異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第219話「……これで終わり、ってわけはないわよね」

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「何度でも言わせてもらうけど、この程度で私を殺そうとか片腹痛いわよ」

 

ミナはカレーナの剣を肩で背負いつつ、その肩をすくめてフッと人をバカにした笑みを浮かべた。

 

その様子に、しかし魔人スティンガリウスは意外にも冷静な様子で『そんな事は知っているとも』と歯ぎしりをして女勇者を睨めつける。

 

「それとも足止めのつもりかしら?足止めにすらならないでしょうよ」

 

ミナは耳のピアスを指で弾いて笑顔を消す。

 

―――私の実力を知っていて、この態度は変だな。

 

ミナはそう考えて、男に声を掛けた。

 

「まさか私がここに来てる間に、私の家に攻撃でもしようとか考えてる?」

 

『クックック……さて、どうかな?どうせ貴様のことだ。対策はしているんだろう?過剰に自分の関係者を大事にしようとするのが貴様の弱点だ……』

 

スティンガリウスはそうして『安心し給え。まだ外にここにいる魔物たちが這い出たということはない』と言って、ニタリと笑う。

 

その言葉にミナは「そう」とだけ返して、「いいからシャインマスカット出せ。そして死ね」と獰猛な笑みを浮かべて―――大地を蹴った。

 

神速と思える、ともすれば廻や夕よりも早い踏み込みでスティンガリウスの首を狩ろうとミナは疾駆する。

 

『そう来ると思っていたとも!』

 

100mを2秒か、3秒か。

 

その高速で走り抜けようとした少女に掛けられた声と同時に、地面からゴーレムらしきものが生えてきた。

 

「チッ!」

 

ミナは舌打ちして、ゴーレムの股を一息に切り裂いた。

 

しかし、ゴーレムたちの生命を保持しているエメスの札―――真理の札は股にはなかったようで、ゴーレムの動きは止まらない。

 

ミナは、ならばと、ゴーレムの腕に乗って器用に走り抜け、その後ろへいるはずのスティンガリウスへと躍りかからんとした。

 

だが、敵もさるもの。

 

既にスティンガリウスは後方のビル群―――ビル群としか言えない影の街まで後退している。

 

そしてゴーレムとオーガの群れがその間に大量に発生していた。

 

「ええい!逃げるなクソッタレ!!」

 

叫ぶが当然スティンガリウスが聞き入れるはずもない。

 

『あのときは精鋭ばかりだったが、今はこのような雑魚ばかり……私も落ちぶれたものだよ』

 

その余裕な態度に、ミナは絶対隠し玉があると判断してそこで留まった。

 

それを出させてから叩き潰さないと、「次の事件の種」を残されるかも知れないという考えだった。

 

「っし。そう言う考えならええわい。絶対後悔させちゃる」

 

ミナは静かにそう言って、細い装飾のない―――しかし青く澄んだ輝きを持つ腕輪を出して左腕に装備する。

 

その腕輪に、スティンガリウスは『おお……まさかそれは、伝説の矢避けのカダ……!』と驚愕とも感嘆ともつかない声を上げた。

 

それはミサイルガードの魔法が永続的に掛けられた魔法の腕輪であり、装備している限りは決して矢や投擲物が彼女に当たることはない。

 

弊害としては、自分も投擲や弓が使えなくなるということこそ弱点であり―――

 

即ち、ミナは完全に格闘戦と魔法戦だけでここにいる100以上の魔物を討ち取ろうということである。

 

「かかってこいや。全部弾き返したらぁ!」

 

ミナはそうして右手でカレーナの剣を握りしめ、左腕には小さな丸盾を装備してゴーレムとオーガの群れに吶喊する。

 

ゴーレムの首がミナの一閃で飛び、オーガの胴体がミナの魔法で打ち砕かれる。

 

『『『ゴォォォォォ!ふぁいやーぼーる!!』』』

 

三体の未だ知性に目覚めていない年若いオーガが、ファイヤーボールを連続で射掛けて来るが、ミナには―――

 

