異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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―――8時間後。
「ファルコの花だけじゃなくて、ニルテ草、四角草にカプリコーンの蔦もあったか……」
ミナは空悟と恋が集めてきた草花を見聞して、ほう、とため息をついた。
「こんくらい普段の採取も集まりゃあ楽なんだがな……」と微笑んで、「助かるぜ。ありがとう」と戻ってきた空悟、恋に礼を言った。
「いやいや、礼を言われるほどじゃないが……やっぱりみんな貴重な薬草とかなのか?」
「もちろんだ。ニルテ草はハードレザーを作るときに煮汁を染み込ませるとエンチャントを掛けやすくなるし、四角草は青の染料としては貴重なヤツでな」
ミナの言葉をルルが継いで「これで作った染料は、塗るとその部分を永続的に鉄の硬さにしてくれます。昔、ミナさんが使っていた青いハードレザーアーマーにも塗られていたものです」と懐かしそうに笑った。
「そうそう。こいつに最初の最初、ひでー目にあわされたときに着てた鎧にな」
ミナは若干ジト目でルルを睨めつけるが、その視線を避けてルルは「カプリコーンの蔦は魔法のロープを作るときに使うメジャーな材料です。これは質がいいので僕が後で加工しますよ」と言って無限のバッグへとしまう。
「過去から逃げるな!ってそれは今はどうでもいいか……」
「ミナね―ちゃんたちはどうだったんだ?」
ミナはルルへの追求はやめて、それに気づいた恋が彼女らの成果を聞いてくる。
「ここすごいわ。ボーナスステージなのだわ。オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネにプラチナの原石、後は氷晶石に銀も出たわ」
ミナが若干遠い目でそう答えると、聞いた本人は「ええ……伝説の金属目白押しじゃん……」と嘆息した。
「氷晶石が見つかったのは僥倖ですね。純粋な軽銀……アルミニウムはこちらの世界ではいくらでも手に入りますが、氷晶石から鍛造しないと雷を纏う武具に出来ないので。鉄礬土……こちらの世界ではボーキサイトと呼ばれている石から作ると、何故か軽銀は魔法を帯びてくれないのです」
ルルは若干興奮してそう説明してくれたが、そこで恋が「あれ?ペーパー鉱は?」と聞いてくると沈黙する。
そして「……まぁ見つかってないわね」とミナは天を仰いだ。
「そもそもなかなか見つかるもんじゃないし、仕方ないと言えば仕方ないのだけども」
少しだけ諦め気味にそう言って、「まぁまだ時間はあるし」と希望を捨てていないことを表明する。
「ご飯でも食べましょう。そしたら、またちょっと作業して休みましょうか」
ミナが宣言すると、従者も親友も魔法少女もそれぞれに賛成の意を表すのであった。
ミナは少しだけ訝しげに思っていた。
そう言えば全くモンスターに出くわさないのである。
これまでこの研究所地下のバグダンジョンへ挑めば、それは当然のようにモンスターとの遭遇……それもバグモンスターとの遭遇がつきものであった。
それが今回は一度もない。
何度も場所を変えながら採掘、採取を行っているにもかかわらずである。
特に魔物避けの対策はとっていないはずなのにこれはそこそこ異常なことであった。
「どういうことかしら……」
鍋の中のシチューをかき混ぜながらミナは首を傾げた。
単に運がいいだけなら問題はない。
もしこれがなにかの罠であれば……
最悪の場合は閉じ込められるということも考えたが、既に彼女は空間と重力の精霊と契約している。
即ち、空間がどこにでもある以上、重力が働かない場所などどこにもない以上、脱出は容易である。
さらに言えば、前回の冒険のときには気づいていなかったが、風は空間、土は重力に従う。
どんな場所でもミナは風と土の精霊魔法を行使することができるようになっていたのである。
「まぁ、おそらくはこれ以上空悟さんたちを強くしたくないのかも知れませんね」
ミナの隣で魚を焼いているルルがそう言うと、ミナは「うーん、半々、かなあ」と少しだけシチューとお玉から小皿に移して味を見た。
「うん、良し。原因はわからないけども、地球人には冒険者現象による恐ろしい成長力があるのはこれまでのことでよくわかった。もう空悟はラディくんより強いはずよ」
シチューの味が問題ないことを確認して、ミナは空悟たちの成長力を思い返し嘆息する。
「彼より、ですか。それではもう上級冒険者の上澄みにも達しようかということになりますが」
ルルが怪訝にそうミナを見ると、ミナは「勇者の兜のおかげかも知れないけど、空悟は三人の中で頭一つ抜けた強くなり方をしている」と真剣な目でルルを見返した。
「―――もう多分ライフル弾くらいでは傷も負わないでしょうね」
この世界に戻ってきて最初に空悟に出くわしたときのことを思い出し、ミナは苦笑した。
「流石に私やあなたにはまだ全然かなわないわ。でもこのまま行けば、スハイルと同じくらいには短期間で強くなれるはず。でも、その『程度』を邪神が危惧するとは思えないわ」
火を止め、鍋に蓋をしてミナは瞑目した。
「ほぼ間違いなく秋には連中は……改の会もSMNも、もちろんスフルタトーレも本格的に動き出しますからね。僕らのアイテム補充だけではなく、空悟さんたちの地力の強化は急務」
それを邪神が邪魔しようとしているというのは、邪推とは言い難い。
だが、バグとは。
バグとはバグそのものである邪神であろうとも、その挙動は完全に制御しうるものではない。
それで魔物を出さないようにしても限界はあるし、そんな馬鹿なことをあの邪神の端末がするだろうか?とミナは疑問に思う。
イーガックの懐中時計を見れば、今回の階層の外との時間差異は約5分の1。
今日が土曜日であることを考えれば、体感時間で後5日は潜っていても問題はないだろう。
ミナはその事実を把握して、小さく鼻で「フン」と息を吐いた。
「どちらにせよ考えても仕方ないわ。今は採取に注力しましょう」
「そうですね」
焼けた魚を紙皿に乗せて、ミナもシチューを皿によそっていく。
「ご飯できたわよ―」
ミナの言葉とともに、近場で採集を続けていた二人はミナたちのもとへと歩き出した。
シチューにはたっぷりの具が入っていて、大変美味しかったことは言うまでもないことである。
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