異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第224話「とりあえず今回は決着をつけてみよう 昔のお話Ⅴ④」

 

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現代。

 

「―――なるほど。岬に魔法を付与させて、噴進弾で攻撃するのが最適解であったか」

 

いつの間にか集まってきていた道野枝兄妹の兄の方が、フリームの部屋に仮設されたこたつでそう顎に手を当てる。

 

『ふふふ、何、これに気づいたからとてうぬらほど強くなければ使うことの出来ぬ戦法よ。それに―――』

 

「いやあ、当時の私達じゃあねぇ」

 

ミナは嘆息して、こたつの上に置いてある冷凍みかんを一つ取って剥き始める。

 

「あー……なるほど」

 

空悟が気づいたようにそういうと、岬も「なるほど」と同じように頷いた。

 

『まあ気づいてもらえれば、当時の我とミナの名誉にも良いことだ』

 

巨人はクツクツと笑って、『何しろ君だけで当時のミナとカイムを合わせたよりもずっと、その身のもたらす力は強いであろうしな』と廻を見る。

 

「ほう……まだまだ発展途上の頃というわけだ。まぁ体は今も発展していないようだが」

 

揶揄するような夕の言葉に、森人の勇者は「いや、別に育たんでもいいし……いや、筋肉つかんからもうちょっと育ちたくはあるけど、おっぱいも尻もいらんし……」とみかんを食む。

 

「では、とりあえず話を続けましょうか」

 

「うーっす」

 

苦笑してまた話を始めようとするルルに、恋が蓮っ葉にそう賛成して―――再び物語は紡がれだした。

 

 

 

―――夕暮れを迎える。

 

もう3時間はこうしているだろうか。

 

人の3倍もある巨人は、ミナたちの猛攻を受けてその背丈を2割ほど減じ。

 

ミナたちもまた凍傷と疲労でボロボロであった。

 

お互いに決め手が存在しない。

 

巨人の剣も魔法もミナやカイムを倒す決定打にはならず、二人の斬撃殴打はその身を突き崩すに至らず。

 

ダメージを与えられる魔法で熱された礫による攻撃は、しかし此方の冷気とそれがもたらす疲労、細かい受傷とトントンにできる程度のダメージでしかない。

 

「くっ……!このままだとジリ貧もジリ貧か!」

 

「あーやっぱ木精んなきゃぁつれえわいなぁ」とカイムは溢して、斧をまた構える。

 

ミナも、あの手榴弾があれば随分楽だったかも、と苦笑してフランベルジュを担いだ。

 

戦況は五分だが、自分たちは人間。

 

人間は―――無限永久には戦い続けられないものである。

 

「……ミナさん!もう良いのではありませんか!このままでは―――」

 

ルルの声が聴こえる。

 

すでに魔力が切れたラトリも、ルルの支援を受けて投擲に回っているが……

 

それでもまだ足りない。

 

……結局、これはペナルティだ。

 

街も、館もなるべく壊さずに戦うというのはハンデでしかない。

 

だが、それでは―――

 

「ルル!フレアー・クリメイションを、なるべく力を入れないで使って!館にだけは絶対当てないようにね!!」

 

このまま負ければ、街そのものが死ぬ。

 

それよりはマシだろう、とミナは「いいわね!?」とナターシャへと叫んだ。

 

「―――!」

 

ナターシャは数瞬逡巡し、しかし―――

 

「……やってくれ。このままでは街ごと思い出が死ぬ!それよりは!」

 

ナターシャが叫び返す。

 

それを聞いたミナは「ルル!埒を開けなさい!!」と吠えて、フランベルジュを大上段に構えた。

 

『ほぉ!遂に本気を出してくれるか!ふふふ、楽しいなぁ!戦いは楽しい!!』

 

「じゃかぁしぃ!師匠、ルルを守るわ!」「しゃああんめええぇなぁ!!」

 

二人はそうしてルルの前へ立ち、一旦格闘戦を取りやめる。

 

ミナは無限のバッグから、小さな輪っか―――腕輪を取り出すと、それを左腕にはめた。

 

