異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第206話「あらん?追加はないの?」

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一方、空悟は―――

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!!」

 

毛玉男が全身から紫や黒の体液をほとばしらせて、グレムリンを生み出そうとしていたが、この空間は総てが岬のレインボーフラワーの力で構成されている。

 

即ち、そんな邪悪な体液はすぐに空気に霧散して消えていってしまった。

 

「なんだかわからんが―――いや、もうお前には殴り合うことしかできないだろ!降参して逮捕……とはいかねえのはわかってるさ!」

 

空悟はそうして体液を出そうとして力んだ毛玉男の隙に、回し蹴りを叩き込む。

 

腹部を強かに打たれ、男はもんどり打って地面を転がり、そこに一〇〇式機関短銃が撃ち込まれた。

 

200ほど弾丸が彼に降り注いだところで、空悟はサブマシンガンを放り投げて「これで銃のたぐいはカンバンだ!」と叫んで今津鏡を腰溜めに構えて突進する。

 

「死ねぇ!」

 

しかし、それは空悟の隙をつくためのものだったらしく、すぐに起き上がって毛玉を投げてきた。

 

「あぶねっ!?」

 

空悟はそれを避けながら突進を続け、そうして男の喉を目掛けて地面を蹴った。

 

ドスリ、と刃は狙い通りに男の喉へ突き刺さる。

 

「ぎぃぃぃ!!」

 

金切り声をあげて血泡を吹きながら、それでも呼吸は何らかの方法でできているのか、動きを鈍らせることなく男は腕を振りかぶった。

 

しかし、周囲の浄化の力に蝕まれつつあるのか、結界に取り付こうとしていた時よりもその迫力、圧力は小さいように空悟には思える。

 

空悟は思う。

 

―――確かにルルくんは今窮地だ。だが、こいつらも同様に危機なのは間違いない。そして―――

 

「ようし!できるだけ細々ダメージいれてやるぜ!」

 

空悟はそうして、振り下ろされた拳に刀を合わせて振り上げる。

 

再び男の腕は二つに割れて、すぐにもとに戻っていった。

 

しかし、その回復速度は遅い。

 

この花畑の世界が構築される前よりもずっと。

 

そして毛玉男は弱体化しつつあり、今の竜の兜で強化されている空悟には敵うべくもない。

 

早めにこいつを行動不能にして、三郎を助けに行かなければならないと空悟は考えた。

 

廻も夕も女が吐き出している黒い礫とミナへの援護射撃だけで精一杯のようであり、ルルはもう動くことも難しいだろう。

 

ならばどうするか。

 

空悟には派手な魔法はなく、銃器火器のたぐいは既に使い果たした。

 

ならば。

 

「そうだ。細切れにしてやる」

 

日本刀を目の前に横に構えて、空悟は走り出す。

 

毛玉男がまたその腕を振り下ろそうとしたが、遅かった。

 

空悟はまず右太ももを断ち切る。

 

今の空悟にはそれはマルタの硬さには感じられず、まるでボンレスハムでも包丁で切るかのように断ち切れてしまう。

 

「がぁぁぁぁぁぁ!?殺す!コロス!殺す!!俺を追い出して!俺を使い潰して!騙して!許さん許さん許さん!!」

 

男は叫びまわり、恨みをまるで物質のように紫のモヤという形で吐き出した。

 

しかし―――

 

「悪い。それについては俺はなんにも言えねえわ」

 

空悟は静かにそう言って、男の胴を断つ。

 

「うおおおおおおりゃあああああっ!!」

 

裂帛の気合と同時に放たれた剣戟は三連。

 

毛玉男の両腕と左足を胴と泣き別れにしてしまう。

 

「この程度じゃ死なねえんだろ、なあ!」

 

男は吠えて地面に落ちる前の胴を更に二つに割って、そして地に落ちるそれに目もくれずに、ミナの。

 

親友が黒い女と切り結んでいる場所へと駆けた。

 

「とりゃああッ!!」

 

駆けつけて―――黒い女の顔面に思いっきり直蹴りを入れてやる。

 

「がっ―――ちょっとぉ、じゃましないでよねえ」

 

眼窩を陥没させた女は、不満げにそう笑って、すぐにミナの横薙ぎを受けて首を飛ばされた。

 

「よそ見してんじゃねえぞ、こらぁ!!」

 

そして左手でミナは印を組む。

 

その中指には古代語魔法の発動体が嵌っていた。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ!地獄の業火を呼び覚ませ!我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ―――フレアー・クリメイション!!」

 

巨大な火球が吠え、不思議なことに花々を一切燃やすことなく女だけを焼き尽くしていく。

 

「お、おおお……これはすごいかもしれないわねぇ?」

 

声だけは平然と、しかし決して平静ではない表情で女は笑い、燃え砕けていく身体で―――20は下らない黒い礫をミナの眼前へと生成した。

 

「やべっ―――!空悟動くなよッ!!」

 

ミナはとっさに親友が自分をかばうと悟ったのか、そう叫んで黄昏の剣に力を入れる。

 

破邪滅神の星光、とまではいかないが邪悪を滅する光が放たれ、半分をかき消し、もう半分を弾き飛ばしたが―――

 

しかし、4発。

 

ミナの左頬と、右腕、そして鳩尾と黄昏の剣を持つ手に黒い礫は衝突する。

 

