異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第209話 「へー、鯵の焼きびたしかぁ」

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―――公園。

 

「ようし!準備はできたぞ!この影山総司!妹の頼みとあればBBQだろうがなんだろうがやってみせよう!」

 

そこには先んじて来ていて、炭火コンロを展開するかけるの兄―――つまりアスリートの影山総司選手が魚を焼いていたのであった。

 

「あ、ども影山さん。かけるちゃんはまだ来てないっすか?」

 

恋が営業スマイルをしながら、一人小魚―――おそらくは鯵を焼いてはタレと思しき琥珀色の液体が入れられたタッパーに入れている青年に声を掛けた。

 

「うむ!かけるが鯵の焼きびたしを食べたいというのでな!こうして準備をしていた。もちろん、このコンロも炭火も公園の管理所で購入したものであるから、心配することはない。ここは誰にはばかることなきBBQスペースだからな!」

 

妹になにか言われていたからなのか、前と比べるとだいぶ押さえた口調で赤毛の引き締まった筋肉を持つ陸上選手がニカっと気持ちよく笑う。

 

(公園で鯵の焼きびたし作ってる陸上選手―――大変シュールなのです)

 

岬はため息を吐きつつ、公園のあちらの方を見れば……

 

「やめんかーーーい!!」「あいたぁっ!?」

 

何故かミナがルルの頭に思いっきりげんこつを食らわせていたのである。

 

「……バイトは休みのはずなのです」

 

岬はハァ、とため息をついてから、ミナに「そこでなにしてるですかー!ミナちゃーん!」と大声で呼んでみた。

 

「ダンジョン行く前の買い出しの途中に寄っただけー!そっちこそバーベキューの会場ってここだったのー!?」

 

ミナがルルにネックハンギングツリーをかましながら、やはり大声でそう答えてくる。

 

「うーん、じゃあまあいっか」

 

恋は頭をボリボリと掻いて、噛んでいたガムを銀紙に吐き出して近くのゴミ箱へとポイと捨てた。

 

そして、自分も「そうだよー!ここでやるのー!ミナねーちゃんも寄ってくかーい!?」と聞いてみた。

 

その言葉に、遠くのミナはしばし顎に手を当てて首をひねり、「OK!食材は追加出すわ!」と返してくる。

 

そのままミナはルルを首根っこひっつかんだままスタスタと、ルルは引きづられてズルズルと岬たちのそばまでやってきた。

 

「どうもこんちは、影山さん。今日は料理係ですか」

 

「うむ!誰かと思えば岬くんが居候している家の方ですな!そのとおり―――とは言い難い。俺は魚料理担当なのだ」

 

ペコリと頭に手のひらを当てて、頭を下げたミナに総司はそう返して鯵をまた2匹調味液の中へ落とし、素早くクーラーボックスから鯵を網の上に置く。

 

「へー、鯵の焼きびたしかぁ」

 

まじまじと調味液の入ったパッドを見つめながら、左手に力を入れるミナに総司は「……ところで、弟君が死にそうになっているようだが?」と少しだけ声のトーンを落として、ミナに左手で首を掴まれているルルを見遣った。

 

「へーきへーきですよ。こいつはこのくらいじゃない死なないですし。ほら!寝た振りしてないで起きなさい!!」

 

ホールドしていた手を離して、ルルが地面に顔をベシリとぶつけるのを見届け、ミナはそう言って脇を掴んで彼を無理やり立たせる。

 

「痛くて苦しいじゃないですか」「痛くて苦しくしてるんだから当然でしょ!」

 

ルルの抗議にミナはそう吐き捨てるように返して脇を離した。

 

「今度は何したんですか、ルルくん……」

 

呆れ気味に、しかし総司に聞かれないようにそう聞いた岬に、ルルは「いえサーボモーターに魔力を通したらどうなるかというのをホームセンターで気になってしまって、購入してすぐにこちらの公園で試そうとしてですね」とあっけらかんと答える。

 

「バカタレが!爆発するところだったじゃないの!てか、それ以上になる可能性もあったわ!ふざけてんじゃねえぞ!!」

 

下僕の耳を引っ張るミナに、総司は「なるほど。買ってきた工具か何かを危険な使い方をしようとした、ということだろうか?」と彼なりの解釈で聞いてくる。

 

「ま、だいたいそんなところです。愚弟を殴らざるを得ない気持ちをわかっていただけると幸いです」

 

ミナはそうして総司に「お見苦しいところをお見せしました」と頭を下げた。

 

