異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第211話「所詮は獣ね……バグモンスターとは違うか」

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バーベキューが解散になった後、岬と恋は二人でシャインマスカットの怪物が消えた路地へと来ていた。

 

ミナから総司の件を聞き、調査にやってきていたのである。

 

ミナとルルも近く……中華の井坂で待機しているため、何かあってもバックアップは問題ない状態である。

 

「しかし、今度はかけるちゃんのお兄さんに厄介事なのですねえ」

 

「まぁ、予想の範疇と言えば範疇じゃないかなぁ……かけるちゃんと血がつながってないわけじゃないんだから、そりゃああのロリコンショタ精霊と無関係じゃないでしょ」

 

恋は変身して、その白いドレスのまま路地裏をうろうろし、その後ろを変身せずにステッキだけを装備している岬が続く。

 

「いやに入り組んでいるね、ここら」

 

「駅前再開発失敗の名残なのです。ここらへんの元気ないビルが撤去されていけばスッキリもしていくと思うのですが」

 

地元っ子の岬がそう言って、ステッキの先に明かりを灯す。

 

「とはいえ、まだ7月の夕方6時なのにこの暗さは異常だと思いますですけど」

 

やっぱり何かあるな、と諦め気味の笑みを岬は浮かべて恋へ振り返る。

 

すると、そこには―――ギョッとした目で視線を上におくる恋がいたのであった。

 

「ッ!?」

 

そのただならぬ様子に、岬は同じく恋の視線の方向を見つめると―――

 

そこには壁に張り付く碧色のかぐわしい香りを放つ怪物が。

 

そしてその周りには―――

 

「……針金で出来た、林のような……」

 

廃ビルと廃ビルの間には、針金で作られた樹木のような飾り付けをされた柱がいくつも立っている。

 

それはどこか異様で。シャインマスカットの怪物の褥のようにも見えた。

 

『ヴォ!?』

 

岬が視線を向けつぶやいて、数瞬の後。

 

シャインマスカットの怪物は、見られていることに気づいたのが驚きの声を上げて5メートルほど壁を登る。

 

気がつけば太陽の光は全く見えない。

 

空も同じだ。

 

黒で覆われている。

 

――― 一面の黒。

 

明らかに異空間になってしまっている周囲を見回して、岬は落ち着いた声で―――

 

「想定内なのです」とつぶやいた。

 

「……いや、大丈夫なん?ミナねーちゃんたち、来れっかな……」

 

恋が不安そうに岬に問いかけると、岬は「なぁに。あたしたちもミナちゃんもヒーローなのです。ヒーローがこの程度でくじけるのは、限界リアリティ勢のアメコミかリブート失敗した特撮くらいなのです」と笑った。

 

笑って、闇に覆われたビルの間の小さな空を見れば―――すぐにも。

 

そこが一点、ひび割れて―――

 

「くそったれがぁぁぁぁぁぁ!!」と叫びながら、空間を割って森人の勇者が空を駆ける。

 

「ほら、やっぱりミナちゃんはとっても頼りになる人なのです」

 

岬が少し自慢げに、少しの慈しみと微笑ましさを交えた笑顔で飛び出してきたミナを見て「こっちなのでーーーす!」と大越で叫んだ。

 

「そっちか!ちょっと待ってなさい!!シルフよ、風の乙女よ。我に風を受け取る翼を与えよ!」

 

空から自由落下してくる影、それが不可視の翼を生やして速度を抑えて降りてくる。

 

地面にスタリと小さな着地音を残して、岬の前にミナが降り立った。

 

「無事ね?」「だいじょぶなのです!」

 

ミナの心配に即座に返して、岬はステッキをかざして変身した。

 

「……なんなのかしら、これ。確かにあん時の葡萄に見えなくもないけども……」

 

ミナはかつての……ナターシャたちと冒険したときのことを思い出して嘆息する。

 

―――その時の苦渋も思い出して、嘆息する。

 

「しかもここらへん、もうダンジョンみたいになってきてる……私でもバグの気配が強く感じられるしね……」

 

あたりをちらりと眺めると、「固まって離れるんじゃないわよ」とつぶやいた。

 

上を見れば、シャインマスカットの怪物はなにかに安心したのか『ヴォオオオオ……』と汽笛のような声を立てながら、どうやら眠ってしまっているようだ。

 

その安心した理由は……

 

「ていっ!!」

 

恋がなにかに気づいて、鎌から切れ味の強い魔力の刃を放った。

 

すると、それが衝突した場所に―――真っ二つになったウサギが倒れていた。

 

