異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第226話 「自由―――なんと聞こえのいい言葉だろうか」

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―――それはかけるの暴走事件の後のことであった。

 

黄昏の傭兵団の七人は、研究所にて薺川の話を聞こうとしていた。

 

「……博士。何故あの海域に留まることを禁じたのですか?」

 

まず、口火を切ったのは廻である。

 

自衛隊機を海底でやり過ごそうとした廻と秋遂に対して、薺川は明確に即刻の退去を指示した。

 

それが意味するところを確認しなければならない。

 

『いいだろう……その前に、君たちは『信濃』という航空母艦のことを知っているかな?』

 

薺川はあくまで鷹揚に、しかし若干の震えを残す声でそう聞いてきた。

 

「もちろん知っているのです。帝国海軍の戦艦改装空母なのです。ただ……」

 

岬は少し言いよどむ。

 

大日本帝国海軍・空母「信濃」。

 

それは本来は戦艦として、色々とフリー素材化している大和の三番艦として生まれてくるはずであった艦艇である。

 

しかし、太平洋戦争序盤のミッドウェー海戦にて4隻の正規空母を失った日本海軍は方針を転換。

 

信濃は改装にて装甲空母として就役することになったのである。

 

「でも、昭和19年・1944年11月28日、最終艤装のための回航途中で米潜水艦アーチャーフィッシュに捕捉され、沈められてしまったのです。それがあたしが知っている史実の信濃ですけども……」

 

岬がそこまで言ったとき、夕が―――

 

「済まない、岬。実は沈んでいないんだ。『信濃』は」ととんでもないことを言い出したのである。

 

「……んー!オレ、なんだかすごい嫌な予感がしてきたなあ!」

 

「奇遇だな俺もだよ」

 

「僕もです」

 

元男とHFOと男の娘がそろって笑顔で不安を口に出す。

 

目は笑っていない。

 

笑うことなど出来るはずもない。

 

「あ、アーチャーフィッシュの……せ、戦果は……なっかなか認められなかったっていうのですがぁ……?」

 

冷や汗だっらだらの岬がそう聞くと、夕はこともなげに「当然だな。沈められたのは偽装用に作られていた木造の船体だ」と微笑む。

 

「陰謀論ん!!それじゃあ関係者の記憶とか箝口令とかはどうしたのですかぁ!?」

 

岬がそういうと、恋が「……もうわかってるよな、岬ちゃん」と頭を振って彼女の肩を叩いた。

 

記憶を操作する魔法を使える恋が。

 

「ば、バグかリソース使って記憶を操作した……ですか!?」

 

『御名答……そのとおりだよ、岬くん』

 

こころなしか表情を曇らせたように見える骸骨は、そうして後ろを向く。

 

『―――結局の所、敗戦は確実であったのだろう。一発逆転に賭けるしかなかったのだろうな。研究所の今は潰されている空間で『不確定性流体影響下建造』が行われたのだ』

 

薺川はそう述懐し、ミナたちを振り返った。

 

『信濃は―――もし敗戦となれば蒼沫湾沖に沈められることが決定したことまでは知っているが、そこまでだ。研究所はバグの暴走と戦略兵器の魔王の出現で閉鎖されたから……だが』

 

「……沈められたはずの信濃は、完全に朽ちてはいなかった、ってことですね」

 

ミナはハーーっと深く息を吐いて、「ようがす。いずれ完全に沈めることといたしましょう」と薺川へと返した。

 

『そう言ってくれて助かる……秋遂が接近したことにより復活したのだろう。識別信号が復旧しているんだ。現在、蒼沫湾中心部で起きている微弱地震が頻度を増していることとも関係しているかもしれない』

 

「蒼沫湾といえば……あの貝……」

 

ルルは顎に手を当てて、思い出す。

 

そう、漁大くらげ屋の味の決め手になっている謎の貝。

 

あれは間違いなくグリッチ・エッグ産の海産物なのである。

 

「なんだか更に嫌な予感がしてきたのですけれども」

 

「そうね。私もよ……」

 

ミナはそういうと、「とりあえずスペックを見せてくれないです?危険度図りますんで」と薺川博士に聞いてみた。

 

『うむ、これを見てくれたまえ』

 

そうして出された信濃のスペックは……字面通りならとんでもないものであった。

 

「……どう考えてこれ、空飛ばないだけで宇宙空母ブ○ー○アより強いのです。というか頭がおかしいです」

 

表示された画面には、水上速力百二十ノットだの潜水可能深度二千米以上だの頭が痛くなる数値が並んでいて、岬が頭を抱える羽目になる。

 

艦載機の能力も、見る限り世界最速の超音速ミサイルでも捕捉不可能なレベルの超速度と超スペックであり……

 

