異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第191話 「オーライになってねえから言ってんの!」

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「凪の日はいと優しく嵐吹かば厳しき水の娘ウンディーネよ、燃え盛るもの、火の子竜の子サラマンダーよ。その相反する二つを我が手に与え給え。溶け合い爆ぜて眼前に破壊の嵐をもたらさん!

 

ミナの唱えた水蒸気爆発の魔法が、フロアのグレムリンと……だんだんと増え始めた他の魔物たちを駆逐していく。

 

オークや堕ちた魔術師の影、或いはスペクターやレブナントなどのアンデッド、時折名前を言ってはいけない単眼の魔物など、バグダンジョンほどにもバグの気配が濃厚なのに、オーソドックスな魔物たちが湧き出てきていた。

 

しかし、それらはすべてグレムリンと同じく斃せばグズグズに溶けて地面に吸われて消えていくのみ。

 

「今度は大ムカデもいたな。どう思う、三郎」

 

「多分、これは……うん、間違いないとは思うが、どんどん地下に降りていっていることと土の精霊力が強いこと、それに」

 

ミナはそこまで言って、岬に「岬、風の精霊魔法使えないわよね?」と聞いてみた。

 

「はいなのです。ちょっと使えなさそうなのですよ」

 

センスオーラを使って精霊力を探知しても、風の精霊は休眠状態になってしまっている。

 

この状態ではミナやカレーナのような、上位精霊と契約している者でもなければ精霊を起こすことができない。

 

空気が吸えるため、風の精霊がいないわけではないのだが、それでも長時間の活動は人体に支障をきたす。

 

しかし、ミナたちにはそこまで影響はない……冒険者現象によって強化されているからだ。

 

だが、ここで一つの問題があった。

 

おそらくは行方不明になった毛玉人形を掴まされている人々は、この地下に囚われているはずなのだ。

 

「……間違いないな。おそらくはここは魔精霊の領域だ」

 

ミナはそこまで考えると、ゆっくりとそう口を開いた。

 

「そうか……しかしなんだってまあ、魔精霊が一般の人間を……?」

 

「人間の行動を真似ているのかも知れませんね……」

 

ルルが唇に人差し指と中指の腹を当てて瞳を地面へと落とす。

 

『ならば急がねばならんな。真似ているのであれば改の会かSMNのどちらかがやっていることだろう』

 

夕がそうして前照灯で階段を照らした。

 

『行くぞ。人命がかかっているのだろう』

 

『うむ、急ぐべきだ』

 

道野枝兄妹がそうして先を急ごうとした時……階段から何者かが上がってくる足音―――否、轟音が聞こえてくる。

 

ドガン、ドガン、ドガンと岩を砕き壊すが如き足音のような音が―――やがてその音の主が現れるまで響き続けている。

 

『これは……毛玉と同じ反応だ!みんな、注意せよ!』

 

廻の言葉に身構えるミナたちの前にやがて現れたのは―――

 

毛玉に覆われた巨人であった。

 

『走査開始……〇.八九七の確率で改の会の牛込なる怪人と同一人物!』

 

夕がそう言い終わるやいなや、噴進魚雷を躊躇なくぶちかましたが―――

 

ボウン、と彼を覆う厚い毛玉に弾き返され、天井へとバウンドして爆発する。

 

『クッ……ヤング率がほぼ零な上に強度は鋼鉄並……だな、あの毛玉……これでは実弾兵器は通じまい』

 

『ならば殺人光線で焼く!』

 

爆発から生身の4人をかばった廻と夕はそうして殺人光線を照射する。

 

しかし……

 

『グァァァァァァァァ!!!』

 

厚すぎる毛玉の壁は焼け焦げるばかり。

 

「あれは……再生しているのね。でも、なんであいつがここに!?」

 

ミナはそれが午来と知りつつ、別のものに変質しつつあることを悟り、カレーナの剣を抜き放った。

 

『ぬをっ!?いきなり抜くなアホタレめ!』

 

カレーナは文句を言うが、ミナは気にすることもなく「良いから行くわよバーチャン!」と叫んで、剣を巨人へと向けた。

 

