異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第184話「こんな時間だけど、お家の方は大丈夫?」

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―――翌日。

 

「はい、というわけで職業安定所まで来て出した広告チェックしてるんだけども……」

 

「ものの見事に全部昨日のWEB広告と同じ状態ですね」

 

そう、完全にモザイクというか判読不可能な抽象画が募集広告として頒布されていて、それについて殆ど誰も気にしていないという異常な状態であった。

 

普通なら、何故こんなものがあるか何人かは確認するであろう。

 

しかし、誰もそれを指摘していないし、気づいたものでも何故かスルーしている。

 

これが数時間ほどハロワのベンチに座って観察していた結果であった。

 

一体これにどういう意図があるのかさっぱりわからないが、少なくともミナへの嫌がらせという意味でなら十分に有効な行為ではある。

 

「ネットの方も、業者にクレーム入れてますが、特に返答ないですね。これは怪しい……」

 

ミナがそうしてうだうだとしていると……

 

ハロワの中に、見知った顔がひとり入ってきた。

 

「うーんと……ここでいいんだっけ」

 

それは……

 

「あ、ルルさんとミナさん。どうもこんにちは」

 

乾物が入ったクーラーボックスを肩にかけたぬえ子であった。

 

「こんにちは、ぬえ子さん。どうしてまた職業斡旋所になど来てるんです?」

 

ルルがニッコリと笑ってぬえ子に話しかけると、彼女はあっけらかんと「実はバイトを探してて。土日とガッコ終わった後だけで良いんだけど、給料いいところないかなって」と答えて頭をかいた。

 

「こんにちは、ぬえ子ちゃん。料理は……ある程度できたわよね?」

 

「うん。できるけど。乾物屋の娘が料理の一つもできないんじゃ駄目だろ、って母さんにはきっちり教えてもらってるよ」

 

その答えにミナが立ち上がって、ルルに目配せをした。

 

「接客業でもOK?」

 

「ま、まぁ舞台にあげられたりしなきゃ大丈夫だけど……?」

 

首を傾げて半笑いして、なにか不穏なものを感じたぬえ子を一歩後ずさる。

 

「そう身構えないでください。最悪強制的に確保させてもらうだけですので」

 

そんなことを抜かしたルルのおでこにチョップを食らわしてから、ミナは「大丈夫。実は私達がバイトしてる店が人手不足で、厨房か接客できる子探してたの」と笑いかけた。

 

「痛い……あ、まあそういうことです。なので是非お願いしたいんですけど、これから面接とかOKですか?」

 

ルルの言葉に「えっそうだったんだ。じゃあ行ってみよっかな?」とぬえ子はルルの側による。

 

「それにしても……皮膚が弱いのに、そんな仕事してるんですね?」

 

ルルの顔をまじまじと見てぬえ子が聞くと、「ええ。たとえ皮膚が弱くても僕は接客係ですから」と一つの動揺も見せずに返したルルは「じゃあ行きましょう」と続けてハロワを出ていった。

 

「よーし、じゃあ調査は後にして現実的な利益を追いますかぁ」とミナもハロワを出ていこうとして―――

 

一つ。

 

舌打ちの音がしたことを、その今は幻影で隠されている長い耳はしっかりと捉えていた。

 

―――やっぱりここになんかいるわね。どっちか知らないけど。

 

内心で呟いたミナが自動ドアをさっと出ていき……

 

後はいつもの職業安定所が残るのみであった。

 

 

 

「うん、採用で。衣装はこれでお願いね」

 

その後、どうなったかと言えば上記の崎見老人の言葉通りにあっさりと面接は通り……

 

メイド服めいたファンタジーウェイトレス服と付け耳を渡されて、ぬえ子は「確かにこの服着るなら1500円の時給に見合う……!」と僅かながらの後悔を見せて奥に引っ込んで着替えに行った。

 

「いい子連れてきてくれましたね。後は平日昼に働いてくれる方を探さねば」

 

崎見が満足そうに言って、「まぁ僕らの秘密を知られる確率も高くなりましたが、最悪彼女には明かしてもいいでしょう……」とルルが少し遠い目で半笑いをする。

 

「……まぁ、そうかもね。あんたの魅了の魔眼、そのまんまだもんね」

 

ルルの魅了の魔眼は精神の根本に影響する……ルル本人ですらそう簡単に解くことはできないが、それを彼はぬえ子に2回も使っているのだ。

 

真面目に解除するには貴重なアイテムが必要な段階である。

 

あの皮膚が弱いくせにウェイトレスの仕事をしているという矛盾に対して、あの簡易で不自然な返答で納得してしまったのがその証拠だ。

 

彼とふれあいたいという欲望はそのままに、おそらくそれ以外の要望なら大半が通ってしまうだろう。

 

