異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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状況は夕の方もほぼ同じであった。
しかし、こちらは徹底して容赦がなく―――
「殺人光線、照射」
ビルの基部に夕の殺人光線の最大出力が、それと思わせない声音で突き刺さった。
ズズズズ、とビルが切断されてずれていき、やがて倒壊していく。
『ギャァァァァァァッ!!』
瞬間、大ガラスが十数匹逃げ出せたのか瓦礫にならんとしているビルから飛び立った。
「無駄だ」
夕は小さくそう呟いて、廻が持ち出してきたのと同じ軽機関銃を両手に持って対空射撃を始める。
人間が行うものと違って、完全なレーダー射撃となっているそれは最低限の弾数でカラスを撃ち落としていった。
『ギィィィィィ!!』
「冷却、強制停止。低出力照射開始」
耳障りな騒音を立てながら突破してくるものには、低出力の殺人光線が御見舞されて落ちていく。
カニや兎も散発的に襲いかかってくるが、カニは殺人光線、兎は機関銃の前に次々と倒れていった。
「―――残数、一三〇。増援二〇を確認。再充填開始」
夕は殺人光線による攻撃を停止しエネルギーチャージを始める。
再びビルを基部から崩し、内部の魔物たちを圧し潰し、燻り出す作戦。
それを廻よりもなお徹底的に行っていた。
既に倒壊したビルの数は7つ。
それでもまだ魔物たちの反応は少なくなっていくことはなかった。
―――連中も不退転。
夕は短い思考でそう考えて、これ以上の増援は突破される可能性が高いと判断する。
「……手が足りないか。せめて躯体を換装できればな」
言っても詮無きことだと考え、夕はため息をついた。
「まあいい、こちらも増援がないわけではない」
瞬間、後方の異空間入り口に動体反応―――しかし生体反応ではない反応が現れた。
「女男が来たか」
「いい加減、その女男っていうのやめませんか、夕さん」
小さな声に反応した少女の形をした少年―――ルルはそう少しだけ不機嫌に答えて肩をすくめる。
そして、呪文の詠唱を始めた。
「―――せっかく貴女が新鮮な遺体を量産してくれたんです。ネクロマンサーとしての戦いをお見せしましょう」
ルルはそうして、瞳を怪しく光り輝かせる。
限定解除を行っているわけではないが、最低限の死霊術を使う許可はミナからもらっていたルルである。
「死よ、死の死たる死よ。遍くに終わりを告げるものよ。無念のうちに死せしもの、存念を残すものたちに、今一度仮初の生命を。その意は我に従え。死の死たる我に傅くが良い―――アニメート・アンデッド」
詠唱が完成した瞬間、ルルの杖からおどろおどろしい黒と紫の魔力がほとばしり、砕けた七つのビルへと宿っていく。
そして……
『オオオオオオオオオオ……!』
カニ、兎、カラス、そして運悪く這い上がれないまま死んだのであろう少し小柄なオーガが瓦礫からノソノソと這い出てきた。
目が潰れているもの、頭が砕けているもの、色々とぐちゃぐちゃになっているもの。
到底生きているとは思えないそれらは、ルルが死体を無理矢理に動かしている―――負の命を死体に与え、活発化させる死霊術で動く死体である。
「……悪趣味だな」
「ええ。悪趣味なのが死霊術というものです」
総数はざっと見て100に近い不死者たちが起き上がり、死者による防衛線を構築していく。
「さ、夕さんはビルを崩すことだけを考えてください。僕は突破してきた魔物を撃ち落とす作業に入ります」
ルルはそうして、瞳の怪しい輝きを消して二口水晶を用いた高速詠唱を開始した。
夕はエネルギーを額にチャージしつつ、その様子に呆れて「―――まるで軍勢だな」と溢した。
