異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第207話「下手の考え休むに似たる、だ」

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―――水門家。

 

それから数日後、アイドル業から戻ってきた恋を加えた黄昏の傭兵団は居間に集まって事の顛末と今後の方針について打ち合わせを行っていた。

 

「あのスライム女、まだ生きてたのか……いや、あたいの前にずっと姿を見せてた頃からしつこいのはわかってたけど」

 

恋はよく冷えたペットボトルのお茶を一口飲んで、呆れと不安が綯い交ぜになった表情を浮かべる。

 

「何が狙いかはわからないし、またあなたや岬を狙ってくるかも知れないから、くれぐれも用心してね」

 

ミナは彼女に羊羹を差し出しつつそう言って嘆息した。

 

「とりあえずは当初の方針通り暇を見て迷宮へ赴き、我々自身の強化を図るべきだな」

 

そう言ったのは廻である。

 

「今度の戦いで、岬も空悟も予想以上の強化がなされていることがわかったのだ。積極的に行くべきだ」

 

そのように続けて瞑目する。

 

―――無論、岬や空悟の生活のことを忘れてはならないのだが……

 

「思い出鏡の求人を妨害してる誰かを突き止めに行ったら、こんな大事になるとは思わなかったわ」

 

ミナは湯呑の中のほうじ茶をぐっと飲んでまた一つため息をついた。

 

「だなぁ……」

 

空悟が疲れた様子で天井を仰ぐ。

 

―――何十人もの―――最終的には63名の行方不明になっていた人間が突然現れる、という怪奇現象で市内にはマスコミやら何やらが群がってきていて、当然空悟もそれらの対処にこの数日追われていたのだ。

 

「おつかれー。研究所の牢屋のあった区画も放棄しなきゃならなくなったし、真面目に今回オレら損しかしてねえわ」

 

ミナは重力の精霊となったバハムートと契約したことは脇に置いて、あーあ、と親友と同じように天井を見つめる。

 

「そうでもないだろう。様々な試料が回収できたじゃないか。博士が対グレムリン用のネットワーク・ミームを開発中だ。それが完成すればグレムリンによるテロは恐るるに足らなくなるだろう」

 

夕は羊羹に爪楊枝を刺して持ち上げ、口に放り入れながらそうして瞑目した。

 

―――今回の事件の顛末としては―――

 

岬が「ま、考えていても仕方ないのです。あたしは廻さんの言う通り、方針通りにダンジョン行くべきだと思うのです」と笑って、気分転換と称してテレビのスイッチを入れる。

 

テレビは―――惟神テレビではない別のローカル局を映していた。

 

『―――日未明、神森護国神社で63名の行方不明になっていた人物が保護される事件が―――』

 

流れるニュースは、無責任なこの事件の被害者たちに関する報道である。

 

「結局まあ、こうならざるを得ないか……」

 

ここまで押し黙っていたルルが嘆息すると、ミナが「死人が出てないだけマシと思うしかないわ……」と頬杖をついた。

 

「とりあえず―――秋には連中は動き出すでしょうね。SMNはまだ躊躇いというか、口で言う以上の目的が見受けられますが、改の会はまず間違いなく超科学によるテロを始めるでしょう」

 

ルルは目を瞑り、そうしてすぐにパッチリと開けて周囲を見回した。

 

既存社会を破壊しかねない行動を彼らは起こすだろう。

 

彼らの目的もまたSMNと同じ国家の転覆だが、魔法が絡んでいない分、より現実に即した方法でテロをすることだろう。

 

「東京でやられたら手も足も出ねーなぁ……」

 

「流石にそこまで遠くに瞬間移動はできねえからなあ……」

 

親友同士が顔を見合わせて嘆息する。

 

短距離の転移や目標を決めての転移であれば、ルルもミナもできるが、東京まで数百キロ離れている神森市から転移する魔法など存在しない。

 

「リ○ミトは使えてもル○ラはねーんだよなあ、あっちの世界」

 

「一応、豊穣神プロマールの固有魔法にはリターンホームという拠点への帰還呪文はありますけど、これはこれでほぼ記憶陣と同じで、これと決めた場所にしかいけませんし」

 

ルルは空中で指を回してそう続けて、「魔法と言っても術理ですからね。万能とはいきません。科学がそうであるように」と微笑んだ。

 

「何、深く考える必要はありません。そうなったらそうなったで、潰して回れば良いのです。流石にあのような連中が暴れていてもわずかな反撃も出来ないような国や軍なら滅びても仕方ないでしょう」

 

「だからそう言う考えだから私に殴られるのよ!」

 

ビシ、とルルの頭にチョップを食らわせてミナは口をへの字に結ぶ。

 

「いや、私は女男の意見に同意するが。テロリストを抹殺できないような国家権力に何か意味があるのか?」

 

夕が不思議そうな顔で―――珍しく不思議そうな顔でミナの目を覗いてくる。

 

「夕ちゃんまでそういうこという……まぁ私も半ば同意なんだけど……」

 

ミナが困った顔で夕を見ると、今度は恋が口を挟んできた。

 

「大丈夫じゃない?だって、暴れたらあたいらに殺されに出てきました、って言ってるようなもんだもの」

 

