異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第214話「今なのです!マジカルゥ!サウンドウェーブなのです!!」

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――― 一方その頃。

 

地上では岬が廻とともに、ダンジョン化したことで神森市水道局によって立ち入りが禁止された駅前の廃ビル区画近くの喫茶店で待機していた。

 

「あれ?この紅茶結構美味しいのです。お値段の割に」

 

岬が注文した紅茶にミルクを入れて一口飲むと、そんな感想がこぼれ出た。

 

「そういうこともあるだろう。邪悪な気配はあるか?」

 

廻もコーヒーを一口飲み、顔をしかめる。

 

コーヒーはそんなに美味しいものではなかったらしく、その一口で継続して飲むのを諦めてカップをソーサーに置いて岬に聞いた。

 

「いえ、強くも弱くもなっていないのです。前に来たときのままなのですよ」

 

よくよく見れば岬の額には変身した時のティアラが輝いているし瞳の色も琥珀色、髪の色もよくよく見ればいつもの髪よりも色が薄く、光の加減では桃色にも見える。

 

そして机にはステッキが立てかけられていた。

 

つまり、今の岬は変身していて、服装と髪の色だけを偽装しているのだ。

 

「そちらの科学的観測のほうは?」

 

「無論、問題はない。問題があればすぐ報告するよ」

 

ニッと笑ってコーヒーを手に取り、先程のまずさを想起してソーサーに戻して、コップの水を飲む。

 

そして店主を呼んで、今度は岬が美味しいと言っている紅茶を注文した。

 

(……分析した情報だけではわからんものだ。人間的な感覚というものは……)

 

それを作り出している自分の体と、体を作った薺川博士の技術に廻は知らず敬意を抱いていた。

 

……そして穏やかな時間が流れる。

 

今日やるべきことはダンジョン化したエリアの監視だけなので、こうしたゆっくりとした時間になっていた。

 

もちろん弛緩しているというわけではない。

 

そうであればバレる危険を犯して変身などはしていない。

 

「恋ちゃんたち、大丈夫ですかねえ……」

 

「わからんが、まあ問題はなかろう。ミナとルルがついているのだ」

 

そうしてまた一口水をすすって、廻は瞑目した。

 

―――あの人、あの女の子とどんな関係なのかしら。

 

―――保護者……とか兄妹とかには見えないけど。

 

店のいくつかの場所から益体もない音声が廻の音響システムへと届く。

 

そうも見えるものか、と廻は内心で嘆息する。

 

時代が違うのはわかるが、女児と青年男性が一緒にいるだけでこれとはどういうことなのだろうと首を傾げていると、その思考を読まれたのか、あるいは彼女にも聞こえているのか、岬が「気にしないでくださいなのですよ」と微笑んだ。

 

たとえ警察に通報されたとしても、とっとと逃げれば問題ないのです。

 

岬はそう独り言ちるように笑って、紅茶と一緒に頼んだパンケーキにフォークを入れた。

 

「それならいい。我々のするべきこととは無関係だからな」

 

廻はそうして腕を組んだ。

 

今どきの若者たちには珍しく、ふたりともスマホをいじっていないことが珍しがられているのだろうか、ヒソヒソと声が聴こえるが―――

 

岬は完全に耳に入れないようにしていて、廻も鬱陶しいとばかりに3メートル以上先の音をノイズとして電子頭脳に入れないように躯体の設定を変えてしまった。

 

こうなると殆ど二人だけの世界になってしまうが、構うまいと廻は思う。

 

そうしてふと岬の表情を観察すれば、喜色が色濃くあったので岬にとっても悪い時間ではないのだろうと安心してまた瞑目した。

 

やがて1時間が過ぎ、岬のテーブルの上にあるケーキの皿が3枚ほど増えた頃。

 

「―――!」

 

岬の髪が一瞬ピンク色に染まり、誰にも見られることなく元の色に戻る。

 