そして端の方の水道と調理台のあるスペースへと行って、総司に見られないようにバッグの中からいくらかの生肉やソーセージ、野菜などが入ったクーラーボックスを取り出した。

 

「あれ?ミナちゃんそれ冒険に持っていくつもりのやつではないです?」

 

「買い直せばいいでしょ。今はもうこのバータレのせいでそう言う気分じゃないわ……夜にどっか別の24時間スーパーで買うわよ」

 

不機嫌な低い声で、ミナはやらかしたルルを睨めつけた。

 

「下手すりゃあのまま魔物化して暴走するような魔力を注ぐんじゃない!」

 

「は~い……次はダンジョンでやってみます」

 

ミナはその言葉に「最初からそうしときなさいよ……全く。久々にやらかすかと思ったじゃない」とため息をついてクーラーボックスを肩に担いで総司の近くへと戻っていった。

 

「どうです、こんなもんで」

 

「こんなもなにも、いいのかねこれほど」

 

中を見た総司はミナを見てそう聞く。

 

ミナはひらひらと手を振って、「なーに、これから私もこいつも食べるんですし、全然いいですよぉ」とケラケラ笑った。

 

「うし。愚弟、とっとと下ごしらえするぞ」

 

「了解です、義姉さん」

 

カバーの身分をお互いに言いつつ、二人は調理台へと向かう。

 

その際、総司から「もうすぐ妹たちも来るだろう。ゆっくり準備していていいぞ」と言われた。

 

実際、下ごしらえが早すぎても問題ではあったが……

 

「あーもう来てるー!」

 

「おーい!岬ちゃーん!」

 

「あれ?ミナお姉さんとルルお兄さんもいる」

 

レジ袋やエコバッグにものをいっぱいに詰めて歩いてくる姿は、いつもの小学生三人娘であった。

 

「噂をすれば影、ってやつかな」

 

恋が自分も手伝おうと髪の毛をポニーテールに縛り直し、前髪をピンで止めながらニコリと笑う。

 

「買ってきたぞ総司にーちゃん!」

 

ななかが元気よく言って、袋の中から焼肉用の三種肉盛りセットを取り出して誇らしげに見せつけてきた。

 

「でもいいんですか?結構なお値段しましたけど……」

 

とおるが心配そうにそう聞いてくると、「うむ!俺のポケットマネーだ!遠慮はすることはない!」と総司は笑って最後の鯵を調味液へ落として「焼きびたしは準備完了だ!」と呵呵と笑う。

 

「そっちの肉は下ごしらえ必要なさそうね。じゃあ野菜とこっちの肉を下ごしらえしましょうか」とミナがそれに続いて微笑んだ。

 

「あれ?なんでミナさんたちがいるの?ボク、聞いてない!」

 

驚きながらも、かけるは歓迎しているよ、と言うふうに快活に笑って調理台の方へと走っていく。

 

「ふふ……どうやらあの後何かあったということもないみたいね」

 

ミナはそう独り言ちて安心したようにかけるを見つめた。

 

なにせまだ一月少ししかあの太平洋での死闘から時間が経っていないのだ。

 

経過観察を岬を通じてしてはいたが、心配は心配なのである。

 

彼女の、影山かけるという少女の体内にはまだ膨大な量の魔力がある可能性が高い。

 

完全に霧散したとはミナにもルルにも思えなかったのである。

 

「まだ油断はできませんが、とりあえず大丈夫そうで僕もほっとしました」

 

冒険のときに使うナイフを取り出して、鶏もも肉を綺麗に骨から外しながらルルも微笑む。

 

「あのままだと確実に死んでいましたからね。風化病も完全に治っているようで」

 

「わかってるけどさ。あのアニキのほうには聞こえるようには言わないでよね。絶対揉めるわよ」

 

ミナは唇を瞬時にへの字に曲げてルルを睨めつけた。

 

ルルはその視線に、「わかっていますよ。流石に日に二度はやらかしませんって」と全く当てにならない言葉を吐いてミナの表情をさらに曇らせるのであった。

 

 

 

「ッカー!やっぱ昼間っから飲む酒は最高だわ!」

 

大体の料理が出来上がったミナは、ビールのプルタブを開けて一気に煽ってケタケタと笑った。

 

「うむ!その気持ちは大いにわかるが、飲みすぎないでくれ給えよ!」と言う総司が飲んでいるのは―――プロテインを溶かした豆乳であった。

 

そしてササミと脂を切り取った鶏むね肉にピーマンと玉ねぎが刺さった串焼きを食んで、うんこれだ、と彼も笑う。

 