「空悟、岬、物理攻撃以外で援護!空悟はこれ使え!廻さんと夕ちゃんは左右から牽制して!」

 

矢継ぎ早に指示を出し、空悟にメタノール火炎瓶をありったけ渡してミナは突撃する。

 

無論、ルルは指示されずともわかっているのか、二口腕輪を装備して術の行使の準備に入った。

 

「ミナさん、新しい魔法を試してもいいですか?合体魔法なんですけど」

 

「マジか!?マジで今やるのか!?」

 

ミナが午来の巨腕を躱し、毛玉から伸びてくる触手を剣で切り払いながら叫ぶ。

 

どうやら魔法の武器は毛玉アーマーへ効果を成すことに安堵しながらも、ルルの宣う新呪文の確認をせねばならないと。

 

「もちろんです。あのバウンドスライムやゼリーバウンサーのような弾性に、おそらくはミスリル級の直接防御力、そして廻さんたちの殺人光線で抜けない耐熱性……ちまちまやるより新しい魔法でぶっ飛ばしたほうが確実ですよ」

 

ルルはしれっとそう言って、魔力を集め始める。

 

すぐに詠唱を始めないあたり、最早凄まじい大威力のものだと言わざるを得なかった。

 

「因みに何にヒントを得たおめー!?」

 

巨腕に蹴りを入れて、その反動で壁に着地してエネルギーボルトを10本ほど放ちながら彼の主人は吠える。

 

「ええ。あの漫画の極大消滅呪文とあのアニメの攻撃エネルギーと防御エネルギーを一つにして敵を滅殺する必殺技をモチーフにしてます」

 

「寄りにもよってそれですかぁぁぁぁぁぁ!?」

 

岬が大声で叫ぶ。

 

それはそうだ。

 

何しろ、それは……片方は食らったらどんな物質でも消滅する火炎と冷気の呪文の合成魔法で。

 

もう片方は無限の勇気で駆動するスーパーロボットの必殺技なのだ。

 

「呪文が完成したらぶっ放す前にちゃんと言いなさいよバァァァァァカァァァァァ!!即退避もんだからねぇぇぇぇぇっ!?」

 

『グオワァァァァァァァァァ!!!』

 

何者かに乗っ取られたと思われる午来は集まってきた魔力が明らかに恐ろしく、確実な死をもたらすものと判断したのか廻と夕を振り切って走り出そうとするが―――

 

「逃がすか、バカタレ!!」

 

ミナが合気道の要領で、突っ込んできた午来を投げ飛ばす。

 

『ガァァァァァ!!』

 

壁に突っ込み怒声を上げる午来を確認し、ミナは「今よやりなさい!」と叫んだ。

 

『「承知―――世界を支配する偉大なるロジックよ」』

 

「混沌の中心よりあらゆる神に連なることなき白痴の王を呼び覚まさん。白き闇よ全てを吐瀉する白痴の光よ。昏き白よ、冥き闇を染めよ」

 

『秩序の中心より遍くに終わりを告げる空の最後を呼び覚まさん。黒き光よ総てを飲み込む終焉の闇よ。冥き闇よ。総ての白を染め上げよ』

 

ホワイトホールとブラックホール、即ち本来であれば対抗魔法としてぶつかりあえば対消滅する魔法が融合していく。

 

『再生と終焉を』「光と闇」『白と黒』「混じり合え―――我が前の総てを消し去らんがために」

 

白き闇と黒き穴が一つになる。

 

本当なら、そこで魔法は対消滅するはず―――だ。

 

「ルルぅ!?おめーなんてことしてくれてんだこらぁ!?」

 

「いやあ、反物質とやらに興味を持ちまして、なんとか作る方法はないかなあ―――と。完全に消滅させるよりは、純粋なエネルギーのほうがちょっと残るかも知れませんし……情報を取るためにもベストな選択肢ですよ―――それでは行きますよ」

 

叫ぶミナにルルはこともなげにそう言って魔法の最後を唱えようとする。

 

「逃げろぉぉぉぉ!!」

 

ミナは岬をひっつかみ、夕が空悟を抱えて部屋の外へと走る。

 

