異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第182話「買ってきたミニチュア木の家でも作ればよいのでは?」

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―――深い闇。

 

静かに深く潰れるような。

 

重圧の闇の中、それは新生した。

 

「……精霊、せっかく魔精霊にしてあげたのに取り返されちゃった」

 

その顔はミナに似ているのか、岬、或いは恋に。

 

―――そのどこかで見たようなことがある女は、艶かしくニヤニヤと笑う自らの顔を撫でる。

 

「次は……ちょっかいかけられるかなあ?」

 

あのかけるという少女の家系―――の長女は惜しかった。

 

あれを使えれば、どうとでもなったものを。

 

―――冥く闇く昏く女は笑う。

 

「ええ、わかっておりますとも。わたくし、あなた様の尖兵にございますれば」

 

闇に女は恭しく頭を垂れる。

 

その顔に浮かぶ表情は―――あの桃色の闇そのものであった。

 

 

 

かけるたちが遊びに来た日の夕刻。

 

彼女らが遊び疲れて帰宅し、家には岬と恋だけが残されていた。

 

ミナとルルはいえば、今野夫妻や崎見老人とともに飲み会へとでかけてしまっている。

 

廻と夕は、いつもどおりにスナック黒十字のアルバイトであった。

 

「かけるちゃん、元気だなあ。前にも増して」

 

「そうなのです。あの風化病という病気も、やはりむくろちゃんに魔力を取られていたことが原因だったとノトスが言っていましたですからね」

 

恋はオレンジジュース、岬は梅昆布茶を飲みながらそうして事件の終わりを回想して―――

 

「正直、かけるちゃんがスーパー・マジカルガール・ネットワークの手に落ちたらとんでもないことになるのです。あの虹の欠片にはまだ十分な力が残っているのですよ」

 

岬は茶菓子でも恋が持ってきた洋菓子でもなく、ミナが漬けていたたくあんを一切れボリリとかじって恋の顔を見た。

 

「それにあたしたち自身の問題もあるのです。あたしたち、超長生きになってしまったのですし」

 

ガドゥルの言うことには、自分たちは人から変じた魔女という種族なのだという。

 

その末路は、なかなかアラフォーのおばちゃんだろうが、10代前半の少女だろうが堪えるものがあった。

 

そうして岬の脳裏には、あの願い魔の―――自分の姿が浮かび上がる。

 

やはりアレも邪神の手のものだったのですよねぇ……きっと、と内心で呟いてたくあんをもう一切れかじった。

 

「……ところで、あたい岬ちゃんが魔法少女になったイキサツ、聞いてなかった気がすんだけど」

 

岬の瞳をじっと見つめてくる恋の曇りなき眼に―――岬は思わず目をそらした。

 

「な、何故そんなことを聞くのです?」

 

「いや、だってミナねーちゃんもルルにーちゃんも誰も教えてくれないんだもの。直接聞くしかないじゃない?」

 

恋はそうしてポニーテールにしていた髪を解いて、器用にツーサイドアップへと髪型を変化させる。

 

「ねぇ、岬?わたしにも、お・し・え・て?」

 

アイドル猫かぶりモードになった恋が絡みついてきて、岬は「べっ別になんでもないのですよ!天涯孤独の身のあたしを哀れんで……」とそこまで言って。

 

「うそ」

 

真顔の恋の顔が数センチと離れていない場所から睨めつけてくる。

 

「わかるの、そういうの。岬ちゃんもミナお姉さんやルルお兄さんと同じく、秘密があるんでしょ?だからオリジナルなんだって」

 

完全に彼女は確信を持った言い方でそう瞳を覗き込んでくる。

 

―――そして、やがて。

 

「……言うタイミングを逃していたのですが、実はあたしは小学生ではないのですよ……というか、12歳ではないのです」

 

諦めたような表情でそう返すと、「え?ほんとに同い年じゃないの?」とキョトンとした顔で返してきた。

 