「お兄ぃ……こう言うときくらいちゃんと食べようよ……」

 

「む。そう言う約束だったな!だが、まあ最初に一杯と一本位は許してくれ!やはりこのプロテイン豆乳とササミ肉を少しは食わないと、食った気がしないんだ!」

 

牛肉とエビの串を持ったかけるに抗議された総司は、急いで豆乳を飲み干しササミ串を食い尽くす。

 

「うん、うまい!これで胃の調子は整った!」

 

総司が叫ぶように言って、次に取ったのは自分で作っていた鯵の焼きびたしである。

 

パッドの中で良い色に染まったそれを一つとって口に入れると、「うむ!よく染みている!本来なら一晩寝かせるのだが、これは今朝釣ってきたものだからな!この程度で十分食べられる!」と満面の笑みを浮かべた。

 

「釣ってきたって、蒼沫湾でですか?」

 

オレンジジュースをくぴくぴと飲んでいた岬が聞くと、「うむ。早朝6時からやっている海沿いの釣り堀があるのだ」と総司は答えた。

 

「かけるのたっての希望だったからな!」

 

そう笑った彼は、今度は焼肉セットから豚肉を十枚ほど取り箸でとって、串焼きが減りつつある網の上に乗せていった。

 

「わぁい焼肉!ななか焼肉大好き!」

 

ななかはどこからかトングを持ってきて、焼けていくのが楽しいのか何度もひっくり返していく。

 

「そろそろいいんじゃない?」ととおるが火が通った白い豚肉を見つめてななかに取るように促した。

 

「うーい!」

 

ななかはそうして取った肉をそれぞれの取皿にとって行く。

 

「よっし。じゃああたい特製―――ってか番組で教えてもらった特製タレで食ってくれ」

 

恋がタレを入れたボウルをテーブルに乗せて、小さなお玉を入れて「さあどうぞ」と微笑んだ。

 

にんにくとしょうが、それから玉ねぎのすりおろしにごま油と醤油、それから少しだけ砂糖と山椒が入っていた。

 

本来なら酒をレンジで温めてアルコールを飛ばしたものを混ぜるが、野外のためレンジは使えないし、万一のことがあるため使っていない。

 

そのため本来のレシピよりも砂糖を少し多めに入れ、醤油は減塩のものを使っていた。

 

「おっ、これいいわ。おいしい。うん、にんにくだけのタレもいいけど、生姜入れるのもいいわね」

 

ミナはビールを飲みながら、豚肉―――豚ロースをそのタレにつけて食べてニッコリと笑う。

 

「いいでしょ?山椒は好みかなって思うけど、あたいは好きなんだよね」

 

ななかと一緒に次々に肉を網に乗っけていく恋は、そうしてそろそろ焼くのに疲れてきたのか、自分の分として取ってもらっていた肉を食べる。

 

「うん、これこれ」

 

何がこれなのかはわからないが、恋は舌鼓を打ちながらそう言って綻ぶように笑顔を見せた。

 

「ところでルルお兄さんはあちらで何をしてるの?」

 

取皿に上げた焼き野菜と串焼きに塩コショウを振っているとおるがそうミナに聞いてくると、ミナは「変なことやらかそうとしたから、飯盒でご飯炊かせてるのよ。ま、あいつの分は取ってあるから気にしないで食べなさいな」とにこやかに手に持った缶ビールを彼女に向けながらそう返した。

 

「えー、可哀想じゃないですか?」

 

「もう少しで公園で爆発騒ぎだったので、これでも軽いほうなのだわ」

 

ミナの顔を覗き込むように見つめてきたメガネっ娘に、ミナはとほほな笑みを浮かべながらそう答えてやると、「ええ……?」とかすかに引いていた。

 

「なんでも買ってきたサーボモーターに細工をする実験を公園でやろうとして、ミナくんにぶん殴られたようだ!仕方がないことだな!」

 

別の鉄板で焼きそばを焼いている総司がそう言うと、ななかが「さーぼもーたー……?」と不思議そうに首を傾げながら、良く焼けてきた焼きそばにとんかつソースとウスターソースを注ぐ。

 

「うむ。速度制御用のモーターだな!ラジコンなどにも使う!彼の買ってきたものはホビー用のもののようだ!」

 

掃除の言葉に「そんなのを公園でどうしようと……」ととおるは当然のように戦慄していた。

 

「ほら、怖いに決まってるでしょう」

 

