異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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ミナたちは毛玉の怪物相手に善戦していた。
ドスリ、と毛玉を勇者の槍で刺すと、刺したその部分が溶けるように抜け落ちる。
すぐに再生するが、それはミナの刺突、斬撃、殴打の数と比べれば些細な回復能力と言えた。
「よし!こっちのデカブツはオレ一人でなんとかなる!空悟はそっちのフェ○シアもどきの方へ行ってくれ!」
「了解!」
サブマシンガンと投擲で援護してくれていた空悟が、自分の指示で援護対象を廻と夕に変えたことを確認して、ミナは従者へと「さっきの魔法じゃなくてまともにやりなさいよ!」と叫んだ。
「わかってますって!アレは自分以外に被害が大きすぎるようなので、ちょっとやり方を考えますよ」
ルルがそうして飛び回るクロキ分体を捕えるため、魔法を唱えだした。
「―――世界を支配する偉大なるロジックよ。編まれた光は鎖となり楔とならん。我が敵を捕えよ!エネルギーチェーン!!」
魔法が発動すると、魔力は文字通り光の鎖と呼ぶべき帯となって今や猫の獣人と言って差し支えない姿となったクロキへと殺到する。
「ギャンッ!?」
その鎖に腕を絡め取られたクロキ分体は蹴り飛ばされた猫のような悲鳴を上げて空中から地面へと落下する。
エナジーチェーンは魔力を鎖として放ち対手を拘束、熟練の術士が使うともなれば電撃にも似たショックを与えて麻痺させる古代語魔法である。
「ウウウウウ……!」
地面に落ちて獣の唸り声を上げる少女に夕は容赦なくその鳩尾へと拳を叩き込む。
「ガッ!?」
『分身なら手加減する必要もない。このまま消えろ』
夕はそう言いながら鳩尾へと拳をめり込ませたまま洞窟の壁面へと叩きつける。
バガンッ!という岩が砕ける快音とボギュリという肋骨が微塵に砕ける音が同時に発せられ、クロキの分体は血反吐を吐いて夕に身体を預けようとして―――
夕は一歩引いたために女は地面に頭から突っ伏した。
午来ほどには毛玉が厚くないためか、このように物理攻撃がよく効いている。
『やれ』
「おう!」『殺人光線、照射開始』
脚の噴射装置を用いて夕が高速でその場を離れ―――そこに空悟の放ったロケット弾が着弾。
ついで光の速さで殺人光線が照射され、女はそのまま焼却されていった。
『……よし。そちらはどうか!』
廻がミナに聞くと、そちらも決着が着くところであった。
「問題なし!毛玉に意味がない以上、真名を開放する必要もないわね!死ねぇ!」
客人碎を横薙ぎに一閃すると、午来の分体は―――
『ごぁ……?』
わけがわからないという風情で、胴体が胸と腹の境界でズレていき……
ズズン、と巨音を発して地面に半身が文字通り崩れて落ちた。
「良し!岬!」
ミナが合図をすると、すぐさま岬が「OKなのです!」と叫んだ。
クロキたちに取り憑いている毛玉は危険を感じたのか、再び分体を生み出そうとうごめいていたが時すでに遅し……
「その心、支配するものから解き放ち給え!!悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ。天の道を思い出させるのです―――!さぁお眠りなさい!アナン・レインボー・フラワー!チャージアップなのです!!」
3人の魔法少女によってブーストされた岬の魔法が飛んできたのであった。
―――その3人の魔力をもらいながら。
岬は彼女らが本当に辛かったのだ、という感情の流れを感じていた。
恋と違って魔力に感情を乗せることを躊躇していない、と岬は思う。
うっすらとしか見えないが、男性に殴られているメグミと―――言葉にできない行為をさせられそうになっているショウコと―――ショウコと同じようなことをさせられそうになっているマコが見えた。
それ以上は何も見えない。
ただ、彼女らの魔力に憎しみが乗っていることを岬は悲しく思った。
(……ええ、たしかにこれは殺したりしてしまうのは完全にNGなのですよ、恋ちゃん……)
岬は少し前の恋との会話を思う。
あの時、殺したくないよな?と恋に聞かれた。
殺したくないと岬は答えた。
……やむを得ない場合はミナの指示に従おう。
そう思っていた岬だったが、彼女はもうその想いは消そうと思っていた。
彼女らは人生を何らかの理由で狂わされた、或いは狂っていたのだ。
こう言う時、英雄は殺すだろう。
ヒーローは?ヒロインは?
