異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第234話「超魔力ゴマァァァァァッ!」

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その頃、艦橋では―――

 

「というわけでですねえ。紺○の艦隊ってのはそう言う話なのですよ」

 

岬がくいくいと指を回しながら、自分の好きな架空戦記の話をしていた。

 

「へー……でも、それ無理なくない?昔の日本って貧乏だったんだろ?」

 

『そうだな。まず潜水艦を百と五十余計に、それも一年未満で用意することなど、一番小さい呂号潜でも不可能だろう。そんなに当時の日本に潜水艦を建造可能な造船所はないし、それを作れる国力があるなら開戦する前に中華民国を倒していただろう。設定を聞く限り、中華民国にはなんらかの梃入れはされていないようだし』

 

夕がはぁ、とため息をついてその作品へと論評をする。

 

『だいたい、大和や武蔵の予算を流用して作ったというのに、どうして援英艦隊の中核艦が大和以上の超弩級戦艦なんだ……?バグでも使ったのか……?』

 

自分たちがいる場所がどこなのか忘れたような話をしつつ、夕は周辺を警戒していた。

 

廻は現在、信濃に接続中で艦艇に意識を移している。

 

来るとすればいつだろうか。

 

「まあ、そんなに緊張していても仕方ないのですよ」

 

岬はそう言って、ペットボトルを一本ポーチから取り出して夕に渡す。

 

『む、ありがたい』

 

受け取った夕はそれを半分ほど飲み下して、キャップを締めるとなにかの航法装置らしきものが埋め込まれた机へと置いた。

 

「どういたしましてなのです。しかし、すごい艦なのですねえ、これは……」

 

周囲を見回すが、空悟が言った通りSFアニメに出てくる宇宙戦艦かなにかにしか見えない。

 

いくらバグ影響下で作ったと言えども、こんなものを秘密裏に作れるなどどうかしてるなあ、と内心考える。

 

「そうだよなあ。どう見てもやっぱ宇宙戦艦にしかあたいには見えないわ」

 

ゼリー飲料をジュルジュルと吸いながら、恋は天井の巨大モニターを見て嘆息する。

 

モニターには今は何も写ってはいない。

 

写ってはいけないのだ、と夕は思い瞑目して―――鉄扉へ機関砲を向けた。

 

腕から、どうやって収納していたのかわからないほどなめらかな挙動で機関砲を出現させた夕は、『警告だ。動けば撃つ』と冷たい声を鉄扉の向こう側にいる存在へと投げかける。

 

『……待ち給え。危害を加えるつもりはないんだ』

 

ぎぃ、と小さな軋みを立ててそこに入ってきたのは、かつての日本海軍の第三種礼装を着込んだ―――骸骨であった。

 

『あなたは……』

 

「大佐の階級章……もしかして……」

 

夕と岬が言葉を紡ごうとしたが、骸骨は手を遮るかのように向けて忸怩たる思いがあるのだろうか、苦渋に満ちた声を二人へと向ける

 

『私のことはどうでもいい……だが、この艦にいるものたちの霊はどうか……』

 

目をそらすかのように、骸骨は後ろを向く。

 

『……艦長。永の任務、ご苦労さまでした。この艦は我々が……黄昏の傭兵団が接収し、然るべき処置を実施します』

 

夕は短くそう言って、海軍式の敬礼を捧げた。

 

『うん……後はよろしく頼む……ここにいる者たちは不規則性流体に囚われ、あの世に行くこともできない……どうか、家族のいる場所へ送ってやってくれ……』

 

答礼を返し、大佐の階級章をつけた男はモニターを見た。

 

『来る……この艦と我々を朽ちぬまま世に捕らえている魔物が来る。すまない。後は頼んだ』

 

骸骨の大佐は、そうしてそのまま幻のように消えていき―――モニターに光が灯る。

 

『……ふっはっはっっはっはっは!悪あがきをしていたようだな、奴は!だが、無駄だ!この魔王がいる限りな!!』

 

野太い声の男、禿頭で、どこの国の階級章でもないワッペンを着けた軍服の男がそこには写っていた。

 

「うっわ超悪役顔なのです」

 

岬が思わずそういうと、男は気づいたかのように『ふん―――知っているぞ、邪神に逆らう愚かな真似をする人間どもだな!記憶の迷路に落ち込むが良い!!』と大音声で叫びだす。

 

「この邪悪な気配……!岬ちゃん!」

 

「わかっているのです!明日のエネルギーよ!悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ―――光の花よ一面の花畑となるのです!アナン・レインボー・インストレーション!!」

 

岬はロッドを掲げて呪を紡ぐ。

 

紡がれた聖なる言葉は、悪しきを遮る光の花畑となって周囲を覆っていった。

 

「闘いのフィールドは紡がれたのです!さぁ、かかってきなさいですよ!この翠の旋風、マジカルアナン・スピニングスタイルが相手なのです!!」

 

岬はそうして、モニターの男に独楽を突きつけた。

 

