異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第195話「 「いや、それはねえ」

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『ぐおおおおお……こ、この午雷王が……!あのような毛玉に!し、し、支配されて醜態を晒していただとぉッ!ぐわぁぁぁぁあッ!』

 

フロアに入れば、荒れ狂う午来が怪人形態で周囲を破壊しまくっていた。

 

『手に負えんな。始末してしまうか』

 

夕が腕部機関砲を向けて、額にエネルギーを集中し始める。

 

それを止めたのはルルであった。

 

「お待ち下さい。彼からは情報をいただけねばならない。それに殺したとしても、一体目の分身体のように溶けて消えるだけで彼の本体には何の影響もないでしょう」

 

むしろああも荒れ狂っているのは、毛玉に取り憑かれて誤作動を起こし、本体と切り替わりができなくなっていたからではないか、とルルは推測していた。

 

そしてそれは……

 

その時。

 

ボゴリと天井の一部が盛り上がって穴が開き、土が地面へとバラバラと落ちる。

 

そして、やがてそこから掘削機械めいたメカが顔を出した。

 

『……接近に気づかなかったか。バグの影響が強い』

 

廻が冷静にそう言って、メカに殺人光線を照射するが。

 

それは表面が鏡のようになっていて、ある程度殺人光線を反射するような作りになっているのか、牽制レベルの殺人光線はそのままあらぬ方向へと反射されて壁を焼く。

 

『む……』

 

廻がその装甲を分析し、上記のようであることを確定させると彼は脚からロケット弾を無言で発射した。

 

それを自らが開けた穴にひょいと器用に潜り直して攻撃を回避する。

 

バガウン、と岩が砕ける音を残して噴進弾は天井に激突して爆発した。

 

その煙が晴れると、中から再び顔を出したメカが人間の声を発した。

 

『漸く見つけた……本体の再起動すら不可能になっているとは、何があったか説明してもらえませんかねえ』

 

声は牛込のものだ。

 

その癇に障る声に、午来は『ムッ!?』と暴れるのを止めて天井を見た。

 

『正気に戻ったなら帰ってきてくれませんかねえ……自壊処理くらい自分でできるでしょう』

 

その間の差分情報はこの機体で受信できますから、と低い声で笑う。

 

「……逃げられるとでも?」

 

ルルが右手の杖をメカに、左手の―――二口水晶を装備した左の腕を午来に向け、口は鋭い声音を放つ。

 

『……チッ』

 

牛込の舌打ちが聞こえる。

 

おっとり刀で戻ってきたミナの姿が後ろから迫ってくるのがわかる。

 

「偉大なるロジックよ!」『やれ午来!』

 

ルルの魔法が発動する瞬間、牛来の全身から大量の蒸気が発生しだした。

 

『仕方あるまい……自爆機能を発動。この情報は必ず持ち帰れよ。奴らの力の秘密の一端だ』

 

暴れに暴れて冷静になったせいか、午来はそう言って溶け始め……

 

「吹き荒れよ、氷雪の嵐となり、眼前を吹き洗え!ブリザード!」

 

ルルの魔法が午雷王の身体を凍結させ始める。

 

『くくく、無駄だ無駄。この体が凍結しようが自爆を阻止しようが、既に重要な情報の転送は終わっているわ!この会話も揮発情報網による会話にすぎず―――』

 

そこで午来は沈黙し、代わりに牛込の声が『情報中枢の自壊は終わってるんだよなあ!あははははは!残念!』と伝えてくる。

 

声は既に遠ざかりつつある。

 

『どうやら逃したか』

 

夕が嘆息すると、追いついてきたミナが「まぁ仕方ない。バグダンジョンの壁の中なんぞ、魔法もなしでよく潜ってきたと言わざるを得ないわ」と肩をすくめた。

 

「ミナさん……」

 

「大したことじゃないわ。冒険者現象のことを奴らが知ったとしても……」

 

ダンジョンには潜れないのだから。

 

知られてしまったことは問題だが……

 

「でも魔物ならあの魔法少女が作った謎空間にも居るんじゃねえか?」

 

空悟がミナにそう聞いてきた。

 

「いや、それはねえ。バグダンジョン由来じゃないから、大した効果はないはずだ。冒険者現象ってのは祝福なんだ」

 

ミナはそう言って、杖をバッグにしまう。

 

「バグによって歪められた存在。バグそのものである存在。基本的には魔物、モンスターってのはそう言うもんだ。倒すと世界のリソースが解放され、そのリソース分祝福が与えられる……」

 

「でもですね。人間が作る魔法生物のたぐいはバグとは関係がないことが多い。少なくとも魔法少女たちはバグは利用していないでしょう」

 

ルルが主の言葉を続け、同じく杖をバッグにしまってため息をついた。

 

「むしろ問題なのは、そこで凍結してる巨人の方です」

 

