異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第215話 「三月と六星が一度に会するかのような運の良さね……」

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その頃、別の入口へ向かった廻は岬と入った入り口に現れたものとほぼ同数の魔物たちの駆逐を終えようとしていた。

 

「―――これで終わりだ」

 

そうして殺人光線で背を向け逃げようとする殺人ウサギたちに放ち、それらが絶命したことを自らのセンサーで確認したロボット兵は額の殺人光線照射装置を外して周囲を見回した。

 

「異常なし……感覚器にも反応無し。電波警戒も反応無し……任務完了」

 

戦闘モードを解いて、兎やカニの体液で多少汚れたスーツを眺め「これは岬かミナに頼めば落ちるだろうか」といらない心配をする。

 

『夕、そちらはどうだ』

 

『問題ない。岬の方の心配をしていると良い』

 

夕に通信してみれば、にべもない回答が帰ってきたので苦笑しつつ彼は懐からスマートフォンを取り出して岬へと連絡を入れようとした。

 

見れば外部のネットワークには繋がっているようで、問題なくLINFへ連絡を取ることは可能である。

 

そうして岬に無事であることを送信して―――多少愕然とした。

 

即ち、ここはまだ完全な異空間と化してはいないということである。

 

その事実に、廻はある深刻な―――そう、深刻な可能性を思いつき、これをミナになんとしても報告しなければ、と。

 

万一の可能性を考慮し、再び殺人光線照射装置を装備して戦闘モードへと移行する。

 

「―――何らかの工場、あるいは牧場としてこの土地を……?」

 

廻はそこまで考えて、周囲の索敵―――否、走査を始めた。

 

走査範囲を500mまで引き上げた時、壁や地面、あるいは建物の中に「巣」らしき構造物と多くの生命反応が検知される。

 

そう、それは彼の危惧がおそらく十中八九で間違いがないことを示している物理的な証拠であった。

 

「……いかんな。このままでは装備が足りんか」

 

一時撤退させたため、しばらくは再侵攻はない可能性が高いが……それでも装備不足だと廻は結論づけた。

 

一匹一匹は大したことがないが、区画全域にこの規模の巣が作られているとすれば、区画ごと大型爆弾かミナやルルの大魔法で吹き飛ばす必要があるレベルだ。

 

そして、ミナたちがダンジョンへ行き、廻も夕も潜入用の躯体で赴いているため決め手となるそう言った兵器、術理を使い続けられるものはこの場にはいない。

 

「―――監視を密にする他ないか。予定どおりとは言え」

 

悔しげに廻は異空間の出入り口へ向かい、多くの異形の目が向いているこの場所を後にする。

 

因みに、夕はなんの問題もなく敵を殲滅していた頃であった。

 

 

 

再び、元の喫茶店。

 

今度は夕も合流し、3人は美味しい紅茶を飲みながら暗い顔をしていた。

 

「廻が観測したと同様の事物はこちらでも確認した。少なくとも2000は下るまい」

 

ズ、と紅茶を啜り夕は瞑目する。

 

「正直、私としては区画ごと大型爆弾か金髪女の術で吹き飛ばす以外はないと愚考する」

 

彼女はそう言って目を開いた。

 

「―――金髪女たちはおそらく後12時間は出てくるまい。」

 

その間警戒するのは自分たちで、おそらく次の侵攻は夜になると彼女は言った。

 

「あの数だと、すぐにも侵攻を始めそうだが、兎共が動き出さねばカニは動かんようだ。一度動き始めれば、兎が撤退してもカニは侵攻を続けるようだが」

 

ふぅ、と人間と全く変わらない、見る人によっては物憂げな美少女にしか見えないであろう仕草で夕は表情を不機嫌に曇らせた。

 

「首狩り兎たちはあたしたちに怯えるようになりましたですし、周囲にいなくなったと確信するまでの間は多分出てこないとあたしも思うのですよ」

 

岬はティースプーンを弄びつつそう返して、あの後何度か偵察と思われる兎たちが自分を見ては怯えて去っていくということを繰り返していたことを考えた。

 

「それに3つの入口の近くには全てレインボー・インストレーションを敷いてきましたので、まぁまぁ後しばらくの間は問題ないと思うのです」

 

