異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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「で、これがスキュタレー暗号だったみたいなのですが……」
「まさかの自衛隊の普通科連隊の駐屯地地下に敵のアジトがあるってか……」
岬から渡された棒きれに巻きつけられた写真を見れば、「ジエイタイキチ ニシ チカ タスケテ」と刻まれている。
その後秋遂を使っての調査の結果、敵はどういうわけか、自衛隊駐屯地の地下にいるらしい、ということがわかった。
ミナとルルがテレビ画面から魔力をたどることに成功したため、秋遂による探査を合わせればそれはほぼ間違いないことである。
スキュタレーを受け取った空悟は「そうか。今日消防署に入ろうとして逃げた犯人もまだ捕まってねえ……多分そこだな」と腕を組んで瞑目した。
「恋ちゃんはアイドル活動で明日の朝まで戻ってこれないとのことなのです。一刻も早く解決するなら、今、この六人で突入すべきなのですよ」
今、水門家には空悟と夕、廻、岬、そしてミナとルルがそろっている。
既に敵はおそらく脱走者とは言え、テレビにまで影響を与えるほどの力を示している。
そのまま放置していては、危惧していたとおりに文明社会への深刻なダメージが発生するかも知れない。
ミナは―――駐屯地が地盤沈下などをする危険を犯してでもこれは是が非でも解決しなければならないと想った。
「よし。じゃあそうしましょう。幸い明日は日曜で、空悟も非番だ。とっととなんとかしちゃいましょう」
ミナはため息をついて、非常食と飲料の在庫の確認を始める。
空悟は何を言われることもなく文へと電話をかけて、今晩は家を留守にすることを告げていた。
「我々も戦闘装備へ換装してこよう」
「不測の事態があるやもわからんからな」
廻と夕も立ち上がり、研究所へと向かう構えであった。
「うん、それじゃあまずはみんなで研究所へと向かいましょう」
ミナはそうして記憶陣の陰陽術を起動させる。
―――こうしてグレムリン騒動を収めるための戦いが始まったのであった。
秋遂のドリルで掘削し、その中を慎重に進んでいく。
ある一定まで入ったら、後は秋遂は置いてけぼりにしてミナとルルがトンネルの魔法で掘削を続けるという戦法である。
「やれやれ……ここまで大掛かりになるとは……」
ここはおおよそ地下200mほどの場所。
そこをミナたちは事前の調査結果に基づいて掘削し続けている。
『これ以上進むと地下地盤の崩壊に繋がりかねません。私はここで待機いたします』
秋遂がそう言うと『すまんな。後はよろしく頼む』と廻が答えてコクピットから飛び降りた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るかなのです。まぁ小鬼ならぬ小悪魔は出ると思いますですけど」
岬が変身しつつそう笑うと、ミナが「そうねえ……グレムリンは大したことがない敵だけど、数が厄介よ。ゴブリンやコボルトと違って戦闘中にすら増えるから気をつけてね」と返した。
「なるほどな……どうやって増えてるかわからん、というのは?」
「あれな。何の脈絡もなく増えるんだぜ、アイツラ。魔力とか魔法陣とかそんなもんは1匹呼び出すまで必要で、後はなぜか湧いてくるんだ」
ミナがうんざりとそう言うと、「多くの小悪魔類はその手の増殖する方法が不明です。ですので、鏖殺以外に方法がないんですよ」とルルが続けた。
『まぁ、鏖殺してしまえばいいというのは……楽といえば楽だな』
夕がそうしてミナが開けたトンネルの先に何かいないか、殺人光線照射装置と兼用となっている前照灯で照らし出す。
その向こうには―――なにもない、わけではなかった。
『前方に開けた空間を確認した。金髪女にも見えるか?』
夕に聞かれたミナが目を凝らすと、流石に地下の暗さではハイエルフの夜目と言えどすべてを見通すことは出来なかったが、薄ぼんやりと空洞があるのがわかった。
「ええ、大丈夫。向かってみましょう」
ミナはヒヒイロカネの小剣を抜き、空悟も今津鏡を自然体で構えて前へ進む。
進んでいくと……そこには……
天井にびっしりと大量の毛玉が「生えていた」。
岬と空悟以外のメンバーは光なしでもその光景を瞳に写して、それぞれにうわぁ、と少し引いた声を上げた。
「天井に何がある?」
空悟がミナに聞くと、彼女は「あの毛玉人形の原材料っぽい何かがびっっっしり生えてる」と客観的な事実を嫌そうに伝えて「とりあえず燃すか……」と事務的な印象を与える平坦な声でつぶやいた。