「これ、浮上して悪用されたら現代の日米英中独露の全艦隊でも勝てねーじゃね―ですかぁ!!馬鹿ですか!ああ、馬鹿になってたんですね!末期戦で!!」

 

叫びだした岬を尻目に、とりあえずスペックは全部確認しておこうと廻と夕以外の5人は空中に浮かぶ画面をまじまじと眺める。

 

「七式星雲砲……暗黒物質……?どこと戦争するつもりだったんだ、博士っつーか、大日本帝国……」

 

「そりゃガ○ラスとかマ○ーンとかだろ……波○砲だのグラ○ティブ○ストだの使う空母をどうにかするとか流石に専門外なのだわ……」

 

空悟とミナが呆れてそんなことを言うと、「まぁ、我々も出来てしまったから作られたようなところがあるからな」と廻が微笑んだ。

 

流石に流石すぎて、感情システムに―――我々の世界での意味での―――バグでも発生したのではないかと思うほど綺麗な笑みであった。

 

「あー、まぁ、だいたいわかったよ。アニメに出てくるような空母なのは。岬ちゃん、大丈夫?」

 

「……改めて、この世界が谷○生とか志○田○樹も真っ青な世界だってことに愕然としているだけなのです。大丈夫なのです。もう仲間に巨人てーかスーパーロボットもいますし、長で島な巨人で軍が戦国タイムスリップでも驚かないのです。うふふふふふふふ」

 

虚ろな目で辛うじて嫌な笑顔になっていない、もちろん全然大丈夫ではなさそうな岬を恋は支えて、「もう帰ろうぜ……岬ちゃんの頭がパンクしちゃうよ」とげんなりした顔をミナに向ける。

 

「そうね。んじゃ、とりあえずすぐ復活ってのはなさそうってことでいいですか?」

 

ミナは申し訳なさそうにしている薺川にそう言うと、『ああ。動力反応はない』と骸骨は答える。

 

「ならいいです。さっきも言いましたけど、こんなの浮上させるわけにはいかんですし」

 

……こんな大変な話なのに、ミナの心は新しい冒険に少し高鳴り。

 

つまり、その顔は綻ぶような笑顔であったのだった。

 

 

 

というのがもう2か月くらい前の話である。

 

おおまかに全員地力もスキルもパワーアップを果たしたことを確認したミナたち黄昏の傭兵団は、蒼沫湾を臨む海水浴場―――ではなく。

 

その近くの遊泳禁止の岩礁に集合していた。

 

「……とりあえずカーチャンに依頼して、ここらへんは封鎖してもらってるから思う存分泳ぐわよ!」

 

「海水浴に来たわけじゃないだろう、金髪女」

 

呆れ気味の夕は、普通に水着を着た偽装躯体でやってきていた。

 

「というより、我々は戦闘躯体でなくてよかったのか……?」と廻が疑問に思うが、その時研究所から通信が来たのだろう。

 

「……なるほど。すでに博士に躯体の輸送は依頼済みということか」と廻はそれでいいのか?とばかりに唇をへの字に結んだ。

 

とりあえず今、ここにいるのは水着の男女が七人である。

 

何故水着で集合と言われたのか、近くの海水浴場で妻と子が遊んでいるのを置いてきた夫である空悟がミナに「悪ふざけだったら流石に怒るぞ」とジト目で睨めつけてきた。

 

無論、空悟を含めて全員冒険用の背嚢……というかリュックサックは持ってきている。

 

「そりゃこれから海底まで泳ぐからに決まってんだろ。廻さんと夕ちゃんのボディは―――今回真面目に切り札になりうるので温存ってことだ」

 

ミナはそう言っておいっちにーさんしーと準備運動を始めた。

 

「泳ぐって……いや、まあ魔法があるか」

 

「魔法と精霊術は違うんだなあ、これが。ま、とりあえずウォーターブリージングさえかけてりゃ溺れるってことはないから安心だぜ」

 

ミナはそうしてニヤッと笑う。

 

着ている水着は普通にモノキニビキニであった。

 

「あれが恥ずかしくてそれは恥ずかしくないんか、お前」

 

「カーチャンがこれ着てけっていうから……」

 

空悟に水着の露出度がこの間の痴女アーマーとそう変わらんことを指摘されたミナは、それが茜の選んだ水着であると答えてふてくされる。

 

『あ、因みに我が茜と一緒に選んだんじゃ。造形は麗しいのだから、それを積極的に露出させていけ我が孫よ』

 

そう言ってきたのは、当然のごとくミナが佩いているカレーナの剣であった。

 

「バーチャン……?」

 