「う、ウサギ……?」

 

「気をつけて!多分―――」

 

瞬間、ミナは杖を掲げて魔法を唱えた。

 

「世界を調律する我らが祭神よ!その御手を盾として我等を厄災から守り給えぇ!プロテクション!!」

 

魔法が発動するが早いか、暗闇の中から無数の目が煌めき、同時に展開されたプロテクションに同じく無数の真空の刃が突き立っていく。

 

ちょうど、ミナたちの首を狙う位置に。

 

「やっぱり首狩り兎か!こいつら、首ばっか狙ってくるからね!!」

 

そう、暗闇から飛んできた刃の主、それは―――

 

『クゥ……クゥ……』

 

静かな鳴き声、否、気道が起こす摩擦音のような声が聞こえてくる。

 

ヴォーパルバニー。

 

即ち、人間や動物の首を狩り、そして食らう人食い兎の群れが現れたのだ。

 

「も、○ンティ・○イソン……!」

 

「うーん、私はW*Zのが先に思い浮かぶわねえ……」

 

「いや、どっちもあんまりわからないし!」

 

此方の世界での首狩り兎の元ネタと、そのパロディを思い浮かべる二人にツッコんでから恋は魔法を唱えだす。

 

「喰らえ!ミストレル・フレア!!」

 

叫びと同時に鎌の先から炎の弾が放たれ、それは正確に首狩り兎の一体を燃やし尽くす。

 

兎たちは、本物のそれと同じように声帯を持たないのか『プゥプゥ』『クゥクゥ』と空気が漏れるような音を立てながら、恐怖すらも感じていないかのごとく仲間の焼けた屍を踏みつけて岬たちの視界へと入ってきた。

 

「うーん、何度見てもこれは可愛いウサギにトラウマ出来る光景」

 

ミナはプロテクションを維持しつつ、左手にブーメランを持ってそう笑う。

 

目が爛々と輝き、敵意を浮かべて牙をむき出すそれは兎というよりもどちらかと言えばネズミを彷彿とさせる風体だ。

 

それが群れをなして襲いかかってくるのは、確かに兎を可愛いとだけ思っているものには不気味に映るだろう。

 

「とりあえず死ねぃ!」

 

ミナはそんな兎たちを一瞥してブーメランを思いっきり振りかぶってぶん投げる。

 

投擲したブーメランは、ヒュンヒュンと風切り音を立てながら弧を描いて七匹ほどを一度に引き裂いていった。

 

『……!』

 

兎たちは、目の前の存在が一筋縄では行かないことを確信したのか、驚きの表情―――と言えば良いのか、表情を歪めて進撃を一瞬止める。

 

「所詮は獣ね……バグモンスターとは違うか」

 

「あれはバグではないのです?」

 

岬が油断せずに兎たちを睨めつけながらそう聞くと、ミナは「うん。アレは魔物ではあるけどもダンジョンで生まれたものではないようね」と唇を歪めた。

 

それが何を意味するかと言えば、即ち自然に彼らが生まれる素地が……繁殖地が存在するということなのだ。

 

「放置はまずいわね……」

 

前回のグレムリンと同じ邪神の仕業とは思いたくはないが、それでなくともヴォーパルバニーなど繁殖されては溜まったものではない。

 

動物の首を飛ばすことを至上の喜びとする肉食兎が市中に現れたらあっという間に地獄絵図の誕生である。

 

ここで殲滅する以外の選択肢はなかった。

 

「これが例のアレと同じ兎だというのなら、絶対に逃すわけには行かないのです。聖騎士だって首を刎ねるのですよ?」

 

岬がそうして杖を首狩り兎たちに向けて、「行きますですよ、恋ちゃん」とサンダーバード・ストライクの態勢に入る。

 

程なくして首狩り兎たちは、調和神より授けられた聖なる壁を突破することもできずに、ほとんどすべてが肉片となって散華していった。

 

 

 

プスプスと美味しそうな匂いを出しながら焦げている兎を見て、恋は一言「うーん、肉をしこたま食べてきたあとにこれはきつ~い」と冗談めかして天を仰いだ。

 

仰いだ方向にはまだ汽笛のような寝息を立てているシャインマスカットの怪物がいて、恋はげんなりしてしまう。

 

「あれ、どうする?」

 

「少なくとも捕獲はしないとね……アレがこの空間を作ってるとは思えないし」

 

ミナはセンスオーラとセンスマジカルで精霊力と魔力を測ってみるが、空間に影響を及ぼすほどの能力を持っているとはとても思えないものだった。

 

