異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第212話「あの、服まで剥がしてほしいとは言ってないんですが……」

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―――そして、科戸研究所。

 

『結論から言えば、これは人間の生命力と―――有り体に言えば運を吸う生き物だ』

 

宙に浮かぶ骸骨―――薺川博士は嘆息してそう答えた。

 

「やはりそういうことですか……」

 

ミナも同じ結論に達していたのだろうか、不機嫌そうに唇を歪めて嘆息する。

 

『生命力は言わずもがな。運―――というかこの怪物の周囲では確率が歪んでいることが判明した』

 

薺川博士は実に興味深い、とワイヤーと特殊な布で簀巻きにされている怪物を見てカラカラと笑った。

 

「また特殊なキメラを作ってからに……邪神の、あのスフルタトーレとかいうクソ女の仕業……と思うけど」

 

ミナはそうして「それにしては随分と胡乱なお話ね」と首を傾げた。

 

直接的に人を皆殺しにするようなヴォーパルバニーたちを使った作戦……ならもう少しわかりにくいようにするはずだ。

 

むしろミナにはこのシャインマスカットと猫科のなにかを合成したようなキメラこそ女の本命であるような気がしたのだ。

 

「総司さんから生命力と運勢を搾取していたのよ、こいつは」

 

ミナとルルが調べた限りでは、このシャインマスカットの化け物は隠密能力を持っていた。

 

そして市内でトレーニングしている総司の近くに出没していた可能性がある―――こいつか、あるいはこいつの同族が。

 

二人はそう睨んで、しばらくの間総司のところに使い魔を送り込むことにしていた。

 

「市内全域をカバーする哨戒網を構築しなければならんな、これは……」

 

バイトを終えて研究所へ来ていたのは夕だ。

 

廻は恋をみはるの家に送り、今頃は岬と茜と一緒に家で待っているはずだ。

 

「科学的なものだけじゃなく、魔術的なものでも作らないと真面目に手が足りなくなるわ……このままだと」

 

ミナは焦燥をわずかに声に滲ませて唇を引き絞り眉を顰める。

 

「まぁ、今のアイテムの数では無理がありますね。科学的な方はより問題です。上層のゾンビやヴァンパイアを僕が改造して使っても良いと言うのなら、日の差さない場所だけならカバーできますが……」

 

ルルは研究所上層や更にその上の神社地下のダンジョンのアンデッドたちを使役する方法を提案するが、本人の表情は乗り気ではないようであった。

 

その従僕の顔色を見て主人である勇者は「やりたくないならやりたくないっていいなさいね」と珍しくルルに優しい口調で窘めて、「とりあえずそれは最終も最終手段よ。下手に使って露見したらコトだわ」と却下する。

 

当然のことだが、そんなものが露見すれば大騒ぎになることは請け合いである。

 

「どっかの元エロゲメーカーの伝奇小説めいた世界じゃないんだし、バレるときはバレるからね。この世界に魔術な協会とかあればいいのに」

 

ミナはそうして天を仰いだ。

 

いくら茜が水道局―――この街の神秘というか、グリッチ・エッグの存在を隠している『らしい』組織の人間と言えど、完全な隠蔽など無理に違いない。

 

それも市内全域となれば。

 

「ふー……さて、ここからどうするかしら」

 

『……アレの復活はあまり考えないでくれよ。アレは世界の秩序を根本から壊しかねない』

 

ミナの嘆息に薺川博士はそう窘めて、ミナもまた「いや、真面目にそれは最終手段ですし」と微笑む。

 

『ならいい。封鎖した区画はどうするのかね?』

 

「母と副市長に相談しようと思います。あのままにしておいても、誰か廃墟好きが入り込んで行方不明では寝覚めが悪いですから」

 

ミナはそう返して、シャインマスカットの化け物に近づいていった。

 

「……幸い私にはこの魔物の特殊能力は効かないですね。ブラックリボンが防いでくれています」

 

そしてルルはヒトコシノミコトの加護を得ているため、こちらも当然効くことはない。

 

そんな主従は顔を見合わせて、「ダンジョン」「行きますか」となにかを諦めたかのように微笑むのであった。

 

 

 

何をおいても今必要なのは、使い魔を召喚するための触媒と、スターピアスを修復するための素材である。

 

使い魔は少量であれば魔力だけで呼び出し、維持することができるが、市内全域をカバーするほどに召喚するのであれば話は別である。

 

同時にスターピアス―――魔力消費量を三分の一以下に低減するミナのピアスがあれば、黄昏の剣や客人碎の力も存分に振るうことができるようになる。

 