―――その瞬間、毛玉たちが震えて……ミナは嫌な予感がした。
『未知の熱量……エネルギーと言ったほうがわかりやすいか。それが天井全体に満ちようとしている!』
その嫌な予感を肯定するかのように、廻はそう叫んで岬を自分の影に隠す。
「廻さんも嫌な予感する!?」『予感ではなく確定だ!何かが生まれようとしている!!』
その叫びに肯んずると、全員が無言で自分たちが開けた隧道へと戻る。
「凄まじく嫌な気配なのです……これは、何が来るのでしょうです!?」
「十中八九グレムリンよ!スマホの電源は切ってるわね!?」
「はいなのです!」
『異常電磁場を確認。この程度なら我々は問題ない。君の寄越した悪魔除けの護符もあるしな』
廻は胸元に吊り下げられた2つのペンダントを指してニヤリと笑った。
それは悪魔に属する者の魔力をある程度遮断してくれる悪魔除けの護符である。
更にミナは事前にカウンターマジックを全員にかけていたため、バグにより加速させた超科学で生まれた廻や夕にはグレムリンの悪戯が届くことはなかった。
ぼたり、ぼたりと天井の毛玉から何かが落ちてくる。
それは液体のように見えて、何かの卵のような物体に見えた。
ぐねぐねと変形し、歪んで、やがてグレムリンの形を取っていく。
奇妙に捻じくれた顔と小さな体。
そしてその口から漏れる甲高い笑い声と表情に浮かぶひどい此方への侮蔑は、まさに醜悪と言って良いものだ。
ミナはゴブリンのほうが駆け出しの頃何回もひどい目に合わされたので遥かに嫌いだが、グレムリンもまたコボルトと大差ないくらいには嫌いな魔物だ。
「全部が全部こう言うふうに生まれるかどうかは知らないけど、だいぶ最悪だわこれ……」
ぼたぼたと落ちる謎の液体が孵化していく光景はたいへん気味が悪く、前照灯で照らされたそれを見た岬は怯えて廻にしがみついていた。
「き、気持ち悪いのです……」
『ああ、岬は私の後ろに。すぐに焼き払う』
廻がミナに目配せをする。
ミナは首肯して、自分もまたフレアー・クリメイションの詠唱を始めていた。
『殺人光線、照射!』
「世界を支配する偉大なるロジックよ。地獄の業火を呼び覚ませ。我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ。フレアー・クリメイション!!」
光線と爆炎が閃き―――
『ギィィィィィィィィィィィィィッ!?!?』
グレムリンたちも毛玉もすべて十把一絡げに焼滅させていく。
空間が腐肉とプラスチックの焼け焦げた悪臭を放ちつつもすべて灰になるにそう時間はかからなかった。
前に入手した人形とは異なる、腐肉とプラスチックの混合物。
それが天井にぶら下がっていた人形たちであった。
「……超臭い……」
「我慢しましょう、ミナさん。それより焼け残った天井の毛玉を回収しましょう」
鼻を押さえるミナと岬にそう言って男たち3人は天井の毛玉回収に動き出す。
夕は周囲の警戒につき、ミナと岬を守っていた。
「うーん……”赤鬼”の検死現場より臭え……」
警察用語で言う腐乱死体を指す言葉をつぶやきながら、空悟はぼとぼとと下に落ちてきている毛玉をいくつか見繕ってビニール袋に入れる。
ルルと廻は飛行魔法や脚部ロケットを用いて天井まで浮遊し、まだ張り付いている毛玉を回収した。
それを見てミナは一言「これを加工したものだわ、間違いなく。あの人形」と酔っぱらいの反吐でも至近距離で見たかのようなすごい顔をする。
「ですね。魔力を見れば一目瞭然ですが……誰がこんなものを用意したのでしょう」
ルルが首を傾げるが、それに答えるものはいない。
「とにかく、進んでみるしかない……か」
ミナは臭いに辟易しながら、鼻で息を吸って臭いに慣れさせながら前へ進む。
見れば闇の中に奥へと進む道があった。
そして……ルルが一瞬目を見開き、ミナにその瞳を向ける。
「……バグの気配が濃厚です。強くなってきている」
「……そうね。私にも感じられるわ」
ミナがその視線に首肯すると、空悟は「行くか?」とミナへ声をかける。
いつか彼であった彼女は不敵にニヤリと笑うと、「行かいでか」と短く答えて闇を闊歩する。
仲間たちはその後ろを沈黙してついていき……やがてその場には、完全に沈黙した毛玉の群れだったものとグレムリンだった液体が残されて……やがて汁気は地面に吸われて消えていったのであった。
189→良い厄なんで早めに処理したかった!!それだけ!!
明日には190話あげますんで許したもれ。
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