しかし、総司が感じた葡萄の香りといい完全な無関係とも思えないのだ。

 

そこまで考えた時、後ろから見知った気配……ルルが空間の中に入ってきた。

 

「あれ?!ルルくん!?」「いつの間に……」

 

「ミナさん、無事みたいですね」

 

「そりゃあこの程度ではね。それよりどう、ここ」

 

岬と恋がどうやって入ってきたのかと聞きたげにしているのをスルーして、ミナはこともなげにルルに聞いた。

 

ルルはしばらく逡巡して、しかしやがて意を決して言葉を紡ぐ。

 

「……ダンジョン化の結界がここらの駅前廃ビル群にかけられていますね。ここはほんの一部です」

 

首を横に振って、ルルは「大変危険なことになっています」と唇をへの字に曲げた。

 

「仮にここがこのままバグダンジョン化して、そこで死んでいるヴォーパルバニーがバグモンスター化して外に出たとすれば、あっという間に2~30人は犠牲者が出ることでしょう」

 

今はまだ、向こうの世界の魔物が持ち込まれた―――召喚され繁殖しただけだろう、とルルは判断する。

 

幸いにして行方不明者が急に増えたという話はない。

 

少なくとも空悟は把握していないのであれば、この危険な兎たちが這い出ているということはなさそうなのだ。

 

「ただ、以前もブラウウォルフが研究所の上層ダンジョンの外に出てきたことがありますからね。油断はできません」

 

研究所をまだ発見していない頃、一度ブラウウォルフらしき狼の魔物が交通事故で死ぬという事故が起きている。

 

よって、兎たちやシャインマスカットの怪物がここから這い出て被害者が出る可能性は十分にあるのだ。

 

「入り口になる場所は?」

 

「3箇所。総て塞げるレベルですが、今後増える可能性は非常に高いですね」

 

ルルはため息をついてそう答えると、一つ握った礫を闇の中に放った。

 

すると『プギュッ!』と空気が爆ぜるような声がして、地面に血が流れてくる。

 

どうやら首狩り兎の生き残りのようであった。

 

「このとおり、まだまだこの路地裏の迷宮にはこの首狩り兎―――だけではなく様々な魔物が生息しているようですから」

 

シャインマスカットの魔物が寝息を立てているのを睨めつけ、ルルは唇をへの字に曲げる。

 

「アレは……おそらくはキメラのたぐいでしょう。バグの気配が薄く、しかし明らかに自然の存在ではありませんからね」

 

リッチーであるルルにはそれがすぐにわかる。

 

しかし、気になるのは―――

 

「葡萄の匂いが体調を悪くするときには必ずすると総司殿が言っていたのが気になりますね。捕えますか」

 

そう、影山総司のここ2週間ばかりの不調の原因の可能性があるという点である。

 

故に、ルルはあの魔物を捕らえることをミナに提案した。

 

ミナはその言葉に、「そうね……」と小さくつぶやき、精霊への呼びかけを始める。

 

あの魔物自体が森の属性を持つのか、ミナが無理に呼びかけなくともそれは現れてくれた。

 

「優しく麗しく淫らなる森の乙女ドライアードよ。その腕で我が敵を覆え。その愛で我が敵を縛れ」

 

精霊術アイヴィーロックは、シャインマスカットの怪物の近くからドライアードの気配とともに現れて魔物を縛っていく。

 

『ヴィッ!?』

 

怪物はくぐもった悲鳴を上げて逃げようとするが、惰眠を貪っていたツケは大きかった。

 

『ヴォァァァァ!?』

 

逃げ出す暇もあらぬほどの速さで蔦は怪物を包み込み、怪物は身体を壁につなぎとめることができずに落下していく。

 

「後は……車にでも詰め込みますか」

 

「うへー汚れそ。ま、いいけどね……掃除するし」

 

ルルの提案にミナは辟易した声音を漏らし、そして岬たちを振り返った。

 

「とりあえず二人は私と一緒にそいつを持って外に出ましょう。ルルは先に出てほか二つの入り口を潰してきて」

 

「承知しました」

 

岬と恋がうんと言う前にルルは返事をして踵を返す。

 

当然のように外から塞いだほうが効率が良いからである。

 

「……市中にまでダンジョン化の魔の手が及んでいる。時間は本当にない……」

 

ミナが珍しく焦りを滲ませて言葉を紡いだ。

 

「ミナちゃん……?」

 

「なんでもないわ。なるようになれ、ならんならなるようにするだけよ」

 

ミナは少しだけやけくそのようにそう言って、この異空間の出口を目指すのであった。

 

 

 

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