その言葉を継いで岬が「そうなのです。テロで世の中は変えられないのですよ」と微笑む。

 

―――尤も、政治中枢を一撃で破壊しに来たらどうしようもないのですけども。

 

岬はその言葉を口にしなかった。

 

改の会には、その能力があるということも。

 

「―――言いたいことはわかる。わかるけど、テロじゃなくてクーデターやらかしたらどうすんのよ」

 

ミナは岬が口にしなかった言葉を口にして、再び嘆息した。

 

「下手の考え休むに似たる、だ。今は動くべき時だろう」

 

廻がそう言ってほうじ茶を飲み干し、ミナはその言葉に無言で肯んずる。

 

―――結局はそうするしかないのだ。

 

「最悪の場合、議会については秋遂の特殊装備を用いて逆占拠する他ないだろう。自衛隊基地などが標的なら、ここに防衛してもらうしかない。何度も言うが、我々は我々を強化しなければならないぞ」

 

夕が湯呑をミナに突きつける。

 

突きつけられたミナは「それもそうね。有効な戦力があれば良いのだけども……」とつぶやき……

 

「いざとなれば、アレを復活させるしかあるまい」

 

廻が気が進まないが、と後に続けて複雑な笑みを浮かべた。

 

「まぁ、それは夏休みの最後の方ね……」

 

薺川博士が警告した海域にある「それ」はとんでもないものなのだろう。

 

七人ともに複雑な顔で腕を組み、そしてやがて誰言うともなく「飯にしよう」と提案が出たのは言うまでもないことであった。

 

―――結論は、休みの日は毎日ダンジョンへ行く。

 

岬と恋が夏休みに入り、空悟が休職期間に入ったらできるだけ毎日赴いて強化を図る。

 

そんな通り一遍で、かと言ってそれ以上の対策などありそうもない方針だけが再確認されただけでその日は終わったのであった。

 

 

 

―――思い出鏡。

 

「はいは~い。冒険者風ワイルドサンドイッチ出ますよぉ~~♪」

 

結果として、この店のもうひとりのアルバイトとして加わったのは今明るい声でトレイに載せた料理を運んでいる……ぬえ子の姉、つまりつぐみの更に先輩で、隣町の大学に通っている女子大生であった。

 

土日だけのバイトではあったが、それだけでも大助かりというものである。

 

当初の予定通り、ぬえ子が来れない日に来てくれるだけだが、もともとは欲しい人材がそれであったので問題はない。

 

もちろん―――冒険の件について崎見老人と相談しにくくなったのは確かだが、それはそれで別に時間を取ればいい話だ。

 

これで当面の労働力不足という問題は解消されたので、次はミナやルルが突発的に事件に巻き込まれたりダンジョンアタックを行わなければならない時のためにバイトを幾人か増やすことができれば問題の大半は解消されることになる。

 

「いやあ、助かったよ。あの子も評判が良いしネ」

 

モノクルを掛け直して老人は微笑んだ。

 

「それにしても……かなり大変だったみたいだね」

 

料理を作っているミナがその言葉に「いや、ホント大変でしたよ」となんでもないことのように答えて、「ポークステーキ出来ましたー」と鉄板をトレイに乗せて台に置いた。

 

「えーと、次は杏のチーズケーキ出しますね」

 

「うん、よろしく。私はコーヒーを淹れよう」

 

そうして今日も思い出鏡の業務は回っていく。

 

その中で、ミナは今回の顛末のことを再び考えていた。

 

結局の所、あの毛玉男は―――この騒動の発端であろうことは疑いようがなかった。

 

廻と夕が記録した顔を元に空悟が警察資料ををあたった結果、4年ほど前に鳥取県へ向かう途中に行方不明になった「北浦部真澄」という男性であることが概ねわかった。

 

神森市で生まれたが、どうやら当時半グレ系の経営していたブラックな業務形態の飲食店で働かされて心身を病み、そして「砂丘で自殺する」という書き置きを残して旅立ち―――

 

その後ぷっつりと消息を断った。

 

先回りして砂丘や公共交通機関などを張っていた家族や友人知人は空振りに終わり、捜索願が出されてそのままになっているという。

 

正直、ミナにとっては他人事と全く思えない。

 

というよりは今回の被害者は大なり小なり飲食店での業務で心身を破壊された人間ばかりであった。

 

(飲食系はどこも辛いか……)

 

この店とて、前のように客がそれほどいないならともかく今のように忙しいのであれば、容易に労働環境はブラック化するだろう。

 

崎見老人がもう80近い老人であり、ガッついてもいないので自身に体調不良があれば即休みにしているのは僥倖ではあった。

 

(でも働きづらいのは辛いわね……)

 

ミナはそこで思考を打ち切る。

 

あの毛玉男、暫定北浦部は邪神の下僕になってしまっている。

 

大方、ミナの相棒であり下僕であるルルの役にでもするつもりなのだろう。

 

あの時は理性を失っていたようだが、次に出てくるときはどうなっているかなどミナにもルルにも、おそらくは調和神もわかったものではない。

 

(気合い入れていくか)

 

ミナは内心でそう独り言ちてから、目の前のパスタを炒める作業に集中していくのであった。

 

 

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