異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第201話 「ポーカーでもやりましょか」

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空悟はしっかりとした足取りで岬を運んでいくミナを、微かに心配そうな表情で見つめながらその脇を歩んでいく。

 

そう。彼女は黄昏の剣の力を全力で振るい、魔力切れをいつ起こしても仕方のない状況なのだ。

 

おそらくはマジックポーションの類を飲んでいるのだろうが、それでも油断はできない。

 

空悟は彼女となった彼が、どういう人間だったのかを思い出していく。

 

彼は人見知りで、独占欲が強く、基本的にヲタクで、そこそこ頑迷な人物であった。

 

周囲から見れば付き合いづらい人間で。

 

それでもウマがあったから友人であり続けていた。

 

無論悪い人間ではないし、平凡なサラリーマンとして生きていける程度の社会性は持ち合わせていたはずだ。

 

やはり400年も別人として生きて、それから240年ほども二つの人格が混じった状態で生きてきたのだから、違う性格になるのは仕方ないだろう。

 

思考がらしくない方向へとそれていくのは、自分も疲れているからなのだろうか。

 

今にも意識が刈り取られる……というほどではないが、ずっしりとした疲労がのしかかっていた。

 

……そういえば、と全国での魔法少女と怪物の目撃例が急速に減ってきていることを思い出す。

 

更には、噂でしかないが……全国で暴力団や半グレの資金が消えているという話も先輩刑事たちから聞いていた。

 

空悟はこの情報をミナに伝えるか、迷っていた。

 

―――言えば更に親友に負担をかけてしまうだろう。

 

おそらくは前者はSMN、後者は改の会の仕業に違いない。

 

と、するとおそらくは近いうち、少なくとも年内には彼らは行動を起こすだろう。

 

表立って社会に対して。

 

だからこそせめて夏の間だけは、彼女にはダンジョンへと専念してほしいと思って休職を決断した。

 

……この竜の兜を扱える自分は、昔のように水門三郎の隣にいるべきなのだろう。

 

今度は守りきってみせよう、と思う。

 

彼は、三郎に何故強引にでも会いに行かなかったのか、後悔しているのだ。

 

今更後悔しても遅いわけだが。

 

結果として三郎は……ミナとなった。

 

邪神にこうされて、彼であった彼女の人生は平凡なものから程遠くなった。

 

ミナは今は納得しているのだろう、と思う。

 

だが、自分は納得できないと思うのが空悟であった。

 

少し前に文には「じゃあお好きにすればいいと思いますよ」と半ば投げやりに言われたことを思い出す。

 

「一度決めたら曲げないでしょう」と。

 

それはそうだ、と笑ったら、笑い返されたので許されたのだと思う。

 

それを確かめるために、頬に触れると妻は「浮気はだめですからね」と膨れた。

 

その光景がおかしくて、声に出して笑ったら、子供たちも笑い出した。

 

笑う家族に「もう、なんですか」と更にむくれた妻の頬を撫ぜた。

 

―――ミナに休職を伝えたのはその後のことだ。

 

「頑張るか」と小さくつぶやくと、隣の親友の長い耳がピクリと動いた。

 

「ああ、出来るだけな」

 

彼女もわかっているのかニヤリと笑った。

 

「顔に出るよな」「お前もな」

 

そうして歩んでいくと、真っ黒な通路は終わって、ガランとした土壁の部屋にたどり着く。

 

やれやれこれで休めるな、と空悟もミナも一息をつくのだった。

 

 

 

ちょうどよく開いていた広間のような土壁の部屋でキャンプを張った面々は、食事を摂るとすぐに就寝する。

 

それからミナは2時間の間起きてこなかった。

 

普段の彼女なら1時間弱で起きてくるところが、そうであったので日誌を書いているルルはやはり消耗が激しいのだとため息をつく。

 

破邪滅神とは即ちあらゆるものの抹消という、理を完全に無視した力である。

 

故、使うものは魔力を莫大に吸われる。

 

時には死に至るほどに。

 

精霊術は元来の法則を精霊の助力で増幅し、拡大し、発生させるもの。

 

陰陽術は陣や符を用いて、小さな世界を理に紛れ込ませるもの。

 

そして古代語による魔法は魔力によって理を歪めるものだ。

 

神聖魔法、暗黒魔法は善神邪神の力を借りて、理を改ざんする。

 

―――破邪滅神の力とはそれら総ての性質を有し、それら総てではないものである。

 

