異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第220話「そう言われてもなあ……」

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一方その頃、廻たちは―――

 

「殺人光線、全力照射ッ!!」

 

『グオオオオオオオッ!!まだだ!まだ我を倒すほどではないな、戦士たちよぉぉぉぉ!!』

 

巨人との攻防が一進一退で続いていた。

 

「岬ちゃん!」「なのです!」

 

廻と霜の巨人の近接格闘が続く。

 

それを援護せんと、魔法少女たちは再び合体魔法の態勢に入った。

 

『ファッハハハハ!いいぞ、どんどん来るが良い!雪よ霜よ霰よ雹よ!この私の命を聞け!礫となり降り注ぐが良い!!』

 

「ちぃッ!避けるのです!」「畜生ッ!近づけねーし、デカイ魔法撃つ暇がねえよ!」

 

二人は魔法を中断して飛行し、空から降り注ぐ―――拳大の氷礫の雨を避けざるを得なくなる。

 

端的に言えば、格闘戦能力は偽装躯体にジェット噴射装置を装備した廻とほぼ互角。

 

魔法による範囲攻撃は岬たちより遥かに隙がない。

 

使う魔法は氷のみなれど、その攻撃範囲はこの霜のフィールド総てだ。

 

「ぬううおおおおおお!」「痛っ!ぐえっ!!」

 

礫の雨をできるだけ避けるが、それでも数発は食らってしまう。

 

そして岬と恋は回復フェーズに入り、その間は廻が食い止める。

 

その繰り返しになってしまっていた。

 

「チッ……手が足りん」

 

『ふふふふはははは!ないものはないのだ!あるもので戦うのが冒険者というもの!戦士というものだろう!!』

 

随分と冒険者と戦う機会が多かったのか、巨人にスキはない。

 

配下―――であるはずのオーガや兎やカニたちは既に霜のフィールドの中で凍りつき、停止していた。

 

『素晴らしい―――ここまで我が霜の領域で動き続けられる冒険者は100と数十年ほど見ていない』

 

「なるほど―――この霜は我らの力量も測っているということか」

 

廻は構えを取り直し、再び殺人光線の充填を始める。

 

『ふふふふ……望むところ―――と言いたいが、邪魔が入ったようだ』

 

霜の巨人はグレートソードを掲げると、それを地面に突き刺してニヤリと笑った。

 

そして戦闘態勢を解き、先程までとは異なる、柔和にすら見える笑みを浮かべる。

 

「……如何なるつもりだ?」

 

『私も旧友と争いたくはない―――久しいな、森人の勇者よ』

 

急に戦意をなくした巨人がそう言った瞬間、廻のセンサーに仲間の―――ミナと空悟の姿が捉えられる。

 

「―――はぁぁぁぁぁ……何やってんのよ、フリーム……」

 

大きなため息を付きながら空間に入ってきたのは、間違いなくミナ・トワイライト。

 

森人の勇者にして、異世界の少女であった。

 

「……知り合いか、ミナ」

 

「知り合いも何も……」

 

ミナは呆れ返って髪をかきあげながら、その巨人に「あんたなんでこんなところにいるのよ」とへの字口で睨めつけた。

 

『わからぬなあ。我も気がつけばここにいて、ダンジョンの主となっていた。ダンジョンの主とあらば、魔物を増やし冒険者を迎え撃つが運命というものであろう』

 

クツクツと含み笑いをする、ミナの旧知と思われる巨人に『なんじゃ、我と同じ組かえ』とカレーナが呆れ声を出す。

 

「はぁ。知り合いと言うか、うちの森の東に100年くらい住んでた霜の巨人よ。うちの家族とも交流あったんだけど、30年くらい前にいつの間にか消えてたって父上から聞いたときにはびっくりしたわ。まさかこっちの世界に来てるなんてね」

 

ミナはまたかよ、という顔で缶コーヒーを2つ取り出して岬と恋に投げた。

 

もちろん熱々になっているホットコーヒーである。

 

「あちちっ!」

 

「またとんでもない知り合いがいるものなのですねえ、ミナちゃん」

 

二人は霜のフィールドで体が冷えているのか、そのコーヒーを安堵したかのようにズズと啜る。

 

「それにしてもこれは一体どういうことかしら?」

 

『まあ、十中八九魔王か邪神の仕業だろうなあ。はっはっは』

 

あっけらかんと長い髪を振り乱して巨人は笑った。

 

「それ以上の情報はなさそうね……いいわ―――とは言え、どうしようかしら。このダンジョン……」

 

ミナは頭を抱えて、ふはー、と息を吐く。

 

そこへ―――

 

「あれ?フリーム殿ではありませんか」

 

夕を伴ったルルが、杖を揺らしながら現れる。

 

『―――久しいな、不死の王よ。息災で何より』

 

フロストジャイアントの男―――フリームは親しげにルルに笑顔を向けてきた。

 