「ミナ、それは?」

 

ナターシャの質問に、「総ての投擲を無効化する魔法のカダよ。こっちも投擲や弓矢が使えなくなる代わりにあらゆる投擲や矢弾を回避してくれるの」と答えた。

 

ミナはこれまでの戦いで、フリームが放つ氷弾のたぐいは魔力で作り出しているが、魔法そのものではない。

 

このカダ……腕輪は魔法が込められた矢も物理的衝撃を伴うなら防ぐことが出来るのだ。

 

しかし、同時にこれで有効打であった魔力を込めた礫の投擲が封じられたことにもなる。

 

―――このアイテムの使い所が難しいのは、近くにいる味方の投擲の狙いも狂わせてしまうためである。

 

『なるほど。葬送の魔法で我の全身を完全に焼き尽くそうというつもりか!良いぞ!素晴らしい!』

 

巨人は大剣を担いで一歩……人間の十歩に相当する距離の一歩を踏み出した。

 

踏み出した瞬間、大量の氷の礫がミナたちを襲うが、その総ての軌道は曲がり、逸れ、ミナたちに到達することはない。

 

巨人はそれを見てニヤリと笑う。

 

『正面から受けてくれよう!』

 

「あっそう!じゃあ私もやらせてもらうからね!」

 

ミナはそうすると、精神を集中させていく―――

 

「奪わんとなさばまずは与えるべし。弱めんとなさばまずは強むるべし。厳しき凍てつく蒼き孤狼フェンリルよ!吹き荒れ大地を凍てつかせよ!その牙ですべての熱をひれ伏させよ!」

 

呼び出したのは―――氷の上位精霊フェンリルであった。

 

魔狼フェンリルはその吐く吐息によって凍てついた総てを、絶対零度に貶めんと更に凍らせていく―――

 

極寒と言えた周囲が更に冷たく、霜の巨人の魔力と相まって自然にダイアモンドダストが生成され、やがてそれすらも消えていく……

 

「なっなにをするのですか、ミナ殿!?」

 

ラトリが慌てて抗議するが―――

 

「―――なるほどぉなぁ?」

 

鋼の秘密を目指す種族である山人のカイムには、ミナが何をしようとしたかが見て取れた。

 

「行け!」「承知しました」

 

ミナの合図とともに、葬送の魔法が発動する。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ―――地獄の業火を呼び覚ませ。我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ―――フレアー・クリメイション」

 

ルルが杖を掲げ、静かにそう唱えれば、ゴウゴウと周囲の冷気をかき消して巨大な火球が虚空より現れた。

 

「……逝きなさい」

 

『断るッ!!』

 

その短いやり取りで、この戦いは決着がつく。

 

―――カッ。

 

霜の巨人の大剣が不死の王の作り出した葬送の炎とぶつかり合い、巨大な閃光を放った。

 

―――跡には。

 

もうもうと烟る水蒸気が晴れ、そこにいたものは。

 

『ふ、ふっふふふふふ……強い……!素晴らしい……!』

 

体の大半を消滅させた巨人と。

 

無表情で膝をつく不死の王。

 

そして、余波で若干壊れた領主の館がそこにはあったのであった。

 

「……周囲に被害を及ぼさないように制御するのはなかなか難しいですね、ミナさん」

 

ふぅー……はぁー……と息をする必要のない少年が、深く深く息を吸って、吐いた。

 

葬送の火炎によって温められた周りも、また極寒の冷気にさらされていく。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「ええ、ナターシャ殿。館は大丈夫ですよ」

 

ルルがニコリと笑ってそう答えると、ナターシャは「いや、そうではない。お前が無事かと聞いているんだよ、私は!」と返した。

 

「……僕はなんともありませんが。魔力を使いすぎてしまいましたけど」

 

そうしてやがて回復したのか、ルルは立ち上がって。

 

「我々の勝ちです。命まで取ろうとはミナさんも思っていません。このまま立ち去っていただけるとありがたいのですが」

 