そう、もちろん、空悟も同じように全力退避せねばならなかったのだ―――それはなぜか。

 

見れば白き闇から放たれたエネルギーが虚空に保持された黒洞へと飲み込まれて―――やがて収束した。

 

「次の空より反転されしものを呼び出し給え―――サモン・アンチマター」

 

ルルが詠唱を終えると、電磁波に護られた一つの光が午来へと向かっていく。

 

その光がそっと男の下半身に触れた瞬間、ドバンッと凄まじい音ともに熱波が膨れ上がる。

 

―――火球は午来の首だけを残して消滅させる。

 

―――極微量の反物質を生成し、敵手を消滅させるために作り出されたルルの新魔法であった。

 

「……理論上は反物質なんですが、調べた反物質とは挙動が違う気がしますね。魔力で作ったものだからそれはそうなのでしょうが」

 

ルルは幾度か首を傾げて、まだ口端から煙を上げながらも動いている午来の首へと近寄っていく。

 

「さて、どうしてくれましょうか……」「どうしてくれようかはこっちのセリフだボケェぇぇぇ!!」

 

熱波の影響、そして反物質と物質が接触したことによって生まれたガンマ線と中性子線が消滅すると、すぐさまにミナがルルの背中に飛び蹴りを食らわす。

 

『……空間線量、〇.四μSV/毎時……地面の下と捉えれば、人体にはほぼ問題ないな。やはり魔法で作られた放射線だからか?』

 

『おい、金髪女。念の為女男が放射化してないか検査するからこっちに持ってこい』

 

不思議そうに空間を走査する廻と沸騰する寸前といった顔で不機嫌にミナに声をかける夕。

 

念の為空悟と岬は、部屋には入ってきていない。

 

『瞬間的に十二SV/毎時ものガンマ線が放射されていたぞ、全く……私と廻が電磁防壁を作り出せなんだら、岬と空悟殿が死んでいたぞ』

 

「ほら夕ちゃんも言ってんだろうが!いっぺんいわすぞボケェ!!」

 

ミナはそう言ってルルの頭を一瞬踏みつけると、首根っこをひっつかんでそのままずるずると引っ張っていく。

 

「い、痛いですってば。結果オーライってことでぇ」

 

「オーライになってねえから言ってんの!いつの間にこんなクソ魔法開発した!!」

 

ミナがそう怒鳴ると、ルルは「構想段階でしたが、うまく行ってよかったですよ。まぁ失敗するつもりはありませんでしたが」とあっけらかんと言って。

 

「ふんっ!!」「ごぶふぅ!?」

 

ミナの鉄拳を鳩尾に食らわされていた。

 

『いいからいちゃついてないでこっちへこい』

 

夕に促されると、ミナはひっつかんだ首根っこごとルルを夕の方へとぽいっと投げはなった。

 

「あん♪痛いじゃないですかぁ」「痛くしてんのよ!喜んでんじゃねえのだわ!!」

 

『黙っていろ』

 

何故か喜んでしまったルルを夕はスキャンし始める。

 

『うむ、問題はない……放射化どころか、放射線の影響すら見て取れん。魔法の放射線など、冗談も良いところだ』

 

夕は嘆息し肩をすくめる。

 

「ふー……良かったわね。地下に封印されなくて」

 

ミナが汗を拭いて、ルルの腹に脚を乗せた。

 

「あぁ~やめてくださぁ~い★」

 

「喜ぶのやめろ変態!ったく……たしかに毛玉を吹っ飛ばすには効率良かったかも知れねえけどもよぉ!」

 

ミナがそうして周囲を見回すと……壁の前でゴロンと転がっている首が見えた。

 

「……廻さんお願いします」

 

『心得た。尋問は私でやっておこう』

 

ミナはルルを引きずって部屋の外へと向かい、どうやら空悟や岬に土下座でもさせるつもりなのだろう。

 

『廻』『問題はない。行こう』

 

そうして……まだ煙を上げ続けている午来のそばまで近寄って、廻はその体を睨めつけた。

 

