異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第232話(だからこそ俺にはやる義務がある)

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―――今野空悟という男は、そこまで複雑な人生を送ってきたわけではない。

 

東京で生まれ、神森市へと幼い頃に引っ越し、中学を卒業する頃にまた東京へ引っ越していった少年。

 

そして大学に入ると親友と再会し、生涯の伴侶と出会い、やがて警察官となった。

 

子供が生まれると、双方の両親からの過干渉を厭う妻の要望に答えて都外への転勤を望み、今は神森市警察の暴対班に所属している……

 

姿が全く変わってしまった親友との再会を経て、人生はだいぶ違った方向へ動きだしたが、それでも順調と言えるのではないだろう、と彼は思っている。

 

そこに……少しだけ疑っていた事実が追加されただけである。

 

彼女は転生した、と何度か言っていた。

 

転生ということは、当然こちらの世界では死んでいるということを意味しているのだろうとは思っていた。

 

だから驚きはしなかったが、少しだけ悲しいとは思う。

 

(……男として、地球人としての三郎はやはり死んでいた……わかっていたことだが……)

 

もしかしたらもっと頻繁に連絡をしていれば救えたのかもしれない。

 

もしかしたら神森市に転勤した時に直接会いに行っていれば助けられたのかもしれない。

 

だが、しかし。

 

彼女は、彼であった彼女は言っていたではないか。

 

邪神が干渉していたのだ、と。

 

ドミネーターなる異世界の邪神が、水門三郎の魂を異世界に引き込むために行った干渉はきっと自分にも。

 

空悟はそこまで考えて、だったら仇を討つしかないだろう、と拳を握りしめた。

 

(終わったことは覆せない。ここにいる三郎は、水門ミナと名乗る少女は、そのまま昔のあいつじゃない。だけど、だからこそ俺にはやる義務がある)

 

空悟は決意を新たに、ミナの隣を歩いていく。

 

彼女がその決意に気づいたかどうかは、彼には全く意に介するべき事柄ではなかった。

 

やると決めたらやる。

 

それだけのことだからである。

 

―――格納庫の出口へとたどり着いたのはその時であった。

 

「ここから艦橋へつながっている。艦橋で情報を得てから、動力炉へ向かうべきだ」

 

夕がそう言って、その鉄扉へと手をかける。

 

すると彼女が認証したのであろうか、鉄扉はゴゴンと重い音を立てながら開いていった。

 

そこにあったのは……エレベーターである。

 

しかし、それは不自然に広い……10畳はあるであろうミナはその広さに、何かを思い出した。

 

「……懐かしいな。昔のRPGでさ。こういう広いエレベーターと言ったらさあ」

 

ミナはそうして上を見上げると。

 

そこから、翼―――否、ジェットパックを背負ったガスマスクを装着した陸戦隊員らしき兵士が、機関銃と軍刀を手に4メートルはある高い天井から侵入してくる。

 

「あーわかるわかる。こう言う感じでコウモリみたいなモンスターが出てきたよなあ」

 

空悟がそういうと、エレベーターはそうしてゆっくりと動き出していく。

 

「……まあ図面通りとはいかんか」

 

夕がそうして機関砲を構えると、廻は「仕方あるまい。排除する」と格闘戦の態勢へと入った。

 

「うーん、RPGはあんまりやらないからわからないのですが、こういうのって多いのです?」

 

「まあ、あるあるかな……レトロゲームに挑戦する系の番組で見たぜ」

 

岬の質問に恋が答えて、「でも付き合ってらんないぜ」とばかりに分身を4体生み出した。

 

すぐさまに機関銃をぶっ放してくる陸戦隊員だが、しかし。

 

ガガガガガガ、と轟音を上げるそれは4体の分身が作り上げた劣化マジカルプロテクトに阻まれる。

 

「よっし!これでも喰らえ!」

 

空悟がそうして手榴弾を3つほど兵士たちへと投げ込めば、すぐにもそれは破裂、爆発して陸戦隊員を吹き飛ばしていった。

 