岬は小さな胸を張ってそう微笑むと、トンと自分の胸を拳で軽く叩く。

 

もし兎やカニが純粋な生物で、浄化しても意味がなかろうともそこには岬の気配が残っている。

 

少なくとも後しばらく―――半日以上は持つはずだ。

 

後は兎たちがそれに怯えきっていてくれればいいが、確実ではないことも岬はわかっている。

 

―――三人はそれぞれに顔を見合わせて、しばらくはこの喫茶店で待機する他ないか、と諦めの表情となる。

 

「―――もうお昼ですし、なにか食事を頼みましょうですよ」

 

岬はそうしてメニューを開いて、その中から二つほど浮いている品があったので若干不審に思いつつそれのどちらかを頼もうと決意する。

 

「何故喫茶店にタンドリーチキンと担々麺が……?」

 

「自信があるのだろう。スナック黒十字も元は独逸料理の店だが、今やライスカレーが売りの店だ」

 

廻にそう言われて、「じゃあ担々麺を頼んでみるのです」と微笑んだ岬は店員呼び出しボタンを押してから自分のスマホを見る。

 

―――すると。

 

そこには無視できない情報があって―――

 

「……担々麺はまた今度にするのです」

 

「何があった?」

 

岬は数瞬逡巡して、しかしはっきりと「かけるちゃんのお兄さん―――総司さんが倒れたってかけるちゃんから連絡が来たのです」と言って席を立つ。

 

「注文する前で良かったのです。あたしはそちらに行きますので、警戒をよろしく頼みますですよ!!」

 

そうして岬は―――当然のように5000円札を一枚置いて―――走り出す。

 

「気をつけるんだぞ!」

 

去っていく後ろ姿に廻がそう声をかけると、少女は一瞬だけこちらを振り向いてニパっと笑った。

 

その笑顔に安堵し、廻は「夕、警戒を再開しよう」と提案し、妹機から「仕方のない男だ」と呆れられてしまう。

 

それでいいと廻は思った。

 

 

 

―――神森市民病院。

 

そこに倒れたとかけるから連絡のあった総司は運び込まれていた。

 

岬は全速力―――魔法少女に変身してまで全力で病院までやってきて、息を切らしながらかけるを探す。

 

しばらくして受付のあたりでちょこんと座っているかけるを見つけて駆け寄った。

 

「あ、岬ちゃん」

 

「お、お兄さんは……大丈夫なのですか……?」

 

ぜいぜいと息を切らす岬に、かけるは少し申し訳無さそうに「うん、大丈夫。お兄ぃになにか知らせてくれってミナおねえさんに言われてたから連絡したけど」と返してくる。

 

「い、いいのですよ。それで、どうしたのです?」

 

かけるの隣の椅子にドサリと倒れ込むように座りながら聞くと、彼女は「うん、練習中に力が抜けてトレーニングマシンにぶつかっちゃって」と答える。

 

「で、右腕骨折。大したことはないみたいだけど、全治2週間なんだよ」

 

あーあ、と少し残念そうにかけるは足をぶらぶらさせた。

 

「運が悪いなあ。来週はボクんち、家族旅行に行くはずだったんだけどこれでキャンセルかなあ……」

 

はぁ、とかけるはため息をつく。

 

「ま、お兄ぃが無事で良かったけどさ」

 

かけるはそうして両手を頭の後ろに回して、それから足を組んだ。

 

「そういえば、かけるちゃんは体が弱かったのですよね」

 

「そう。肺と足が駄目で真面目に本当に動くことさえ2年前にはできなかったんだ。陸の上で溺れる……そんな感じ」

 

かけるはそう言って、今は自由に動く胸と足を見つめて安堵するようなため息をついた。

 

「よく思うの……これって何か間違いで、夢でも見てるんじゃないかなあ、って」

 

かけるは何か遠くを見つめるようにそう言って、「なにか忘れてることがある気もするしぃ」と唇を尖らせた。

 

「かけるちゃん……」

 

岬は彼女にかける言葉が見つからず、そうとだけ呟いて悲しい目をした。

 