『……で、貴様まだ話せるのだろう?どのような事情でここに居るのだ』

 

『なぜ前回のように自壊せんのだ』

 

夕も質問をして……午来は『ふっ……気付いていたか……作戦中に意識を失い、このざまよ……!貴様らに情報はやれんが……一つだけ教えておく。あの毛玉を甘く見るなよ……アレは我が機械の身体ですらも侵食し、この通りのザマにしてしまった……どのような機械でも支配するぞ、あれは……!』と悔しげに言葉を絞り出し。

 

『ではさらばだ!また会おうではないか!ふははははは!』と何故か高笑いを上げながらグズグズに溶けて消えていった。

 

『情報は取得できなかったが、ヤツも他の人々のように毛玉に拉致されて操られていただけのようだな……』

 

廻はそうして踵を返すと、ミナがルルを引きずって此方につれてくるところだった。

 

「そろそろ許してやれよ、三郎。ルルくんも笑っているんじゃないって」

 

「なのです。あ、廻さーん!どうだったですか?」

 

空悟と岬もそれについてきており、岬は廻のもとに駆け寄ると尋問の成果を確認する。

 

『あまり大した情報はなかったが、午来もあの牢に入れた者たちと同じく拉致されてきたようだ……推論でしかないが、元はこの事件、改の会が仕組んだものだと思う』

 

廻はそう言って顎に手を当てた。

 

『電子情報網を利用して何かをしようとしていたのではないだろうかな……それを魔精霊に乗っ取られた、と言う可能性は十分にある』

 

「そして、拉致した人々の恨みつらみから飲食店の広告を狙わせた……?飲食店をクビになったやつだけ拉致ってるのはなんでだ?まだわからんな。だが、俺も大筋はそうじゃないかと思う……」

 

空悟が刑事の勘からかそう言って、ミナを見た。

 

「グレムリンは残飯とかも食うからな。その関係かもしれねえ。コンビニ店員とかはいなかったよな、行方不明者」

 

ミナが聞くと空悟は首を横に振って、「少なくともこの数ヶ月はないはずだ。俺の調べられた範囲では、だがな」と肩をすくめた。

 

「それにコンビニの食品廃棄は、廃棄登録したあとさっさとゴミ業者に持ってって貰ったりリサイクルに回したりする場合が多いので、残飯的に店の後ろに放置、とかはあんまりしないのですよ」

 

元コンビニ店長の岬がそう言うと、「残飯狙いで飲食店に来た毛玉かグレムリンが、クビになった人間のストレス……負の感情を食べようとして、拉致していた……?魔精霊がグレムリンを?」

 

ミナはそこまで言って、これ以上考えてもわからんと匙を投げる。

 

「進めばわかるでしょう。進もうぜ、みんな―――ただ、気になることが、一つ」

 

ミナがそういった時であった。

 

ズズズズズ、と地面が揺れ始めたのは。

 

「これは……」

 

『少なくとも地震ではない。地下にいる何かが動き出そうとしているのだろうが、我々の感覚器官ではそれを捉えることができない。君たちの方はどうだ?』

 

廻の言葉に、ミナは精霊の気配を、ルルはバグや死の臭いを探るため、注意深く感覚を凝らしていく。

 

「……やっぱり、強い土の精霊力を感じるわね」

 

「同時にバグの臭いを。そしていくつもの正しい生命の力を感じました」

 

主従がそう言うと、夕が『人質が危険だ。行くぞ』と率先して走り出した。

 

「OK!では、走るわよ!急いで推定魔精霊と思われるダンジョンの主を止めに行きます!」

 

ミナはそうして身体強化付与の術を唱える。

 

「世界を司る偉大なるロジックよ。我等が身に力を。腕に、足に、目に、指に。強く、速く、正しく、巧みに―――フィジカル・エンチャント・オールボディ!」

 

そうして六人は走り出した。

 

目指すは地下。

 

そこに待つものは……

 

 

 




強力な中性子線を浴びた物体は放射化、つまり放射性同位元素に変貌してしまうことがあります。
生物や人体が放射化するという話は聞いたことがありませんが、ルルはアンデッドですので。

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