異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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12月31日。
大晦日である。
本日から別の深夜バイトさんが入ったということで、無事元朝参りへ行けることとなったミナたちは、護国神社へ向かう前に今まで何やかやで行けていなかった「中華の伊坂」で夜食を摂っていた。
普段は21時には閉まるこの店も、大晦日だけは0時過ぎまで営業している。
昔からなので、何かの習慣なのだろう。
昔はブラウン管テレビが置いてあったであろう、台座のサイズが若干あっていない古めの液晶テレビには紅白歌合戦が写っている。
今年は最近はあまりバイクに乗らない某等身大特撮ヒーローシリーズの最新作の主題歌もエントリーされていたが、ミナにはそれしか最近の歌はわからないのでBGMとして聞き流していた。
「どうぞ、タンメン、餃子、瓶ビールです。年越しそばは食べてきましたかな?」
料理帽を目深にかぶった怪しいおじさんが注文の品を持ってくる。
「ちゃんと食べてきましたよーありがとうございます」
それを聞くと、店長らしき怪しいおじさんは「ごゆっくり」と怪しい含み笑いをしながら去っていく。
「……怪しい」
「昔からだから、あの店長」
ルルのジト目をミナは無視して、タンメンに目を輝かす。
「これこれ、この町中華のふつーのタンメン。野菜炒めたっぷりの。こういうのでいいのよ、こういうので」
麺の上に乗っている野菜炒めを咀嚼し、麺をすすってビールを飲むとミナはそう言って笑った。
「ミナさん、ホントにまたあの神殿に行くんですか?」
机に突っ伏して不機嫌を隠そうともしない声がミナの耳朶に届く。
しかし、ミナは動じずに返した。
「流石に一度報告には行かなきゃならないでしょう。道路を直してくれたのもあの神様だろうし。なんでも……とは言わないけど、契約に関すること、エロいことと周囲に被害を及ぼすこと以外なら一個言うこと聞いてあげるからそれでいいでしょ?」
「まあ……それならなんとか……ハァ、僕はノーライフキングなんですよ?リッチーなんですよ?」
「この1世紀半はそれ以前に私の下僕でしょうに。何を今更」
ミナが餃子をおかずにタンメンをすすりながら言うと、ルルは不満そうにため息をつく。
「だいたい手水舎の水に触れたりしなきゃ痛くも痒くもない程度の聖なる力しかあの神社には残ってないし、そんなに気にする?」
「気にしますよ。行ってる最中に破壊神様の神託が来たりしたらどうするんですか」
指を立てて抗議するルル。
破壊神のオラクルがあればどうなるのかは言わなかったが、何かが起きることがわかる。
善神の神殿に行きたくない理由は色々あるようだが、それも一つの理由のようだった。
ミナはあっけらかんと「そしたらその時は殴ってでも止めるし……このやり取り何回目だっけ?」と返す。
ルルはまた一つため息をついて、「347回目です」と答えた。
「年2回ペースとは思ったより少ないわね」
野菜炒めのなかに入っているチャーシュー代わりの肉を口に放り込んで、コップのビールを飲み干してミナは言う。
「我が街で何が起きているか、何をしなきゃいけないか、何をしたいのか、ちゃんと見極めないとね」
ズル、と麺を一口。
そして「すいませーん!チャーハン追加で!」と追加注文をする。
窓の外に見える商店街は、半グレたちが消えたことでこんなイベントの日でも人通りは少ない。
飲み屋は営業しているが、酔客たちもこの日くらいは静かに飲んでいるのだろうか。
そんなことはないわね、と表を頭にネクタイ巻いた酔っぱらいが数人フラフラしながら「次へ行くぞ!」と叫んでいる光景を目に、ミナは思い直す。
この街で何をしたいのか、何をするべきか、何をしなければならないのか。
この世界の便利なものの仕組みを知って帰る、という漠然としたものではなく。
必ずこの世界でのはっきりした使命があるのだ、と妖精勇者はタンメンのスープを飲み干すのだった。