そう言われた巨人は、じわじわと体を再生させつつ半分なくなった顔でニッと笑う。

 

『よかろう。我がこうなった以上、霜の領域は解かれた。見よ』

 

―――落ちる夕日と同時に、周りの気温が急速に温んでいく。

 

凍った街は瞬時にして生命力を取り戻していく。

 

まるで、逆回しとなるように。

 

『ふふふふ、我を前にたじろがぬ、退かぬ者たちは久しぶりだ。私と互角に闘う者達もな……まだ続けたいところだが……』

 

フリームはそうして、ミナを見た。

 

「とは言え、これ以上は私達も無理ね……お互いに殺し切るすべがないのはわかったでしょ」

 

ミナは剣を収め、巨人が本当に戦う気がないことを確認すると、フッと笑った。

 

―――周囲から喧騒が聞こえてくる。

 

どうやら止まっていた人々の命が動き出したようだ。

 

―――これは後から分かったことだが、今回の騒動で死んだものは誰ひとりいなかった。

 

それは不幸中の幸いであった。

 

「良かった……生命の精霊たちが動き出した。ナターシャ、これでヨシなのだわ」

 

ミナはナターシャの手を握ると、綻ぶような笑顔を浮かべる。

 

「ミナ……ありがとう」

 

ナターシャが涙をたたえた目でミナを見て、ラトリも安堵したのか杖に体重を預けて微笑んだ。

 

「フリーム殿よぁ。そいじゃあ帰ってくれんかいねぇ」

 

カイムはそうして、霜の巨人に話しかける。

 

『構わぬが……ふふふ、気に入った。だが、その只人の女は夫がいるようだな……他は男しかおらぬ。ならば……』

 

損傷部分を半分ほど回復させたフリームはゆっくりと立ち上がって。

 

『決めたぞ。お前は我のものとする。ミナ・トワイライト』

 

とミナを見つめて言った。

 

「いや、誰かのものとかならんし。お帰りください」

 

ミナはにべもなくそう言い放って嘆息した。

 

「殺ス」

 

……瞬間、隣のバカの目が紫色に怪しく輝く。

 

「ルル???」

 

「ちょっと待っていてください。すぐ済みます。殺す」

 

そんなことを言い出したルルが危険な表情で巨人を見た。

 

『なんだ……貴様、ミナを?』

 

「黙れ殺す。ミナさんに汚い視線を向けるな」

 

戦っている間ですら殺気のカケラもなかった、否、ダンジョンで一度目に相対した時も、ハルティアを救出した二度目の時も殺気の一つも出したことがないルルの本気の殺気がフリームに向けられていた。

 

「……なんだかわからないけど、やるなら街の外でやってね?」

 

「……うむ。まぁ、ルルの気持ちはわからなくもないが、街中ではやめてくれ」

 

「同感です」

 

何も察せていないミナと、何かを悟ったナターシャ、ラトリがそういって二人が街の外へ行くことを勧めると。

 

「いいでしょう。表に出ろ筋肉の塊め」

 

『……まあ、我に否やはないが、いいのかミナ・トワイライト』

 

フリームが少しだけ困惑し、しかし喜色を表すのを見て、ミナは「よくわからんけど、とりあえず遠くに離れてやってね……」と肩をすくめた。

 

「……師匠、とりあえずこいつがなんかやらかすといけないから、私はついてくからナターシャたちと一緒に事後処理お願いしていいですか?」

 

「わぁったわぁった。悪魔もまぁなんちかのあ……」

 

カイムは斧を杖にして呆れ顔になっていたのだが、その時のミナにはなぜそんな顔をするのかさっぱり理解できておらず。

 

「……ミナも大変だな」

 

「少し同情しますよ」

 

苦笑してそんなことをいう領主夫人とその義息に、怪訝な顔を返すことしか出来なかった。

 

―――そうして睨み合いながら街の外へ出ていく不死の王と霜の巨人は、森人の勇者が呆れながら観察する中、街の外で三日三晩戦い続けることとなる。

 