「ぎ、ぅっ!!」

 

ミナはしかし、それを痛みに押し殺した悲鳴を押えるだけで済ませて、女に更に斬りかかろうとして―――

 

女がその姿を取り戻して、クスクスと笑い出したのを見て一歩下がった。

 

「あらん?追加はないの?」

 

「……この世界でも、やっぱりこの程度では倒せねえな……?」

 

ミナはぜいぜいと、黒く染まった箇所がブラックリボンの効果で消えるのを待ちながら息を吐いた。

 

「そうでもないわよぉ?……うふふふっ♪万全じゃない状況でも、もう私三分の一削れちゃってるもの。これ以上は遊べないかなぁ~★」

 

女はそうおどけて、再生した身体を一歩後ろへ下がらせるとパチンと指を鳴らした。

 

すると、向こうで再生しながら倒れ伏す男の身体から毛玉が抜け落ちて―――その身体がふわりと浮いた。

 

「逃げる気か!」「させねえ!!」

 

2人は全力で女へ駆け出し、うしろでは花畑に岬を寝かせた廻と夕が加速して追いかけてくる。

 

ミナの剣と廻の拳が―――届くか、届かないかの刹那。

 

「うふふふふっ♪それじゃあねえ。また遊びましょっか?」

 

そうつぶやきがその場にいる全員に聞こえて、女と―――そして毛玉の抜けた男の残骸は霞のように消え果ててしまったのである。

 

『まぁたねぇ~~♪グレムリンちゃんを使うとぉ、ちょっとすぐに勝負ついちゃいそうだから、次はなしでやりましょう★』

 

虚空に女の声が響き渡り、そしてあとには無限の花畑だけが残された。

 

戦いのあともどこへやら。

 

今はただ麗しい花々だけが咲き誇っている。

 

「―――逃したか!!」

 

そこにミナの悔しげな声が木霊したのであった。

 

 

 

『厄介なことになった喃』

 

消耗激しいルルのもとに駆け寄ったパーティの中で、一番最初に口を開いたのはカレーナであった。

 

「そうでしょうね……今回は撃退できましたが……あそこまでの端末を作れるということは……もう邪神の復活まで1年はかからないと見ていいでしょう……」

 

ルルが息も絶え絶えにそう答えて立ち上がった。

 

「ちょっと、無理しないでよね。大丈夫?」

 

「大丈夫……ですよ。ほら、この世界ももう時間切れみたいです」

 

ルルが花に覆われた空を見上げると、そこからハラハラと花びらが散っていくのが見える。

 

「う……ここは……」

 

廻にお姫様抱っこされていた岬が目を覚ます。

 

それと同時に、世界は崩壊して元の暗闇の地下へと逆回しのようにもとに戻っていった。

 

花畑は虚空に、虚空は味気のない地下空洞へ。

 

6人の立っている場所は、結界の張られた崩れていない一角であった。

 

「とりあえず……今回はここまでね。あの前のフロアに残っている人たちを地上へ戻しましょう」

 

ミナはルルに背中を見せて、おぶされと手招きしながらそう言って唇をへの字に曲げた。

 

『秋遂に輸送コンテナを装備させて此方に向かわせよう。』

 

廻の言葉を聞いて、ミナは「ありがとう廻さん」と返してゆっくりと岬の方を振り返った。

 

「どう?平気、岬?痛いところとか苦しいところとかないかしら」

 

そう聞かれて、岬は廻に地面におろしてもらい、自分の体をぺたぺたと触りながら調べてみて「何も異常はないのです。痛みも苦しみも……というかすこぶる調子がいいのです」と不可思議な事象に出会ったかのように眉をしかめている。

 

「それならいいんだけど……」

 

『念の為、ルルくんも含めて薺川博士に検査してもらうべきだな』

 

ミナと廻の言葉に、夕が『過保護だぞ、お前ら』と返して地面の砂を採取した。

 

『……なかなかこれもひどいものだ。不規則性流体ではないが、ここもだいぶ貴様の言う魔力に汚染されている。現行人類を立ち入らせるべきではない場所になってしまった』

 

彼女はそうしてその砂を躯体内部に格納する。

 

そうして『とりあえずここから離れよう』と提案してきた。

 

「そうね。このままこの結界しかない部屋にいてもしょうがないしね」

 

ミナはそう言うと、部屋の入口まで20メートルはあろうかというのにもかかわらず、ふわっと浮き上がるかのように地面を蹴って飛んだ。

 

いつの間にかミナはグライドの精霊術を唱えており、ルルを背負ったまま滑空して入り口へとうまく着地する。

 

次いで、廻は岬を抱いたまま跳び、同じく夕もまた空悟を抱えて跳んだ。

 

ミナたちが離れたあとも、結界を敷いた地面は残っており、おそらくはずっとあのままなんだろうな、と夕にしがみついたままの空悟は思った。

 

「よし。全員無事でよし。それじゃ―――戻りましょう」

 

ミナの宣言で今回の冒険は終わる―――

 

冒険者現象を知った改の会とSMN、そして強力な邪神の端末スフルタトーレの出現……

 

多くの問題を残しながらも、今は収束したのであった。

 

―――その頃、上の自衛隊基地では基地周辺だけが局所的な地震に見舞われるという怪奇現象に遭遇していたが、それはまた別の話である。

 

 

 

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