異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第205話「『天』に有れ。『地』に満ちよ。『人』がそこにいよう」

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「―――鵯、鵺、八尋、八洲―――『天』に有れ。『地』に満ちよ。『人』がそこにいよう」

 

ミナもまた岬に合わせるかのように祝詞を唱える。

 

「―――ぐっ!」

 

その時、空悟が頭痛からチェーンガンを取り落した。

 

「こ、れは……!」

 

「気張れよ空悟!この空間を、岬の法則で塗りつぶす!つまり!!」

 

「―――浄化の光で満たす、ということですね。ミナさん」

 

ルルがミナの前に立ち、再びデス・ウォールを展開する。

 

「あのですね。ところで僕はどうすればいいでしょう?」

 

ルルはニッコリと笑って、無限のバッグからありったけの護符らしきものを出して自分の体に巻きつけていく。

 

その言葉にミナは満面の笑みで「いつもどおりよ。借りにしたげるわ」と言ってから、「死ぬ気で耐えろ、我が下僕!」と叫んだ。

 

「はいはいはいはい!わかってますよッ!酷い人だ!」

 

ルルはそうしてじっと自らの身を守る姿勢へと入る。

 

「自分で襲いかからない舐めプしてくれたお礼はたっぷりさせてもらうわ!竜の兜よ!我が同胞よ!四階梯の足りぬ二つを、その鼓動と根源なりし力で世界へと至らしめん!!」

 

「されば我は世界、世界は我なり。大いなるものに紛れ込まん、我らが小世界―――祈りを詠み唱え囁き、終に紡がれしものよ」

 

岬が瞠目して、その金色の瞳で虚空を照らす。

 

「おおおおおおおおおおッ!!」

 

瞬間、空悟の兜が世界を碧色に染め上げていく。

 

「―――っし、成功だ」

 

ミナは歌うような声音で、そう呟いて大地に足を踏ん張り、虚空を見た。

 

同時に中空に浮かんだ岬がその瞳から光を失い、ミナに抱きとめられる。

 

空悟はと言えば―――「はぁっ―――はぁ……!び、ビビった……!なんか持ってかれるところだった!」と今津鏡を杖にして膝をつく。

 

『岬、空悟ともに生命反応に問題はないな、ミナ。体温正常値。空悟の脈拍と呼吸数は若干平常値ではないがね』

 

廻がそう言って駆け寄り、岬をミナから受け取る。

 

既に十二枚の翼は消え去り、ドレスもティアラも元の形へと戻っていた。

 

―――そして、黒く無に見えていた空間は―――

 

「あらあら……なかなかきれいじゃないの。うふん♪」

 

どこまでも続く一面の花畑。

 

色とりどりの花、花、花―――

 

虹のごとくに咲き誇る花畑―――地平の彼方を超えて、天の頂まで花で覆われている。

 

『眼福じゃのう……こんなものまで作る力量持ってたんかい』

 

祖母の剣が楽しげにそう聞いてくる。

 

「邪神との戦いでは、幻の精霊も岬もいなかったし、何より竜の兜もなかったからね!」

 

「てか、俺、特になんともねえな……」

 

チェーンガンを拾い上げ、今津鏡を鞘に戻した空悟がそうしてミナに近づいてきた。

 

「想像以上だよ、お前がな……」

 

ミナに言われた空悟は、「そうか?」と返して「あたりめーだろ」と返された。

 

「人を化物みたいに言うなよ、ハハハ」

 

「いや、事実上オレとかルルとかと同レベルの化物だって言ってんだけど?ハハハハハ」

 

軽口を交わしながら、ミナは黒い女を見据えてカレーナの剣を鞘に収め、客人碎を地面に突き刺したまま黄昏の剣を左前に構える。

 

「どうした、随分と苦しそうだな?」

 

「あふん……そりゃそうよぉ……ここには『物事を正しい状態へ戻す』力しか生まれてこないのだもの★」

 

黒い女は表情を全く崩さず、しかし既に全身を汗でしとどに濡らし、その薄いドレスを扇情的に染め上げていた。

 

「とはいえ、ねぇ……諸刃の剣って言ったわよ、私」

 

意地悪い笑みで女はミナの左隣へ視線を流す。

 

そこには当然のように脂汗を流して膝をつくルルの姿があった。

 