その光景はまるで地獄絵図のようであった、と後にミナは語る。

 

ついでに言えば、数日間停止した街の被害は……

 

「へー、葡萄が凍ったままだったの?」

 

「そうなのよ。貴重なアイスワインの原料が大量に手に入って、お父様が涙を流して喜んでいた」

 

バカ二人がバトルするのを呆れ顔で見物しつつ、弁当を持ってきてくれたナターシャに気のない返事を返しながら、ミナは「はよ酒の秘密を持って帰らんといかんちゅうに」とミナは頬杖をついた。

 

 

「それなんだがな。オルカ大神官は全面協力してくれるそうだ。何しろ我々は街の救世主であることだしな」

 

ナターシャが笑うと、ミナも「そう……じゃ、この冒険も大成功なのだわ。さっさとあなたの旦那さんを取り返さないとね」と受け取った弁当を開いて食べ始める。

 

葡萄のソースとビネガーがふんだんに使われたサンドイッチと野菜のマリネは大変美味しかったのであった。

 

 

 

―――ハープの音が途切れる。

 

それは今回の昔話が終わりだと示す合図であった。

 

「というわけで、今回はここまでかな……」とミナはハープを置いて茶を啜った。

 

「フリーム殿はこの後、ミナさんの故郷の近くまで来て居座ることになります。そして、30年ほど前に突然行方がわからなくなり、僕としてはせいせいしていたのですが」

 

ニコニコと華の笑顔を浮かべながら、ルルはフリームに毒づく。

 

「ところで、なんでフェンリルで周りを凍らせたんだい、ミナね―ちゃんは」と人外の男たちがする視線の応酬を遮るように、恋が聞いてみると……

 

『それは簡単なことだ。フレアー・クリメイションとは葬送の火炎を作り出す魔法である。我の大半を削り尽くすには足らぬ。まして、あの時のミナたちには私への決定打は、例えジンやフェニックスを呼び出そうとも『なかった』と他ならぬ私が断言しよう』

 

「そのためにフレアー・クリメイションを強化し、更には周囲に被害を及ぼさぬようにする必要があったわけですが……」

 

ルルがフリームの言葉をつなぎ、ミナを見る。

 

「そう。そのために氷の精霊を、火の精霊の反転した存在であるそれを暴走するほど冷やしたった」

 

なんでもないことのようにミナはそう言った。

 

臙脂の薬湯とやっていることは同じである。

 

強めるつもりなら弱めよ、弱めるつもりなら強めよ。

 

臙脂の薬湯は氷の魔力を持つ水に、ドラウトスケールという貝殻虫をすりつぶした粉を使って作る魔法の薬である。

 

体を蝕む氷の精霊を反転させて火の精霊として体を温める、対凍傷の飲み薬である。

 

「私の経験上、フロストジャイアントなどの氷そのものである生物以外の物質に宿る氷の精霊は、マイナス170度、液体窒素と同程度まで下がると暴走を始める。そこに―――古代語魔法に寄る消せないほどの強力な魔法をぶち当てるとだな……」

 

ミナはニヤッと笑って、話を続ける。

 

「古代語魔法は偉大なるロジックによって世界の論理を強制的に書き換える。つまり、理を強制的に書き換えられそうになった氷の精霊は火の精霊に反転して暴走し、火の魔法を強化する。そして、反転に至らない氷の精霊はそのまま周囲の温度を冷やし続ける―――」

 

「なるほど。それで葬送の魔法を強化しつつ周囲の被害を抑えることが出来たのですね」

 

話を締めたのは岬であった。

 

「そー言うことぉ」

 

ミナはそうして、ルルに向き直る。

 

「あん時、臙脂の薬湯の話がなかったから勝てなかったのよねえ……」

 

「おや、感謝してくれても良いんですよ?」

 

「黙れ馬鹿野郎!」

 

得意げにしたルルの脳天に、ミナのチョップが突き刺さった。

 

「痛いじゃないですか」「痛くしてんのよ」

 

そのいつものやり取りを……ただ黙ってみていたのは……

 

