異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第228話 「解せんかもしれないですけど、まぁ……」

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―――超空母、信濃。

 

それはすでに信濃であって信濃ではない存在である。

 

薺川博士が示したスペックによれば、満載排水量14万tを超え、速力は水上120kt・水中240kt。

 

大深度潜水が可能であるため、核魚雷を含む核兵器でさえほとんど意味を成さない。

 

更には最大速度が極超音速に達する艦載マルチロール機を多数装備し、更には甲板に七式星雲砲なるロマン砲を装備しているとかなんとか。

 

もう聞いただけで頭の痛くなるスペックである。

 

これに対抗するには現代のあらゆる軍事力では不可能であり、更に内部がバグダンジョンと化している可能性が高い現在はどうなっているか全く不明だ。

 

『秋遂、これより輸送積載部を投下します。後は自動操縦で周辺警戒を実施。必要となれば廻様と夕様の戦闘躯体を射出―――でよろしいですか、ますたぁ』と秋遂の電子音声が背中に装備したカーゴブロックにいる廻たちに声を掛けた。

 

「問題ない。それと、マスターと呼ぶのはやめてくれないか」

 

廻が不機嫌に抗議するが、しかし―――

 

『拒否します。それでは投下します』と何故かにべもなく拒否され、そのままカーゴブロックは投下された。

 

「……解せん」

 

「解せんかもしれないですけど、まぁ……」

 

岬が頬をポリポリと掻いて、隣で偽装躯体ながら完全武装の廻に笑いかける。

 

「大丈夫なのです。多分」と曖昧な笑みを浮かべた岬に、廻は「そうだろうか……」と天を仰いだ。

 

「悩んでる暇はないぞ、廻。全く、フラフラと落ち着かないのは金髪女だけで十分だ」とブツクサ妹機の文句まで飛んでくる―――瞬間、カーゴブロックは無事パラシュートを開き着水フェーズへと入った。

 

着水はゆっくりとしており、そのままカーゴブロックは沈んでいく―――そう、ブロックのまま信濃の近くまで潜水していこうというのだ。

 

すでにカーゴブロックと廻、夕は敵味方識別信号を信濃のそれに合わせて発信している。

 

バグダンジョン化しているため、それでも不安はあるがやらないよりはマシだろう。

 

―――それから十数分後。

 

ゴドン、と衝撃がして海底にたどり着いたことを全員に知らせてくる。

 

「よし、行くわよ。とりあえず侵入したら浄化と渇水の術をかけるから」

 

そう言ったミナはすでに水着ではなく、当然仲間たちも同様である。

 

「今日中に解決できると良いけどなあ」と空悟がいつもどおりにサブマシンガンと日本刀を抱えて歩き出した。

 

「それでは注水を開始する。水中呼吸の術も万端。問題はないな」

 

夕がそうしてレバーをガシャンと落とすと、徐々にカーゴブロックに海水が入ってくる。

 

「溺れないとわかっていてもなかなかちょっと気持ち悪いのですね、これ」

 

「わかるわ……ドラマでこういうのに閉じ込められる役やったけどすんげー怖かったもん」

 

ブルリと肩を抱く恋は、一瞬怖気づいたようだがそれでもすぐに前へ踏み出す。

 

「とりあえず水の精霊さんの加護を信じるのですよ」

 

岬はそうして、緑色の姿―――スピニング・スタイルへと変身した。

 

「このメンツならどうにでもなりますよ」とルルが恋に話しかける。

 

その笑顔は、恋にとってはまだ怖いものだったが、しかし話した言葉はそれ以上に彼が言うのならそこそこに安心できる言葉でもあった。

 

ミナは―――その様子にまたもやもやしたものを感じるが、それでも冒険はもう始まっているのだ。

 

「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……」

 

ミナはこちらの世界のことわざでもやもやをかき消して、その瞬間海水がカーゴブロックを満たし。

 

ガバリ、とブロックの壁の一部が開いて―――海底へと一歩を踏み出すのであった。

 

 

 

『思った以上にすげえな、これ』

 

空悟が探照灯と、それを媒介に呼び出された光の精霊達によって照らし出されたその艦体を見上げてそう感嘆した。

 

『アングルドデッキが左右両方についてて、艦橋は伸縮自在とかもうなんか意味がわからないのです』

 

薺川博士に説明されたスペックのことを思い出して、岬ははぁとため息をついた。

 

『そんなことより侵入口を探しましょう』と言ったのはミナであった。

 

『変異がなければ艦の腹の部分に乗艦口があるはずだ』

 

夕がそういうと、探照灯でその部分を照らす―――と、たしかにそこには入り口らしきものがある。

 

『ぶち抜くぞ』『了解ー』

 

夕が水中用のスクリューユニットで推進し、乗艦口へと取り付くと、そこに自らの手を合わせてしばし。

 

『よし、開いたぞ!来るが良い!』

 

夕が手招きすると、それぞれに泳いで乗艦口へとたどり着き内部へと侵入する。

 

七人は慎重に内部へ向かい……通路の途中に何かがいるのを発見した。

 

『……あれは』

 

ルルが不死者の気配を感じ、声を漏らす。

 

―――その瞬間、乗艦口の鉄扉が閉まり、内部の排水が始まった。

 

『―――いかん、毒ガスが来るぞ!』

 

叫んだのはわずかな化学物質の変化を見て取った廻である。

 

「ぷはっ!―――上等!私に化学兵器が効くとは思わないことね!」

 

海水から顔が出るほど排水が進み、ミナは水上に顔を出して笑う。

 

瞬間ブシューっと天井のスプリンクラーらしき物体から無色透明の気体が噴射されていく。

 

それはたしかに邪悪な気配にまみれていて、毒ガスってそう言うものなのか、とミナの感覚に刻んでいった。

 