科戸護国神社は科戸山の標高700mほどの場所にある神社である。
わざわざこんな高い、ロープウェイなどの機械的な交通手段もない場所に元朝参りに来るものはほとんどいない。
それも深夜に移動する二年参りともなれば、危険すら伴うためまず誰も行かないのが常である。
だからこそ、ミナには好都合であった。
道中は誰もおらず、魔法によるブーストで楽に来ることも見られていない以上楽ちんである。
ルルを階段前の鳥居のところで待機させると、ミナは階段を三段飛ばしで飛ぶように登っていく。
登った先には、きちんと篝火が炊かれて巫女さんが一人いた。
上に登ると、ちょうど時計の針は0時を差す。
新年の幕開けはあっけなく訪れた。
神社を見渡せば、おそらく森北山町の神社を管理している地元の人が数名、神主とともに社殿の中に待機しているのが見える。
ミナは手水舎でお清めをして、鐘を鳴らして賽銭を入れお参りを済ますと、そのまま帰るふりをしてインビジブルを唱えて社殿の裏へと回り込む。
夜目の利く森人には月の出ている夜など、日が出ているのとそう変わらない。
シャリシャリと落ち葉を踏みながら、神様と出会った場所まで訪った。
場は静寂に包まれて、なんの気配もしない。
ミナはその場で丑三つ時が訪れるまで、待った。
すると、気が遠くなるようなめまいがして、気がつけば辺りは明るく―――太陽のない明るい森に彼女はいた。
―――まずは感謝を。森人の勇者よ。
厳かで優しげな声が空間に響いた。
「いえ、当然のことをしたまでです……ですが、教えていただきたい。アレは私がこちらに帰ってきたから起きたものなのでしょうか」
ミナは胸に手を当て、声の主に質問をする。
―――少なくとも、君がいなくともアレらは起きていた。それだけは答えよう。
「……そう、ですか」
―――ここに来てはいけない、と私は言ったね。それを破り、ここへ来たのは何故かな?
俯く彼女に声はあくまで優しくそう聞いた。
「私も、感謝を告げに参りました。道路を直してくれたのは貴方なのでしょう?」
顔を上げたミナに、声は答える。
―――気にすることではないよ。さあ、帰り給え。冒険の報酬はきっとこのあと、あの四分の一が闇の森人である老人からいただけるだろう。
「……わかりました。では、最後にもう一つよろしいですか」
ぎゅ、と拳を握ってミナがいうと、声も「いいだろう」と返す。
「―――私の戦車を、この世界にお返ししたい。なるべく、穏便な方法で。チハたんは……九七式中戦車はこの世界の、この国……私の前世の祖国に存在するべきだと思ったのです」
ほう、と感心したような吐息が聞こえた。
しばらく声の主は迷ったように沈黙を保ち、やがて答えた。
―――承知した。お安い御用だよ、その程度なら。
「ありがとうございます」
肯んずる声に、ミナはチハをバッグから取り出して、地面に出した。
「もう一度、感謝を。ありがとうございます。それでは後は然るべきときまで、決して訪わぬようにいたしますので、どうかご容赦を……」
ミナは踵を返して、森を出る。
森を出ると、やはりそこは元日の夜。
ミナは振り返ると、ふっと笑った。
―――笑って。
足元に一粒の飴玉が落ちていることに気がついた。
否、それは周囲にいくつも。
パラパラと所々に落ちていた。
不審なものを感じるが、それはただの飴玉。
それは境内にもパラパラと落ちていて、鳥居の外には一つも落ちていなかった。
巫女さんや神社の管理者の人たちに聞けば、突然、ちょうど数分前にバラバラと降ってきたのだとか。
ミナは踏んづけたら危ないと思い、目に付く場所の飴玉を社務所の巫女さんや神主さん、管理人さんたちと一緒に拾い集めることに決める。
決めて少女は思う。
―――やっぱり、この街、やばくない?と。
―――掃除が終わったのはもう午前3時を過ぎたあたりで、そのあまりの長さにルルが非常に不機嫌になっていたのは言うまでもないことであった。
おお塩かーおお醤油かーおお味噌かー
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