(……放っておいても大丈夫かもしれねえけど、約束はしたし、何より、なあ……)

 

空悟は特殊合金繊維のベッドの上であぐらをかく霜の巨人を見て思う。

 

(こういうのまでいたってことは、割と今後もあるんじゃねえかなぁ……)

 

空悟はじゃれつく親友とその従者のやり取りを見つめながら、しばし瞑目した。

 

 

 

―――そして。

 

結論から言えば、影山総司の不調は解消された。

 

むしろ今までよりも調子が良くなったようで……

 

「ボク、あそこまで元気になってほしくはなかったかもしれない」

 

かけるはそうして岬に、買ってきたお菓子を一つ渡してきた。

 

「いや、もう大変で……声がいつもより3割増しくらいで大きくて……」

 

はぁ、とかけるは机に頬杖をついてげんなりした顔を岬に向けてきた。

 

ははは、と岬もまた同じような笑みを浮かべて、事件が解決した後に訪ったかけるの家であったことを思い出す。

 

「調子がいい!大変調子がいいぞ!これなら―――新タイムも行けるか!」

 

ミナからもらったお守りを身に着けた総司は、ミナと岬、恋が玄関に到達した瞬間にそう叫んで走り出していってしまった。

 

シャインマスカットに奪われていた生命力も運気ももとに戻ったようにミナには思える。

 

「……あのリストバンド、単なる精霊封じの布腕輪なんだけどなぁ……?」

 

去っていってしまった総司の背中を見つつ、ミナはそう言って嘆息する。

 

「やっぱりかけるちゃんと同じく、体内の精霊力がバランス悪いタイプだったんだろうなぁ……」

 

ミナはその様子にガシガシと頭を掻いて、おっとり刀で出てきたかけるを見つけた。

 

「あ、どーも。元気になったみたいね、お兄さん」

 

「いやいやいやぁ!あれは変だよぉ!?」

 

かけるがすがりつくようにミナの二の腕を掴んで言うが、ミナは「……きっと、今まで抱えていた病気が治ったんでしょう。かけるちゃんと同じように」と曖昧に笑って目をそらした。

 

「えぇぇぇぇぇ!?なんとかしてよぉ!」

 

「う~~~~ん……」

 

ミナは首をひねって考えるが、どうしても思い浮かばない。

 

あえて不健康にするのはNG。

 

むしろあの男は今の状態でなければ不健康なのだ。

 

……そんな元気な人間が地球人であって良いのだろうか。

 

ミナは首をかしげるばかりである。

 

「岬ちゃん!?」

 

「……つ、次は金メダルを取れるかもしれないのです!ファイトなのです!」

 

岬は冷や汗をかきながら慰めにならない慰めをしていて。

 

恋は恋で「……イメージ、まあいいか……あたいが黙ってりゃ良いんだ……」と諦め気味で遠くを見ていた。

 

結局、その日は40kmくらい走ってくるまで総司が帰ってくることはなく。

 

その日の夕ご飯はかけるが、かけるが好きな赤身のお刺身を買ってきて食べたそうである。

 

「……で、そのまま翌日にはコーチの待つ東京に行ってしまった、と。徒歩で」

 

恋がハーとため息をついてそう聞くと、「そうなの~もう~」とかけるは地団駄を踏んだ。

 

「その代わりご両親の仕事が落ち着いておうちに帰ってきたのですし、我慢しましょうですよ」

 

岬が水筒からお茶をかけるのカップに注ぐと、かけるは「ありがと~でもぉ~~~」と唸り出す。

 

(……しかし、あの運動能力は異常なのです。もしかして……)

 

岬はベヒモスの戦いで思ったことを思い出す。

 

―――やはり、この世界は最後の世界なのですかね。

 

自分の中にあるヒトコシノミコト、幸運の神の力が言っているような気がするのだ。

 

この世界がなんなのかを解き明かさければ。

 

目の前で可愛らしくうーうー唸っている友人の困り顔を見つめながら、岬も一つの決意を抱くのであった。

 

 

 

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