ゴォウと3つ合わさってすさまじい火球となったそれが飛んでくるが、ミナは動じない。

 

丸盾を前にかざすだけだ。

 

その盾は、ミナが昔ある錬金術師に作ってもらったプロテクションが永続付与されたシールドである。

 

即ち、矢避けのカダとこの護りの盾はミナが魔法を使う余裕なく多対一の戦闘をする時に使うものなのだ。

 

これもまた邪神の洞穴で破損していたが、錬金工房完成後にレストアされたものであった。

 

「その程度でどうにかなるとは思わないことねえ!庚申流組討術―――波打三段!」

 

カレーナの剣を鞘に収め、ミナはファイヤーボールを放ってきたオーガ目掛けて飛び上がり、その頭を軽くなでていく。

 

『グァ!?』『ヴァオッ!!』『ボァァ!!』

 

瞬間、オーガたちの頭が爆ぜる。

 

「やっぱデカイのにはこれが効くわね!!」

 

庚申流なるミナが修めた拳法の奥義……内臓を致命的に揺らし、破壊する気力の奥義である。

 

そのまま地面に降り立ったミナに、兎やカニが殺到してくるが、お構いなしに彼女は精霊に希った。

 

「集まってきてくれるなら好都合!地を支える龍、大いなる魔獣王。地に棲むもの、大地を恣にする王バハムートよ―――大地を揺らせ、大地を壊せ、我らの拠りて立つものが如何に脆く弱きかを知ろし食せ。おお、汝は大いなる龍。地を喰らい地を産む母にして父なり。今こそ地の底より―――地の上へと大いなる震えを齎さん!」

 

兎がミナの首を狩ろうと飛びかかった瞬間に、その精霊術は完成した。

 

即ち、アースクェイク。

 

恐るべき大地の震えが襲いかかる―――

 

『ば、馬鹿な!この地は未だ外と繋がりがあるのだぞ!そんな術を使えば―――』

 

「へーきへーき。だってエネルギー量多分マグニチュード5はないし。私の前世が生まれた国はその程度じゃ驚かないのよ」

 

―――事実、外では震度2ほどの揺れが観測され、震源地が地表付近とされたが―――大した被害は出なかったことを付記しておく。

 

とまれ、起きた地震は震源地たるミナの周辺では震度7。

 

激震に微塵も動けなくなり地割れに飲み込まれゆく魔物たちを尻目に、ミナはスティンガリウスへと向き直った。

 

「さーて、次は何かしら。まだ半分くらいは残ってるみたいだけど?」

 

『ふん……だが、この程度は想定内よ!』

 

魔人は指を打ち鳴らす。

 

今度は―――

 

カラスとコウモリが大量に一つのところへと集まっていく。

 

集まった空飛ぶ者たちは……すぐに一つの形を造成していった。

 

「……即席キメラ製造術か。誰から与えられたものか知らないけど、やるようになったじゃない」

 

ミナはフン、と鼻を鳴らしてカレーナの剣を鞘にしまうと、今度はバッグの中から客人碎を取り出す。

 

『勇者の槍か……!』

 

「懐かしいかしら?」

 

不敵に笑い槍を振れば、飛びかからんとした兎が二匹その素っ首を飛ばされる。

 

実の成らない果樹のように、無駄な努力とわかっていてもその魔物は本能のままに襲いかかってきた。

 

「見ろよ。まだ兎のほうがお前より潔い」

 

ミナはそう挑発して、口の中でクックッと笑いをたてる。

 

「どうせアレだろう。シャインマスカットみたいな何かを使って、この街の人間から運と生命力をかき集める算段なんだろう。私は先程魔王ラギオンと邂逅した。そのために直接的に生贄を使うのでは、この世界の人間に気づかれてしまう。暴かれてしまう。成長し切る前に。破局噴火を体現するあの魔王が!」

 

ミナは歌うように。

 

咎めるようにそう言って、槍を構える。

 

「させるわけねえだろ、ばぁか」

 

ミナはそうして、駆け出した。

 

カラスとコウモリは今や融合して、巨大な翼を持つロック鳥ともコウモリの怪人ともつかぬ異形へと成長している。

 