「まぁ。これだけとは限らねえけども……」

 

空悟が倒れ伏した陸戦隊員を見遣って言えば、また天井から、或いは壁の隙間―――いつの間にか開いていた隙間から陸戦隊員がどんどん入ってくる。

 

「ええい、芸のない!」

 

ミナが霊木の弓で三体を同時に射貫きながらそうごちる。

 

「うむ、やはり空間というか―――時間が歪んでいるようだな。先程から3秒しか経過していない」

 

「まあ、そうでしょうね。文字通りここで時間を稼いで、その間に策を弄しているというわけです。偉大なるロジックよ。五光の剣の形を成したまえ。剣を鍛えるは鍛冶の技。なれど作り出す秘密は論理が産む故に。サモン・シャドウグレイブ!」

 

廻の分析にルルはそう返して、侵入した陸戦隊員の顔面に幻の剣を突き立てていく。

 

「だったら―――南に吹く豊穣王ノトスよ!大気の壁を仮初の封印とせよ!流動し、蠢動し、我が敵を防ぐ壁となれ!」

 

ミナは短くノトスへの祝詞を上げる。

 

瞬間、壁や天井に渦巻く空気の壁のようなものが展開された。

 

それは風の精霊術の第七位階であるサイクロン・ウォールである。

 

それがどのような効果を及ぼすのか、と言えば―――

 

バギンボギボギボギュッ―――骨と肉が嫌な音を立てて砕ける音が聞こえた。

 

すなわち、壁の内部に入ろうとするものを乱流によって斯様に砕いてしまう攻撃的結界である。

 

防御力こそプロテクションやデス・ウォール、ホーリー・ウォールに劣るが、軟目標の侵入を防ぐにはもってこいの殺意に満ちた術であった。

 

『ぎ、ギギ……!』

 

やはりそれらはアンデッドなのか、それでも死にきれずに結界内に入ってくるが―――それは間を置かずに、空悟と廻がその頭蓋を粉砕して始末していく。

 

それを術の効果が切れる5分ほど後まで続けた後―――エレベーターは遂に終点へとたどり着いた。

 

「―――100人に及ぶか。全く、愚弄している」

 

夕は不機嫌にそう言って、艦橋へと続く鉄扉を蹴り開ける。

 

―――そこは―――少なくとも10人ほどのために用意された戦闘指揮所のようであった。

 

椅子が10、そのうち一つの椅子は目の前にレーダースコープらしき大きなレイジメーターが存在している。

 

端的に言えば―――

 

「どこのヤ○トの第1艦橋だここは」

 

「そのツッコミは置いとけ、空悟。今やるべきことは―――」

 

ミナがその光景にツッコミを入れた親友をたしなめて、夕と廻を見る。

 

「ああ、情報の取得にかかる」

 

「艦内図程度ならどうにかなるはずだ」

 

二人はそうして、躯体から接続プラグを出して艦橋のレイジメーター脇にあった接続孔に挿入する。

 

「……情報取得、〇.九……完了。うむ、特に問題はないな。あの馬鹿女に毒されているわけでもなかった」

 

夕はそう言って、外を見る。

 

―――真っ黒な深海がそこには広がっていた。

 

「廻さんも大丈夫ですか?」

 

「ああ、問題はない。やはり事前情報通り、主機関はこの艦橋の真下にある。だが、そこまで行くには私か夕がここに残って躯体換装を行い、艦の制御網に接続し続ける必要があるようだ」

 

廻はそう言って、夕と同じく窓の外を見た。

 

「そうね……この艦橋は完全にバグダンジョン化していないみたいだし、外からの干渉も可能か……」

 

ミナがそうして顎に拳を当ててしばし思案し、そして―――

 

「じゃあ、ここは夕ちゃんと廻さんに任せます。万が一のときのために、岬と恋ちゃんも残って。なんだか嫌な予感がするわ」

 

勇者はそういうと、艦橋の―――艦長の席に腰を下ろした。

 