(あの子たちもそう。きっと国を作るなんて願いよりも深いなにかがあるはずなのです……)

 

岬はそう心の中で呟いて。

 

向こうから歩いてくる、ギプスで右腕を固めて肩から包帯で釣っている総司を見つけた。

 

「おおっ!そこにいるのは岬ちゃんか!かけると一緒にいてくれたんだな!」

 

―――いつもに比べれば三段は声を落としている総司の笑顔がそこにはあった。

 

「病院だから騒がないでよ、お兄ぃ……大丈夫だった?」

 

前半は咎めるように、後半は心配してかけるが話しかけると、総司は「問題なく処置は終わった。この程度なら室内での下半身トレーニングには支障はなさそうだ」と微笑む。

 

「それならいいけども……岬ちゃん?」

 

「いえ、無事で良かったのです」

 

―――けど、やっぱり精霊封じの布腕輪をつけてるのに、何かが歪んでるような感じなのです。

 

岬のセンスオーラによって感じた彼の体は、かつてのかけるほどではないし、今は殆ど感じられていないが何かが歪んでいる。

 

そしてそれが―――あのシャインマスカットの怪物を呼び寄せているのかも知れないと、岬は内心で嘆息した。

 

嘆息して―――そして。

 

ぷん、と岬の鼻をついたのは葡萄の臭い。

 

それも上等の白葡萄のそれだ。

 

「む……?」

 

その瞬間、総司が無事な左手で顔の半分を抑えて椅子に倒れ込むように座った。

 

「大丈夫、お兄ぃ?!」

 

「少し、めまいがした。問題ない……」

 

岬はその言葉を聞くか聞かずかの間に周囲を―――まだ効いているセンスオーラの感覚で感じる。

 

(天井裏!天井裏になにかいるのです―――動いている。外に向けて動いているのです!)

 

あのシャインマスカットの怪物は一体ではなく、既に市中に複数が潜伏しているとすれば……

 

岬の心に嫌な想像が浮かんでくる。

 

「かけるちゃん、総司さん!無事だとわかったですし、あたしはここらで退散するのです!」

 

岬はそうして謎の気配が逃走していく方向へと走っていく。

 

「病院では走るんじゃないぞ!」

 

後ろから総司の声が聞こえてくるが、「わかったのです!」と生返事をして更に速度を上げた。

 

「―――うーむ。彼女の身体能力はすごいようだな。陸上の道に進むと良い」

 

そんな総司の呟きを置き去りに、岬は病院の外へ出ていったのであった。

 

 

 

そして、その頃のミナたちと言えば……

 

「うしっ!ペーパー鉱見つけたッ!!」

 

枯れた木の根のようにも見えるボコボコとした塊を掴んで、ミナはガッツポーズを取った。

 

これを錬金術の窯で溶かした後、加工を加えることで紙のように剥がれるようになるのだ。

 

「目的のものは見つかったけど……それ以外の薬草も鉱物もすごい量になったわね……」

 

ミナはペーパー鉱をブルーシートの上に置くと、採取物の確認を始める。

 

「オリハルコン、ヒヒイロカネ。それにこれは……アダマンタイト」

 

「ルインフ草、セフトの実に、ツシャマの雄しべ……豊富ですね」

 

ルルも空悟たちが採取したものを見て、これは殆どボーナスだな、と嘆息する。

 

「三月と六星が一度に会するかのような運の良さね……」

 

「何の話?」

 

「こっちの世界では盆と正月が一緒に来たよう、って意味と同じよ。クソ忙しい、もしくはありえないほどめでたい、あるいはめっちゃ運がいいってこと」

 

恋に聞かれてそう返し、ミナはふうと額の汗を拭った。

 

「外の時間は20時か……予定よりは早いけどこれで帰るか?」

 

ルルの持ち物であるイーガックの懐中時計を覗き込んだ空悟がそう言うと、「ああ。岬たちも心配だしな」とミナは微笑んで成果物を布でくるんでバッグに入れていく。

 

鉱物は自分、草花はルルのバッグに詰めて、すっくと立ち上がると―――

 

「……なんだこりゃ」

 

そう漏らしたのは空悟だった。

 