ミナはフライトの魔法を唱えると、滑るように飛び上がり―――

 

『クェーーーーーーッ!!』

 

「死ねぇ!」

 

怪鳥音で泣き出した巨鳥獣の脳天に踵落としを食らわせた。

 

バゴゥムと轟音を上げて、怪鳥獣の頭が割れて真っ青な血液が吹き出す。

 

ブシュシュ、と幾度か噴水のように吹き出して―――すぐに止まる。

 

「再生能力は十分にあるようね―――でも、そんなものではとてもとても」

 

せいぜいが成竜程度の力であろう、とミナは判断して、一気に勝負をつけるべく客人碎を振りかぶる。

 

『うぬう……!』

 

「今更焦ったって遅いわよ!ちゅぇりゃあああああっ!!」

 

そうして彼女は、その槍を空中から全力で振り下ろす。

 

『ギュギャァァァァァァッ!?』

 

それでロック鳥もどきはおしまい。

 

頭を客人碎によって潰され、再生能力を超えた打撃によって一切の反撃が出来ないままに地面へ沈んで血反吐と脳漿をぶちまけて沈黙した。

 

『……やはり相手にならんか』

 

「当たり前でしょう。この程度のレベルなら、後5~6匹連れてこなきゃ足止めにもならないのだわ」

 

ミナはフンと鼻を鳴らし、スティンガリウスを睨めつける。

 

魔人はその嘲るような視線に苛立ったのか、『ならば!』と叫んだ―――が時既に遅し。

 

「んじゃ、バイバイ」

 

ミナが短く言った途端に、スティンガリウスの首が何でもないことのようにミナの槍の刃の上に乗っかっていた。

 

『ぬ、うう……だが、そ、想定……!』

 

声帯もなくしているはずなのに、どこから声を出しているのか生首は続けて『これで終わりと思うなよぉぉぉ……!』と捨て台詞を残して崩れ去った。

 

「よし!後は雑魚だけね―――って」

 

ミナが独り言ちた瞬間に、魔物たちは一斉に踵を返して、波が引くかのように影の街へと撤退していく。

 

オーガやオオムカデまでも。

 

「……これで終わり、ってわけはないわよね」

 

ミナはこちらに駆け寄ってくる親友を見て、そうつぶやき頭を掻いたのであった。

 

 

 

「ここの入り口はストーンレックスに任せればいいとして、他の入口の方はどうかしら……」

 

ミナはそうしてスマホを取り出し、電波が届くことを確認してルルと岬に連絡を取る。

 

「……夕ちゃんのほうは問題なさそうだな、三郎」

 

帰ってきたLINFの返信を見て、空悟はそう言った。

 

しかし表情は晴れず、それがなぜかと言えば……

 

「岬から返信がない。これは苦戦しているか……?」

 

ミナは独り言ち、そして空悟を見遣った。

 

「……とにかくここはストーンレックスに任せて、岬たちのところへ行くべきね」

 

ストーンレックスは込めた魔力量から、後半日は入り口を守護し続けることだろう。

 

「ああ、そうだ。行くべきだ―――アレの邪魔を排除して」

 

その言葉に、ミナは一瞬だけ不思議なことを言ってんな、と思ったがそれが間違いだと気づいて彼女は後ろを振り向いた。

 

瞬間、ミナにも恐るべき気配が襲いかかる。

 

それは―――

 

「―――スフルタトーレ……!」

 

「はぁい、お疲れ様。おげんこ?」

 

軽い口調で闇の中から降りてきたのは、闇の女、搾取する者。

 

「お早いお出ましで。何?遊びにでも来たのかしら」

 

ミナは背に流れる冷汗を感じながら、女を睨めつけ軽口を叩く。

 

「うん、まぁ……それはちょっとまだ使うおもちゃだから回収に来ただけよん」

 

女が指をパチリと鳴らすと、崩れ去って灰になったスティンガリウスの残骸が空に浮かび上がった。

 

どこからか出した大きな袋に、その灰はすぐさまに収納されていく。

 