「来たか」

 

ゆっくりと廻は目を開けて立ち上がる。

 

「はいなのです。何か魔力のようなものを感じたのですよ」

 

岬が真剣な顔で、汗すら流してそう返してきたことに首肯して、廻は精算表を持ち会計へと向かう。

 

「では、行こう。夕にはもう連絡した」

 

周辺警戒のため、外回りをしていた夕に現状を伝えて二人は店を出る。

 

そしてルルによって封じられているダンジョン化しつつある場所……異界と呼ぶべきその入り口を越えて路地裏に入っていくと―――そこには、ヴォーパルバニーと……カニ。

 

それも全長1mはある巨大甲殻類であった。

 

「うぇぇ!?カニドーラク!?」

 

岬が衣装を一瞬で魔法少女のものに変え、ステッキをそれに向けて悲鳴を上げる。

 

廻は慌てず騒がず、頭部に殺人光線照射装置を装備してそれらへと無言で攻撃を開始した。

 

『キシャアッ!?』

 

カニが一匹、殺人光線で背の殻に大穴を開けられて絶命する。

 

周囲にカニミソが焦げたと思われるいい匂い……とこんな場所でなければ言いたくなるような香りが充満していった。

 

「うーん!いい匂いだけどこんなおっきなカニ気持ち悪いだけなのです!!」

 

岬はそうしてステッキに力を込め、エネルギーボルトの詠唱を始める。

 

「偉大なるロジックよ、力の矢となれ。砕け……エネルギーボルト」

 

その一撃に、こちらへ飛びかかろうとしていた首狩り兎が一匹頭を吹き飛ばされて倒れ伏した。

 

しかし、最初のときと同じくその屍を踏み越えて兎たちが7匹ほど出現して近づいてくる。

 

無論、カニもまた路地裏から数匹顔を出している。

 

「これ、捕まえていったらミナちゃんが料理できませんですかね?」

 

「素直に雑貨店なり百貨店で買うべきだな……どうしてもと言うなら、薺川博士に検査してもらってからだ」

 

瞬間に首狩り兎が廻に恐ろしい速度で飛びかかってくる―――が。

 

「フン!」

 

鼻息とともに繰り出された正拳突きで兎はその全身を砕かれて絶命した。

 

「個々の戦闘力は全く大したことがない―――だが、数が問題だな」

 

廻はそうして周囲を見渡し、「敵性体、およそ120。ルルの作った結界を数で押し通ろうという腹積もりだろう。させん」と状況を手短に話して、不用意に近づいてきたカニに踵落としを食らわせた。

 

『ギシャッ!?』

 

殻を割られてあぶくを吹きながら絶命していくカニを尻目に、廻は殺人光線を奥の方へと撃ち放った。

 

「なんか、だんだん……」

 

「出口を背にする限り包囲はされない。だが、後退も許されない状況ではある」

 

廻はミナから聞き及んだヴォーパルバニーの凶悪さのことを念頭に、一歩も引く気はないようであった。

 

「なら!やるしかないのです!風の乙女シルフさん!風を切って刃を飛ばしてくださいなのです!!」

 

岬が風の精霊に希うと、すぐさま真空の刃―――気圧の断層が発生し、兎たちが逆にその首を3つほど飛ばされていく。

 

それは精霊術の第四位階であり、更には岬は既に殆ど中位精霊以上と契約が出来ていないため使えるものは制限されるが第六位階の術まで習得していた。

 

「良しなのです!」

 

近寄ってきたカニをステッキでひっくり返して、岬は一歩下がる。

 

そしてカニごと兎を廻の殺人光線が薙ぎ払った。

 

「ここだけ……とは考えにくいな」

 

「だったらここはあたしに任せて、廻さんはもう一つの入口の方へ!何、今のあたしはこいつらの攻撃くらいでは死なないのです!」

 

他の二つの入口からも魔物たちが進出を企んでいることは当然考えられることであった。

 

