異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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あけましておめでとうございます。
2022年もどうかよろしくお願いいたします。


第199話「畏れを讃えよ」

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『くっ……!いくらルルが修理してくれるとはいえッ!』

 

廻の鉄拳、鉄脚を食らってなおベヒモスは余裕の表情を浮かべている。

 

明らかに戦略兵器の魔王よりも、強く、タフだ。

 

先程のダメージも殆どが―――見た目の上では―――回復している。

 

爪で道野枝兄妹の攻撃を防ぎ切れなくなっているので、明らかに弱体化はしているが、それでもまだ届かない。

 

「チェストォォォォォッ!!」

 

わずかな隙を突いて、空悟が抜刀術を繰り出し、ベヒモスの腕が二つに裂ける。

 

流石にベヒモスも元は地龍バハムート。

 

竜の兜を装備した空悟の攻撃は覿面に効くと見え、スパリと綺麗に断たれたそれはなかなか回復しない。

 

とはいってもほとんど一瞬でしかないが、それを見逃すロボットたちではなかった。

 

『最大出力』『吶喊する』

 

その瞬間に全力、全推力を突進に回してその勢いで質量のすべてを獣へと叩きこむ。

 

鉄拳が、獣の腹にめり込んだ。

 

『がぁっ!!』

 

血反吐のように見える液体を口から吐いて、しかし反撃のために尾を振る。

 

ガキィ、と金属音がして夕が吹き飛ばされた。

 

『く……損傷率、四五%……!』

 

わずか一撃。

 

一撃のクリーンヒットでそこまで破損してしまうとは。

 

夕は自らの体の損傷個所、誤動作個所を確認しながら内心でそう思う。

 

流石にグレムリンの毛玉を生み出している存在なだけはあり、損傷した部分から機械を狂わそうと得体のしれない力が侵食してくるのがわかった。

 

「引いてくださいなのです!アナン・レインボー・フラワーッ!!」

 

岬が虹の向日葵を解き放つ。

 

『ぐがうっ!!』

 

ベヒモスはその向日葵を真っ向から受けて、そして。

 

『がぁぁぁっぁぁぁ!!』

 

内側から破裂させ、消滅させてしまった。

 

「うわー!?全然効かなくなってきたですよ!?」

 

岬が悲鳴を上げて、飛んできた土の杭を避けてルルの隣に降り立つ。

 

そこに夕が吹っ飛んだことで自由になった獣の片腕から土の杭と岩の塊が生成されて飛んできた。

 

「ちぃ!間に合わないか!」

 

ルルは舌打ちしてそう言うと、自らを盾にその攻撃を受ける。

 

「がっ……痛いじゃありませんか」

 

杭を2本、岩を顔面に受けてほとんど交通事故で損傷した死体と言って良い状態―――首は折れ、腹には杭が突き刺さり、左足は太ももから完全にとれている。

 

「げっ……だ、大丈夫なのです……?」

 

岬はそろそろとほとんどグロ画像な彼に触れてヒーリングを唱える。

 

「雫なるもの、生まれいづる命ウィータよ……生命の樹より垂れし珠をあたしの助けたい人の体と心に宿し、その傷を癒やしてくださいです!」

 

光がルルに吸い込まれると、その折れ曲がった首以外はなんともとに戻っていった。

 

「問題はありません。基本的には」

 

そのまだ曲がったままの首をゴリと音を立てながら元の場所に戻して、「そんなことより夕さんを修繕しなければ」と言ってルルは地面に倒れこんだ夕へと駆け寄ってリペアーの術―――ではなく、魔術によって損傷した物体を直すリコンディションを唱えた。

 

「世界を支配するロジックよ。理を覆すものが破壊せし理を世界へと戻せ。理はさかしまに理へと至らん、リコンディション―――無事ですか?」

 

『機能点検終了……無事だ。だが、私の論理構造へ侵入を図ったぞ、奴は』

 

機械音をさせながら立ち上がった夕は、キッと獣を睨む。

 

廻と空悟がベヒモスと殴り合っている様子を見て、また夕は走り出した。

 

その様子にルルは「では僕も行きましょう」と再び強化魔法を二口水晶で、そして自らの口では戦っている仲間たちに当てないよう細心の注意を払ってブライトネス・ファングの詠唱を始める。

 

(後1分というところですか)

 

ルルはそう考えながら、その1分で負ける可能性はあるだろうか?と思考する。

 

しかし、それが不安という感情だと悟り、今は無駄な考えだと切り捨てて呪文に集中した。

 

やはりマジックアイテムも武装も何もかもが足りないのだ。

 

邪神に挑んだ時の装備がここにあれば、今の戦力であればまず苦労なく倒せるであろう相手に苦戦している。

 

もはや待つことはできないのかもしれないと嘆息して、そうして呪文は完成した。

 

―――ミナが戻るまであと60秒。

 

彼女の従者は、その時間を長く感じている。

 

『世界を支配する偉大なるロジックよ。拡大せよ、拡張せよ、目に映るもの全てへ。繋ぎ止める素なる力よ拡散し霧散せよ。岩を砂に、砂を塵に、塵は消え去り、素へと還れ。ディスティングレイト!』

 

廻に迫る杭が、二口水晶によって紡がれし消滅の古代語魔法によって分解する。

 

純粋な地水火の精霊力へと霧散したそれが廻の装甲を傷つけることはない。

 

『隙あり!』「うおおおおおおおおおっ!!」

 

裂帛の気迫が籠もった男たちの叫び声。

 

刑事の手に握られし薄緑の刃は正確に胴を薙ぎ―――

 

『がっ!?』『隙ありと言った!』

 

