異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第216話「待てーーーなのでーーーす!!」

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ダンジョンの入り口へ転移したミナたちは、その場で腰を抜かしたかのように座り込んでいた。

 

「やっべえ……脱出の指輪が効いてなきゃあそこで終了だったわ……」

 

ミナは天を仰いで安堵の吐息を漏らした。

 

「なんなんだあれは……」

 

『あれが魔王ラギオンじゃ。どうも、気配からしてあの邪神の端末が使役していた男と合成されておるようじゃがのう』

 

額の汗を拭う空悟に、カレーナはそう教えて嘆息した。

 

『まさかアレまで蘇らせるとは、恐るべき邪神じゃ』

 

これまでにない真剣な声音の祖母に、ミナもまた「運がいいと思ったら、アレが蘇っていたとはね……」と疲れた声を返す。

 

「あ、あんなんがいたんじゃぁ……ダンジョンに潜れねえじゃん……」

 

恋がそうして怖気を震う。

 

「いえ、大丈夫でしょう。たまたまスフルタトーレが悪巧みをしている階層に出くわしてしまったと考えられます」

 

この中で最もバグに関して詳しいルルが、この中で最も冷静にそう言い放った。

 

「根拠はある?」

 

息を整えたミナにそう問われて、ルルは「あのダンジョンの階層に空間のつながりはありません。故に、あれは偶然と思うべきです―――が、我々の侵入を検知して襲ってきている可能性はあるので、今後は一つの階層に長くとどまるのは避けたほうが良さそうですね―――」

 

言外に、準備が整うまでは、と付け加えてルルはダンジョンの入り口へ向き直る。

 

「……戻りましょう。岬さんたちと合流しなければ」

 

「おっけー」

 

ミナがそうして裾を叩いて立ち上がる。

 

見れば全員のスマホに岬からの連絡が入っていた。

 

それは、街の異空間から魔物たちが街に出ようとしていること、そして既にシャインマスカットが複数外に出ている可能性があることを伝えるものだ。

 

「あっちでもこっちでも全くもう……!」

 

ギリギリと拳を握りしめ、ミナは憤然として部屋を出ていく。

 

「全くおっかねえことになったな……だけど、しゃあねえか」

 

空悟が外では出しておけない自分の武器をルルに渡しつつため息をついた。

 

「今は……岬ちゃん助けに行かないとな」

 

最後に立ち上がったのは恋で、最後にフロアを出ていったのはルルだった。

 

ルルはダンジョンの入り口を一瞥し、部屋を出る。

 

それは何も変わらずに佇んでいる。

 

―――何も変わらずに。

 

 

 

「ええい!脚が速いのです!」

 

岬は変身して―――もはや人目を避けることもなく―――病院の壁から飛び出したシャインマスカットの怪物を追って、国道沿い上空を北へと飛んでいた。

 

時間は20時過ぎ。

 

日も完全に暮れ、視認性は落ちているが見えるものにはその派手な衣装は見えてしまうだろう―――けども気にしている暇はない。

 

シャインマスカットの怪物の速度は、おそらく時速150kmは出ているであろう岬の飛行で追跡が困難なレベル。

 

つまり、時速200km以上でその怪物は野を疾走していた。

 

舗装された道路よりも、土の地面を好むのか、道路脇の畑や田んぼのあぜ道を凄まじい速度で疾走していく。

 

明らかに常識はずれの速度だが、しかし魔物であればその程度はできるだろう。

 

怪物を目撃した車が何台か急ブレーキを掛けて止まっているのが見えるが、それも無視して岬は怪物を追いかける。

 

「待てーーーなのでーーーす!!」

 

しかし追われているのに、待てと言われて待つものがいようか。

 

シャインマスカットはその声に更に加速していく。

 

このままでは逃げ切られてしまう可能性が高い、と岬が臍を噛んだその時。

 

「風の乙女シルフよ!風で大気を絡め取り、我が手に礫を与え給え!」

 

空から声が響き、そして。

 

バシィィン、と何かをぶっ叩いたような音が木霊した。

 

『ギャンッ!!』

 

瞬時、シャインマスカットの怪物はなにかに衝突したかのようにつんのめって地面に仰向けに転がった。

 

反撃能力を失ったそれに、ミナはヒヒイロカネのショートソードを遠慮会釈なく突き刺し、そして額の汗を拭う。

 