「ええ、そのとおりですよ。僕は死者の軍勢を作るのが『一番得意』なんです。やるのは嫌ですけどね」
ルルはそうして、「まとわりつかれるのが大変嫌でして」と嘆息して、エネルギーボルトを2つ、大ガラスゾンビを突破してきたまだ生きている大ガラスを撃墜した。
撃墜された大ガラスはそのまま不死者となって飛び上がり、かつての同胞へと襲いかかっていく。
「―――なるほど。貴様が嫌がるのもわかる醜悪な光景だ」
「でしょう?ミナさんも嫌がりますし、ホントどうしてこのように生まれてしまったのか―――」
自嘲気味の笑顔を浮かべながら、淡々と魔法を放ち、魔物たちの数を減らしている少年に、機械兵の少女は「それは誰とて思うことだろう」と短く反駁の言葉を返して額にエネルギーを集め始める。
「ここはこれでどうにかなるかな……」
ルルは数秒瞑目して、すぐ目を開き、更に数を増やしていくアンデッドたちを眺めて唇を尖らせた。
「偉大なるロジックよ。五光の剣の形を成したまえ。剣を鍛えるは鍛冶の技。なれど作り出す秘密は論理が産む故に。サモン・シャドウグレイブ!」
30以上に及ぶ剣の影が姿を表し、敵陣へと降り注いでいく。
結局の所、数を揃えてきてもそれに対処する数を用意できるルルには無意味なことであったのだった。
―――そして、それは他の戦場も同じことである。
廻のところへ救援に現れたのは、岬と恋であった。
「ミストレル・フレア!」「アナン・ファイヤーなのです!!」
戦場を―――岬が持ってきた廻用の噴射推進装置を装備して―――ジェット噴射で縦横無尽に暴れ回る廻の隙間を埋めるように、魔法少女たちは魔法を放っていく。
「そ、おおおおおりゃぁぁぁぁぁっ!!」
『ガァァァァッ!?キサマ!我をなんだと……!』
知性を持っているらしい一際大きなオーガの足を掴み、そのまま空中へと飛行した廻に、人食い鬼は棍棒を叩きつけようとするが―――
「遅い!」
その言葉同様に一歩遅く―――オーガの両足首を脇でガッチリとホールドした廻は空中で竜巻のように回転を始めたのだ。
ジャイアントスイングの形になったオーガは―――
『ギャアアアアアアアアアアアア?!』
そのまま魔物たちが潜伏するビルへと叩きつけられた。
それも回転のまま、何度も、何度も。
肉よ裂けよ、骨も砕けよ、と幾度も幾度も。
鋼鉄の肉体を持つオーガと言えども、その乱撃にはビルとともに削れるかのような死を迎えるしかなかい。
「うーん、これはひどいのです」
岬はステッキからエネルギーボルトを放って、戦場の隙間を這い出てきた兎を始末しつつ段々と原型を留めなくなっていくオーガを眺めてそう感想を述べた。
「ぶっちゃけグロい。まぁ、コイツラほどじゃないけどさ……」
恋はそうして、鎌を目の前に現れた巨大ムカデへと向ける。
「こっちは虫が多くて嫌になるのです……!」
『キシャァァァァー!!』
金切り声を上げてムカデは岬に覆いかぶさるが如くに襲いかかる。
頭部―――顎肢だけではなく、体節にも口を持つそのムカデは一息に岬を噛み砕こうとするが―――
「アナン・ドリルなのです!!」
既にフレアスタイルへとチェンジしていた岬は、その拳を回転させるがごとくに捻りムカデの体節に叩きつけた。
それは空気が錐揉み回転しているように見えるほどの魔法のコークスクリューパンチ。
ムカデの体節は一撃で吹き飛び、そのまま千切れた箇所から上は地面へと叩きつけられた。
「焼却処分にしてやるよ!ミストレル・ミサイル・シャワー!!」
すかさず恋の鎌から、光の紡錘が幾十本も発生し、詠唱の如くシャワーのように降り注いでいく。
その攻撃でムカデは炎上し、それが防衛線となって向かってきている兎たちを食い止めていった。
「さて次は―――」
