異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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そして数日後。
「―――これで5人目か。流石に多くなってきたな……」
睡眠剤と栄養を点滴されながら牢で眠る年齢も性別もバラバラな人々を見下ろしながら、ミナは嘆息して頭を掻いた。
飲食業は大変だとは聞くし、それで体や心を壊す人間が多いとは言うが、これだけ同じ人形を持って行方不明になっている人間が居るということは何かがあるのは間違いないということだ。
その全てがあの人形を持っており、研究所上層のゾンビや改造兵士などが徘徊しているエリアで実験したところ、血を与えるとグレムリンを召喚するという最初の夜と全く同じ現象が起きることがわかった。
それと同時に、直接身体から血を与えれば徐々に呪いに侵食され、やがて魔物になる……おそらくはグレムリンの上位種にでもなってしまうのだろう。
最初に捕まえた美本は特にひどく、おそらくは完全な人間に戻ることは不可能だろうとミナもルルも匙を投げていた。
『やぁれやれ。呪物を使うのは良いがのう……もう少し優雅にやれんものか……とっとと呪いを解いて、さっさと解放してやればよかろ?』
カレーナがそう退屈そうに声を出す。
「でもなぁ……この人ら、真面目にこのまま返してもまたあの人形に捕まるし、この美本とかいうのは間違いなくなんかの病気で一生病院だよ?原因突き止めなきゃ解いても意味ないのだわ」
それに、と。
ミナは無限のバッグから回収した人形を取り出す。
「……これ、ほとんどのパーツが地球の物質で出来てるんだわ。薺川博士の保証付き」
『なんと。それでは地球人がこれを作ったと?』
地球人を「ちきゅうびと」と呼んでカレーナは驚いた。
「そうであるとすると、SMNなんじゃねーかって思うんだけど、そっちの魔法少女がなんか対策取ろうと右往左往してるみたいだからさあ……わかんねーんだよ」
よしんば邪神の手のものだとすれば、もっと恐ろしいことが起きようものだが、今の所被害は神森市内の飲食業の広告やホームページの改ざん以外にはない。
あくまで個人の恨みを晴らすためではないか、というのがミナの推理だが……
「ぶっちゃけ邪神が関わってる可能性がある以上、割とこれは的外れな推理だと思うのよね。個人の恨みの向こうに何かが隠されてるはずなんだけど……」
ミナははぁ、とため息をついて毛玉人形をバッグの中にしまう。
『そう深く考えるでないわ。時間が解決する事もあろうに』
カレーナは面白そうにそう孫へ笑いかける。
「んな悠長なことやってる場合じゃないのよねえ……」
結局、これ以上ここにいても仕方ない。
牢は15名ほどしか収容できない場所だ。
ここは本来は研究所員が反乱を起こしたときなどに使う場所。
そこまで広いものではないので、埋まる前に解決しなければならない。
出入り口を厳重に鍵を締め、ハードロックを掛けてから研究所へと向かう。
「はーもうホントねーもうハロワにも出てこないし、街をうろついてみるしか方法がなくなってんのマジ疲れた……」
半月近く経ったが、事態は数日に一度夜回りしているミナかルルが毛玉人形を持った人間を見つけて捕まえる、ということの繰り返ししかしていなかった。
『手がかりは……ないものなぁ』
祖母は仕方ないのう、とつぶやき……ミナは「文明崩壊なんかさせらんないもの。早くどうにかしないと」と深刻に返す。
「とりあえず……家に帰ろ……明日の仕事もあるし」
嘆息したミナは薺川博士へ挨拶をして、家路へとつく。
そして……手詰まり感を抱えたまま数日後、事態は進展することとなる……
蒸し暑い日であった。
岬は庭の木や芝生に水撒きをして、一通り終わると額の汗を拭いた。
蒸し暑いくせにろくに雨が降らない。
ここ1週間ばかりはそんな天気であった。
「梅雨入り……したはずなのですけどもねえ」
今日は土曜日。
惟神小学校は2週に1度土曜日が休みになるため、今日は完全にお休みである。
「……しかし、どうしたものですか。ミナちゃんが中心になって、例の事件を追っていますですけど……」
縁側に座り、はぁ、と息をつくと雲の間から太陽が顔を出す。
「この分だと今日も雨は降らなさそうなのです」
諦めた彼女は、みんな仕事に行って誰もいない家の中へと入る。
今日はななかやかける、とおるもそれぞれに用事があり、また恋もアイドルの仕事で市を離れていた。
ただ一人、である。
昼食は自分で作ると宣言しているので、自分で作るしかない。
しかしながら、この蒸し暑さのせいでだいぶやる気が削がれていた。
「……海苔の佃煮で済ませるです……ってこれじゃ昔と変わらないのです」
岬はそう独り言つとまずはエアコンのスイッチを入れた。
蒸し暑いのでやる気が出ないなら、まずはそこからどうにかしなければ。
そうして涼風がエアコンから出てきたことを確認して、十分に身体を冷ました彼女は冷蔵庫のドアを開けた。
「……焼き鮭でいいですね。あ、野菜……もやしとピーマンとぶなしめじがあるですよ。これはホイル焼きでもいいですかね……塩鮭だからコンソメも味の素も入れなくても良いのです」
岬は、ふんふ~んと鼻歌を唄いながら手早く塩鮭でホイル焼きを作っていく。
