異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第192話「……とまぁ、そういうわけで急ぐわよ!」

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「ごぼふぅ!?」

 

「あ、あぶねー……わたしの魔法がなかったら死んでたァ……」

 

口から盛大に吐血したメグミに、回復魔法と思われる魔法をかけているのはショウコであった。

 

「お、恐ろしい魔法を使う……!」

 

マコもまた血を拭って立ち上がった。

 

そう、彼女らはミナたちを尾行していたのだろう。

 

思いっきり先程のマジカル放射線を食らってしまっていたのであった。

 

ショウコが回復魔法と状態異常解除魔法を使えるようで、三人はすっかり健康を取り戻していたが、全員が思い切り吐血していたので血まみれの魔法少女が3人という大変危険な絵面となっていたのであった。

 

「……うん、問題はない。私の魔法で状態異常は三人ともなくなっていることがわかった」

 

マコはそうして魔法で作ったバイザーを消す。

 

どうやら彼女は分析の魔法を使えるのだろう。

 

その力で異常が残っていないことを確認したマコは、メグミの手を取って引っ張り起こした。

 

「ああ~ごめん、マコちゃん~」

 

「いいから行くぞ……やはりあの化物共はまずい……放置していて良いのか、本当に……?」

 

マコが訝しがるが、メグミは「あんな化物共に勝てるわけ無いじゃんっ!私達はクロキのバカを回収することだけ考えようって!」と必死で引き止めた。

 

「ほぇぇ~~……わたし、もうやだぁ……」

 

最早泣き出すということもなく、ショウコは脱力して地面に座り込んでしまう。

 

「すぐには動けそうにないよぅ……」

 

「仕方ないな……少し休憩するしかないな……」

 

マコは近くの岩にメグミを座らせ、その隣に座った。

 

「イェカ様の判断を疑うわけではないが、核爆発……だと思うのだが、そんなものを起こす連中と争うのは本当に避けるか、或いは機会を見て殺したほうが良い気がする……」

 

ハンカチで服についた血を拭いながら、マコは肩を落とす。

 

その顔色は悪い。

 

それはそうだ。

 

つい先程、吐血はするわ、全身が融解するような激痛を味わうわ、ひどい目にあったのだから。

 

「重度放射線障害って分析結果が出たときはもう……絶望……ヤバイ……なんか涙が……」

 

「あー泣かないで泣かないで!当たり前だから!怖いのは!」

 

メグミはなんで自分がこいつをあやさねばならんのか、と内心で考えつつも彼女の背中をさすってやる。

 

(マジカルガンマ線とかもうどうしろってのさ……ウザすぎ、あの連中……)

 

メグミはそう考えて、天を仰ぐ。

 

天井には不気味な毛玉の欠片がまだ残っている。

 

それを無視して、メグミはタオルを出して自分が吐いた血液を拭い、マコやショウコの血糊も拭っていくのだった。

 

―――そしてあることに気付いていたのである。

 

 

 

「さっきなんか言い掛けてたな、三郎」

 

「空悟……気付いてたか」

 

ミナは走りつつ空悟の質問に「鋭い質問するな」と笑いかける。

 

「―――あの午来とかいう奴、毛玉がひっついてただけとは言え、ルルのクソ魔法でも死んでなかっただろ。おかしいと思わねえか?」

 

ミナは若干深刻な顔でそう言った。

 

「……冒険者現象に気づいたかも知れない、ってか?」

 

「ああ、そうだ」

 

ミナがそう言うと、同じく走っているルルが近づいてきて「まず十中八九間違いないでしょうね。冒険者現象に気づかれました」と唇をへの字に曲げる。

 

「まずくないですか、それ……」

 

ミナの横を飛ぶ岬が聞くと、「……不味いに決まってるけど、魔精霊のダンジョンくらいしかダンジョンがないからね」とミナは苦笑した。

 

ここを潰せばまず問題はない……はずである。

 

『ここの毛玉を回収されたら不味いだろ、金髪女』

 

夕の言葉にミナは「可能性はあるけども……うーん……」と唸ってしまう。

 

唸ったミナに廻は『今は考えても仕方ない』というと、「それもそう……」と呟いて足を早めた。

 

結局の所、多少冒険者現象で強くなろうが―――

 

ミナとルルが本気を出せば済むことである。

 

だが、未だSMNの首魁の能力は不明。

 

改の会は首魁と思しき者の名前だけがわかっているだけだ。

 

(……そうであるなら踏み潰すのみだ。この世界の人々に冒険者現象なんてものは……多分いらない)

 

ミナはそう思ってまた一歩走る。

 

―――個人の武勇で魔を滅することはグリッチ・エッグでは褒められたことではあるが、この世界ではそうではない。

 

むしろ排斥の対象になるだろう。

 

そのくらいにこの世界の文明は進んでいる。

 

これはミナがずっとグリッチ・エッグにいたからこその感想である。

 

もし気付いたとしても、それはSMNと改の会だけだ。

 

……岬はSMNを殲滅したくはないらしいが、それを彼女らが広めるようなことがあればそれは―――

 

もちろん改の会が気付いていたのであれば、容赦なく殲滅するだけだ。

 