廻は数秒間だけ目まぐるしく思考を―――勝率から岬の生残率までを計算し、彼女の肩を叩く。

 

「承知した。この戦線は君に任せる。無事でいるんだぞ」

 

言い聞かせるように掴んだ肩に力を入れ、すぐに廻は踵を返して外のもう一つの入口を目指していった。

 

「任されたのです!さぁ、ここからはあたしの舞台なのですよ!」

 

岬はどこかで聞いたような決め台詞を叫んで、そのドレスを真っ赤に燃え上がらせる。

 

「マジカルアナン!フレアスタイル!なのです!さぁ、かかってくるのです!」

 

岬は―――かつてと比べればまるで別人のように自信満々にそう叫んでギターロッドを振りかぶる。

 

「ロックで死ねぇ!なのです!!」

 

『ギシャーッ!!』『ポゥクゥゥ!』

 

ギターロッドの先端でバブルを放ってきたカニ、そしてそれに紛れて兎が岬の頸動脈を狙ってくる。

 

岬は慌てずに一歩下がって、振りかぶったギターロッドで蟹の泡を絡め取り、弾き返す。

 

『ぷぅ!?』

 

空気を口から漏らして兎が驚愕する暇もあらばこそ、泡は兎とカニ本人、そして後続の何体かの兎を巻き込んでその動きを止める。

 

「今なのです!マジカルゥ!サウンドウェーブなのです!!」

 

岬がそう叫ぶと同時にギターロッドが大きなギターへと変形し、岬はそれをかき鳴らす。

 

―――少しだけ聞いただけの有名なロックバンドのギター曲が流れ出す。

 

岬は弾き方すら知らないそれを、音の精霊が目に見えて力を貸してくれているのが彼女にはわかった。

 

今の―――精霊の力を借りて世界を作る体験をした岬には、それが自然に出来ていたのである。

 

「精霊さんの声が―――はっきりと聞こえるのです。あなた達はここから先には一歩たりとも通さないのですよ!」

 

音の精霊が告げている。

 

路地裏の外には、今の時間帯多くの人々が休日の憩いを求めて通りを行き交いしていると。

 

生命の産む音を消させてはならないと叫んでいた。

 

「任せてくださいなのです!」

 

ギターから奏でられる音は、魔曲となって魔物たちを拘束していく。

 

「リアルから逃げることなど―――誰にも出来ないのです!風よ―――!」

 

取り返しのない罪を犯したらしい少年のことを歌ったその曲は、これから人間を殺す罪を犯すであろう心なき魔物たちを音が聞こえる範囲にギターの弦で縛り上げていく。

 

『ギシャァ!ギシャァァッ!!』

 

その弦をなんとか避けて肉薄するカニも兎もいたが―――

 

『クゥ!』

 

可愛い声を上げて、その歯から真空の刃が放たれて―――岬の首に当たって、しかし……

 

『クゥ……』

 

岬の首には傷一つついていない。

 

――― 一匹のヴォーパルバニーは、その様子に胡乱な思考ながら恐怖を覚える。

 

ヴォーパルバニーの放つ斬撃には、首狩りの呪いがかかっている。

 

それを生身で受ければ、少なからず首を飛ばされる危険があるというのに、あの少女はなんの物怖じもせずそれを首で受けて平気だったのだ。

 

それは、即ち。

 

「あたしには呪いの類は……効かないのです!」

 

岬の魔法少女としての力。

 

即ち、邪悪を浄化し、呪いを解く力もまた強化されているのだ。

 

『プゥゥ!?』

 

岬の言葉が理解できたのか、それともそうではなく真空の刃が防がれたことに驚愕したのか、兎たちは後退していく。

 

代わりに前に出てきたのはカニたちであった。

 

岬は拘束されているカニや兎を踏み越えてくる巨大蟹を睨めつけ、そして「まだ増えるですか!」と叫んで、ギターロッドへと魔力を注いでいく。

 

