異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第186話「やっぱりグレムリンか」

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その日、西之森公民館近くの喫茶店で空悟とミナ、ルルは意見と情報の交換を行っていた。

 

結局の所、今できることはハロワの監視と空悟からの事例提供の精査だけである。

 

それ以上やろうとしても、WEB広告の出稿から登録までの間に不審な点は見つからない、と空悟はため息をついた。

 

「三郎、これ多分すげー厄介だわ。うちの県警のサイバー対策課にも伝手使ってみてもらってんだけど、マジで一切不審な点がない。モザイクがかかってるのは思い出鏡だけで、他はもっと巧妙と言うか、全く違う内容の広告になっているか、或いは時給などの情報が改ざんされている」

 

しかも、提出されたデータまで改ざんされている可能性が高く、更には被害届も全く出ていないという。

 

どういうことなのか対策課の人間ですら首をひねっていたという。

 

「そっかー……魔力による改ざんとなると、どうやってもこっちの世界の技術じゃわからんよなぁ……」

 

「そして僕らは、あまりその手のコンピューター技術について詳しくない……もうアナログに犯人を捕まえる必要があると思います」

 

魔法やマジックアイテムならその構造や理論の底までミナもルルも理解しているが、情報技術・電子技術など魔法の世界の住人は知る由もない。

 

今から学ぶなど悠長にすぎる話であった。

 

「崎見さんとこはあと一人二人バイト見つかりゃいいが、他の店まで影響出てるとなるとな……」

 

ミナは嘆息して、コーヒーを一口飲んだ。

 

「口ぶりからしてSMNは犯人じゃない。むしろ何らかの被害を受けている。そして魔力が関わっている以上、間違いなくこっちの世界が原因だ」

 

新たな邪神の手のものか、とも思えるが、犯人候補はもう一つ。

 

魔精霊の存在である。

 

広義には邪神の手のものとも言える。

 

しかしながら……上位精霊の狂った姿である彼らが起こす現象にしてみては、実にしょっぱい話である。

 

だとすると、どうであるか。

 

「精霊が活性化しておかしな挙動をしている……?」

 

「雷精とブラウニーが同時に動くなら、可能であるかも知れませんが」

 

二人は可能性を上げていく。

 

そのうちに空悟がコーヒーを飲みきると、「じゃあグレムリンとかどうだ」と意見を出した。

 

「グレムリンって……大してでかいこともできない小悪魔の一種じゃないか。なにかできるとも思えないんだが」

 

ミナがコーヒーフレッシュを自分のコーヒーに入れつつ、そう言うと空悟は指を振った。

 

「チッチッチッチッ……それは電子機器なんざろくにねえお前らの世界のことだろ?」

 

そこまで言われてミナは気づく。

 

「あっ、そうか。グレムリンはコンピュータや航空機のアビオニクスを狂わせるってやつだな?」

 

「そう。こっちの世界じゃぁ有名にしたのは例の12時過ぎに飯を食わせると凶暴化したり水かけると増えるって設定の映画で、完全に架空の存在だがな。そっちの世界にいるなら話は早い」

 

グリッチ・エッグでは彼らは草原や小さな村々に出没する小悪魔の一種で、鳥と同じ速度で飛び、群れると駆除が面倒な魔物の一つに過ぎない。

 

だが、我々の世界ではどうか。

 

彼らは第一次大戦頃に戦闘機パイロットたちの噂話により誕生したと言われている妖怪だ。

 

起源は諸説あり、レイシズムに基づくもの―――つまり黄禍論によって危険視されつつあった日本人をモチーフにしたとも言われている。

 

その能力はミナが言ったとおり、航空機のエンジンを壊したり、アビオニクス……つまり電子装備や配線を狂わせてしまうというものだ。

 

そしてその速度は飛行機にも匹敵するとされる。

 

「ダンジョンから漏れた、ってわけでもないでしょう。あの神社に張られていた反転の結界は壊しましたし。使役している者が誰かいるのでしょうね」

 

ルルが意見を言うと、ミナも首肯する。

 

「もしこちらの世界に出たグレムリンが、こちらの世界の伝承通りの能力を持つなら厄介すぎるな……」

 