岬が一時的な防衛線となった巨大ムカデの遺骸の向こうを見れば、そこにはヴォーパルバニー共が列をなしてこちらを睨んでいる。
「岬ちゃん、わかってるとは思うけど」
「はいなのです!マジカルプロテクト!!」
即ち、その列が何を意味するのかを二人は悟って咄嗟に防御魔法を唱えた。
『プゥゥゥゥゥゥ!!』
ここでない場所で聞けば愛らしく聞こえたであろう兎の鳴き声が大気に響き渡る。
瞬間、岬と恋の首を狙う真空の刃が飛んでくるのが、岬の精霊を捉える感覚で感じられた。
岬や恋の首は別に固くない。
―――呪いに強い耐性を持つ岬はともかく、恋の場合はヴォーパルバニーの首狩りの呪いを食らってしまえば一巻の終わりである。
彼女らの築いた防壁は、その30に及ぶ攻撃を確実に防いでいく。
ガキン、ガキンと硬いものがぶつかる音がして、段々と壁が削れていくのがわかるが手を抜くわけには行かない。
数度の真空刃を防いでマジカルプロテクトは消失する―――
が、間に合った。
「とぉぉぉぉっ!!」
バジュジュジュジュジュン!と肉が蒸発する嫌な音を立てて、兎たちは悲鳴を上げることも出来ずに焼滅していった。
そう、オーガを挽肉にし終えた廻が、一列に並ぶ兎たちに上空から殺人光線を照射したのである。
「無事か?」「モチのロンなのです!」
岬の元気な返事と、それに呼応するかのように静かにサムズ・アップした恋に、廻は深く頷いて二人の前に立った。
「あらかたビルは崩したが……まだ奥行きがある。測定できん」
廻がそう言うと、岬は「でも周りがスッキリしたのであたしたちが固まっていれば突破はできないのです」とニパっと笑う。
恋も「そうだぜ、廻にいちゃん。あたいたち、みんな範囲攻撃できるし!」と得意げに鼻をすすって指で鼻の下を拭う。
「そのとおりだ!視界が広がった分、此方が有利!」
廻が叫ぶ。
―――瞬間、ビルの瓦礫の下からズズズズズとなにかがせり上がってくるような音が響いた。
『ぬぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!おのれ、貴様らぁ!ダンジョンごと崩そうなどとそれでも冒険者か!?』
バゴゥムと轟音とともに大穴が開き、そこから這い出てきたのは先程のオオムカデの3倍はあろうかという巨人―――全身から冷気を放つ霜の巨人フロストジャイアントであった。
「情報照合……フロストジャイアントと確認」
廻が無機質な声でそう分析すると、「あれ?なんで知ってるの?」と恋が聞いてくる。
「ミナの持っていた図鑑と彼女自身の絵を情報集積……今風に言うならデーターベースに登録したんだ。あの程度なら判別できる」
そう返して身構えた廻に、フロストジャイアントは『ふざけるなよ!話を聞かぬか!!』と大音声で叫ぶ。
「残念ながら、私は現在冒険者の一党に所属はしているが、本職は軍人かつ機械兵器だ」
「あたしたちも本職は魔法少女……になるんですか?」
「あたい知らない。でもあたいは本職はジュニアアイドルだし、岬ちゃんも小学生じゃない?」
生真面目に答える三人に、フロストジャイアントは『ふざけるんじゃぁない!我々の野望を砕こうというのなら、我が捻り潰してくれる!』と激高してその剣……氷雪の大剣を振り上げた。
「本体、武具ともに表面温度摂氏零下二〇〇度……やはり自然ではありえん存在だな」
廻が呆れたようにそういうが、岬は逆に不敵な笑みを浮かべて「だいじょーぶだいじょーぶなのです。白銀○衣がやっと凍結する程度の冷気ですし!」と廻にはよくわからないことを言って闘志を燃え上がらせていた。
「まぁ、普通に考えたら」
恋はそこまで言って、鎌をフロストジャイアントへ向けてにっこり微笑んだ。
「熱くするより冷やすほうがエネルギーがいるってN*Kの教育番組に出た時に教えてもらったし、高熱で焼けば良いんじゃない?」
