異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
今年もよろしくおねがいします。
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「あーよかったぁ!いつものバハムート様だぁ!見た目完全に違う物体だけど!」
ミナは安堵し、はぁ、と息を吐いて黄昏の剣とカレーナの剣を鞘に戻して汗を拭いた。
そんなミナをひとにらみして、先程まで猫の姿をしていた龍娘は『ふざけてるよなぁ……帰ってこねえならまだしもなぁ。死んで戻ってこねえってなぁどういう了見だよなぁぁぁ……?』とミナの瞳を藪睨みに睨めつけてくる。
「未来のことなんか言われてもわからんのですけども」
『口答えするとかナニ考えてんだお前ぇぇぇぇ……』
青筋すら立てて、先程までの懐深く優しそうな印象は最早無に帰った状態でミナを首をブンブン振りながら睨めつけてくるバハムートに、ミナは「つか、マジでその格好は一体……」と若干困惑した様子で声をかけた。
『……気がついたらこの格好だっつうのよぉぉぉぉぉ……!』
ビシビシと地面にヒビが入り、何より体の重量が若干増していることを感じたミナは「わかりました!わかりましたからこの話、やめ!」と叫んだ。
『よろしぃぃぃ……とにかく貴様らのせいで我はこのざまだぁぁぁ……!』
ミナの頭蓋をその龍の手で掴んで、『我に勝ったんだからなぁぁ……奥にいる糞をどうにかしろよなぁぁぁ』と凄んでくるバハムートにミナは「いや、そのつもりですけど……手伝ってくれるんですよね?」と苦笑いを浮かべながら聞いてみた。
『そうだぁ……ごちゃごちゃいう前に手ぇ動かせぇぇ足もだぁぁ!早く行って来いヤァ……我の力は貸してやるからよぉぉぉ』
地の底から響いてくるような声音でそうミナの頭にギリギリと力を加えてくる龍娘に、ミナは「わかりました!わかりましたから!」と痛がりながら苦笑いをする。
「じゃあ契約しましょうか。えーと……」『星と重力の精霊、バハムート……後はたのむわぁぁ……』
ミナが名を聞く前に、バハムートはそう言ってサラサラと砂になって消えていく。
『奥にいるのは邪神の手のものだぁぁ……油断するなよぉぉぉぉ……』
最後は少しだけ温かみを感じさせる言葉を残して、少女は完全に消え去ったのであった。
『やれやれ。また厄介な女が来たものだ』
『え?汝、己を厄介だと思ってないクチ?』
夕が嘆息した瞬間に、カレーナがそうしてケラケラと笑い始める。
『ようし溶鉱炉に叩き込んでくれる』
『孫!孫助けて!』
腕まくりをするしぐさをして、夕はカレーナをつかもうとミナに近づいてきた。
ミナは二人の様子に「はいはい、ケンカしないで」と言ってカレーナの剣を腰に佩いた。
「そんなことより」
「ああ、奥からなんだかひどく嫌な気配がしやがるぜ。間違いなくやべーやつだな、これは」
空悟はミナの言葉を継いで顎の汗をぬぐう。
「……邪神の欠片、だこれは……」
ミナもまた冷や汗をかいていることがよくわかる顔色となっていた。
『不規則性流体の濃度、急上昇……大地が浮上する。耐衝撃準備!』
廻が叫ぶと、同時に決戦の舞台になっていた大地はせり上がって元の場所へと戻ろうと動き出す。
それを……謎の闇が追ってきていた。
しかし、その闇が追いつくことはなく。
ゴゴン、と轟音を立てて地面が元の形にくっつくと、その気配もまた霧が散るかのように消えていった。
「ふう……凄まじい気配だけど、バハムート様を呼び出せるようになったから、戦いようはあるわね」
日立の冷汗を拭いて、ミナは安堵の吐息をつく。
ついた瞬間、目の前に飛び込んできたのはどうやらバハムートの魔精霊化が解けたためなのだろう。
あの闇の気配が利用していた毛玉も呪いを忘れたのか、三々五々に覚醒を始めているようだった。
「……うう……?」「ここは……?」
あるものは頭を振り、あるものは胸を抑え、あるものはきょろきょろと周りを見回している。
「ルル」「お任せを。世界を支配する偉大なるロジックよ。大気を眠りの雲とせよ、微睡の空気を作り出せ。スリープクラウド」
ルルの魔法で全員が昏倒し、廻がその顔に非殺傷性の睡眠ガスを一人一人に噴射していくと再び静寂が戻った。
「この人たちを地上に戻すのは後で考えましょう。ちょうどバハムート様の作った脱出防止の壁も……」
ミナが入り口だった壁を見やれば、そこにはヒビが入って崩れ出し、やがて元のように入口と戻っていく。
「壊れたし、窒息することはなさそうだから」
『さて……状況としては、戻るか、ここで休むか、進んだところで休息するかの三択だ。グレムリンがもう出ないとは限らない以上、戻るのは悪手だろうがな』
夕がそう聞いてきたので、ミナは「ここで休むのはなしでしょ……」と死屍累々と倒れ伏す疲れ切った人々を見遣り、ミナは苦笑した。
だとすれば選ぶべきは一つだけである。
「先に進んで休める場所を探しましょう」
「賛成なのです……くたびれたのです……」
魔力をほとんど使いきってしまった岬はそう言って杖を支えに腰砕けになっている。
見れば、空悟もまた先ほどの戦いで廻の補助をずっとしていたせいか明らかに顔色が悪くなっていた。
やはり竜の兜は空悟の体力を奪うらしく、長時間の使用はなかなか難しいものなのだろう。
ミナが纏う上古の森人の戦装束はそんなことはないが、客人碎も黄昏の剣も魔力をバカみたいに食う代物なのだ。
「よし、次のフロアで休むか」
ミナはそう言って岬をお姫様抱っこして歩き出した。
「わわっ恥ずかしいのですよ」「しばらくの辛抱ね。空悟はすまねーけど、ちょっとだけ歩いてくれ」
親友の気遣いを感じる言葉に、空悟は「OKだ」と短く返して歩き出した。
廻が岬を運ぶミナの前に立ち、夕は最後尾を警戒する。
ルルはミナの後ろを、その背中を追うように歩いて行った。
6人が姿を消すと、再びそのフロアには静寂が戻る。
―――しかし、一つだけ違ったことがあった。
寝息を立てる人々の、その吐息はここに来たばかりの時に比べて―――酷く安らかなものだったのである。
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