「ああ。全くだ。電光○人グ○ッド○ンの時代じゃあなんともなかったサイバー怪獣災害が、今の時代でやったら即世界崩壊級になるって話の類話になる」

 

空悟がそういうと、ミナは苦笑して「あのバチバチ火花散るコンピュータとかすげえよな」とその番組のことを思い出して笑った。

 

「手がかりも現状存在しないし、とりあえずその線で探ってみるよ。ありがとう」

 

ミナはそうして3000円置いて立ち上がった。

 

「もう行くのか?」

 

「ああ。ヒントが有るなら動く。悠長に構えてると崎見さんが過労死しちまうよ」

 

会計よろしく、と言い残してミナは店を出て、ルルは空悟に会釈するとミナについていく。

 

「……さて、こちらも仕事に戻らないとな」

 

空悟はそう言ってミナの残した札が3枚だったことを確認して、「後で返すか……」とぼやきつつレジへ向かうのであった。

 

 

 

相手がグレムリン……小悪魔の一種だとすれば、岬が結界を張ったことにより市街中心部のハロワにはもう姿を表すまい、とミナは考えた。

 

だとするなら、次はどこに現れるか、である。

 

飲食に恨みがあるのか、というほどに改ざんされているのは飲食業のバイト募集広告ばかり。

 

つまりハローワークにそれは出現すると考えて、ミナとルルの二人はとある建物の前にいた。

 

職業安定所、即ちハローワークにも種類があるもので、ここはヤングハローワークと言われる若者向けの職業安定所であった。

 

若者向けのアルバイトなどが斡旋されている場所だが……今は夜0時前。

 

今の所人っ子一人いない状態である。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

ミナはそうしてアンロックの魔法を唱えて先日と同じように中へ入っていく。

 

気配を消し、中に入れば……特に何も起きることはない。

 

しかし、もしグレムリンであるならばもう少し待ってみないとわからない。

 

なぜなら……

 

「グレムリンは小悪魔。その繁殖の方法を私達は知らない」

 

―――あの映画のように、水をかけてしまうと際限なく増える、などということはなかろうが。

 

同じようなことが起きる可能性をミナは否定できなかった。

 

そう、この世界とグリッチ・エッグには名の相関性がある。

 

ノーム、ウンディーネ、サラマンダー、シルフの四大精霊は言うに及ばず。

 

様々な存在が同じ名を持つのは、なにか理由があって然るべきだ。

 

ミナはそこまで考えて思考を止めた。

 

―――ハロワのホールに何者かが現れたからだ。

 

コツ、コツ、と足音をたてるその人物の顔には深い深い憎しみが写っている。

 

(……人間?でもあれは……)

 

白髪で長髪、深い疲労と痩けた頬。

 

どう見ても今すぐに死にそうな顔をしているが……

 

ルルはその体を見て、おそらくは30代前半と見て取った。

 

何らかの過酷な病気にでもかかっているのではないか、と見える肉体をしており、それが死の王であるルルにはよくわかったのだ。

 

二人は無言でうなずき合い、男を注視する。

 

「……むちゃくちゃにしてやる。今はこれだけだが、いずれ全部むちゃくちゃにしてやる。ひひひひひ。絶対に許してなどやるものか」

 

不気味な、しかしやけっぱちな疲労感を湛えた笑いを男は上げる。

 

ふと見れば……スマホの電源が勝手に落ちていた。

 

(……やはり)

 

ミナはそうして男が何かをする前に止めようと立ち上がって……それが遅かったのを知る。

 

「さぁさぁ!来いぃい!グレムリンん!!俺の血を吸って、増えろぉぉぉ!!あっはははははは!」

 

哄笑が響き、ミナは走り出し、ルルは杖を構え、そして男の手に持たれた可愛らしい動物の人形が―――目をカッと見開いて男の手に噛み付いた。

 

「待ちなさい!それは―――!」

 

「誰だァァァァァ!!」

 

ミナに駆け寄られた男は大音声で叫び、その人形をこちらに向けてくる。

 

「……誰だもクソもないけど、それ何だと思ってるの?」

 

