異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第210話「葡萄……?」

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そうして昼が過ぎ、肉も焼きそばも大体が消費された頃。

 

総司はもう成人しているため、ミナと酒を飲みながらカードゲームを行い、それにはルルも参加している。

 

子供組はそれぞれに持ち寄った携帯ゲーム機―――かつて発売したコンシューマ機に鈍器が混じっていたという頑丈志向のゲーム機を作る会社の携帯ゲーム機にしては少し大きめなパーティーゲーム機とでも言うべきそれで対戦ゲームを楽しんでいた。

 

「うーん、ストレートフラッシュ!」

 

「ふっ!此方はロイヤルストレートフラッシュだ!これで君の全身をえぐり取ってくれよう!!」

 

「あ、こっちブタです」

 

三者三様に手札を出し、結局ポーカーの勝敗は総司が1位、ミナ、ルルがそれに続くという形になっていた。

 

あたりを見渡せば、同じようにバーベキューをしていた人々ももう殆どいなくなっていて、長居しているのは酒を飲んでいるミナたちだけになっていた。

 

「ふむ!そろそろお開きにするべきかな!?」

 

「いやいや。まだ食材は残ってますし、お酒もまだまだありますし」

 

ミナはクーラーボックスから、2リットルのビール缶を取り出して総司のプラコップに注いでにんまり笑った。

 

「まぁ俺も別にまだ酔っているわけでもないからな!付き合おうじゃないか!どうも飲みたい気分でもあるのでな!」

 

わずかに、わずかに沈んだ声の気配を、その強い言葉にミナはかすかに感じる。

 

感じてしまったのであれば、それに対して聞いておかなくてはいけないというのがこの若くして―――否、種族的な寿命からすればもはや幼くして勇者となった少女には当然のことである。

 

ミナは慎重に言葉を選びながら、彼が飲み終えたビールのおかわりに焼酎水割りを注ぎながら聞いてみた。

 

「……アスリートのあなたがこうも飲みたいということは―――なにかありましたか?」

 

ミナがそう言うと、ルルもまた「話していただけると僕らも助かります。その、僕らにとっては妹も同然の岬さんの友人の兄のこと。問題があるのなら、解決しておきたくなるのが人情というものではないでしょうか」と彼に焼けたエビ串を差し出しながら微笑んだ。

 

その二人の森の民の美しい笑顔に、青年は「う、むう」と困ったように小さく呻く。

 

そしてやがて「妹には、かけるには内緒にしていてほしい」と彼とは思えぬほどに小さな声でつぶやいた。

 

一瞬一瞥した彼の妹は、その言葉には全く気づかずにゲームを楽しんでいる。

 

その様子に微笑んで、総司は「実を言えば、タイムが伸び悩んでいるのが問題だ。歳としても20代故、たしかに10代の頃に比べれば伸び悩むようになったのは確かなのだが……」と唇をへの字に結んで腕を組む。

 

「―――なにかに阻害されているかのように、身体が重くなることがしばしばある。それも全力で走っている最中のことだ」

 

そして、意を決したように串焼きをがぶりと食んでミナとルルを見た。

 

「そんな時、不思議なことに葡萄の、それも上等な葡萄の香りがするのだ。不気味なことに」

 

その真剣な目は嘘や冗談の類ではないことを示していた。

 

「葡萄……?」

 

ミナはその言葉に、先日の岬と恋の電話を思い出す。

 

シャインマスカットめいた獣を恋が発見し、取り逃がしたこと。

 

そして、彼もまた影山家の人間……ノトス―――アウステルと無関係ではない可能性がある。

 

ミナは「ふむ……」と顎に手を当てて数秒間思案した。

 

「ルル」「承知しました」

 

ミナはルルがポケット―――とつながっている無限のバッグから取り出したリストバンドらしきものを総司に差し出した。

 

「……これは?」

 

「呪い、みたいなものでしょうか。試しにこれを身に着けてみてください。あ、いえ決して心霊商法の類ではないのでご安心を」

 

ミナが酔いなどどこかに置いてきたような真剣な口調でそれを彼の手にほとんど問答無用で巻きつける。

 

すると―――「む……?」と総司はかすかな違和感を感じたようであった。

 

「非科学的に映るかも知れませんが、ちょっとした護符です。お守り代わりに持っていてください。どうか身体にお気をつけて」

 

ミナはニッコリと笑って彼の手を握る。

 

胡散臭く思われるだろうから、調和神への祈りの言葉は心のなかでだけつぶやいた。

 

「む……美人にそう言われては悪い気はせんな!それにこのバンド、不思議と安心感がある」

 

総司はつけられたリストバンドを見て、少し微笑んだ。

 

そのバンドは……以前に茜に渡した災難除けのハンカチと同じく、黒の秘布で編まれた精霊封じの布腕輪である。

 

人間の身体に取り付ければ、それは乱れた精霊力を抑えて正常化してくれる治療用のアイテムなのだ。

 

おそらくはあの葡萄の怪物は無関係ではなく、そしてミナにはかすかに……本当にかすかに精霊力の乱れが感じられた。

 

故にこの装備を渡し、様子を見るというのがミナとルルの考えであった。

 

「まぁ、気休めですけど……しかし、いつぐらいからそんなことに?」

 

「うむ。実はこの間かけるが夢遊病が如くに出ていった日の翌日辺りからだろうか」

 

既に一月以上は経っていて、医師にも相談しているが原因がはっきりしないのが現状だという。

 

その始まった時期と原因不明であることからして、ほぼ間違いなくかけるの事件の残滓と言える出来事であった。

 

「まぁ、無関係の人に話して少しは気も楽になった!うむ!飲むか!」

 

総司はそうして自分のプラコップに焼酎を注いで、炭酸飲料で割る。

 

ミナはその様子を一瞥して、ルルに「調査するわよ」と小さくかすかな声、それもエルフ語で話しかける。

 

「もちろん。間違いなくあの件の続きですからね」

 

ルルはそう答えて、ミナにビールを渡した。

 

「っじゃーかんぱ~い!」「うむ、乾杯!」

 

再び酒の入ったコップをぶつけた二人に、ルルはため息をつく。

 

―――また厄介なことになることだけは間違いがなさそうだったから、である。

 

 

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