「……怒るですよ?」「あー、ごめんごめん!そうじゃなくて―――ってかマジで12歳じゃないの?」

 

普段の様子に戻った恋に言われて、「そ、そうですよ?」とおどおどした様子で岬はキョロキョロと周りを見た。

 

周りを見て―――「実はアラフォーと言ったら恋ちゃんはどう思いますですか?」と正直に切り出した。

 

「……デジマ?」

 

みはるから教えてもらったのか、随分と古い言葉をひねり出して恋は苦笑する。

 

「マジですよ?」

 

岬もまた苦笑し始める。

 

ひとしきり乾いた笑いが響いた後、「なんかそれはそれで納得かなって。だってお菓子が目の前にあるのにたくあん食ってる子、同年代で見たことないもん」と恋は肩をすくめた。

 

「あー……やっぱりババ臭いですか?」

 

「うん。給食がどんなにまずいの出ても全部食べてるし。いや、あたいもご飯は残さない派だけど、本気でまずかったら残すっしょ」

 

岬はその言葉に絶句する。

 

確かに不味いもの、食べられないものを我慢して食べる必要はない。

 

だが、彼女は長いことコンビニ店長かつ借金生活のために、不味かろうがなんだろうが食べられる時に食べる癖がついていたのだと、この時初めて自覚したのだ。

 

因みにこれは、太る原因にもなりうる癖だ。

 

口直しになにか別なものを食べたくなるのが自明だからである。

 

「……それで、それを知ってどうしますか?」

 

「いや、別にどうもしないけど。ミナねーちゃんとかルルにーちゃんは何百歳なんだろ?あたいもいずれあんな感じになるかも知れないし、岬ちゃんがちょっとだけ先輩なだけだって」

 

けろっとしている恋に、岬は「はぁ……でしたらもう少し早く言っておくべきだったのです」と肩を落とした。

 

「で、どういうイキサツで魔法少女になっちゃったんだよ、岬ちゃん。それとも岬ねーちゃんって呼ぼうか?」

 

「やめてくださいなのです……」

 

経緯、と言われると岬は言うべきかどうか迷ってしまう。

 

普通とは違う願い魔が変じた魔法少女マジカル・アナン。

 

ミナとルルに助けてもらい、魔法少女の力を得た岬は此処にいる。

 

それより大きい話でもなければ、それ未満の話でもなく、しかしその時に願い魔の行動を阻止できずに恋やかけるは魔法少女になることになった。

 

しかし、である。

 

(……もし、あの時自分が魔法少女になっていなければ、かけるちゃんは弱い体のままいつか風化病で死んでいたのです。恋ちゃんも……)

 

恋もまた母親に脂ギッシュおっさんへと売られ、眠ったままその純潔を散らしていたに違いない。

 

禍福は糾える縄の如し、というが、自分ですら魔法少女となったことで救われたのだ。

 

……結果として、父が大事にしたかったであろうコンビニは―――今はもう潰れてしまったようだけれども。

 

岬にとっては最早知ったことではなかった。

 

十分に義理は果たしたろう。

 

父母もかつての家も思い出でしかなく、あのコンビニには悪い思い出しかもう残っていない。

 

やはり自分から生まれた虹の欠片は、言うまでもなく自分にも降って湧いた幸運だったのだ、と岬は思う。

 

なら、もういいだろう、とも。

 

「まぁ、多分なのですけども。魔法少女になったのは願い魔に呪いをかけられてしまったからなのです。願い魔は死ぬときにあたしの可能性とヒトコシノミコト様の力を混ぜて、虹の欠片にして飛ばしてしまったのですよ」

 

そこまで言って、気づいた。

 

恋はそう言うことを聞いているのではない、と。

 

「もしかして、あたしが戦ってる理由を知りたいってことです?」

 

「うん。魔法少女ってか、魔女?になっちまったイキサツは多分誰かに聞いたと思うんだけど、岬ちゃんが自分で魔法少女ヤッてバトる理由あんまりなくない、って」

 