「グリッチ・エッグにはアルミホイルはないそうなのですねー……代わりになるものはあるってミナちゃんは言ってましたけども」
岬はそうして塩鮭であるため抜けない生臭さを取るため、生姜をみじん切りにしてホイルに乗せた鮭に乗せていく。
そして同じくみじん切りにしたピーマンとヒゲを取ったもやし、そして少し大きな塊になるように割いたぶなしめじを乗せてアルミホイルで包んだ。
野菜の味付けはホイルに乗せる前に、軽く醤油を振って和えただけである。
「塩鮭ですし、これでダイジョブでしょうなのです」
岬はそうして炊飯器のスイッチを入れ忘れていないかチェックした。
水門家の大きめの炊飯器で7合ほど炊いていて、帰ってきたミナたちがストレートにご飯を食べられるように準備している。
廻や夕は、精神的に疲労していると本来の燃料である水だけを補給して寝てしまうこともあるが、ミナは確実に3合は米を食うのでこの準備は必須なのだ。
「賄いご飯、お店で食べてきてるはずなのに食べるんですよねえ、ミナちゃんは……」
概ねそう言うときはおかずはろくに消費せず、海苔の佃煮や漬物、最悪の場合塩か醤油で食べているということは、翌日の調味料などの消費量でわかっている。
それだけでうまいときもある、とミナは言うが貧乏飯で痛い目に遭い続けていた岬には「ちゃんと作ればいいのに」という感想を抱いていた。
とはいえ、よく炊けた白飯がそれだけで美味しいのは日本人であれば大半が理解できるところではあろう。
「ま、いいのです……さーて、これをフライパンに乗せて蒸し焼きにすればいいのです」
そう言って、味噌汁を作り始める岬。
ピーマンとぶなしめじのあまりを乱切りにして、それを予め取っておいたかつおだしで茹でて、十分に火が通ったら味噌を加えて沸騰しそうになったら火を止める。
それだけで十分美味しい味噌汁になった。
「予算があの頃に比べると無限に近いのは嬉しくてたまらないのですよ……」
岬はそうして味噌汁を作り終わり、ホイル焼きが蒸し上がるまでの5分ほどの間で副菜になる昨夜作ったほうれん草のおひたしを器によそって嘆息する。
「……さて。ささっと食べてしまおうなのです」
午後は宿題を終わらせたら、すぐに夕飯の仕込みをしてしまおうと時計を見た。
時間は12時12分。
その時間にこっくりと首肯して、岬はホイル焼きをアルミホイルごと皿に置いて、次いでご飯をよそった。
味噌汁は一番最後だ。
塩鮭のホイル焼き、ピーマンとぶなしめじの味噌汁、そしてほうれん草のお浸し。
かつての自分なら考えられない優雅なランチである。
「ううう~……最高なのです……誰にも邪魔されない、連絡も来ない、出来合いじゃない……最強なのです……!」
涙すら浮かべる岬は、「おっとテレビでもつけてみるのです」とつぶやいてご飯茶碗を離してリモコンをいじる。
そしていつもどおりに惟神テレビにチャンネルを合わせる。
ぱくり、とホイル焼きを口にすると、塩鮭の塩がよく野菜にも滲み出ていて大変美味しかった。
醤油はほとんど使わなかったのが良かった、とニコリとしてテレビの画面を見ると……いつもどおりに、いつもどおりの少し昔のアニメが放送されていた。
随分と昔の……放送禁止用語を削除するためにソフト化の際に音声をすべて入れ替えられてしまった、飴玉を舐めると大人と子供の姿を切り替えられる魔法少女の物語が画面に写っていた。
「とほほ……まさかの不思議な○ル○ちゃんなのです……虹の欠片の件が解決するまでは見たくなかったですよ……」
ズ、と味噌汁をすすってから岬は独り言ちる。
ゆっくりと昼食を摂りながら、時間はやがて13時に達しようとしていた。
13時からは短い惟神テレビのニュースの時間だ。
10分ほどのそのニュースを岬は後片付けをしながらぼーっと見やる。
……3分ほどした時に、アナウンサーがなにか奇妙な事件の話をしていたことに気づいたのは僥倖だったろう。
ミナもルルも、空悟も道野枝兄妹も全員がテレビになど注視していなかったのだから。
『本日、神森消防署へ侵入しようとした毛玉を持った10代~20代と思われる女性を警察が追跡中です。情報提供を……』
岬はそのテレビの音声に目を見開く。
そしてその続きの言葉を聞こうとして……聞くことが出来なかった。
『求め、もと、もとととと―――ギヒヒヒヒヒヒヒ!!』
テレビの音声を遮って、歪めて、甲高い声が響き渡り……!
テレビの電源が唐突に落ちた。
そして――― 一瞬後に再起動する。
「これは……」
『……犯人は現在も……』
アナウンサーが話し続ける画面。
しかし、違和感がある……
岬は画面を全体的に見ると、画面全体にいくつもの文字が浮かび上がっていることに気づいた。
テレビのテロップではなく、画面に溶け込むだまし絵のようにそれは映されていた。
「……何かの暗号に違いないのです」
その色合いなどは変えつつも、画面の中の位置を変えることなく表示されている文字に気付いた岬はそれをスマホで写真に取った。
「これは一体、何なのですか……?」
岬はそのランダムに見える文字列に首を傾げながら、ミナたちへ連絡する。
……結論から言えば、それはスキュタレー暗号であった。
それが今回の事件の鍵となったのである……
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