異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第227話『普通のハマグリと同じくらいだと思うわ』

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コホン、とミナは咳払いをしてから「気を取り直していきましょう」と大海原を向いてそう言った。

 

「……まあ、いいけど」

 

空悟が頬をポリポリと掻きながら、防水処理されたリュックサックを背負う。

 

見ればまだ耳は赤いし、その白い肌も紅潮しているように見えた。

 

―――もちろんルルはおろおろと心配そうにミナに触るか触らないかの位置にいる。

 

「いいのか、あれは」

 

「もう放置するしかないのです」「あたいしーらないっ」

 

スクール水着を着てきた魔法少女二人は、そう言ってそっぽを向いた。

 

「目標は―――蒼沫湾海底のグリッチ・エッグ産の貝がよく取れるあたり」

 

やがて普段どおりのミナの声が響くと、6人は居住まいを正す。

 

「凪の日はいと優しく嵐吹かば厳しき水の娘ウンディーネ!水面の下に生きる者たちのごとく、我らの口に鰓を与えたまえ!!」

 

ミナの言葉と同時に、水中呼吸の魔法は正しく発動して7人に宿った。

 

「そんじゃ、思う存分泳ぐわよ!」とこれから行く場所のことなど忘れたかのようなセリフを吐いてミナは海へと飛び込んだ。

 

次いで、廻と夕、空悟、ルル、そして最後に岬と恋が飛び込むと―――

 

すぐに飛び込んだことで生じた波も泡も消えていき、水面は凪いで、元の姿を取り戻す。

 

―――海の中は静かで、キラキラと天から太陽の光が降り注ぐ以外は、特別何もない……

 

蒼沫湾は透明度がそこそこ高いので、10メートルやそこら潜った程度では光が薄らぐことはなかったが……

 

これから彼女らが望むのは海底。

 

水深200メートル以上はある海底なのである。

 

『なあ、このまま潜っていって大丈夫なのか?』

 

『水の精霊の加護があるから、少なくとも水圧で潰れるってことはないぜ』

 

空悟が少し心配して聞いた言葉に、ミナはそう返して更に前へ出る。

 

『問題は多分ないなー……見たところ普通の海でしかない』

 

夕はそう言って殺人光線照射装置を探照灯モードにして光を放つ。

 

『喋れるのが不思議なのですが、今更ですね』『わかる~』

 

岬と恋が手をつなぎながら沈んでいき、そして―――

 

ルルと廻は無言で沈んでいく。

 

泳いでいるはずなのだが、纏う雰囲気のせいで沈んでいくように見える二人であった。

 

『……まぁ、元気を出したまえ』

 

『……そちらこそ、岬さんのことでお悩みのご様子』

 

二人は言葉少なにそう交わすと、数秒無言となる。

 

『……私は機械だからな』

 

『僕は不死者ですけどね……』

 

そこで会話は一度途絶え、数分後。

 

『……いっそ押し倒してみてはどうか』

 

『……本気で仰っていますか?』

 

ルルは、廻が言ったことについて、気でも狂ったのかと思ったと顔に出ている驚愕の表情でそう聞く。

 

『七割ほどは』

 

静かにそう言った彼に、ルルは『……まあ、試してみるのも一興かもしれません。今のミナさんになら』と諦めたような言葉を投げかける。

 

『あなたも、彼女が悠久を生きる可能性があるのなら、予備部品なんかはたくさん用意しておくことですね』

 

そう言ってルルは沈黙した。

 

(……そうだろうな。私も夕もこの世界には不要だ。そして、いずれ岬たちも……)

 

廻の思考は、やはり深海へと沈み込んでいくようだった。

 

―――対して、妹機である夕はと言えば。

 

『で、どうするつもりだ。ある程度自覚は出来たんだろう、鈍感金髪女』とミナにジト目を向けていた。

 

『ほ、保留で……!』

 

『万年生きる神仙だの国津神みたいな存在の保留は、何十年単位なのだろうな?』

 

顔を赤くしてそんな終盤のラブコメ主人公のようなことを言い出したミナに、ロボ女はフッと鼻で笑って肩をすくめた。

 

『う、うぐっ……!でも恋愛なんかごめんだし……!』

 

『あーあー我が悪い我が悪い。我の乱行で嫌になったのはわかるが、茜は後長くても50年ほどしか生きんぞ。それまでになんとかしてやったらどうだ』

 

ミナに恋愛への忌避感を与えたものの一部であろう祖母が、空悟に言われたのと全く同じことを言い出してくる。

 

『でも』『でもも月光精もないわ。心配しとることはわかるがの。あの黒い死体は―――特別製じゃ。誰が作ったのじゃろうのう。そういう力はあるであろ』

 

反駁しようとしたミナに、カレーナはそう言って『ま、どう捉えるかはお主次第じゃ。我ならもう100年前には食っとるがの。性格と種族はともかく顔とブツがいい』とケラケラ笑った。

 

『尊属の言うことは聞くものだぞ、金髪女』

 

夕に呆れ顔でそう言われて、今度こそミナは『うぐう』と唸って言葉を失った。

 

どうすれば良いのかわからないが、自分の精神が嫌に不安定になっていることを感じている。

 

―――なぜかはまだ、わからない。

 

 

 

―――SMN本拠地。

 

「これは面白い波動だ」

 

そう言ったのは、スーパー・マジカルガール・ネットワークの首魁、イェカであった。

 

「どうされました?」

 

声を掛けたのは、青髪の魔法少女マコだ。

 

「……あの化物。水門ミナ―――やつの精神が今、乱れた。それも大きくだ」

 

彼女は面白そうにくつくつと笑うと、立ち上がる。

 