『ウワーハハハハハ!!その程度の結界で、この私!記憶の魔王の力を防ぐことが出来るはずがなかろう!!』

 

哄笑を上げた「記憶の魔王」と名乗った男は、その嘲りの如くに花畑に覆われた艦橋に、いくつもの墓標を生み出していく。

 

それは―――

 

「チッ!ふざけやがって!あたいんちの墓かよ!!」

 

恋はその墓―――伊良湖家の墓と書かれたその石塊に鎌を振り下ろす。

 

バギン、と音を立ててそれは砕け散り―――破片が周囲へと散らばった。

 

「これがどうしたっていうんだ!」

 

『ウワッハハハハ!その程度にも気づかない小娘めが!一端に偉そうな口を叩くと、そうら!痛い目に遭うぞ!!』

 

瞬間、墓の姿はいびつに変わり―――恋も見た覚えがほとんどない人間の形へと変化した。

 

『……これは……ふむ……』

 

夕が機関砲を向けつつ、その人型……男を見定めるがごとくに睨めつける。

 

それは……どこか、恋に似ている……面影を感じる男だった。

 

「なんのつもりさ……あたいにこの野郎がなにか関係あるってのかい!」

 

そうして、まだ瞳を虚ろにしている男に恋袴を振り下ろそうとして……その鎌は夕によって止められた。

 

『待て。この男の遺伝子情報の簡易解析を実施した。これはお前の血縁―――九九.七八%でお前の父親の偽物だ』

 

夕は何でもないことのように、そんな衝撃的なことを口に出す。

 

恋は……3秒ほど停止して、その後すぐに鎌を再び父親に向けた。

 

「チッ……あたいもあの毒母も捨てて、どっか行ったクソオヤジなんかあたいにゃ関係ねえよ!そんなことより、ここを切り抜けるのが先だぜ!」

 

怒りをにじませて、男に刃を向けるも―――

 

『ハッハハハハ!記憶というものはねじまがるもの!ふふふ、その男がそのような凶悪な容貌をしているのも貴様の記憶ゆえよ!ふははははっ!記憶の中に真実はない!!』

 

モニタに映る記憶の魔王は、そうして哄笑を上げて恋をあざ笑う。

 

『ならばなんだ。私にも、恋や岬にもそんな物言いは効かん。諸共に滅ぼすのみだ』

 

夕がそうして、額の殺人光線照射装置にエネルギーを貯めようとした時、その男は動きだした。

 

『ころぉすぅ……オレをぉ……ころしたぁ……あの女のぉ……むぅすめぇぇぇ……!』

 

……絞り出すような声で、それは自分を殺したものがなんなのかを告げていた。

 

「……あたいの記憶だろ。出鱈目並べやがって。ああ、たしかにあたいの毒母は、こいつを殺すくらいはやってるかもなあ!自分勝手で守銭奴な親類一同の鼻つまみモンだからよ!!」

 

怒り心頭を発するとはこのことか。

 

恋の青い髪が魔力光に押しやられるように、天を向く。

 

ほんとうの意味での怒髪天がそこにはあった。

 

『すぐに感情に支配され、記憶を捻じ曲げる!これが貴様ら人間の拙く、恐ろしく、滑稽で、マヌケなところだ!そうら!!』

 

その怒りに塗れる恋をあざ笑うが如くに、目の前の恋の―――どこか深い部分から抽出された記憶であるそれは、恋の怒りのままに肥大化していく。

 

「こ……これは……!」

 

恋が一瞬うろたえ、そして岬が恋の前に立って怒りの交じる笑みを浮かべた。

 

「なるほど……すなわち、あなたの権能は人や器物の記憶から幻影を作り出し、それをあたしたちのイメージで強化して襲わせるタイプというわけですか!」

 

恋はそうして、「超魔力ゴマァァァァァッ!」と叫び、独楽をその幻影へとぶち当てる。

 

しかし……「チッ!すでに強化済みというわけなのですね!!」と岬が叫んだとおり、その男はどこからか取り出したホッケーマスクとチェーンソーで武装したどこかの殺人鬼のような容貌へと変化していく。

 

「……あたいの父親のイメージ、なんか壊れてるぜ!」

 

『馬鹿を言ってる場合か、恋。岬の結界でもろくに弱体化していないということは、我々で止めねばなるまいぞ』

 

夕が機関砲と殺人光線を同時照射しても、「恋の父」は微動だにしない。

 

それは、すなわち物理的な防御能力においては戦略兵器の魔王にも匹敵するということである。

 

「なんてものを作ってやがるのですか、魔王!」

 

『我が作ったわけではないな!その小娘が作ったのだよ!さぁ、お前にも嫌な記憶があるだろう!それを増幅してやろう!!』

 

岬の怒りに哄笑で返して、魔王は岬の瞳を見た。

 

「や、ヤバイのです!嫌な記憶なら恋ちゃんの何倍もある自信はあるのです!恋ちゃんほど重くないですけど!」

 

