異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第230話 『さー!イッツショータイム!』

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―――数分後。

 

「敵が―――多すぎるッ!」

 

空悟が弾を惜しんで刀での戦闘に切り替えてしばし。

 

倒しても倒しても再生産されるがごとく、否、再生産されて女たちは生まれてくる。

 

倒れ伏した死体は生き残っている個体が回収していく。

 

血や回収できないほどにバラバラになった肉は、ずるずると排水溝へと落ちていきどこかへ流れていく。

 

間違いなく、どこかに自動人形のリサイクルプラントがあるのは明白であった。

 

「何としてでも私たちをこの部屋から出したいようね!」

 

ミナが叫んで、もはや武器を使うのすらも面倒だと徒手空拳で自動人形へと殴りかかりながらそう叫んだ。

 

「私も同感だ―――しかし、なんだ。自分と同じ顔を殴るのは実に気持ちが悪い」

 

「姉妹の顔を殴る私の身にもなってくれ」

 

機械人形の兄妹もまたうんざりした表情で表情なき人形たちを蹴り飛ばした。

 

「一気に殲滅しますか?」「却下。それが狙いの可能性もあるわ。急がず騒がず堂々と出ていくしかなさそう」

 

不死の王と勇者がそんなやり取りをしていると、不意に―――空気が薄くなってきた。

 

「まずいぞ。この部屋は後百二十五秒で人間が呼吸するには不適な環境となる」

 

廻がそう言って、偽装躯体用の装備を詰めた背嚢からガスボンベを取り出そうとしたが、ミナが静止した。

 

「―――魔法でしかできないこと以外をアイテムでするのが並の冒険者だけど、私、勇者だから魔力が潤沢なうちはアイテム節約するの!全く―――毒ガスが効かないってなったら、次は空気抜きかよ……甘いな!」

 

ミナはそう言うと、精霊語を紡ぎ始める。

 

「風にして無限大の空間と無限遠の面、無限長の線と無限小の点を司るもの、南に吹く豊穣王ノトスよ!この地に、この空に、この私に、私の同胞に、常なる安寧の大気をもたらしたまえ!」

 

それは空間の精霊術―――テラフォーミング・フォー・エアーと名付けた、一定の空間に満ちる空気の成分と気圧、温度、湿度を術者にとって快適な空間にするという新たなる精霊術である。

 

空間と風の精霊術をいつでもどこでも使える権利を持つミナに、酸欠によるダメージはもはやありえなくなっていたのだ。

 

「……気圧一一〇〇ヘクトパスカル。気温21度、湿度65%……未知の植物由来と思われる芳香成分を複数検知……空気は未だに抜かれているのにそれか……」

 

廻が物理法則を完全に無視したその大気の改竄にフッと呆れてしまう。

 

「いや、そんな顔されても……廻さんや夕ちゃんだって異常なくらい低いスターター電力で核融合炉起動させてんじゃないですか」

 

ミナがそう指摘すると、「そう言えばそうだな」と廻はポンと手を打った。

 

「無意味に間抜けな会話をしているんじゃない」

 

「究極で超人なロボットの話です?」

 

なんだか気の抜けた会話をするエルフとロボに岬がそう問うと、「あれはアンドロイドさ」と空悟が茶々を入れてくる。

 

「ふふふ。ゾンビとレブナントとグールの違いを見分けられる人間は少ないでしょう。ともあれ空気の排出口を塞ぎましょうか」

 

含むように笑って、ルルは杖を天井に向ける。

 

「おっけー、んじゃよろしく」

 

ミナがそうしてバッグから、べちゃッとした既に練りこまれたセメントの入ったビニール袋を取り出して放り投げる。

 

瞬間、それは天井のエアダクトに衝突して破裂して―――

 

「偉大なるロジックよ。叫びまわる大いなる時計の針を進めよ。日が三つ、昇り墜ちて消えるまで―――クイックタイム」

 

特定物の時間を進める古代語魔法。

 

タイムリターンの逆の効果を持つ魔法が、天井にぶつかったセメントが垂れてくる前に固めていく。

 

「これでいいですね。さぁ、行きましょう―――相手は推定時間の精霊だ。こんなもの、すぐにも元に戻されてしまうかもしれない」

 

ルルの言葉に、六人は無言でゆっくりと自動人形が生まれ出でてくる扉へと歩いていく。

 

出てくる自動人形は、全て廻と夕の拳で壁の染みへと変えられていき、わずかに機関砲を撃つことに成功したとしても、それはミナのプロテクションで防がれてしまう。

 

「……うーん、まぁ、無双なのです」

 

「あたいら向こうの世界だと、どのくらいなんだろうな……」

 

「さぁなぁ……」

 

生粋の地球人にして、そろそろ人間をやめてしまいそうな三人はそう言って異世界人とロボットたちの後をついていく。

 

そして扉を七人がくぐった瞬間に―――景色が一変した。

 

「うん、やっぱり分断用の罠だったみたいね」

 

「慌てて三々五々に脱出したりすれば、そのまま分断されてましたね……」

 

ミナとルルがそう言って、仲間が欠けていないことを確認すると周りを見回した。

 

「どう見ても格納庫、だと思うんですけども……」

 

岬がそうして目を向けた先には、猛禽類のような印象を与える―――どう見ても超音速ジェット戦闘爆撃機が複数鎮座している。

 

「これは台風ですか……」

 

岬がそうしてその戦闘機を見つめる。

 

―――暗い格納庫で遠めに見れば、ぱっと見戦後第三世代くらいのジェット戦闘機に見えるが、よく見れば「翼が空力を全く考慮していない」その戦闘機に岬は慄然とする。

 