やはりルルの吹雪の魔法で自爆が留められたのか、完全に静止しているそれを見て彼は唇を歪めた。

 

『なるほど。おそらくは殆ど持っていないだろうが、バグ……不規則性流体を保持している可能性がある改の会のほうが危険性は高いな』

 

廻が戦闘態勢を解いてルルの肩を叩く。

 

『未来のことを気にしても仕方あるまい。奴らよりも我々のほうがその点では有利なのだ』

 

「そうですねえ……」

 

廻の言葉にルルはミナを見て、「もうしわけありません。逃してしまったことだけは間違いないので」と頭を下げた。

 

「気にしない気にしない。冒険に失敗はつきものよ」

 

それよりも毛玉の主がSMNや改の会の構成員であれども拉致できるほどの能力を持ち、更にはあのような状態にすることができる推定魔精霊ということのほうが問題である。

 

なんとなれば、魔精霊であれば……アウステルのように力を発揮できていなかったパターンでもなければ苦戦は必死なのだ。

 

成長した魔王とそう変わらないそれと戦うことは、今のミナやルルにとっては……アイテムや装備の補充ができていない今は厳しいものと言えるだろう。

 

それでも最初に成長した魔王と戦ったときは、再戦も含めてうまくは行ったのだ。

 

―――あのときのようなことにはすまい。

 

ミナはそういって、仲間たちに「毛玉もなくなってるし、臭いもひどくなくなってきたから、飲み物でもどう?」と無限のバッグの中からペットボトルを6本取り出して微笑んだ。

 

 

 

それからどうしたかと言えば。

 

「まずはこれをもっと凍結してから、バッグにしまって持ってきましょうかね……」

 

敵はミナたちが無限のバッグを持っていることは知らない可能性が高い、とその場の全員は思っていた。

 

何しろ持っていることを知っていれば、この自爆仕掛けのボディを残しては行かないだろうから、だ。

 

もしくは完全に奪われてもいいと考えているのかも知れないが。

 

情報が残っていなくとも、それは彼らやこちらの常識なだけで、薺川博士であれば解析できる可能性は十分にあるのだ。

 

『賛成だ。博士ならどうとでも出来るだろう』

 

夕はそっけなくそう返して、ペットボトルの水を飲み干した。

 

そんなことよりも、毛玉の腐臭が全くなくなっていることが問題だ、と夕はつぶやくように言った。

 

「……そう言えばそうなのです。あれだけクロキやあのなんとかいう改造人間の人にひっついてた毛玉が消えてなくなってるのです」

 

岬は今更に気づいた、と飲みかけの麦茶の蓋を締めて周囲を見回した。

 

「……嫌な予感はするな。例のスキュタレー暗号を送ってきたやつが誰なのか、ってことも含めて」

 

空悟はそうしてブラックコーヒーの500mlペットボトルを飲み干して握りつぶした。

 

握りつぶされたペットボトルは万力で挟んだかのようにぺちゃんこになっている。

 

それを臭いを残さないようにルルの差し出したゴミ袋へ入れて空悟は「ふう」と一息ついて座りやすそうな岩に腰を下ろした。

 

「胃を痛めますよ、そういう飲み方」

 

「気にすんな」

 

一言そう言って、自分のリュックサックから竜の兜を取り出した。

 

「こっからが本番な気がするんだが、間違ってねえだろ、三郎」

 

兜の緒を締めながら空悟が聞くと、「せやでー」と右手の手のひらを天に向けて笑う妖精である。

 

そうして自分の飲み物を飲み干して、ぷはぁ、と息をついた。

 

見た目は美少女で、その無防備な仕草を見て空悟は嘆息する。

 

「なぁ、ルルくん。マジでこいつモテなかったの?」

 

「危険な獣と同じ檻に入れられて怯えない人はいないと思いますよ?僕は昔そんなことを言われました」

 

ルルがそう言って、「つか、オレが言い寄られたりしてたの、ほぼ冒険始めた頃……200年くらい前に集中してんだよね」と当の本人が笑った。

 

「勇者として有名になりすぎた、のでしたですか?」

 

「それだろうねぇ、多分。あえて隠すってのはラゴンエスに常駐するようになってからはやめちゃったし」

 

ミナがそうして立ち上がると、「めんどくさくなるとナンパしてきた相手の手首を折って回復魔法で治す芸を披露するのが常でしたしね」とルルが笑った。

 

「まじでそんなことしてたのか……」

 

「いやだってしつっこいのはいたし……おとなしーく座って酒飲んでるとさ、この顔に気圧されて話しかけてこないんだけどな。回ってきたらもう駄目よ」

 

空悟の半笑いを受けつつも、ミナはパンパンとスカートを叩いて土埃を払って「そろそろなんか来そうだから行くわよ」と全員に声を掛けた。

 

先程のクロキと午来は「なんか来た」分には入らないらしい、と親友は苦笑してその背中を追っていくのだった。

 

 

 

 

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