「ハイエルフには寿命がない。だから容易に使えているだけですね」

 

本来であれば寿命を削る術なのだ、あの力は。

 

客人碎にしろ黄昏の剣にしろ。

 

そう、勇者とは地上にあっては齢短く天に帰り再びの邪悪を砕くために休むものなのだから。

 

「神というものは残酷なものだ」

 

ルルが短くそう言って日誌を閉じる。

 

時間はもう少しで2時間になる。

 

強化魔法を精一杯かけたことから、メンバーが筋肉痛になってはいないかというのがもう一つの心配事であった。

 

「―――岬さんはそこまででもないけど、空悟さんが問題ですか。まあ前回の魔王戦のときより地力は上がっているから平気ですかね」

 

ルルはミナが眠っているテントを見つめて微笑んだ。

 

ミナの方はおそらくはただの魔力切れで終わるはずだ。

 

後は……

 

―――その時、テントからのそりとミナがボサボサの頭を掻きながら這い出てくる。

 

「異常は?……あふ……」

 

ルルに確認を取りながら欠伸をしたミナに、「ええ、何もありません」とにこやかに答えて日誌をバッグの中へとしまった彼は眼鏡を外して布で拭き、また掛け直した。

 

「随分お疲れのご様子で」

 

「疲れるに決まってるでしょ。こっち来てから何回客人碎と黄昏の剣振り回したと思ってんのよ」

 

ミナがどっかとブルーシートの敷かれた地面に腰を下ろしてそう答えると、ルルは「まぁ、たしかにハイペースですねえ」と返してミナに向き直る。

 

「平気ですか?」「平気よ」

 

紅茶をミナに差し出しながら聞くと、聞かれた当人は紅茶を受け取りながらそう答えてその茶を啜る。

 

「うん。美味しいわね」

 

ミナはそうして、「そっちこそ無理はしてないわよね?ここんとこ、何度も限定解除してるし」と、人差指を彼に向けてへの字口をした。

 

「それこそ平気ですよ。記憶に齟齬もありません―――問題は、このレベルの戦闘を繰り返すならどう考えてもマジックアイテムが足りないってことですね。いかに錬金工房を作ったとは言え、材料が足りない」

 

ルルは冷えたコーヒー缶の中身を啜りながらそう言って、コトリと缶をちゃぶ台の上に置いた。

 

「今後の方針、といえば簡単な話ですが、ノトスの言が正しければ後2体の上位精霊が魔精霊になっていると見ていいでしょう。どうします?」

 

ミナはその言葉に腕を組んで唸る。

 

―――事件を起こしてもらわないとどうしようもないからだ。

 

「……まずはやっぱり戦力補充。折を見て博士の言ってた海の調査、攻略ね」

 

ミナは1分ほど唸った後、そう答えてルルの目を見た。

 

「空悟はオレに遠慮して言ってねえけど、ほぼ間違いなく秋には改の会もSMNも動き出すだろ……事実として、冒険者現象のことは知られたからな。モノになるにしろならんにしろ、冒険者現象がどういうもんか理解したら……」

 

「動き出すでしょうね。特に改の会は」

 

ルルが言葉を次いで、自分用の紅茶をカップに注ぐ。

 

「……空悟の休職期間中に一切合切なんとかするしかあるめえよ」

 

ミナは蓮っ葉な男口調でそう言って、目を瞑った。

 

もしその期間にダンジョン攻略が出来なければ、現代社会に試練が訪れるだろうとミナはため息をついた。

 

そして。

 

「もしそうなら多分、私達は後手に回ったとしか言いようがないわ。目立たないようにしてる場合じゃなかったわね……失敗したかもしれない」

 

それでもやらねばならないとミナは瞠目してルルの瞳を見る。

 

その瞳は怪しい輝きをして、しかし美しい宝石のようであった。

 

失敗にめげていてはどうしようもない。

 

そもそも一個や二個の失敗でめげるような歳ではないのだ。

 

「さて、皆が起きてくるまではいつもどおり見張りをしていましょうか」「そうですね」

 

主従はそう笑い合って、ミナはバッグからトランプを取り出す。

 

「ポーカーでもやりましょか」

 

「僕にカードゲームで勝てたこと、ありませんよね?」

 

「知ってるわよ」

 

ミナはいつものこととばかりに鼻からフンと息をして、カードをシャッフルし始める。

 

異常が起きたのは、それから4時間ほど後のことであった。

 




書き溜めきれそう……

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