魔力消費と制御力も上がるため、ルルのノーライフキングとしての力を開放して無事でいられる時間も長くなるというものなのだ。

 

もちろんそれ以外にも必要なアイテムや装備は多いが―――まずは隗より始めよ。

 

絶対必要なその二つの素材を集めるために、ミナとルル、そして恋と空悟はダンジョンへやってきていた。

 

岬と廻、夕は今回は廃ビル群に出来たダンジョンもどきの監視と万一のための浄化、漏れ出たモンスターの排除のために地上へ残っている。

 

「都合よく薬草とか鉱物とか採取できる階層に来れてよかったわ……」

 

ミナはそうして幸運の護符などを大量に巻き付けられたルルを見つめる。

 

「やっぱりヒトコシノミコト様の加護があると強いわね……」

 

「もうこれ外してもいいですか、ミナさん?」

 

ペリ、と貼られた使い捨ての護符を一枚剥がしてルルは少し不満げにミナへ視線を送る。

 

ミナはその視線に「おっけーおっけー。後はここで採取していきましょ」と答えて、ルルに雁字搦めになるほどに貼り付け、あるいは巻いている護符を剥がしていった。

 

「これで良し、と」

 

「あの、服まで剥がしてほしいとは言ってないんですが……」

 

「あ、ごめん」

 

ズボッと上着に貼っていた護符ごと上着を脱がしてしまったミナに、ルルは珍しく抗議の視線を向けて頬をふくらませる。

 

ミナはその珍しい様子にさらっと謝っていたのであった。

 

「……これも一種のラッキースケベなのかしら……」

 

「どうでしょう……?」

 

なんだか微妙な空気の主従がそう言い合うと、ルルは脱がされた上着を羽織り、その上からいつもの黒いローブを纏ってフウと息をつく。

 

見回せば、鉱山らしき場所ではあるが、地面にはどういうことなのか草花が生えていて、光もどこから降り注いでいるのか太陽の下にいるのとそう変わらないほど降り注いでいた。

 

明らかに地球でもグリッチ・エッグでも自然には存在し得ない場所である。

 

「どうなってんだろうな、これ……」

 

「深く考えると頭痛くなるぜ、恋ちゃん。で、どういうのを採取すれば良いんだ、三郎」

 

周囲の狂った環境に疑問を抱き首を傾げる少女に、刑事はにべもなく身も蓋もないことを言って、親友に何をすればいいのかを確認する。

 

「おう。二人にはこういう草を探してほしい」とミナが結構うまい草のイラストが描かれた画用紙を地球人二人に差し出した。

 

5枚の花びらを持つ白い花。

 

しかし、その中央の筒状花は鮮やかな紫色をしている花であった。

 

「これはファルコの花って言って、こういう鉱山に近い草原によく生える花だ。これが使い魔の召喚触媒を始め色々なマジック・アイテムの基礎素材になるんだ」

 

ミナは男口調でそう説明して、「頼んだ」と短く言って自分はツルハシとスコップをバッグから取り出す。

 

「オレとルルは採掘をやるよ。望み薄だけども、このスターピアスを修理するために必要なペーパー鉱を探してみる」

 

ミナはそうしてヘルメットをかぶって、岩肌に振り向いた。

 

「ペーパー鉱……?なんか脆そうというか紙?」

 

空悟にそう聞かれて、ミナは「そう。金属なんだが精錬すると紙みたいにすごく薄く剥がせるんだ。で、吸水もするから紙の代用品にもなる―――」と答える。

 

主人と同じくヘルメットをかぶったルルは「だからといって紙の代用に使うのはあまりやりませんね。何しろ、普通に羊皮紙や竹紙、木紙を作るのと比べてもペーパー鉱の採掘と精錬には20倍は費用がかかります」と言って苦笑した。

 

「そりゃまたエグい値段の高級紙だな……」

 

空悟はファルコの花のイラストを見て特徴を捉えながらそう返す。

 

「ま、そういうことだ。普通の紙に比べて遥かに魔力と電気を通しやすいし、金属だから燃えないってのが利点ではある。主な用途は『絶対消したくない記録の記載』と『マジック・アイテムの材料』だ」

 

ガツン、と岩肌にミナのツルハシがぶつけられ、岩肌はバターのようにゴリンと削れていく。

 

「へぇ……」

 

「気になるなら後で実物見せてあげるわ―――殆ど持ってないけどね」と恋の興味ありそうな顔に声を掛けて、「それじゃあ行動開始で」と宣言する。

 

こうして四人の採取作業は始まったのであった。

 

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