異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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―――少年がその方向を向いた時、ミナはすでに武器をとって立ち上がっていた。
「使い魔が一匹殺されました。来ます」
「ええ、この邪悪な気配……」
そこまで言ったところで、廻と夕も休眠状態から復帰する。
『……来たか』『構成異常なし。再起動完了。金髪女、状況は?』
夕の言葉にミナは、「こっちも気付いたのは今さっきよ。ルルの使い魔が一匹撃墜されたわ」と返してカレーナの剣を抜き放つ。
「空悟!岬!起きろ!敵が来る!!」
ミナの叫びに空悟はバッとすぐさま、岬はのそのそと眼鏡をかけながらテントから出てきた。
「来るのか?」
「ああ、すぐにでもだ。岬、早く変身して!」
空悟の質問にいつもどおりに男口調で返し、すぐさま女口調で岬に変身を促すとミナは結界―――即ち現在展開したホーリー・フィックスの中でだけ戦うことを決意する。
半永久的な調和神の結界の中であれば、今の装備でもバハムートの言っていた存在に対抗できるかもしれない。
―――その上でノトスとバハムートの力を借りても五分かもしれないとミナは思う。
既にこの洞穴の大半を支配していたバハムートはミナの手の内にある。
即ち、風の精霊術も使用可能となったということである。
みしり、みしり、と空間をきしませて何者かが歩いてくる。
それは一体何かはわからないが……2体であることだけはミナにも廻や夕にもわかった。
しかし、この場で最もその正体をわかっていたのはルルであろう。
「……チッ。なるほど。盾にするつもりか」
一人は……毛玉人形を何体も体にくくりつけた白髪の男。
ぐるるるるる、と獣の唸り声を上げながら、「辛い辛い辛い辛い苦しい苦しい苦しい苦しい」とうなり続けている。
「……あ~~~らあらあらあらあら。ベヒモスちゃんやられちゃったのぉ……?あはは。面白いわぁ」
もうひとりは。
艶笑を浮かべたウェーブの掛かった黒い髪の女。
黒い黎い髪に、病的なまでの白い皓い肌。
「……やはり、邪神の端末か。それもかなりの純度……!」
ミナが客人碎を地面に突き刺し、カレーナの剣を女に向けて睨めつける。
「あらぁ、お見限りねぇ。別の体で会いましょうって言ったのに」
クスクスと耳障りな含み笑いを向けてくるその顔は、ミナにも岬にも恋にも似ていた。
「……スライム女か!」
空悟が抜刀術の構えを取り、驚愕の表情を浮かべて女へ問いかけると、女は「はぁい★だいぶましになったでしょぅ?」と楽しげに嬉しげに蠱惑的に声を掛けてくる。
逃したスライム女の本体、魂とも言って良いものがいずれこうなるとは予想はしていたが……
「随分お早いお帰りだこと。今度の目的は……聞くまでもないのだわ」
そう、つまり彼女を守るように前に立つ男を使って……
「文明を崩壊させる……いや、てめえらにそんな高尚な目的はねえな。オレへの嫌がらせだろうが」
「あらん、バレちゃった♪いいでしょう?古式ゆかしい映画のネタで街が崩壊したりぃ……原発暴走させたり?あ、でも駄目ね。完全崩壊級のダメージ受けても3基?4基?であの程度だったんじゃ」
10年以上前のとある原発事故を引き合いに出して、ケラケラと笑う。
既に現代の知識は十分に吸収しているようで、以前のスライム女に比べてはっきりと知性が増していた。
その様子にミナは苛立ちを隠せない。
「やっかましいわ。やるなら全部同時に爆破とかやらかすつもりでしょうに」
怒りと憎しみを込めて女を睨むと、すぐにミナは廻に目配せをした。
『……』
無言で廻は頷くと、地面に手をついて瞑目する。
『是だ』
ミナはその言葉に、「OK!岬、空悟!オレの後ろに集まれ!夕ちゃんと廻さんは電磁防壁!ルル!やるわよ!!」と叫んだ。
「おう!」「わかったのです!」
空悟と岬はその肯定の言葉どおりにミナの後ろにいつでも攻撃ができるように立つ。
「あらん♪なにかしでかす気なのねぇ……お行きなさいな、私のハニーちゃん!」
女が命じると、毛玉まみれの白髪の男は目を見開き―――「許せぬ許せぬ許せぬ許せぬ!!」と何を許せないのか思わず知りたくなるような、怨嗟と憎悪と怒りの混じり合った叫びを上げる。
そして、瞬き一つの間に―――周囲がすべて毛玉に覆われ、中からグレムリンがドロドロと這い出してきた。
『なるほど。不気味だ。何をするつもりかはわかったが、早くやれ。間に合わなくなっても私は責任をとらんぞ』
殺人光線を一斉射して、グレムリンの半数が吹き飛んだことを確認すると、夕は廻に目配せをする。
すぐさま―――『電磁防壁』『最大展開』と夕は空悟の、廻は岬の後ろに立って二人を守るように電磁防壁を展開した。