言うが早いか、彼は今津鏡と一〇〇式機関短銃を構え周囲を警戒する。

 

「モンスターが出ねえからおかしいなあ、とは思ってたんだが……ここに来てこれかよ」

 

ミナも金剛石のグレートソードを抜き放ち、ルルと恋をかばうようにその前に立つ。

 

「この気配……僕には覚えがありますよ」

 

「奇遇ね。私もよ」

 

若干の冷や汗をかきつつ、ミナはルルにそう返して不敵な笑みを浮かべた。

 

「―――正体を確認したら、即撤退」

 

「承知しました、ミナさん」

 

―――その言葉と同時に、地面の草花が突然―――

 

「燃えたぁ!?」

 

ボッ、と唐突になんの前触れもなく燃えだしたのだ。

 

『―――ガドゥルの奴めを殺したものの気配がするのう……』

 

ミナは腰に佩いたままのカレーナの剣から漏れてくるその言葉に、ほぼ確信する。

 

しかし、アレは―――確実に滅ぼしたはずだ。

 

だが、しかし。

 

あざ笑うかのように岩肌もまたドロドロと溶けていく。

 

―――間違いない。

 

かつて天護の森を襲い、10年前に森の北の、更に北の山脈より現れ世界を滅ぼそうとしたもの。

 

『おおおおおおおお―――』

 

炎が雄叫びを上げた。

 

「な、なんだよありゃあ!ミナねーちゃん!!」

 

恋が恐怖の悲鳴を上げると同時に、岩肌から炎そのものを具象化したような人型の怪物が10、いや20は姿を表した。

 

「―――アギール!?ルル!」

 

「確定ですね、これは」

 

魔物の名と思しき名を叫んだミナに、ルルは冷静にそう返して眉をしかめた。

 

「やっぱりやべえやつなんだな?」

 

警戒を解かないまま、竜の兜をかぶった空悟にミナは「ああ、それもとびきりのな」と返して、冷や汗を一筋流した。

 

『おい、孫。オヌシちゃんと倒したのかえ?』

 

咎めるカレーナの声に、ミナは「アレで倒れてないわけがないってくらいに倒したわよ」と努めて冷静を保ちながらそう言った。

 

言って―――遠くの、溶けていく岩肌の向こうに巨人の姿が見えた。

 

世界を滅ぼす炎の魔神の姿を認めたミナは、「あかんわこれ」とじっとりとするほど熱くなった空気の中で呟いた。

 

なぜなら、その見覚えのある炎の魔神の顔は―――やはりどこかで見た顔に変貌していたからだ。

 

「あの顔……間違いねえ。地下で戦った『北浦部真澄』じゃないか!!」

 

空悟が叫ぶ。

 

「撤収!!」

 

叫んだ瞬間、ミナは恋を抱えて走り出した。

 

相手はこちらに気づいているだろう。

 

ミナは脱出の指輪を握りしめ、発動するためにファントム・ハンドの詠唱を始めた。

 

せめて完成するまでは攻撃を避けなければ。

 

空悟が走り出し、そして炎の魔神がこちらを向いて。

 

それで1秒。

 

炎の魔神の眼光がこちらを睨む。

 

魔王の、魔王ラギオンの眼光が。

 

瞬間ミナはルルも抱えて―――空悟を思いっきり蹴り飛ばす。

 

「おっわぁ!?」

 

親友の悲鳴と同時にミナは地面を駆け飛ぶ。

 

瞬間、さっきまで立っていた地面が爆裂して消し飛んだ。

 

「うおお!?」

 

「脱出だ!世界を支配する偉大なるロジックよ。我が手にあるものを我が手に依らずに駆動せしめよ。幻想の手は我が目の中にあらん。ファントム・ハンド!」

 

ミナが詠唱を完成させた瞬間に、二度目の視線がこちらを向く。

 

ミナたち四人が消え去った瞬間に、二度目の眼光がさっきまで彼女らが存在していた地面を焼滅させ―――

 

そして、魔王の雄叫びが天を衝く。

 

しかし、それでおしまい。

 

北浦部の顔をした魔王は、そのままマグマの中へと沈んでいく。

 

眠りにつくかのように―――

 

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