少なくとも罠のたぐいはないことを確かめてから。

 

「……戦力的にはほぼ完全に半分ずつの分断に近いぞ、それは」

 

夕がある意味心配していそうな顔でそう聞くと、ミナは「うん……でも接続を維持してる間に絶対敵は来るしね。ヴァダー……いえ、カイロスもそうだけど、この船をダンジョンとしている存在がいるはず……」と手を組んで、その手で鼻を隠して、それから微笑んだ。

 

「まあ、私とルルと勇者の兜装備の空悟だし、大丈夫ですよ」とあっけらかんと答えて、その椅子から立ち上がってミナもまた外を見た。

 

そこはもうエルフの夜目でも見通しきれない、深い深い水底だ。

 

「それじゃあ、二人がボディチェンジしたら行きましょう」

 

「そうだな」

 

空悟はミナの言葉にあっさりそう言って、「俺で大丈夫か?」と聞いた。

 

「どうにかなるさ。少なくとも、魔王級が出たときはこの戦力分散が最適だ。浄化の力を持つ岬がいれば成長していない魔王とも渡り合えるだろ」

 

ミナはくるりと弧を描くようにその場で一回転すると、ニヤリと笑う。

 

「ヴァダーの糞女がどっちに来るかが最大の問題ではあるんだが、まあぶっちゃけオレはさっきの暴露で知られたくない過去なんてまぁまぁなくなったしな……」

 

不敵な笑みを浮かべながらも、どこか遠いところを見るミナに、「まあ無理はするな。つか、その自分の旧ボディ、取っておいたらなんかのフラグな気がするぞ俺は」と肩をすくめる空悟であった。

 

「あ、わかるのです。なんかに乗っ取られてボス化するのですよ」

 

岬がニパっと笑って人差し指を立てた。

 

その様子に、「まあ、あるあるすぎる……」とミナがげんなりした表情となると、ルルが「いっそ利用される前に僕がアンデッドにしてしまいましょうか」と微笑んだ。

 

「ていっ!」「痛いんですが」「痛くしてるのよ」

 

勇者と従者のいつも通りのやり取りの後、通信で呼んだ秋遂が艦橋のガラスに取り付き、そこに穴を開けて廻と夕の躯体を搬入し、そして開いた孔は何が原材料なのか強固な充填剤であっという間に固めてしまう。

 

そうして床に寝かせられた二人の戦闘用躯体に、廻と夕は自身を転送していった。

 

ものの10分ほどで意識の転送は終わり、夕がまずゆっくりと起き上がる。

 

『……駆動完了。全機能問題なし』

 

次いで廻が無言で起き上がって、自分たちの躯体を担いだ。

 

『秋遂、我々の偽装用躯体を頼んだ』

 

廻がそうして躯体を搬入用の開口部に押し入れると、秋遂は『了解しました、ますたぁ。それではご武運を』と述べて開口部を閉じてそのまま警戒任務へと戻っていった。

 

『……準備はこれでよし。後は頼むぞ、金髪女』

 

夕にそう言われたミナは、「まーかせて!」と言って、そのままミナが持ってきていた小さめの印刷機で印刷された艦内図を手に艦橋を出ていった。

 

「三人だけで大丈夫かなあ」

 

「まあミナちゃんとルルくんだし、大丈夫なのです。敵が精神攻撃してくるとわかっていれば、いくらでも対策を取れるのが魔術師とか精霊術士なのですよ」

 

恋の心配に、岬はニパっと笑ってそう答えて艦橋の椅子に座る。

 

『しばらくは私たちはこの場で待機だ。交代はするが、私か夕のどちらかは戦えん。その間、よろしく頼む』

 

「承知なのです」

 

艦長席に座り、プラグを差し込んだ廻にそう返して岬はふぅっと息を吐いた。

 

「まあただで済むとは思ってないのですけども」と若干諦め気味の言葉を漏らしながら。

 

 

 




いやあ、執筆開始から今日で2年ですよ。
早いものですね。

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