異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第204話「紡げ、紡げ、紡げ、紡げ―――」

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「やったですか!?」

 

ミナの前で魔力を高めている岬は、結界の中にまでは届かない土煙らしき衝突煙を見据えながらそう叫んだ。

 

ある種それはフラグとも言える言葉だが、そのとおりに女は毛玉男をかばうように立っている―――その姿は肉塊に等しいまでに崩れているが。

 

そう黒い女はとっさに毛玉男の前に立ち、毛玉男をかばったのである。

 

「流石にいまのを食らったら、ダーリン死んじゃうからねぇ。うふふふふ」

 

口と喉だけを再生させた肉塊は、はっきりと明瞭な音声でそう笑う。

 

「よし。廻さん、夕ちゃん、空悟。あの毛玉男に攻撃集中だぜ!」

 

毛玉男が黒い女の弱点と見て取ったミナがそう指示すると、黒い女はさせまいと黒い礫を大量に空間へと作り出した。

 

その数は100にも及ぼうか。

 

「ええい!私と岬の宇宙で、そこまで動けるか!ふざけた話ね!!」

 

ミナが叫ぶと「そりゃそうよぉ……ドミネーター様からどれだけもらったと思ってるの?」と少しだけ心外だといった風情で女は頬を膨らませた。

 

―――重力と空間そのものがミナや岬の思い通りに動くはずの世界で、あの女は毛玉男も含めてそれと見せない動きをしているのだ。

 

「やはり神レベルになると、そう簡単には動きを封じられねーな!」

 

「さぁ、防御に専念するのよねぇ?防いでご覧なさぁ~い」

 

黒い女の攻撃は、先程の手加減したと思われる黒い礫でも結界を侵食して内部に侵入する威力があった。

 

つまり、今空間に浮かんでいるそれらは当然のごとくにこの結界を通過して襲い来るということである。

 

「ミナちゃん!」「待って!あなたの集中を途切れさせるわけには行かないわ!」

 

ミナの言葉に、岬は臍を噛むような表情で女を見据えた。

 

「ルル!デス・ウォール!」「お任せ下さい」

 

『迎撃準備!』『問題はない!』

 

ルルと廻、夕の言葉に一瞬遅れて、空悟が叫ぶ。

 

「うおおおおおおおっ!!くらえぇぇぇえぇっ!!!」

 

―――叫んで放ち始めたのは、それは―――

 

口径は25mmはあろうと思われるチェーンガンであった。

 

どこから出したかは言うまでもない。

 

ルルの無限のバッグからである。

 

装填されている弾種は―――どこから調達したのか、劣化していないウラニウム……つまり、濃縮工程を経ていない天然ウラン弾頭徹甲弾である。

 

ベヒモス戦では対精霊弾を使用できる12.7mm機関銃であったが、ここに来ては最早物理的な威力が最優先。

 

完全に常人の筋力では絶対に扱いきれないそれを軽々と放っているあたり、彼の身体能力は既に上級冒険者のそれと全く変わらないのだ。

 

「あらら。すごいもの出してくるのねえ」

 

くるくると女は指を回して、鉛玉を毛玉男が今も生み続けているグレムリンのようなものに受け止めさせていった。

 

「くそっ!発射される前には無意味か!」

 

『無駄玉を撃つな、空悟』

 

射撃を止めた空悟に廻はそう言って、『ここは私が行く』と殺人光線をグレムリンの壁に照射し始める。

 

「あらあら。それじゃあ壁を破られちゃう前に……え~い♪」

 

楽しげに、あくまでも楽しげに女は100は下らない黒い礫を結界へ向けて投射した。

 

結界にそれはべたりとくっついて、すぐに結界を乗り越えて飛んでくる。

 

先程のものと同じ。いや、それよりも威力も速度も早い。

 

『殺人光線、迎撃形態照射』『開始!』「うおおおおおおおお!!!」

 

三人がそれぞれに襲い来る礫の迎撃を始め―――ルルのデス・ウォールが完成した。

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ。その赤き牙を盾と変えたまえ……デス・ウォール!」

 

不可視の障壁がパーティーを包み、打ち漏らした黒い礫を防いでいく。

 

「……ミナさん、デスウォールでもこれは防ぎきれてませんよ。一発一発の威力が『おかしい』」

 

ルルがそうしてデス・ウォールを魔眼で見れば、既にいくつものほころびが出来ている。

 

彼の見るところ、一発一発が既にミナのファイアーボールレベルの威力なのだ。

 

さすがは邪神の端末と言うべきだが、それでもフレアー・クリメイションレベルに至っていないのは僥倖であろう。

 

そこまで来たらどうあがいてもダメージを食らうのだから。

 

「後ちょっとまって!」「……空間に浄化の力が満ち満ちていくのがわかるのです」

 

ルルの言葉に、ミナの少しだけ焦った返しが響いた。

 

そして、岬の放心したかのような虚な声も。

 

「くっ……!ここは僕が壁になるしかないか!」

 

そうして、一発―――デス・ウォールを抜けて黒い礫がミナを襲おうとして―――

 

ルルの胸にそれが着弾した。

 