「反省しなさいよ」

 

「はい……」

 

ルルは目に見えて肩を落として嘆息した。

 

まぁ仕方ないだろう、とルルほどの強さではないが魔眼を持っている崎見老人は苦笑して、夕方からの営業準備を始める。

 

今日は服のサイズが合っているのかを見るのと、厨房での調理を主体に業務を行ってほしいこともあって厨房の見学で終わる予定である。

 

そうこうしているうちに……

 

「おまたせしましたー!」

 

テンションが何故か上っているぬえ子が現在は更衣室となっている奥の倉庫から出てきた。

 

眼鏡がないことと胸があること以外はルルと姉妹のように見えるその姿に、「ええ似合ってますよ」とルルが微笑んだ。

 

「ありがとうルルさん!じゃぁ、今日は……」

 

「うむ、今日は厨房で見学してもらうヨ。本格的な指導は明日からだ。よろしくね」

 

崎見老人がそう説明すると「わかりました!」と立ち上がって、ぬえ子は崎見老人に促されるままに厨房へ入っていく……

 

そして客が増えだす16時頃になって、予想通りにどっと客が入店してきた。

 

およそ半分がミナとルル目当てのヲタたちで、もう半分の半分は従来の客たち、そして残りは最近増えてきた食事自体を目的とした客である。

 

一過性の話題作りであったこともあってエルフメイドめいたウェイトレス目当ての人間は徐々に減ってきていたのである。

 

しかし、それでも案内する席を分けたりすることで常連客はあまり離れなかったし、何より普通に食事するために訪れる人間がかつての常連客と同じくらいには増えていることが……

 

「冒険者風ワイルドサンドイッチ、3つ出来ました」

 

崎見老人が作った料理をぬえ子がミナに渡す。

 

そう、こうして料理を作っている崎見老人の負担が間違いなく大きくなっていくことを如実に示していた。

 

(本気で忙しいのは昼だから、絶対夏休みまでにはもうひとり確保しないといけないのだわ)

 

「おまたせましたーご注文の品ですー」

 

笑顔でサラリーマンと思われるスーツを着た男性たちの席にサンドイッチと一緒に頼まれたジンジャーエールを置いて、ミナは内心早くバイトのことをなんとかしなければと考えている。

 

ぬえ子が来たことですぐさまの破滅はなんとか回避できたが……

 

あのイタズラめいた広告の状況を早くなんとかしないとな、と思いつつ今や常連客になりつつある……最初の頃は露骨にヲタい格好をしていたが、最近はマシな格好で思い出鏡に来るようになった太っちょの男性の注文を聞くミナであった。

 

 

 

その日の営業終了後。

 

ぬえ子に一通り明日からの作業を教え終わったミナは、賄い飯を作りつつぬえ子にハロワから持ってきた思い出鏡の求人募集広告と、ルルが今さっき店のパソコンを使って刷った同じ広告を見比べてもらっていた。

 

「……えと、片方はなにかの抽象画とか?」

 

「予想通りの反応、ありがとう。そうよ、片方は抽象画でもう片方はうちの求人募集」

 

ミナはしれっとそう言って、2枚の紙をぬえ子から受け取りつつその紙の代わりに賄い飯を置いた。

 

今日は昼間に水木食材店でやたら安かった加熱用のカツオ切り身を使ったカツオのステーキであった。

 

「はい、ごはんですよ~遠慮せずに食べてね!ご飯はおかわり1回までぶんくらいしか残ってないけども」

 

「……いいんですか、これ」

 

「いいのよー募集条件にも昼夕賄い付きって書いてあったでしょ?嘘は一切ないわ」

 

ニコニコとしつつ御飯と味噌汁、それから家から持ってきた漬物を置いて「ルルー店長ーご飯できましたよー」と売上の計算をしている二人を呼んだ。

 

「はーい、今行きますー!」

 

ルルの声が帰ってきたので、すぐに来るはずだ。

 

時間はもう20時半。

 

ご飯を食べたらすぐ帰らなければ、とミナは思う。

 

「こんな時間だけど、お家の方は大丈夫?」

 

「あ、そっちはOKです。父さんもミナさんたちと一緒ならいい、って言ってくれたし」

 

……そりゃそうだな、とミナは内心で嘆息する。

 

「それは良かった」

 

ニヤッと笑ったミナは、席に座って「ま、これからよろしくね」と手を差し出す。

 

差し出された手を握ったぬえ子が、ルルと似ていて、それでいて全く異なる笑みを浮かべていることに安堵する。

 

後は男たちが此方へ来て、食事を取れば今日はおしまいだ。

 

―――ハロワ監視、使い魔にやらせるか。いや。

 