―――しかし、二人の間には笑顔とは裏腹な奇妙な緊張感が漂う。

 

それはまるで、何かの好敵手同士のような風情であった。

 

「なんで微妙な空気流れてんだ、コイツラ」

 

空悟がそう聞いてみると、「あ、なんでかオレには理解できない理由で、オレを巡って殺し合いしたんだよこのバカども」とミナが嫌な笑みを浮かべて答える。

 

つまり、それは……

 

「正気か?この金髪女を巡って恋の鞘当てでもしていたのか、貴様ら」

 

「あ、なるほどなのです。さっき言ってた『これほどの相手に出会うのは~』とか言ってたのは、ミナちゃんとルルくんのことだったのですね?」

 

夕はなにか気持ち悪いものでも見たような顔で、岬は興味津々の笑顔でルルとフリームを見つめた。

 

「恋の鞘当て……って、いやそんなんじゃなかった気がするんだけど……」

 

『いや、我はそのつもりだったが?我に釣り合う女など、上古の森人の勇者ほど希少で、それも男の気持ちをよく分かる貴様くらいしかおらぬとな』

 

ミナが困惑した顔でそういうと、怪訝な顔のフリームが抗議を返してきて、勇者は「マジで」と更に困惑していく。

 

「……そういう意味合いのバトルだったわけ、アレ」

 

「100年もずっとそう思っていたとしたら、お前はちょっと心療内科で診てもらうべきだと思うぞ、俺は……」

 

空悟はそうして、熱っぽい視線でミナを見る巨人を、何だそりゃと今にも言わんばかりの呆れた視線で見つめる親友に声を掛けた。

 

「……いや、マジで恋愛とかよう知らんし……」

 

ミナはそのまま頭を掻いて、「まあそれはいいとして……再会を喜ぶより前に、この奥になんか葡萄みたいな怪物がいるはずなんだけど、なんか知らない?」と直截に聞いてみる。

 

すると……

 

『ああ、あのキメラなら気持ち悪いから捨てた。5匹くらいだったかな』

 

そんなとんでもない答えが出てきたのだった。

 

「ドアホオオオオオオオオオオオオ!!!あのなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

その返しにミナは絶叫し、ルルは無言で頭を振る。

 

「ね、ミナさん。こういうのなんですよ。だから僕のほうがいいと思いませんか?」

 

「んなこと言ってる場合かバカ!!!」

 

ミナは激高して足元の拳大の石を、思いっきり振りかぶってバカ巨人に投射した。

 

めごしゃぁ!という何かが衝突して潰れる破砕音を響かせ、フロストジャイアントはそのまま地面に突っ伏した。

 

『ぬぁぁぁぁ……す、すまん。あれは逃してはならぬものであったか?』

 

「あたりきしゃりきのこんこんちきだよバカ太郎!!お前なんかバカ太郎戦隊バカブラザーズだよ!!ああ、もう!!!」

 

ミナは頭をガシガシと掻いて、「ルル!空悟!岬!恋ちゃん!オレと一緒に外でシャインマスカット捜索!廻さん夕ちゃんはこのバカタレと一緒にダンジョンの掃除!行動開始!!」と声も枯れよとばかりに叫んだ。

 

「承知。フリーム殿であったか。君もそれでいいか?」

 

廻が、何かもう22時まで残業して今日は家に帰って休みたいサラリーマンのような顔で巨人にそう聞く。

 

巨人はポリポリと頬を掻いて、『我が友ルル・ホーレスと我が想い人ミナ・トワイライトがそう言うのでは、私に否やはないなぁ』と言って巨体を起き上がらせる。

 

『……私やそこにいる君の祖母が召喚されたここはいったいどこなのか。後で教えてくれよ』

 

そう言い残して、巨人はズシン、ズシンと地響きを残して霜と雪の向こうの影の街へと歩いていく。

 

その姿を見て、空悟は「その気がないならその気がないって言っとけよ。文に言ったらキレるぞ、これ」と呆れ顔で親友に告げて。

 

ミナは「そう言われてもなあ……」とまた頭をポリポリと掻くのであった。

 

 

 

―――結論から言えば、シャインマスカットの怪物は見つかることはなかった。

 

スフルタトーレが回収したのか、それともまだ街に潜伏しているのかはわからない。

 

だが、少なくともミナとルルは研究所地下ダンジョンでの成果で、使い魔たちの大増産が可能とはなっていた。

 

それで捜索を継続するしかないという結論が下され……

 

加えてダンジョンの魔物たちは廻と夕、そしてフリームの手によって殲滅され、完全なバグダンジョン化も阻止されたのであった。

 

『ふむ。ここに住んでいて良いのかな?』

 

フリームは研究所の秋遂専用ケージの近くの戦闘機格納庫を仮住まいとしていた。

 

人間の縮尺となれば四畳半程度になるであろう広さしかない場所であったが、彼は特に気にしていないようである。

 