「あれま。この子の強みを消そうってわけ?」
「あたりめーだろ!こっちは足場はこの結界の中だけありゃ良いんだ!地の底に落ちやがれ!!」
ミナはそうして、カレーナの剣だけではなく黄昏の剣も取り出して肩口に背負った。
「地を支える龍、大いなる魔獣王。地に棲むもの、大地を恣にする王バハムートよ―――大地を揺らせ、大地を壊せ、我らの拠りて立つものが如何に脆く弱きかを知ろし食せ。おお、汝は大いなる龍。地を喰らい地を産む母にして父なり。今こそ地の底より―――地の上へと大いなる震えを齎さん!」
瞬間、巨大な翼無き龍が現れ、その後ろ足を思い切り地面に叩きつけた。
すると――― 一瞬のことだ。
ミナたちが立っている結界以外の部分に、すさまじい地揺れと地割れが起きたのである。
ゴゴゴゴゴゴ、と耳をつんざくような地鳴りを添えて。
これは先の戦いでベヒモスが見せた精霊術アースクエイクである。
局所的に大地震を起こし、地揺れで敵を拘束して地割れに飲み込む、また崩れた瓦礫などで押しつぶす魔法だ。
大地が震え、最早バハムートの領域となった大地は崩れゆき―――やがてそれは総てを崩してミナが作り出した結界以外の総てを底へと飲み込んでいく。
その中で毛玉たちは動きを取れず、翼を持つといえどもグレムリンなど単体ではこの中で最も機動力の低い空悟ですら容易に撃墜出来るレベルなのだ。
黒い女の従える男の強みらしきものは封殺されたように見えた。
「これで終わりだと思うか、クソ女!!」
ミナが怒りとともに吠え、カレーナの剣を女へと向ける。
女は艶と微笑み「ぜぇんぜん♪殺しに来るのよね、うふん★」とおどけて笑った。
その屈託のない、しかし邪悪極まりない笑顔にミナの神経が怒りに燃えたぎる。
「あたりめーだろ……悪いが、オレは殺人には躊躇がねえ……善良な一般市民相手なら躊躇うが、見た感じそいつは『邪悪』だ!容赦する気はない!!」
ミナは黄昏の剣とカレーナの剣を地面に突き刺した客人碎の切っ先に当てて、薄く、酷薄に、ぎらりと輝くような獰猛な笑みを浮かべた。
そして、二つの勇者の武具と自らの祖母にして虹の帝の真の末裔と呼ばれた女を宿した剣に祝詞を唱え始める。
「星よ。宙よ。遍くは世界を作り造り創り成す四つの力。四階梯が二つ。重力と空間に我は希わん」
ミナの言葉に空間は沈み、世界は重く静止する。
「あらぁ★すごい力じゃなぁい?うふふふっ!」
黒い女の嘲笑が響く。
「っぜーな……岬、ちょっとこっち来てちょうだいな」
ミナが後ろで震えていた岬に声を掛け、岬は恐怖から逃げるがごとくにミナの体にひっついた。
「な、なんなのです……?」
「一緒にやろう、岬。空間と重力に浄化の、否、あなたが持つ安らぎを求める根源なりし力を乗せましょう」
ミナは先程の笑みとは全く違う、柔らかな笑みを岬に向けて客人碎を彼女に渡す。
「わわっ……重いのです」
「うん、支えてくれているだけでいいから……やりましょう。バハムート様に気に入られたあなたなら出来るはずよ」
ミナに促され、岬はゴクリと息を呑む。
「―――つ、作り造り創り成さん。星の輝きを空へと瞬かせんがため、我が心、我が身となりてともに全てを作りなさん―――なのです!」
精霊語にて岬が虚空へと呼びかけると、虚空より2つの光が現れ出づる。
片方は翠の風をはらんだ少年、もう片方は黄色い光を放つ土色の少女。
その手の三叉槍と大槌を少年と少女は交差させる。
瞬間、崩れ去った地面は完全に―――停止した。
そう、そこは既に。
『今の私たちに出来るのはここまでか……』
『世界を創るゥゥゥ術だァァァ―――重力と空間だけではそこにものは生まれねぇぇぇ……』
少年と少女はその言葉を残して、今はこの場から消え去った。
そう。それは。その術は。
「……あれまぁ、まさかこんな精霊術があったなんて。お姉さん、知らなかったわぁ♪」
楽しげに黒い女は中空に立って微笑みを浮かべる。
そこは、ここは、既に。
「―――陰陽術の最奥、精霊の導きの最奥、そして神の力の最奥が一つ。即ち、世界を作り造り創り成す四階梯。ここは既に私と岬の世界だぞ、邪神の端末!!」
ミナが叫ぶと、女はチッと小さな舌打ちをした。
『―――時空に風穴を開け、そこに別の異質な空間を作り出す……だと?』
廻が驚きを隠せないまま、ミナにそう語りかけると勇者はニコリと笑って「そうよ。ここは私と岬の世界。私と岬が思い描いた法則が支配する―――とまでは行かないけど、ある程度自由にできる空間よ」ととんでもないことを言い出した。
―――それは、理を書き換える大禁呪であった。
はい、書き溜め完全に尽きました!来週の投稿は未定!仕事死ね!大変申し訳無い!!!
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