すぐさま夕の腕部機関砲が火を吹き、その噴射口を破壊するが―――

 

グニグニと破壊された部分が蠢き、すぐに修復していく。

 

「チッ!」

 

アレは塞がねば駄目だ、と思ったミナはルルと岬に目配せをする。

 

「承知なのです!偉大なるロジックよ!大気より水を、水を氷と成さん!氷は礫と成し、我が敵へ向かえ!アイス・バレット!!」

 

岬が氷礫の魔法を唱え、それは正確に毒ガスの噴射口を凍りつかせ―――

 

そこにルルの魔法が飛ぶ。

 

「偉大なるロジックよ。閉じよ。閉じよ。満たされたもの、飢えたるもの、尽くを封ぜよ。シーリング」

 

それは施錠系の魔法では最上位となる封印の魔法。

 

それが唱えられた以上、「そこに入ること能わず、そこから出ること能わぬ」出入り口となる。

 

氷で塞がれた噴射口は、封印の魔法で強化されその機能を停止させられた。

 

後は―――

 

「世界を調律する我らが祭神よ。遍く穢れを清め給え、遍く汚れを祓い給え!ピュリフィケーション!」

 

ミナの浄化魔法が唱えられると、毒ガスは一挙に消滅していく。

 

「―――うむ、もう問題ない。毒ガスは検知されなくなったよ」

 

廻がそうして息をつく。

 

「因みに何の毒ガスだったのです?」

 

「サリン、タブン、ソマン、マスタードガスの混合気体だ。我々でなければ噴射が始まった時点で即死だったろう」

 

「げっ……じゃあ、なんかちょっとしびれるこれって……」

 

空悟が手足が若干しびれていることを訴える。

 

「間違いなくその影響だな……」とミナが水筒を一つ投げてきた。

 

「毒消しのポーションだ。飲め。それで痺れ取れなかったら魔法使うぜ。岬と恋ちゃんは大丈夫?」

 

無言でその毒消しを飲む親友を一瞥し、ミナが魔法少女たちにそう聞くと、二人は「平気なのです」「全然ヘーキ!」と元気に返してくる。

 

「やっぱ状態異常耐性はおめーが一番低いな。ヒューマン・ファイター・男だから仕方ねえけども」

 

「あー……痺れ取れてきた。てか、サリンとかタブンとかって」

 

「ああ、そうだよ。俺らガキの頃に東京で起きたテロで使われたやつだよ。サリンはな」

 

ミナはそう言って腕を組み―――ルルが睨んだままであった通路の奥の闇に潜む不死者の気配を見据えた。

 

「あれ、ルルの見立てでは何に見えてる?」

 

「少なくともエルダーヴァンパイア以上の不死者ですね。僕ほどではないですが、かなりの上位者ですよ」

 

そう答えてニコリと笑ったルルに、妖精の勇者は「何年もの?」と聞く。

 

すると不死者の王は「少なくとも500年ものですね」となんでもないことのように言って杖をそれに向けた。

 

「何者ですか?」

 

『……我ら護国の鬼なり。護国の鬼となりて滅殺あるのみ』

 

―――ただ一言にそう言って、ニタリと笑った。

 

「チッ!研究所上層ダンジョンにいた吸血鬼兵士の完成型ってか!?」

 

ミナは右手を、その赤黒い装束の男へとかざす。

 

「世界を調律する我らが祭神よ!肉の堕落を遠ざけ、邪悪を退ける力を与え給え!ホーリーブレス!!」

 

ミナの言葉とともに、調和の祝福が降り注ぐ。

 

ミナたちには聖なる恩恵を、男には―――浄化による調和への回帰を与えて。

 

『ぐ、ググググ……な、何だこの光は……!』

 

「調和神ディーヴァーガ様の祝福の光よ。せめてもの情け―――この光に乗って逝ってほしいわ」

 

ミナはそうして、「国破れて山河ありと言うでしょう。大丈夫。日本という国は形を変えてもまだ残っている……世界の調和の一つとして」と真っ直ぐに男を見つめる。

 

『それでは意味がないのだ!我らは!我らはァァァァ!!』

 

男は光に耐えて立ち上がり、憎悪をミナに向けてくる―――それは純粋なもののように思える憎悪であった。

 

「……言っても無駄だ、金髪女。滅びゆくものに殉じるつもりでその姿になったのだろう―――このバグだらけの空間で理性を保ち続けているのは天晴。せめて私が―――日本海軍に籍を置くはずだった私が葬ろう」

 

ス、と夕は左前に手刀を構え、摺足で男へジリと近づく。

 

『ぬうう!ぬうぅぅぅ……!いいだろう!その姿!七式特殊戦闘艇だな!良かろう!』

 

男は腕を砲―――否、まるで戦艦のような砲塔へと変じていく。

 

「―――なるほど。三年式四〇糎砲を模しているのだな、それは」

 

夕は腰を落とし、それが放たれる瞬間を待つ。

 

『おおおおおお―――!ばんざぁぁぁぁい!!!』

 

「遅い―――!」

 

瞬間、夕の手刀が男の心臓を見事に貫く―――

 

ドシュリ、と腕を引き抜くと―――その吸血鬼は「無念」と一言残してそのまま倒れ伏して、灰となって消え去った。

 

「……さらば」

 

夕は少し悲しげに、その第三種軍装が変異したと思しき赤黒い軍装だけを残した男に敬礼をして仲間たちに向き直った。

 

「敵兵は排除した……往こう」

 

夕はその軍装を調べようとするルルを押し止めるかのようにそう言って、前へと進んでいく。

 

その姿に、廻は―――夕の中に何かが芽生えようとしていることを感じるのであった。

 

 

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