その最後の一片が回収され、スフルタトーレはニッコリと笑った。

 

その笑顔は、きっとその恐るべき気配がなければ魅力的な笑顔に視えたことだろうと思わせる蠱惑的な表情にミナはぞっとする。

 

ぞっとして、客人碎をそちらに向けた。

 

「魔王ラギオンを復活させたのは貴様だな……?」

 

「あらん。接触させちゃったのは謝るわよぉ。まだ完全体じゃないんだもの」

 

クスクスとなんでもないことのように女は笑う。

 

「完全体じゃねえって……俺ら死にかけたんだが?責任者として出頭してもらおうか!」

 

三郎は竜の兜を被り、女を睨めつける。

 

「あらぁ。そんな怖い顔で睨まないでよぉ。お姉さん、漏れちゃう」

 

『うわキモチワル』

 

くねくねとしなを作るスフルタトーレに、我慢できなくなったのかカレーナがそうドン引きした。

 

「やぁだ言われたくないのに言われたぁ!」

 

『嫌なのはこっちじゃ!ガドゥルを殺した奴を蘇らせおって!!』

 

あくまでふざけた態度を取るスフルタトーレに、カレーナの怒りの声が爆発する。

 

その怒りに満ちた声は、やはり孫にどこか似ていた。

 

「バーチャンの言うとおりだわ。ふざけてんじゃねえぞクソったれが」

 

こちらはこちらで底冷えのするドスの利いた声でスフルタトーレを睨めつけている。

 

「おお、怖い怖い。でもダーリンがそっちに言っちゃったのだけは謝るわぁ―――じゃ、後はあの人が完全になるまで、もう会わないと思うけど―――ここはあなた達で解決してねぇ~♪」

 

肩をすくめてニタリと笑い、女は恭しく頭を下げて空へと浮かび上がった。

 

「……首洗って待ってろよ。私達に時間を与えたこと、必ず、絶対、後悔させてやる」

 

「ふふふふ……楽しみに待ってるわよん♪」

 

ミナの言葉にそう返したスフルタトーレが消える間際、女は一人ニヤリと笑っている男を見つけた。

 

それは無論、ミナの親友の空悟。

 

空悟の笑みに、女はなにか気になるものがあったのか、消えるのを中断して空悟を見つめた。

 

「何故……笑ってるのかしらん?」

 

「……笑うさ。俺の親友は実にコミュ障な奴だったんだよ。それが実に豊かな感情を示してくれるじゃないか。アンタには全然感謝の一つもないが、異世界ってやつに感謝してるってことを少しだけ思い出してね。こうして笑っているというわけさ、クソビッチさんよ」

 

空悟はそう笑って、「三郎、怒っても仕方ないぜ。むしろ喜ばせるだけさ。この手合には、できるだけニュートラルに接してやるのが良い」と親友へ忠告する。

 

「……確かにな。それに、結局ラギオンもドミネーターも一度倒した敵に過ぎない」

 

ミナはそうして客人碎の柄を地面に突き立てて、「同じことを言わせてもらうわ。私に時間を与えたこと、私の仲間に時間を与えたこと、必ず後悔することになる!」と今度は怒りも憎しみもない、挑戦者の顔でそう突きつけた。

 

「へぇ……なるほどねぇ……いいわよん。その顔を叩き潰してこそ―――」

 

一瞬不機嫌な顔になり、無表情へと変わり、そしてすぐにまた人を嘲る笑みを浮かべて女は消えていった。

 

「……とりあえず、今回の事件の全容は見えた。そして黒幕は撤退した……後はシャインマスカットを見つけて駆除するだけだぜ」

 

ミナはそうして踵を返す。

 

「まだ、なんか罠が残ってるような気はするな」

 

「だったら叩いて潰すまでさ。さぁ、岬たちの救援へ向かおう」

 

心配げな空悟と、やはり心配はしているようだがそれでも前に進もうとするミナ。

 

その前に進もうとする様子に、やはりすごく変わった―――良い方向に、と空悟は思い、ミナには見られないようにクスリと笑うのであった。

 

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