりゃそうだけどなあ」と頭を掻いた。
「とりあえず何にしろカーチャンに相談しないといかんわ」
『おい、ミナよ。この劇は面白いな?続きはないのかの?』
何故かそんなことをせがんできた祖母に、「あーはいはい。私の部屋にDVDあるから見せたげるわよ」と適当に返してミナはまたビールを飲んだ。
「ま、いいわ。さて、そろそろ遊び疲れてお子様たちが戻ってくる頃ね。ご飯作らなきゃ」
缶ビールを飲み干して立ち上がったミナに、ルルは「手伝いますよ」と言ってまた立ち上がる。
「疲れたのですー!」「うわやっぱ結構寒い!お風呂!お風呂!」
外から戻ってきた少女たちが口々にそう言って、家に入ってくる。
「お風呂沸いてるからねー」
ミナがそう言ってフライパンに油をひいて、適当にさっきルルが焼いてくれたベーコンのあまりを使った野菜炒めを作り出す。
ルルはその隣で、塩と野菜だけの簡単なスープを作っていた。
「ま、ありがたいっちゃありがたいからな」
「報酬は山分けが基本ですし、早く換金したいですね」
主従はそんなことをいいながら、料理を続ける。
「バーチャン、かけるちゃんは記憶なくしてるし、ななかちゃんやとおるちゃんは一般の子だからね。喋ったりしないでよ?」
ロボットアニメを嬉しそうに見ている祖母にそう釘を差してミナはフライパンの中に集中する。
『つまらぬのう。まぁそこそこ美少女であるし眼福だけで我慢するか』
―――そんな祖母の言葉を聞いて、ミナは盛大に溜息をつくのであった。
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