ミナは呆れたように一言言ってビールを飲み干し、500mlの空き缶ををゴミ袋に投入する。

 

その言葉を誰に聞かせていたかといえば、当然のように―――

 

「わかってますってば。ちょっと好奇心に負けただけじゃないですか」

 

ルル本人に、であった。

 

「ん、炊けたみたいね」

 

「ええ。後は蒸らすだけなのでこちらに」

 

トン、と軽快な音を立てて飯盒は食卓の上に置かれる。

 

「……なるほど。五合炊き二つか……焼きそばもあるし食いきれるか不安だな!」

 

だが、この程度食べ切れねば日本男児として不甲斐なし!と叫んで、焼きそばの調理に更に力を入れ始めた兄に「お兄ぃうるさい」と聞こえないように小声で言って、かけるは大きなため息をついた。

 

「はぁ~ほんと言っても聞かないんだよねぇ、お兄ぃ……」

 

「いいじゃない。家族とは一緒にいるうちは疎ましく思うけど、離れれば寂しくなるものよ」

 

ミナは今度はワンカップを開けてそう笑う。

 

内心では、離れてせいせいしたというケースも多く存在することは知っていても、この場で言うほどミナは無神経ではなかった。

 

「そういうもんかなあ?」

 

「そう言うものよ。私も……まあ、うん、そういう経験はあるから」

 

ミナは冒険に出た頃の自分を思い嘆息する。

 

あのときは父シリウスには大反対され、母ララにもやんわりとたしなめられた。

 

それでも冒険に出たいというミナに、いつしかララは賛成に回り、父は……渋々ながらも同意してミナのために冒険者道具を見繕ってくれたのであった。

 

それをあの遺跡で失ったときは、そのときは大変だったのでそうは思わなかったが後で大変悔しく思ったことを勇者は思い返す。

 

名を伝えられぬ山人の王との再戦の際、返してくれるなら自分の弓ではなくシリウスがくれた鎧か短剣を寄越せ、とミナは思って瞑目した。

 

「はぁ……ま、ままならないことはあるってもんよ。家族には甘えられるうちに甘えておくと良いわよ」

 

ミナはそうして、かけるの紙コップにオレンジジュースを注いであげる。

 

「ありがとう、おねえさん」

 

「どういたしまして。さて、じゃあ焼きそばが出来たみたいだから食べましょうか」

 

「はーい」

 

鉄板の前でななかと総司が呵呵と笑いながら、焼きそばを取皿に分けていた。

 

それを横目にプラスチックの丼にルルがご飯をよそっている。

 

「ミナさん。わかってますよね?」

 

「ハッハッハ。この程度食べきれないほど鈍っているわけないじゃない」

 

ルルが一升も飯を炊いてどうするんだ、という目でミナを見るが、彼女はどこ吹く風でモリモリに飯が盛られた丼を彼から受け取る。

 

「ここには肉と鯵と焼きそばがある。それもオイスターソースとウスターソースで味付けされた味の濃そうな。それで私が3合4合飯を食べられないわけがないッ!!」

 

速いペースでガバガバ飲んでいるせいか、意味のわからないことを言いながら串焼きを頬張り、米でそれを追いかけるミナを見て、従者は「早く食べないとライス全部ミナさんが食べてしまいますよ!」と微笑みながら料理班に声を掛ける。

 

「何よ、失礼な。それじゃあ今度は私が肉を焼く番かな!」

 

ミナはそうして立ち上がると、もう500ml缶を何本も開けているとは思えない軽快な足取りで調理台へと向かい、クーラーボックスの中のエビやホタテを串焼きにするために下ごしらえをしていく。

 

「私の米は食べないでね―!」と言うミナに、ななかが「だいじょーぶ!多分、ななか焼きそばで十分だから!!」と元気な声で返答する。

 

焼きそばの量は、見ればおそらくは2kg以上は軽くあり、米と合わせればどう考えても小学生5人と大人二人では食べ切れないと思える量であった。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。私はガッツリ食べれるから」

 

ミナは腕まくりして、全然平気という顔で鉄串にエビとホタテ、ピーマンと人参を刺していく。

 

その様子に総司は「ルルくん。あの女人はあれで泥酔していないのかね?」と聞いてみた。

 

「残念ですが、ミナさんが泥酔するというのはありえないことなので」と諦めた笑顔でそう返したルルに、総司は「……苦労しているのかな?」と更に言葉を返す。

 

ルルは「そこはそれ。今日の件を見ればわかるように、お互い様ってやつです」と皮肉げに、楽しげに笑うのであった。

 

 

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