『うおお!強く握るのはやめい!?茜も賛成したんじゃぞ!はよう孫の顔が見たい言うたんはあやつじゃ!!』

 

ミナは祖母の言葉に、彼女を握る力を弱めてはぁ、とため息を付いて―――

 

やはり水着姿のルルを見た。

 

紫色のパレオでうまく股間のブツを隠し、胸は同じく紫色のサラシ風の布で覆われている。

 

これを見て男と思う人間は、100人のうち1人いるかいないかだろう、と思わせるほどに見事な着こなしであった。

 

「むう……」

 

ミナはその姿を見るなり、口をへの字に曲げて目をそらした。

 

―――何故だろう。直視できない。

 

恋愛的な意味で自分を巡って霜の巨人と一騎打ちしたのを知ったからだろうか。

 

何故かその姿をちゃんと見ることが妙に気恥ずかしくて仕方なかった。

 

「ミナさん、これどうです?なかなかいいと思いませんか?」

 

そんなルルはいつもどおりである。

 

いつもどおりだからこそ、ミナは気恥ずかしくて仕方ないのだ、と言ってしまえば楽になれるのだろうが。

 

何故か今のミナにはそんな勇気すら出てくることがなかった。

 

まるで、そんなことに勇気を使うんじゃないと誰かに言われているかのように。

 

「ま、まあ似合ってると思うけど」と動揺を僅かにも隠せずにミナは従者の水着を褒める。

 

「けど?」

 

「……けどじゃなくて、ナチュラルに腕に絡みつくな!」

 

言葉の続きを2秒も待たずに、ルルはミナの腕に自分の腕を絡めて頬を寄せる。

 

普段ならそのままぶん殴ってもおかしくないところだが、今はそんな気もミナには起きなかった。

 

「……ミナさん、なにか悪いものでも食べました?」

 

「どやかましいわ!!」

 

ミナは―――ミナを昔から知るカレーナはそのまま思いっきり顔面をぶん殴るものと思ったが。

 

しかし。

 

ビシリ、と彼女はルルの額にチョップを軽く一発食らわせただけであった。

 

「い、痛くないですけど?」「痛くないようにしたからね」

 

普段とは全く違うミナの様子に、ルルは少しだけ動揺して「いや、ほんとに大丈夫ですか!?」と真剣な顔でミナの腕にすがりつく。

 

「ええい!大丈夫だと言ってるやろがい!あーもう!あー!!」

 

バタバタと暴れてルルの腕から逃げようとしているミナの体には全く力が入っているようには見えない。

 

本気で嫌がっているように全く見えないミナに、恋と岬は「あれはいったい……」「どういうことなのでしょうですか……?」と怪訝な表情で顔を見合わせた。

 

その様子に空悟もまた「……随分進展したみたいだな!」とサムズアップを二人に向ける。

 

「うるせー!何が進展だ!」

 

「ミナさん!本当に大丈夫なんですか!?真剣に!!」

 

ルルは本当に真剣な様子でミナを心配し、ミナはそんなルルを引き剥がすことができない―――

 

―――実はルルの水着は空悟の仕込みなのである。

 

なかなかルルに協力すると言ったかつての約束を果たす機会がないままここまで来てしまった空悟は、流石に約束事を反故にするのはいかんと思って仕組んだことであったが効果は抜群のようであった。

 

(三郎のやつ、パレオ水着好きだったかんな~)

 

内心でそう笑い転げているのが、この親友であった。

 

(……ふふふ、そう言えばそうだった。あいつ、俺があの頃見せたG○ァン○ジーに乗ってた漫画に出てた、今でいう男の娘のパレオ水着でこういう水着が好きになったんだったな……)

 

そのキャラクターが男だということを後で知った三郎に、だいぶ怒られた記憶があるがまあいい思い出である。

 

(……んん?ということは、あの頃からもしかして……?)

 

空悟は、もしかして昔からそういう趣味があったのでは、と少し疑うが―――

 

「ありえねーな。あいつは生粋の異性愛主義者だった」と笑い、その性的嗜好が女になってもそんなに変わっていないのならば……

 

その時、「親友は倒錯趣味だった、と思い悩むことはないと思うぞ」と廻が声を掛けてきた。

 

「まあそれは自由だからな。中身が男なら女とか男の娘とかが好きになるのは仕方ないだろうさ」

 

「自由―――なんと聞こえのいい言葉だろうか」

 

廻は空悟に煙草を一本渡して、「あのじゃれ合いが終わるまでしばし待とうか」とライターを差し出してきた。

 

「あーうん、ありがとうな。廻の旦那」とケラケラ笑ってタバコに火を付ける。

 

親友とその下僕がじゃれ合いをやめるのは、それから十数分後のことであった……

 

 

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