「ムッ!」「大丈夫!?」

 

バヂン、とそれは弾けてルルのローブを傷つけるには至らなかったが―――その衝撃は内部にまで響いたようで、ルルは自らの黒い血液を口端から滴らせた。

 

「ええ、問題ありません―――ただ、これを空悟さんや岬さんに受けてもらうわけには行きませんね。これは呪いの塊です」

 

喰らえば何が起こるかわからない。

 

ルルは言外にそう言ってミナの顔を見る。

 

「……ごめん。それでも勝つにはこれしかないわ」

 

目の前の邪神の端末は、おそらく邪神の数割ほどの力を持たされているのだろう。

 

故に、マジック・アイテムもなにもない状況では、結界の中で戦う以外に勝つ方法はない―――

 

それを覆すための方策のためにこそ、今、ミナと岬が魔力を高めているのだ。

 

「―――見よ、身よ、御世―――繰り返す運命、繰り返す宿世、繰り返す、繰り返す、繰り返す―――」

 

岬は既にトランス状態になっているのか、表情をなくし汗をかきながらその瞳を金色に輝かせる。

 

ドレスの翼は明けの明星を冠する熾天使のごとくに十二枚へ。

 

ティアラは王冠と姿を変え、ドレスは―――白く、皓く。

 

「紡げ、紡げ、紡げ、紡げ―――」

 

「くっ……もう、すこし……!我慢して、岬!」

 

ミナは客人碎を岬の前に、そして黄昏の剣、カレーナの剣を両脇の地面へと突き刺し、岬を後ろから抱く。

 

そして「大いなるものよ―――調和を司る神よ!今少しばかりの御寛恕を!」と叫んだ。

 

『岬は平気なのか!?』

 

廻が殺人光線、そしてミサイル、機関砲を放ちながらミナへ問いかける。

 

「心配しないで!なんとしてもやってみせるわ!空悟!生きてるか!?力尽きてないだろうな!!」

 

見れば、チェーンガンをぶっ放しながらも竜の兜を光らせている空悟は、少し顔色が悪くなってきているようだったが―――

 

「うるせー!早くなんとかしろ!なんとしてでももたせるからよぉ!!」

 

槍を全身から生やしたグレムリンが結界に取り憑いたのをチェーンガンで一匹ずつ始末しながら空悟は叫ぶ。

 

ミナの見る限り、後10分20分は平気そうであった。

 

「うふふふ♪その子が倒れるのと、あなたの目論見が成るのとどっちが早いかしらぁ?」

 

にたりにたりと片目をつむって嫌な笑みを浮かべる女に、ミナは足元の石を拾って全力でぶん投げる。

 

ガゴォ、と轟音がして女の頭の一部が吹き飛んだが―――「いったぁい♪」と楽しげに女が返す一瞬後には、その破砕した頭は黒い靄に覆われ、5秒もしないうちに元の姿を取り戻した。

 

「チッ。やっぱり無駄か」

 

ミナは一瞬離した岬の身体を抱いて、舌打ちをした。

 

わずかに殺人光線やルルの魔法が直撃すれば再生速度は落ちるようだが、ほとんど意味をなしているようには見えない。

 

そしてそれからきっかり一分後。

 

「―――不味いわね」『ああ、まずいとも』

 

そう、遂に結界内にグレムリンのような何かが侵入してきたのである。

 

ルルを見れば、デス・ウォールを何度も掛け直しているが、その身体は礫よりミナと岬を守るために己の黒い血に塗れている。

 

夕がミナの背中を守りながら、腕部機関砲でグレムリンを掃射し、その攻勢が薄れると殺人光線を黒い女か毛玉男へ向けて照射した。

 

『で、まだか?毛玉男と廻が近接戦闘に入る』

 

ミナから見てちょうど真後ろの結界の端で、結界に強引に押し入ろうとしている毛玉男が見える。

 

『させん!』

 

「殺す殺す殺す殺す―――う、ひひひ、ははははははははッ!!」

 

バリバリと調和を乱す厄災と化した男は、それを司る神に拒絶されながらも結界へ侵入しようとして―――

 

『トゥ!』

 

バゴゥ、と顔面を廻に砕かれた。

 

しかし―――「ふしゅるるるるるる……」と不気味なうめきを上げながら、その砕かれた部分が毛玉に覆われてやがて人の顔へと戻っていく。

 

『気味が悪いなッ!』

 

廻の鉄脚がそのまま男の鳩尾に時速300kmをゆうに超える速度で突き刺さり、結界外へと強制的に退去させられた。

 

『これで人間の声音を残しているのだから、気持ち悪いとしか言いようがないな!』

 

夕はそのまま吹き飛ぶ毛玉男に殺人光線をぶち当てる。

 

「うふふ、でも顔はいいでしょう?」

 

黒い女がまた礫を放つ。

 

何度か繰り返される同じ攻防―――だが、徐々に此方の旗色が悪くなっていることは間違いない。

 

「―――光、光る―――星、月、闇、竜、龍、神気、天を穿つ―――」

 

その時、岬の身体が宙に浮き始めた。

 

 

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