「同感だ。君の言う通り、どんなに熱量をかけたとしても低温はわずか摂氏零下二七三.一五度で打ち止めである」
「なのです。聖○士○矢履修済みならもはや常識なのですよ!」
岬が言葉を続けて、フレアスタイルのままギターロッドに熱を集め始めた。
その言葉に「また古いマンガを持ち出すなあ」と恋は呆れ気味に言って、鎌に同じく炎の魔力を集め出す。
『その程度の熱量で私を殺せるとでも思っているのか!この霜の巨人を!』
霜の巨人はグレートソードを地面にぶつける。
すると、地面はそのまま凍りつき―――焼け焦げて死んでいる兎やカニやムカデ、そしてコウモリたちを飲み込んで周囲を氷雪の世界へと変えていく。
「―――やはり見た目通りの熱量ではないというのは、ミナたちと同じか」
廻は腰にマウントしていた機関銃を手に取り、それを腰溜めに構えながら「まずは私が行こう」と短く言って駆け出した。
「おおおおおおっ!!」
『馬鹿め!そのような華奢な体で我に勝てると思っているのか!』
「甘く見ると怪我をするぞ、巨人!」
廻は嘲る巨人の声を跳ね除けて、拳を振り下ろされた大剣の峰に叩き込む。
『ほぉ―――確かにこれは人間のものではないな!だが無駄よ!』
巨人は大剣を右手で保持したまま、その左拳を廻に叩きつけようと突き下ろした。
しかし、廻はそれをジェット噴射で後方へと避けて殺人光線を巨人の腕へと照射する。
結果としては……
『私の腕を落とすとは見事……だが、我は霜。我は氷。我は雪。我は氷原そのものである』
どこから降り注いでいるのかわからないが、しらしらと振り続けている雪が―――目に見える結晶となり、落ちた腕はすぐさまに繋がって、なんの痛痒もないことを示すかのように巨人は獰猛な笑みを浮かべる。
「生半な攻撃では通用しないか」
「だったらこれはどうなのですか!」
「行くぜ!合体魔法!」
10メートルは下がって防御の構えに入った廻を援護するべく、二人の魔法少女が呪文を詠唱する。
「「命を与える希望の星よ!太古から降り注ぐエネルギーを今ここにッ!!マジカル!!ファイヤーバード!!チャージアァァァァップ!!」」
二人の呪文は集めていた炎の魔力を収束させ、地上の太陽と化していく。
その熱量は、ミナのフレアー・クリメイションにも匹敵しようか。
「行けぇぇぇぇぇぇ!」「なぁぁのです!!」
『小賢しいわァァァ!!』
炎の鳥と化した太陽は、霜の剣と触れ合い―――
ドォォォォォォォッ!!っと凄まじい轟音を立てて、水蒸気爆発を起こした。
その威力は―――しかし、魔法障壁に守られた魔法少女たちには届かず、霜の巨人と―――わずかに廻に衝撃を与えた。
『ぬうぅ!ふざけた連中とは思ったが、これほどとは!やるではないか!!』
霜の巨人が叫ぶと、廻が「侮ってくれていたほうが楽なのだがな」と冷たい声で殺人光線を更に霜の大剣へと叩き込んだ。
『ふっふふふ……この我が生まれてより2000年……貴様らのようにふざけた格好で私にここまで迫るものはいなかった……』
霜の巨人は何やら満足しているかのような笑みを浮かべ、霜の大剣を再生させる。
『これほどの敵に出会ったのは―――いや、言うまい。では、続きと行こうではないか!』
彼はそうしてグレートソードを正眼に構え……油断なく廻を見据え―――魔法少女たちの動きにも気を配っているのか、後ろへ一歩下がった。
『ふざけた連中と嘲ったことは謝罪しよう。ここからは私の本気で行かせてもらう』
「望むところ―――行くぞ」
廻は機関銃を役に立たないだろうとばかりに岬に渡して、再び左前の構えを取る。
闘いはまだ始まったばかりであった。
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