「―――調よ、敵を引き千切れ。千と散らして、昇天を祝いましょう」

 

岬は使いたくない魔法なのか、小さく呟くようにそう歌った。

 

「アナン・ストリング・ラプソディなのです」

 

そう言った瞬間、兎やカニを拘束している弦に光が走り―――

 

『ギッ!?』『クウ!?』と次々と魔物たちは弦に切り裂かれて死んでいく。

 

「―――やっぱりこれなんか嫌な感じなのです!」

 

岬は内心で、聖○士とか神○士とかの技の真似はもうやめよう、と思った。

 

竪琴を武器とする戦士の技であったそれの模倣は、拘束した魔物たちを20以上引き裂いて、そして岬はギターをロッドに戻して構える。

 

「なんで魔法少女がグロ画像量産しなきゃいけないんですかァ!!」

 

理不尽な怒りではあったが、岬はその怒りを目の前に迫る人間大ほどのカニを全力でぶん殴る。

 

『ギシュウ!!』と一撃では倒れなかったそれは、泡を吹きながらそのハサミを岬にぶつけようと殴り込んできた。

 

岬はギターロッドを手放し、そのハサミを掴んで一本背負いへと移る。

 

「せやぁぁぁっ!!」

 

岬はそのままカニを投げ飛ばし、ビルの壁へと叩きつけた。

 

しかし、そこは思考を殆ど持たないカニの化物。

 

残ったものたちも恐怖を感じずにそのまま進撃してくる。

 

「キリがないのです!こうなったら―――」

 

岬はギターロッドを拾い上げると、それに魔力を集中していく。

 

『ギシャアアアアアア!』

 

何か大きなことをするのかには気づいたのだろう。

 

カニたちは大量のバブルを岬へと向けて吹き出してきた。

 

「とぅ!そんなものが当たるはずもないのです!」

 

岬は避けるためにジャンプすると、そのドレスの翼で飛行し、カニ共のバブルが届かない場所まで飛び上がる。

 

「いきますですよぉ―――調べよ踊れ!踊りて大気を切り刻み!大気を燃やし、心を燃やし、全てを焼き尽くせ!」

 

ロッドから音符が、楽譜が飛び出していき、周囲を音楽で覆っていく―――

 

「喰らうのですよ!アナン必殺!!マジカル・ヒートロック・シューティングバージョンなのです!!」

 

岬の叫びとともに、楽譜は一つの球体へと収束していく。

 

その中には炎の惑星が輝く……

 

「燃え尽きて!この世の果てまで!!」

 

岬はそうして、その楽譜に覆われた火球を放つ。

 

ドゴォン、と空気が炎の熱で爆ぜる轟音を上げて―――

 

その熱量は―――ルルの使うフレアー・クリメイションにも匹敵する威力で、カニたちを飲み込み焼き尽くしていった。

 

後には焼け残り、いい匂いを出すカニと兎の死骸のみ。

 

「……どうにかなったですか……しかし、これでも食欲を失わないとは、あたしも図太くなったのです……」

 

岬は通常フォームに戻りながら、そう独り言ちて嘆息する。

 

そして「しばらくはこちらは大丈夫そうなのですね……」と地面に降り立って、焼け残ったビールのコンテナケースに座って頬杖をついた。

 

「まだ来るかも知れないのです。まだ……魔力や精霊力の乱れがあるのです」

 

そうして外は昼だと言うのに、真っ黒な闇に包まれている空を見てまた一つ小さくため息をつく。

 

「廻さんたち大丈夫ですかね……」

 

岬は変身を解くことはなく、頬杖をついたまま兎たちが去っていった闇を見つめる。

 

「はぁ……」

 

美味しそうな匂いを立てているカニと兎たちも、もう少しすれば悪臭を放つ物体に変わるであろうことを思い、岬は深い深い溜息をつくのであった。

 

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