もう動かなくなった怪物を側溝に落としてから、ミナは再び飛び上がって岬の近くまでやってきた。

 

「ミナちゃん!」

 

「お待たせ!無事みたいね!!」

 

風の精霊術エアバレットを放ったのはミナだった。

 

「助かったのです……もう2時間は追いかけっこしてましたですよ……」

 

ヘナヘナと地上に降りて、岬は変身を解いて安堵する。

 

「おっと、大丈夫?」

 

フライトの術を解いて、ミナは地面に降りた岬に肩を貸した。

 

「大丈夫なのです……ちょっと疲れましたけど……それより!」

 

「わかってる。そっちにはルルと恋ちゃん、空悟が行ってるわ。今日、今すぐにでもあのダンジョンは潰す……!」

 

ミナの目は本気でそうするつもりだ、という目をしていた。

 

「急ぎましょう」

 

ミナはそういうと、バッグの中からジープを出してエンジンに火を入れた。

 

「さぁ、岬は少しでも休んでて。飛ばすわよ!」

 

岬を自分の後ろの席に乗せて、ミナは思いっきりアクセルを踏み込んだ。

 

(……自分で飛ぶより遅いから……平気ですね……)

 

時速130kmほどまで加速したジープに揺られながら、そう思考を残して彼女は意識を手放す。

 

次に目が覚めるのは15分ほど後のことであった。

 

 

 

そして―――

 

予測よりも少し早く、ミナと岬が合流していた頃、魔物たちがダンジョンの中から這い出てこようとしていたのであった。

 

首狩り兎、カニに加えて今度は大きなカラスと芋虫が加わっている。

 

その数は100にも及ぼうか。

 

廻はその数を見て、これはまずいかもしれないと表情を歪めた。

 

廻と夕が守る2つの入口はともかく、もう一つの入り口にも殺到しているとすれば不味いことだ。

 

しかも今度の侵攻は、学習しているのかなかなか仕掛けてこない。

 

『プゥゥ……』『カァカァ!』と兎の吐息とカラスの鳴き声が木霊した。

 

「―――早急に殲滅する」

 

彼はそうして、額に装着した殺人光線照射装置にエネルギーを貯め始めた。

 

「全て吹き飛ばし、焼き尽くしてしまえば関係なかろう!」

 

集中したエネルギーを、彼らの潜伏するビルへと照射し、まずは数を減らすことを優先する。

 

瓦礫に巻き込んで殺してしまおう、という手であった。

 

―――後続にまだ数がいると見て良い。

 

廻の思考が索敵結果に慄然とし、しかし前を向かせる。

 

その瞬間、ミナからの連絡を彼の電子頭脳がキャッチした。

 

「―――間に合ったか」

 

廻はわずかに安堵し、もう一つの入り口にすぐにでもガーゴイルに乗ったルルと空悟、恋が到着することを確認する。

 

時間は20時。

 

既に人通りも少なく、ガーゴイルが着陸してもそう目立つことはないだろう。

 

「さて、これ以上牽制していても無駄だぞ。こちらから打って出ることは既に示した」

 

廻は先程の戦闘では持っていなかった、人間用の軽機関銃を装備し兎へと掃射を始める。

 

『プゥゥゥゥ!!』

 

怒ったのか、それとも不退転なのか、暗闇の中から兎たちは廻の首を狙って真空刃を飛ばしてきた。

 

その数、おおよそ50。

 

だが―――

 

「無駄だぞ。その程度では躯体の要所を切断することは不可能だ」

 

その真空の刃は、全て人工皮膚をかなりの範囲で切り裂いたに留まる。

 

潜入用の躯体であり、その表面は人間の軟さを再現しているとは言え、その下は鉄壁のマシンボディなのだ。

 

しかもその人工皮膚には修繕用の微小機械―――即ちナノマシンが組み込まれており、ある程度の損傷ならそう時間を置くことなく修復していく。

 

兎たちの攻撃では、傷一つつけることは出来ないだろう。

 

「―――行くぞ」

 

そうして両手に機関銃を持って、男は走り出した。

 

妹機のこと、岬のことがふっと思考をよぎるがそれも一瞬のこと。

 

『ガァァァァァアァッ!!』

 

「止められるなら止めてみろッ!!」

 

廻は兎を守るかのように現れた巨大な人型―――人食い鬼オーガに飛び蹴りを放つのであった。

 

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