すかさずその傷口が再生する前に廻の鉄脚がめり込む。

 

『うがぁっ……!』

 

しかし地に棲む獣と化したベヒモスには、それはすぐさまに回復する傷に過ぎず、その血は即ち地である。

 

それはすぐさま土の塊となって、廻の装甲にへばりつく。

 

へばりついた土塊は黒く染まり、廻の鉄脚の重量を重くして動けなくさせようとしてきた。

 

更には先程の夕が食らったように―――

 

『ぬぐっ!侵食するつもりか!させん!』

 

システムへの侵入を図ったそれを振り払うために機械人形たる男はその装甲を白熱させ、カッと高熱を発した装甲は、へばりついた泥土を焼き尽くしていく。

 

『勝率は二〇.七四というところだな……!』

 

『ひるむな!やれるだけやる!』

 

夕は再び噴進魚雷を放つ―――『散』。

 

夕がつぶやくと、噴進魚雷は一瞬で弾けて指向性を持つ散弾となった。

 

「あぶねっ!」

 

空悟が飛び退って避ける。

 

廻にはなんの痛痒も与えないそれは、しかしベヒモスの動きを―――

 

『にゃっ!?』

 

一瞬、止めた。

 

『効くだろう!石油や石炭由来の物質を軒並み分解する酵素だ!プラスチックなど瞬時に分解する!さぁ、暴発すると良い!』

 

夕が勝ち誇るかのようにそう叫び、その酵素のもたらした時間は大きな隙となり、それをルルは見逃さない。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。星の光を星海の彼方より降らせ牢獄と成せ。光とは波なり、波とは粒なり、粒は肉となるなり。光と肉は同じもの故に!」

 

ブライトネス・ファングのための魔力は、そのままに光の牢獄のためのエネルギーへと変換されて放たれた。

 

「ブライトネス・プリズン!ミナさん!!」

 

ルルが叫ぶ。

 

叫んで、瞬間見れば―――ミナの剣が蒼く青く碧く夜の藍青へと染まっていく。

 

「我が名はミナ・トワイライト。天護の森にて虹の墓所を守るもの、黄昏の氏族の末裔なり」

 

滅びし王国の言葉が歌と紡がれる。

 

風の羽音、水のせせらぎ、炎の揺らめき、土のどよめき。

 

切なく、狂おしく、永遠を駆ける旋律だ。

 

『「銀盤よ、輝け。畏れを讃えよ。讃え、称え、湛うこと千年。その命繰り返すこと十度―――永遠とは炎である。永遠とは風である。永遠は大地であり、永遠は海と水の流れである」』

 

祖母と孫の声が完全に一つになって響く。

 

カレーナの剣は地に突き立てられ、蒼光がミナとカレーナを包んでいく。

 

「『しかして永遠もいずれ朽ち、塵に帰す。されど、恐れるなかれ。なれど畏れよ。我ら時の中に生くる御祖の力にて生かさるると知れ』」

 

遠く、遠く、遠く。

 

幾星霜を地に顕現せしめんと。

 

『「黄昏の剣よ―――王の剣。我らが始祖の力よ―――!」』

 

それは一つの言葉。

 

二人で一つ。

 

否―――3つで一つの言葉となる。

 

「『黄昏の剣よ―――遍くに終わりを齎す蒼き輝きよ―――!』」

 

邪神を滅ぼした時と同じほどの力。

 

成長した魔王ですら微塵に砕く黄昏の剣の最大の力が放たれようとしている。

 

「ベヒモス―――今、正しきに反り地龍バハムートへと回帰せよ!抜剣ッッッッ!!」

 

『があぁぁぁぁぁっ!!』

 

地獣は吠える。

 

吠えて、吠えて、吠えて。

 

暴れ、もがき、抵抗して。

 

しかして一切ベヒモスは動けない―――光の牢獄は彼女を完全に空間へとつなぎとめていた。

 

ならばと。

 

『おおおおおおおおお!!!』

 

牢獄ごと空間を引きずるように重力で歪めていく。

 

重力は周辺のすべてを押しつぶさんと総てにのしかかろうとして―――

 

「さ、せないの、ですッ!アナン・レインボー・フラワーッ!!チャージアップなのです!!!」

 

最後の魔力を振り絞って破邪の向日葵を岬が放つ。

 

魔法少女の力を受けて、獣は―――

 

『ぎぃっ!ぎぃぃ!!』

 

その重力もまた邪が生み出すものなのか、周囲の重力が薄れていく。

 

瞬間、ミナが大きく黄昏の剣を振りかぶり、振り下ろした。

 

王の剣より放たれた蒼光が破邪滅神の星光と化し、その獣の身を穿つ。

 

『がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

光の中に獣が消えゆく―――土塊となり、崩れ落ちていく―――

 

『なーご……』

 

猫の声が響く中、音もなく少女の姿にまで戻った彼女は崩れ去る。

 

崩れ去って、砂が残る。

 

砂は―――やがて形をなして。

 

そのあとに残ったのは獣の姿をした少女ではなく。

 

龍の尾と翼を持つ少女が一人。

 

面影は確かに先程までの土色の少女とよく似ているが、顔に浮かんでいるのは不機嫌極まるとばかりの渋面である。

 

『……ようやくちゃんと話せるなぁぁ……長いこと声を意志に出来ねえってのはなぁ……辛いよなぁぁ……』

 

気怠げでめんどくさがりそうな低い声の少女がそこにはいたのであった。

 

そう、結論から言えば。

 

ミナも仲間たちもその10分にも1時間にも思えた1分で、魔精霊を打倒した。

 

ルルの不安は杞憂に終わったのである。

 

 

 

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