今日は午後からの営業だったが、明日は普通に10時から。

 

それまでにハロワの広告だけでも今夜中に差し替えねば。

 

ミナは久しぶりにスニーキングミッションを行う気満々であった。

 

 

 

―――深夜の職業安定所。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ、我が声に従い閉ざされたものを開け。アンロック」

 

黒尽くめの忍者服を着たミナとルル、それに普段着の岬がそこにいた。

 

しかし、岬はいつもは身につけていないマントを装備しており、それは即ち姿消しの外套である。

 

使い捨てのため今までは使用できなかったが、アウステルのダンジョンで手に入れたドロップアイテムでそこそこ作り出すことができるようになったための登板であった。

 

ミナが静かに唱えた呪文はすぐさま効力を発揮し、職業安定所の裏口のドアは静かに開く。

 

「……いいんですか、これ……」

 

「いいわけないでしょう?でもチラシはとっとと差し替えないと」

 

岬の言葉にミナはそう返して中へ入っていった。

 

防犯カメラは―――すべて既に機能していない。

 

先んじて放ったルルの使い魔が全てのカメラを覆ってしまっているからだ。

 

見れば、どうやら置いてあるパソコンはその全台がシンクライアント……つまり仮想デスクトップ環境を作るサーバへアクセスすることに特化した端末ばかり。

 

つまり守るべき個人情報はこの場には少なく……警備員も殆どいないようであった。

 

「いやあ、楽ですね。いつぞや集成党のアジトに忍び込んだときとは雲泥の差だ」

 

ニコニコしながら歩いているルルに「どうせセ○ムとかは入ってるんだから、30分もしないうちに見つかるわよ。その間に……」と声をかける。

 

「このなにかされたのと全く同じレイアウトの求人募集広告を差し替えて、さっさと撤収するわよ」

 

ミナの手には何も細工されていない募集広告が握られている。

 

もちろん指紋などは残さないように手袋をして、作業を行う。

 

すっと元あった魔力なしではモザイクにしか見えないよう細工されたそれを正しいものへと差し替え……

 

「岬」「はいなのです」

 

短く受け答えをした岬が魔法少女へと変身する。

 

「―――明日のエネルギーよ。悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ。光の花よ一面の花畑となれ。アナン・レインボー・インストレーション」

 

ぱぁ、と地面からいくつもの向日葵が咲いて、そして消えていく。

 

それは即ち破邪の力であるアナン・レインボー・フラワーを設置型にした魔法であった。

 

「ふぅ……これは3日位は持つはずなのですよ」

 

「ありがと。ホーリー・フィックスなんか使ったら大変なことになるからね」

 

ホーリー・フィックスは破邪だけではなく、そこに調和神の聖域を作るための魔法である。

 

故に、こんなところに聖域など作ってしまっては……最悪、魔法の素質がある人間が調和神の使徒として目覚めかねない。

 

故に破邪と解呪の魔法としてのみに特化するアナン・レインボー・フラワーを変形させた魔法を使ってもらったのである。

 

ミナは岬を労い、すぐに「撤収」と小さく言って、その言葉と同時に3人は去っていく。

 

不審な光を観測した警備会社が職業安定所へ急行し、何も起きていないことを確認するのはそれからきっかり20分後のことであった。

 

 

 

警備会社が一通り点検し、異常がないことを確認して帰った後―――

 

「ちっ……うざ。マジでウザ」

 

苛ついた様子のピンク髪の魔法少女が音もなく職業安定所の中へと入ってきた。

 

「……結界……それもあのレインボー・フラワーとかいう魔法が自動的に出るやつ……!ウザ!マジウザぁ!」

 

「そこまでにしときなさい、メグミ」

 

「あ、マコちゃん……私、悔しいよ……」

 

同じく中にはいってきた青髪の魔法少女マコへメグミはわずかに涙目になってそう言った。

 

「流石にオリジナルにバケモノ共じゃあ仕方ないわ……全く、鬱陶しい話だわ」

 

それにしても、と二人は肩をすくめて嘆息する。

 

「あの化け物たちが働いている店の広告に謎の魔法が掛けられている、ということを見抜いたイェカ様の命令で来たわけだけど……」

 

「これじゃあ回収できないし……てか、モザイクにしか見えないやつはあいつらが回収しちゃったし……骨折り損のくたびれ儲けじゃんかぁ~~!」

 

メグミはブーブーと文句をたれ、マコもまた肩を落とす。

 

「……帰りましょ」「りょーかーい……マッジウザ……」

 

その言葉通り、犯人はどうやら彼女たちSMNではないようである。

 

だとするなら、誰が行ったものなのであろうか。

 

それはまだ誰にもわからなかった。

 

 

 

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