色々なところが不自然に角ばっていて、飛ぶ形をしていない。

 

現代のステルス戦闘機のように、ステルス性のために空力特性を犠牲にしているというわけでもない―――

 

本当に少しでも航空機がわかってる人間なら、飛ぶはずがないとはっきりわかる形状をしているのだ。

 

「……まるで昭和のスー〇ー〇隊で、ロボの頭になる戦闘機みてえだな。ジェット〇ェ〇ジャー1とかみたいだ」

 

空悟がそんな感想を述べた。

 

「秋遂と同じ理論で飛ぶのだ。当然だろう。円盤や球形にしなかったのは、乗る人間の心理を考えてのことだ」

 

夕がそう言って、「そして私や廻の移動用の機体になるはずでもあった……」と独り言ちるようにその機体を見上げる。

 

―――二〇試統合任務型自動飛行実験機「台風」。

 

時速9999km―――マッハ8.09とかいう冗談めいた速度を出すと薺川博士が示したスペックには書いてあったトンデモ戦闘機である。

 

完全なVTOL機能と対航空機用殺人光線照射装置を装備する謎の物体である。

 

「これ、確か完成した分だけで37機だっけ?」

 

「そうだ」

 

ミナの言葉に短く答えた夕は、言っても詮無きことだとわきまえつつもため息をつく。

 

「……どうしてこれで反撃しようと思わなかったんだろうな?」

 

「流石にこれで勝ったとしても、それで維持できる世界ではなかったと思うのです」

 

岬がそうして、独楽を弄びながら夕に答えると、夕は「わかってはいるのだがな。これの恩恵を世界に配給するなど、否、我が国一国にでも配給するなど無理の極み、無謀の極みだ」と頭を振った。

 

「スーパーパワーだけで維持される世界なんかろくなもんじゃないわよ。勇者だって、上級の冒険者達だって、魔王やバグダンジョンや凶悪な魔物たちがいなければ必要なんかないもの」

 

「ただまあ、生まれ出てしまえばそれで維持しなければいけないのも世界というものですしね。この世界の核兵器のように」

 

主従は思いは一つとばかりに瞑目して肩をすくめる。

 

すくめて、つむった目を天井に向けた。

 

「で?今回は誰の願いを叶えたのかしら、ヴァダー。契約してるとはいえ、アンタにかける敬意なんかないわよ」

 

揶揄とも怒りとも苛立ちとも思えるミナの声に、一滴水が天井から滴る。

 

ポトリ、ポトリと水が滴ってくる―――滴った水は、やがて泉になって―――そこから女神が顔を出した。

 

『ぷっ!人間のくせになんか偉そぉ!』

 

その女神のような精霊は、苛ついた表情のミナを指さして笑いだす。

 

「……もしかしてスフルタトーレの眷属か何かです?」

 

「わかって言ってるでしょ。こいつが泉と真水の精霊ヴァダーよ―――なんと呼べば良いのかしら、時間の精霊に進化したんでしょうが」

 

ミナがそういうと、『カイロスと呼びなさい!このみなぎる力!美貌!まさに時間の神にふさわしい!!あのルアックとかいういけ好かない神など追い落としてやるわ!!』と哄笑を始めた。

 

「うへえ……またこう言うタイプかよ」

 

「言うなよ親友……」

 

うんざりとした顔の二人に、ルルがまた「カイロスって確か、此方の世界の時の男神ではありませんでしたか?ギリシャとかいう土地の」とミナに耳打ちをすると、ミナは「ぶふっ!」と耐えきれずに吹いてしまった。

 

「やめろ!笑わせるな!」「あー耳引っ張らないでください」

 

ムニムニとルルの耳を引っ張りながら、ミナは顔のニヤケを抑えることが出来ず、そのままルルの耳を離すとカイロスと名乗った精霊に「あ、あのさぁ?もういいからとっとと帰れよバカ★」と吹き出すのを我慢しながら指差す。

 

『ぎー!相変わらず無礼な菜っ葉ね!このまま時間戻しで殺してやりましょうか!?』

 

一転して不機嫌な顔になったカイロスは、そうしてミナに腕をかざすも―――

 

「残念ね―――概念に昇華したノトスやバハムート様と契約している私には、直接の時間操作なんか効かないのだわさ!」

 

ミナがその指にはめられたマスターリングをかざすだけで、その「時間の奔流」は消し去られていく。

 

「―――伝説の進化精霊がこちらは2体、あんたは1体だけ。勝てると思ってるのかしら?」

 

ミナはそうして仲間たちを守るように、その前に立つ。

 

『ふっ!見えたわ!お前の弱点は仲間!お前の仲間は時間攻撃が効く!』

 

「バカかてめー!?何のためにこうして守ってると思ってんだ!?」

 

当たり前のことを聞かされて、泉の精霊だったものは露骨に肩を落として『えー?ずっこくない?』と抗議してきた。

 

「ずるくないわ!ええい、埒が明かない!とっとと倒すわよ!」

 

皆がしびれを切らしてそう言った時、女は『あっそうだそうだ。私ってばやっぱり天才ね!泉の女神なんだもの、私!こいつらの願いを読み取って、嫌な過去をぶつけちゃえばいいのよ!』とにっこり笑ってそう言ってきた。

 

「いけない!止めますよ!」

 

『止められるもんなら止めてみなさーい!あーははははははっ!』

 

一切の躊躇なく、女は両腕を真横に突き出して哄笑を上げる。

 

『さー!イッツショータイム!』

 

 

 

 

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