「さて、もう少しで開店の時間よマコ。仕込みは済んでいるのでしょうね?」

 

彼女は一瞬で接客兼調理用のエプロンドレスに変わり、マコの肩に手を置いた。

 

「……クロキとショウコは暇だったわね。海水浴に行かせて上げなさい」

 

なにか意図があるのだろう、魔法少女の首魁は目を細めて微笑む。

 

「……ハハッ」

 

マコは平伏してそれに従う。

 

何をイェカが感じたのかは―――

 

「ふ、ふっふふふ、はははははは―――まさかな、まさかまさかな。ハハハハハ!」

 

彼女の笑いが示すかのように、それはミナの―――

 

 

 

―――そうしてたどり着いた海底には、小さな穴が開いていた。

 

ピンク色に輝く鏡のような穴。

 

それは疑いもなく、異界への門であった。

 

『―――どこに繋がっている?』

 

ミナがそう呟いてその鏡に触れるか触れないかの僅かな間に、鏡の中から貝が一匹ポロンと溢れるように転がって出てくる。

 

間違いなく、ここが謎の貝のでどころであることだけは間違いなくわかった。

 

『どうやら貝専用の召喚陣のたぐいのようですね。うーん、これは……』

 

ルルが周囲を見回すと、すでに自生しているのか数百は下らない砂に紛れた貝たちが存在することがわかる。

 

見ただけで、である。

 

『これは早晩、こちらの人類にも存在が発覚するでしょうねぇ。義母上の組織がどれだけ隠蔽できるか、によるとは思うのですが』

 

ルルはにこやかにそう言って、ミナの顔を見た。

 

『そうかもね……いや、これ結構不味いわ。ラーメン屋で使う程度取れるってんならともかく、ここまで増えてるとは予想外だわ』

 

ミナは目線をルルから外しつつそう述べる。

 

視線の先は鏡に向けて。

 

『……繁殖力とかどうなのです?』

 

『普通のハマグリと同じくらいだと思うわ』

 

勇者がそういうと、眼鏡の魔法少女は『それ多分もう蒼沫湾に定着してると思うのです』と答えた。

 

『因みに、何食うの?』

 

今度は恋が質問をすると、『海底のヘドロとか汚物とかそう言うのを食べて浄化するんだけど。んで、魚とかイカとか人とかに食われる』と答えて―――

 

『……なんだその海洋資源を増やすためにあるような生き物は』と夕が呆れる。

 

『―――確かに考えてみればそのとおりね?やばい……やばくない?』

 

ミナが神妙な顔つきでそういうと、『浄化生物として売るか……』と諦め顔の空悟が天を仰いだ。

 

『うーん、漁大くらげ屋の店主殿が言うには、細菌やウィルスの類は検出されなかった、と言ってましたから体内に強力な殺菌作用を有しているということにもなりますね。興味深い。これはあちらの世界では絶対に知ることの出来なかった情報だ』

 

ルルが腕を組んでそう微笑むと、ミナが今度こそビシリと勢いつけてチョップを食らわせる。

 

『痛いですよ。調子戻りましたか?』『うるせーバカ!』

 

ミナは少し赤い顔でそう返すと、鏡を見る。

 

『……たしかに、これはどこかにつながっているから……魔力の流れを探知するわよ』

 

『承知しました』

 

ミナとルルはそうして、海底に陣を描き始めた。

 

白い、陰陽術で使う浄化された砂は不思議に海底に積もっていく。

 

やがて描かれた眼にも似た文様の魔法陣の中心には、鏡のような召喚陣。

 

そうして静かに勇者は呪文を唱えだす。

 

『―――ミナ・トワイライトが陣に問う。汝、なんと生まれしものか』

 

『我は瞳、我は脚、我は一筆。汝を求めしものへ誘う階なり』

 

『然り。汝の名は『探索』なり』

 

―――陰陽術は正しく発現する。

 

発現した力は、光となり、まっすぐに沖を目指して走っていった。

 

『―――なるほど。やっぱりな』とミナは嫌な予感が当たったなあ、と海底の砂の上でゴボリとため息をついた。

 

『廻さん、夕ちゃん。神森市ってね、昔戦車の修理工場があって、その関係で自動車工場も結構あったのよね。前世の私が高校くらいまでの頃は』

 

ミナの言葉に夕は『ああ、そのようなことは私とて知っている』と答えて―――

 

『なるほど。たしかにおかしい。そうであるならもう少し海底は汚れているはずだ』

 

一瞬でそう答えを返してきた。

 

そう、そうなのである。

 

見ればしっかりとした砂であり、そうした生活排水が多い都市近くの海底にしては妙にヘドロ―――つまり、有害物質を含んだ底砂がほとんど見受けられないのだ。

 

それどころか重油などの石油由来の成分も―――

 

『ないな。現代の海水はある程度人類由来の化学物質を含んでしまうものだが―――あまりに濃度が低すぎる。微細樹脂も殆どない……』

 

夕は瞳をミナに向けて、『つまり、そういうことか』と唇を不機嫌に歪める。

 

『もうしっかり繁殖済みってこと。それも多分―――何十年も前から』

 

ミナは左目を手のひらで隠して頭を振った。

 

すなわち―――

 

『やっぱり薺川博士が警告した海域に行ってみるしかない、ということか。この貝たちの由来はおそらく―――』

 

廻の言葉を岬がつなぐ。

 

『―――信濃』

 

大海原のそこに沈むそれは、今や疑いもなく―――

 

『バグダンジョン化、している、か……』

 

ミナはきっと光の向かう先、大海原の先。

 

蒼沫湾沖100km海底の、超巨大空母へと向けられていたのだった。

 

 

 




2回も投稿ミスした……

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