『私は定期的に空が見れれば良いのだ。ここには……映写機であったか?いや、びでおかめら?であるか?空をいつでも見れる装置がついている。否やはないなあ』

 

ふっふふふ、と巨人は笑う。

 

『まぁ、おとなしくはしていよう。君たちのもたらす娯楽は大変愉快だ』

 

ミナが腰に手を当て、不機嫌な顔で睨めつけても構わず彼は特殊繊維合金のベッドに寝転がった。

 

『ところで、この―――ふるはたにんざぶろう……の続きはないのかな?面白い演劇だ』

 

巨人は今見ている90年代に放映していたサスペンス・ミステリーの名作の続きを所望しているが、それにはルルが「もう役者の方が亡くなっているので、続きはありませんよ」と無慈悲な言葉を掛ける。

 

『……仕方あるまいな。只人は短命だからな』

 

少し残念そうに巨人は寝返りを打ってこちらへ視線を向けてきた。

 

「しかし、あなたにカレーナ殿、それからガドゥル殿。我々の知人が幾人もこの世界に来ているとなると、本格的に『邪魔者』を全部此方の世界に送っている可能性が高いですね、邪神は」

 

ルルが嘆息しつつそう言うと、ミナが言葉を引き継いて「そして、おそらくは―――本来私達はバーチャンにもフリームにも再会することはなかったのでしょう」と言って瞑目した。

 

「もしかしてループものの最終周なんですかね、これ」

 

ルルはパッと花咲くような笑みを浮かべて、空恐ろしいことを抜かしてきて―――

 

「あいたっ」「痛くしてんのよ」

 

ズビシッ!とおでこにチョップを叩き込まれた。

 

もちろん、ミナからである。

 

「いつの間にそんな言葉を覚えてきてんのよ―――でも、そう考えるとしっくり来ることが幾つもあるのよねえ」

 

例えば、それはルルによく似た姉妹であったり。

 

例えば、それはダークエルフの血を引く老爺であったり。

 

例えば、遠い昔に誰かが作った結界であったり。

 

―――別の時間軸で敗れた自分たちが、なにか仕込みをした可能性は――― 十分にある。

 

ミナは顎に手を当てて、そう思考する。

 

そしてしばし思索をして。

 

「結局、今の私達じゃ調べることもかなわない話なのだわ。考えても仕方ない……」

 

手がかりもない状態で、何ができようか。

 

少なくとも、邪神を迎え撃ち、滅ぼさなければ我々に未来はない、ということだけが今のミナたちにわかっていることであった。

 

「それより、再会できて嬉しいわ、フリーム。邪神は魔王ラギオンを蘇らせようとしている……あんたにも手伝ってもらうわよ」

 

その言葉にフリームは無言で頷いた。

 

そして―――『望むところ。再度求婚するのは、ラギオンとドミネーターを滅ぼしてからにしよう』と応えて。

 

「なんであなたは盛大に死亡フラグを立てているんですか」とルルに呆れられる。

 

「それ以前に求婚なんかされても困るっつーか、入らんわ。お前ら二人のち○こ」

 

身長5メートルオーバーの巨人のあれが、身長160cmに達していない小柄なミナに入るはずもなく。

 

それは当然、目の前の男の娘のペットボトルも同じことであった。

 

「ミナさん……ひどい……」

 

「ひどくないわ!ふざけるなよ!私のどこにそれが入る余地があるんだよ!おめーのペットボトル!」

 

ミナはチョップを三発ルルの頭にぶっ食らわせながら、少し顔を赤くしている。

 

それを見たフリームは『ふむ。以前よりは少しはマシになったようであるか』と含み笑いをした。

 

「なにがおかしいんだアンタは!!」

 

『なに、以前なら顔を赤くすることもなく、下手をすれば攻撃魔法を使っている場面だろう?』

 

クックッと笑う巨人に声を掛けたのは―――

 

「何やら昔話をしようとしている気配がしたのです!!」

 

自動ドアから突然入ってきた岬であった。

 

「おーそれ俺も聞きてーわ」と同じく入ってきた空悟もそう言ってくる。

 

「……あのさぁ」

 

『よかろう。昔話をすればよいのだな?まぁ、私とミナ、ルルが出会ったのは100年以上前のこと。我が―――シースター王国と呼ばれていた土地を住処に選んで数日後のことだ』

 

語りたくなさそうなミナと語りたそうなフリーム。

 

そして、聞きたくて仕方ないといった風情の岬と空悟。

 

ルルはその様子に思わず、プッと吹き出してしまった。

 

「なにがおかしいんだってんだよ、てめぇ……」

 

「いえいえ。なんだか、ね。とはいえこの話は以前したナターシャ殿の顛末にも関わる話です。まずは僕から話すといたしましょう」

 

そうしてルルはバッグから出した椅子に座って、同じく楽器を取り出したミナの隣で歌うように語りだす。

 

在りし日の物語を。

 

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