「どのくらい持つ?」

 

「5分……いえ、7分は持たせてみせましょう」

 

「よし」

 

ミナはそうして黄昏の剣を正眼に構えて走り出した。

 

『援護射撃開始!』『殺人光線照射!』

 

廻は岬を抱きかかえたままなので殺人光線のみ、夕は噴進魚雷と脚部噴進弾、腕部機関砲を同時に発射する。

 

それは黒い女が生み出した黒い礫を尽く撃墜していった。

 

「がぁはぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

礫では行動を阻害できないと悟ったのか、女は毛玉男をミナと自分の間に立たせて迎撃させようとしたが―――

 

「チェストォォォォッ!!」

 

ミナを飛び越え、空悟が見事な飛び蹴りを毛玉男へと放った。

 

「ぎぅ!?」

 

「やらせねえよ!三郎、行け!!」

 

今津鏡で男の胸を横に断つ。

 

「殺す殺す殺す殺す!」

 

斬れたのはわずかに1cmにも満たない浅さだったが、毛玉男はそれで空悟を敵手と認めたようだった。

 

「すまん、空悟!ようし……捉えたぞ、黒女」

 

黒い礫を迎撃する道野枝兄妹の攻撃が起こす光芒を横目に、ミナは伝説の剣の切っ先を女に向けて獰猛な笑みを浮かべた。

 

「まずは死んでくれないかしら!?」

 

「やぁよぉ★名前も名乗らせてくれない人のご要望は聞けないわねえ」

 

ミナの直截な質問に、女はそう答えてケラケラと笑い出した。

 

隙をつこうと飛ばしてくる礫を剣で弾きながら、ミナは「だったらなんだってえんだよ!」と若干いらつきながら、エネルギーボルトの詠唱を始める。

 

「―――スフルタトーレと呼んでくださいます?」

 

その詠唱を遮るように、恐ろしく冷たい声で女は足元の花を踏みにじった。

 

『―――伊語の搾取者か。支配者を名乗る邪神の端末にはふさわしい名前だ』

 

廻が静かに怒りを込めてそうつぶやくような声音を発すると、「わーお♪わかってくださる?」と軽薄な笑みと声音で笑い出す。

 

一瞬の隙にその顔面に殺人光線が突き刺さり、顔面が一瞬崩壊するがそれもやはり一瞬。

 

先程までと同じように顔面を再生させて女―――否、邪神の端末スフルタトーレはニタリと笑った。

 

「気味が悪いわボケが!!」

 

ミナは黄昏の剣でスフルタトーレを袈裟に切り裂こうと振り下ろすが、女はその腕を鈍色の刃に変えてそれを受け止めた。

 

しかし、破邪滅神の力を持つ剣には抗しきれないようで、バターのようにとはいかないが、僅かな抵抗を残して切り裂かれてしまう。

 

だが、その隙さえあればよかったのか―――ミナの腹の前に黒い礫が現れた。

 

「ごふっ!?」

 

衝撃はなかったが、しかし呪いの塊であるそれが腹に命中すれば、如何に黒い飾帯による加護を得ている勇者であってもたたらを踏むというものだ。

 

「あらあら。苦しそうねぇ。でもやめたげない」

 

女はそうして腕を銃、いや砲に変えてミナに突きつけた。

 

「ちょっとインチキでしょ?どっか~ん♪」

 

その言葉とともに、その腕砲は黒い咆哮をあげて、邪悪な呪いの塊をミナに突き刺さらんとし―――

 

「な、舐めるなぁ!!」

 

ミナはそれを黄昏の剣で受けた。

 

「あらん、やっぱりこの程度じゃだめね」

 

残念でもなさそうにそう言って、女は一歩下がって首を傾げる。

 

「それじゃあ第二ラウンド?第三ラウンドかしら?はじめましょっか」

 

「望むところだ!」

 

残り時間はあと5分あまり。

 

それ以上はルルが耐えられないだろう。

 

向こうをチラと見れば、苦しそうに脂汗を流す彼女の相棒と、そして毛玉男と格闘している親友が見えた。

 

「―――ふざけたことしてくれやがって。まったく、ほんとうにふざけてやがる」

 

ミナは小さく悪態をついて、居住まいを正して女を見据える。

 

そうして、瞑目して―――

 

 

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