なぜ戦うようになったか、という経緯と言われると岬はさらに困ってしまう。

 

「強いて言えば……あたしが原因かもしれないことで、誰かが傷ついたり、分不相応な野望を抱いたり、そのせいで人が死んだり破滅したりするのは嫌だから戦っているのです。ミナちゃんたちだけに任せきりでは心苦しいというものなのですよ」

 

大したことのない理由だ、と岬は思う。

 

自分の子供のような手を見て、思う。

 

あの時、あの絶望を感じた。

 

あの絶望をミナたちに救ってもらった。

 

だから今ここにいる、というのはなにも不思議ではないことなのだ、と。

 

「……だんだん自分が子供になっていく絶望、かぁ……」

 

「いやぁアレは真面目に大混乱でしたのですよ。年甲斐もなく泣きじゃくる以外何もできなかったのです」

 

その時のことを思い出し、岬はたはーと苦笑する。

 

「じゃぁ、やっぱりSMNの連中は……」

 

恋が岬の戦う理由を確認したその直後に、彼女は真顔で岬のおでこに軽く自分のおでこをあてて「殺したくないよな?」と返した。

 

「モチのロンですよーバルカン砲を人にぶっ放すキ印……危険人物はいましたけど、まぁ虹の欠片を取り上げれば大したことは出来ないはずなのです」

 

―――冒険者現象の恩恵を受けているのは、今の所自分たちだけなのだから。

 

「とはいえ、狂った精霊さんがこの世界に来ているということであれば、もしかすると偶発的にあの子たちや改の会が魔精霊のダンジョンを見つけてパワーアップを目論む可能性も無きにしもあらずですし」

 

岬はひっついている恋から身を離して、天井を見た。

 

「強くなるにはダンジョンにいっぱい潜らないとな。夏休みの宿題は早めに終わらそうぜ、岬ちゃん。自由研究の内容今から決めとこう」

 

恋がそういうと―――「買ってきたミニチュア木の家でも作ればよいのでは?木製模型とか10000円くらいで売ってるですよ」と岬は返して、「いやそれはない」と更に返されてしまう。

 

自分が小学生の頃はそんなんで良かったんだけどなあ、と岬は思い。

 

「じゃあ、カブトムシでも捕まえに行きますですか。科戸山にならいっぱいいるはずなのですよ」

 

こう見えて彼女は地元っ子であるので、あまり人間の手が付けられていない科戸山なら昆虫もたくさんいるだろう、とそう返した。

 

「あ、それいいな。かけるちゃんたちとも一緒にやって、共同研究ってことでさ」

 

まだ6月頭ではあるが、もう1ヶ月半後には夏休みなのである。

 

その間を冒険と平穏な遊びに費やすには……

 

「やっぱ3日でドリル系は終わらすしかないな」

 

「そのとおりなのです。集中してやればそんなもんで終わるはずなのですよ」

 

岬がニパっと笑った瞬間。

 

「ところで」

 

恋が意地の悪い顔をして、岬を見る。

 

そのいたずらっ子の本性を剥き出しにしたような顔に、岬は「……他になにかあるです?」と言って後ずさった。

 

「ところでさぁ~実際、岬ちゃん何歳なわけ?」

 

岬はその言葉にそっと目をそらして……「何歳に見えますです?」と答えをぼかそうとした。

 

しかし「いや、それあたいの先輩アイドルで年齢固定設定の人がよく言ってるやつ」とその回答になってない回答をシャットアウトされてしまう。

 

そう、質問を質問で返したらテストは0点なのである。

 

「……捕まえてご覧なさいなので~~す!」

 

バタバタとはしゃぎ始めた二人は、お互いに(詳しい年齢を聞くのは)(言うのは)((やめておこう))と内心で誓い、それでこの場の話は終わるのであった。

 

―――彼女が40歳になったのは、今年の3月のことである。

 

 

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