そう、子供の頃に憧れた創作の世界のヒロインがそのような結果を求めるはずもない。
ならそうするべきだと岬は想った。
「よし!岬!」
ミナの声が聴こえる。
岬は「OKなのです!」といつもどおりの声音で返事をして、杖を磔にされている二人へと向けた。
「その心、支配するものから解き放ち給え!!悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ。天の道を思い出させるのです―――!さぁお眠りなさい!アナン・レインボー・フラワー!チャージアップなのです!!」
光の向日葵が咲く。
そこに先程感じた憎しみの色は一つもない。
辛いことは皆持っている。
解消できないまま抱え込んでいる人がどれだけいるだろう。
それはきっと誰にもわからないが、彼女たちはやはり幸運なのだ。
それを彼女たちが望んでいなくても。
岬はそんな気持ちを向日葵に込めて放つ。
やがて向日葵は七色の光を発しながら消滅して―――クロキと午来が地面に崩れ落ちる。
「おおっと」
そのままだと危険な角度で地面とキスしかねなかったクロキをミナは抱きかかえる。
見れば毛玉に食われてしまったのか、その体は一糸まとわぬ裸体であった。
ミナは男どもに後ろを向くように促すと、無限のバッグからバスタオルを取り出して青い顔で気を失っているクロキをくるむ。
そして、お姫様抱っこの形で抱き上げると、そのままツカツカと歩いてメグミたちのところへと歩いてきた。
「ほれ、お仲間助けたわよ。連れて帰りなさいね」
ミナはそう3人の魔法少女に笑みを向け、少しだけ暗い顔をした岬にも笑いかけた。
「……一応ありがとうって言っとくよ。だけど、あんたらがどうしてそんなに強いか、その秘密はもらったよ」
メグミは毛玉の欠片を握りつぶして、自らの気づきを率直に伝えた。
「知ったからと言って、ダンジョンもモンスターもこの地にはそう多くはない……そして、それを見逃す私じゃないわ」
しかし、ミナは先の不安などどこ吹く風といった体で笑う。
オブリビエイトで記憶をなくしてやってもいいが、それをしようとはミナは思わなかった。
……岬に流れた魔力と精霊力が、決して邪悪なものではなかったから、である。
一つ、ミナの心に生まれたものもあった。
それは―――
「ねぇ、一つ聞かせてもらえるですか」
ミナが口を開く前に声を上げたのは、岬であった。
ミナからクロキを受け取りながら、マコが「なんだ……?」と怪訝な顔で聞いてくる。
岬はその瞳に映る剣呑な感情に臆することはなく、一息に言った。
「あなた方の国家にはどんな理念があるのですか?国とは理念がなければすぐに瓦解するもの。単一の統一された意志を持つ種族でもなければ必ず崩れ去るものなのです。すぐに答えなくても良いのです。あなた方の首領の意見を知りたいのです」
凛とした、というのが相応しいだろう毅然とした態度で岬が質問する。
その気配に三人は気圧された。
しばしの沈黙が流れる。
ミナはフッと微笑んでいるだけで何も言わず、それ以外の仲間たちは午来を警戒してまだフロアの奥にいる。
「う……そんなこと、言えるわけないじゃない!バカ!」
沈黙を破ったのはショウコだった。
「わたしたちみんな知ってるけど、それは秘密なんだよ!絶対に言わない!」
ショウコの声には嘘はないとミナは思う。
今は虚偽感知の術を使っているわけではないが、その声音には本気が見て取れた。
「知りたいのなら、我等が首領の居場所を突き止めて直接聞くんだな」
「いいの、マコちゃん?」
「あの方が私に伝えてきた」
メグミの言葉にマコは短くそう返して、仏頂面のまま「クロキの救助については感謝する。だが、オリジナルはいずれ我等が手中に」と言葉をぶつけて踵を返す。
ショウコは「ありがとっ!次は容赦しないからっ!」と不機嫌に、メグミはただ一言「うざ」と呟いてマコについていった。
そうして彼女たちの背中が見えなくなるまで見つめて。
「……なるほどなのです」
岬は短く呟いて、「やはりあの子たちを殺したり再起不能にしたりするのは間違いなのです」とミナへと話しかけた。
「あなたがそうしたいならいいんじゃない?それに……」
ミナはそこまでつぶやいて、天を仰いだ。
「そのうち隠しきれなくなったときは、最悪私達が独立国家を作らにゃならんくなるかもしれんし……」
「……ですよねー……」
一人で戦術核兵器に匹敵する火球を作れるような勇者と魔王もどきがいるというだけで、バレたら普通の生活など送れるはずもないだろう。
おそらくは「生きた核兵器」として国際連合の五大国は彼女らを処すように日本政府に働きかけるのは疑いがない。
そんなことはミナもルルも、仲間たちの誰一人として容認などできるはずもないことである。
しかしSMNはともかく改の会を相手にするのであれば、世間にバレることは仕方ないことと言えた。
彼らの目的は魔法少女たちのように漠然としたものではない。
この日本国家の明確な転覆なのだからである。
それが自分たちとともに世間に露呈した時。
この島国の政治家たちがミナたちの味方をする確率はかなりの低確率だ。
無論味方はいなくはない。
しかし、茜と副市長という明確な味方は、所詮は地方都市の役人と地方政治家でしかない。
そして……と、そこまで考えた時、フロアの中からドドドドドドドと爆音が聞こえてきた。
午来が再起動したのかと思い、ミナと岬はフロアへと戻っていく。
そんな中でこの空間、ダンジョンへと突入する際に自衛隊基地地下で救助を求めている誰かのことが気になってきたのはミナと岬、どちらかと言えば岬だったろう。
あの様子ではクロキではあるまいし、一体誰があのようなことをしたのかが不思議だった。
「先に行けばわかるわよ」
それを気にしていることを察したミナにそう言われると、岬は無言でにぱーっと笑う。
まるで本物の少女のように。
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