白髪のやつれた男はニィと笑うと、「もちろん俺の復讐を果たしてくれる可愛いやつさ」と狂気を湛えた瞳で睨めつけてくる。

 

無論、そんな目に怯むミナではないが、その纏う雰囲気は既に魔物そのものであることを見て取り、ヒヒイロカネの小剣を抜いて男を睨んだ。

 

「……その人形に侵食されまくってるわね。もう一度聞くわ。それが何なのか知ってるわけ?」

 

知るはずがないだろう、と思いながらも聞いてみると―――

 

「知ってるよおおおお!俺の復讐のためのだぁぁぁあ!」と全く要領を得ない回答が帰ってきた。

 

「……手遅れ、かな」

 

「そうでしょうねえ。岬さんたちを連れてこなくてよかった」

 

ルルも杖を出して男に向けながら……その人形に噛まれて滴り落ちる血が何に変化していくのかがよくわかった。

 

『キルキルキルキル……』

 

甲高い耳障りな鳴き声を上げながら、血溜まりから生まれたのは―――即ち。

 

「やっぱりグレムリンか」

 

ミナは嘆息して瞑目する。

 

血から20以上のグレムリンが召喚され、そして敵意を持ってこちらを睨めつけてくる。

 

持ってきている電子機器がスマホだけで良かった、とミナは思いつつ男に言葉を投げかけた。

 

「あんた、そこまで外れたらもう人間に戻れないわよ」

 

「構うものか!復讐だ!復讐!この世界の飲食業は全部滅ぼしてやるううう!アハハハハハハッ!!」

 

狂った笑いを上げる男に、ミナは「じゃあ……お眠りなさい」と一つ言って、15mほどの距離を一足飛びに駆け抜けて小剣の柄で男のみぞおちを殴り吹き飛ばす。

 

「げぼふぅ!?」

 

「寝てれ」

 

ミナは短くそう言って、群がるグレムリンのうち1匹を蹴り飛ばした。

 

『ぴぎぃ!?』

 

潰れるような音と悲鳴を上げて、その小悪魔はグズグズと崩れていく。

 

「……ふん。死体が残らないのだけは、ゴブリンやコボルトより遥かにマシよね―――ルル、一匹たりとも逃がすなよ。今の時代にこんなもんバラ撒かれたら死人が3桁4桁余裕で出る」

 

スマホの電源が勝手に落ちたことを見るに、空悟の推測はほぼ正解だったようだ。

 

即ち、この世界に出たグレムリンはこちらの世界の伝承通りの権能を持つ、ということになる。

 

最悪インフラ関係の施設をコイツラに破壊されるようなことになったとしたら、その被害は恐ろしいことになるだろう。

 

「もちろん。偉大なるロジックよ、力の矢となれ。砕け……エネルギーボルト」

 

ルルが作り出した魔力の矢は20。

 

その全てが生み出されたグレムリンたちへと音もなく殺到して―――すべての頭を打ち砕いた。

 

一瞬で訪れた沈黙―――だが、消滅していないものが数匹。

 

まだ息があるそれらの首を、ミナの小剣がスパリスパリと落としていく。

 

後には倒れた男と血溜まり、そして不気味な毛玉の人形だけが残っていた。

 

「とりあえず縛り上げて持ってくか……その毛玉は十分に気をつけて」

 

「了解です」

 

ルルがロープを取り出し、男と毛玉人形を別々に拘束していく。

 

人形に動き出されたらコトであるため、この処置は問題ないと言えた。

 

そしてルルが男を縛り上げて床に転がし、封印を施した毛玉人形をバッグの中に詰めてしまう。

 

無限のバッグに詰めてしまえば、封印もされていることであるしほぼ安全となる。

 

「後は浄化の魔法で床をきれいにして……」とミナがつぶやき、浄化の魔法を唱えその場は撤収となった。

 

もちろん、おっとり刀で駆けつけた警備会社はまた空振り。

 

警備員がカメラ越しに見たものについて記録には何も写っておらず、誤報であると結論付けられ……この事件は表向きには闇に葬られるのであった。

 

 

 

 

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