―――まあ、考えるのは後でも良い。

 

ミナは走る。

 

今は、魔精霊と思われる何者かの下へと……ただ、ひたすら。

 

 

 

『うーにゃーうにゃんにゃーうなーなにゃー』

 

ゴロゴロと転がりながら、毛玉を生み出し続けている何かがそこにはいた。

 

闇ではない。

 

暖かな暗闇で、子供をあやすように寝続けている、尊厳を破壊されて眠っている人々。

 

ゴロゴロと転がり続ける少女の姿をした土色の猫は、時折苦しげに呻く男女の額を舐めてやる。

 

すると不思議なことに、誰もが安らかな表情で眠りにつき……

 

―――しかし、時折。

 

10人に一人かそこらだが―――

 

ぬるり、と恨み骨髄に徹するが如き表情を浮かべて立ち上がり、そのまま部屋を出ていくものがいる。

 

『うー……にゃあ?』

 

ゴロゴロと喉を鳴らす少女のような猫のような土は、不思議そうに出ていくものを見て『なーん』と一声鳴く。

 

―――何故出ていってしまうのか、猫土少女は理解できない。

 

ただ、安らかなまどろみを保護下においた者たちに与えるのみ。

 

出ていくのであれば、それはそれなりの事情があろうと猫な少女の土は思い、自らもまたまどろみの中に横たわる。

 

ぽろん、と。

 

少女の髪から毛玉が堕ちて、それはやがて見覚えのある気味の悪い毛玉になった。

 

それは、誰も知らない地下の地下、地の獄での出来事……

 

 

 

魔精霊の迷宮は、深く……深く続いている。

 

その深さは前のアウステルのダンジョンと同じく、底があるようには感じられなかった。

 

どこまで続いているかわからない闇の底へと、一歩一歩足を踏み入れていく。

 

空気すらも重苦しくなっていくことに、ミナは「やっぱりそうなんだな」と呟いて瞑目した。

 

「……やはりミナさんのほうが先に気づいていたみたいですね」

 

ルルがふっと息をついて、ミナの顔を見た。

 

「どういうことなのです?」

 

岬がミナの顔の前に顔を出して、そう聞くと、ミナは「……風の精霊は空間、水の精霊は時間、火の精霊は原子とそれに隠されたもの……即ち波動、そして地の精霊は星の重さ……つまり重力をその属性に含むのよ」と言って立ち止まった。

 

『……つまり、この空間の重苦しさは……』

 

「重力。それは物理的な重さだけではなく、心理的なものを含むの。空間の精霊が心をその空間に捉えたように、心を捕える重力がこのダンジョンには働いている……」

 

ミナはそこまで言うと、迫ってきた毛玉へとエネルギーボルトを撃ち放った。

 

『ムイギャッ!?』

 

気味の悪い声を上げて潰れた毛玉からにじみ出た汁から、グレムリンたちが立ち上がってくる。

 

「しつっこいわ!」

 

『殺人光線照射』

 

ミナの叫びと同時に夕がレーザーを広域に放射し、あっという間に敵を焼き尽くしていった。

 

「……とまぁ、そういうわけで急ぐわよ!」

 

ここにいるだけで気分が滅入ってくる。

 

この空間で囚われているであろう行方不明者の心境など考えたくもない。

 

かと言って、特に罪を犯してもいない彼らを殺すわけにも行くまい。

 

ミナはそのことに少しだけストレスを感じる。

 

思えば、半グレ、ひいてはグリッチ・エッグで盗賊や魔物だけを相手にするのは敵が確実に殺害されて然るべき罪を持っていたからだ。

 

パワハラを受けてクビになり行方不明になった、などという……かつての自分そのものと言える者たちをそのまま殲滅することなど、ミナには躊躇われることだ。

 

必要とあれば殺ることは当然殺るミナだが、そこは善人とも言える部分であった。

 

―――ふと見れば、毛玉を持って鬼の形相をしている男が一人。

 

やはり自分の血を毛玉に吸わせながら、グレムリンを作り出し続けている。

 

「うわぁぁぁぁぁ!邪魔するな邪魔するな邪魔するなあぁァァァ!俺をここからダセェぇぇ!!」

 

叫びまわる男へ、空悟が神速の歩法で接近して―――ゴズン、と今津鏡の柄が男の腹にめり込む。

 

「ごぁ……」「寝ててくれ」

 

当身で崩れ落ち、苦しむ間もなく気絶した男に空悟はそう笑みを浮かべて言った。

 

崩れ落ちた男から毛玉人形を回収し、ミナに渡すと彼女は「ネタが割れた以上、これ以上はいらねえなあ」とその頭を握りつぶした。

 

ピギィ、と甲高く気味の悪い声を一声上げて毛玉は絶命し、その流した液体はグレムリンを生む前にカレーナの剣によって斬られて消滅していく。

 

「よっし。囚われた人間がいるということは、終点は近いかも知れない。行きましょう」

 

そうしてポッカリと空いた闇の中へとミナは一歩足を入れた―――瞬間。

 

「マジかよ」と愕然とした声を上げたのであった。

 

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