岬は瞳を腕で隠して、一歩下がる―――そして、恐る恐ると周囲を見れば、何もいない。

 

「……あれ?」

 

何も出てこない。何も。

 

『……何?』

 

不思議そうに魔王は岬を見た。

 

「……おや?どういうことなのです?」

 

岬がそう言って、夕と恋を見るが、ふたりとも無言で首を振るばかりである。

 

『貴様、嫌な記憶がない……いや、我では読み出せない……まさか、まさかぁ……!』

 

魔王はなにかに気づき、そしてギリギリと奥歯を軋ませて。

 

『殺せ!今のうちに!覚醒めぬうちにだ!!』

 

瞬時、どう見ても十三日に現れそうな殺人鬼に見える「恋の父」がチェーンソーを駆動させて突進してくる。

 

『させんぞ。塵に還れ』

 

夕はそうして腕部機関砲だけではなく、背部からせり出すように出現した新兵器―――八十一糎大型噴進魚雷を発射した。

 

「どこに入ってるのそれ!?」

 

『微小機械による即時生産だ。気にすると死ぬぞ』

 

「いきますですよ!」「おう!」

 

発射されたそれが「恋の父」に突き刺さると同時に、岬と恋のマジカルプロテクトが展開される。

 

熱も爆風は魔法の壁に弾かれて届かず、破壊の渦は総てが殺人鬼へと向かった。

 

爆炎が晴れた時、そこには……まだ、ほぼ無傷のホッケーマスクの男がいて、こちらを不気味に睨めつけてきていた。

 

『損傷がないわけではないようだ。攻めたてるぞ』

 

「わかってる!」

 

恋は自分の分身を4つ呼び出し、それにそれぞれ別の魔法を唱えさせる。

 

『エネルギーボルト!』『ミストレルタイフーン!』『ミストレル・フレア』『ミストレル・ミサイル・シャワー!』

 

そして自らは―――

 

「岬ちゃん!」「合点承知の助なのです!」

 

「「光と希望と明日の翼!羽撃け未来のエネルギーッ!!マジカル!!サンダーバード!!ストライクゥゥゥゥゥゥゥ!!」」

 

現在出せる、二人の魔法少女の最大火力であるマジカル・サンダーバード・ストライクが炸裂した。

 

「やったかなのです?!」「やってないよ岬ちゃん!」

 

もうもうという煙の中、殺人鬼はまだ立っていることがわかる。

 

「もちろん、冗談なのですよ!夕ちゃん!」

 

『心得た』

 

岬は恋とともに、艦長席に横たわる廻のそばにまで後退し、魔力のチャージを始める。

 

レインボー・インストレーション、そしてサンダーバード・ストライクで消耗した魔力をマジックポーションで回復しながら―――当然、準備している魔法は唯一つである。

 

「その前に、これを持っていくのです―――天空に祈りを!愛に階を!すべての家族に幸せを!壊すあなたには地獄の沙汰を!アナン・スピニング・ストーム・トップなのです!!」

 

『殺人光線、全力照射―――!』

 

岬は、その独楽に緑のエネルギーを溜め込み―――全力で投射した。

 

これこそがアナン・スピニングスタイルの必殺技である。

 

緑の風を纏った独楽は、回転を増して二つの竜巻となり―――夕の放った殺人光線とともに、殺人鬼を微塵に砕いていく―――

 

『ギ、ィ、ァァァァァァァァ!!!』

 

だが、それだけで終わる「恋の父」ではなかった。

 

もはやすでに完全に異形と化しているそれは、ジェイソンマスクをまるで牙のごとくに割り裂いて夕の腕に噛みつく。

 

『ちぃ!』

 

夕は、噛まれていない左腕でジェイソンマスクを殴打する。

 

ドゴォ、ドゴォ、と骨も砕けよとばかりに何度も。

 

しかし、殺人鬼のマスクは砕けず、その歯は彼女の腕に食い込んでいく。

 

「夕ねーちゃん!」

 

『くっ……脅威度、戦略兵器の魔王と同等……と判定!はぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

夕は噛まれた腕を、そのままスイングして振り払う―――

 

そのまま怪物は艦橋の窓に激突して、黒い血を吐き出した。

 

『ち……右腕は使い物にならんか!』

 

バチバチと火花を散らすその傷口には、殺人鬼が吐き出しているのとを同じ黒血がベッタリと吐瀉されている。

 

「夕ちゃん!大丈夫なのですか!?」

 

『まごまごしているな!やれ!』

 

心配する岬の声に、機人はそう厳しい声で返して、ガラスに張り付いて蠢いている殺人鬼へと顔を向ける。

 

まだ反撃の余地を奴が残すのであれば、再び殺人光線を放つために。

 

『ギ、ギシシシシシシ!ギシャシャシャシャシャ!!』

 

その心配どおりに、男は再び動き出す。

 

今度は、その手に持つチェーンソーをこちらへ向けて。

 

『グワーッハッハッハッハ!!それはもはやこの魔王そのものと言えるほどに成長している!フハハハハッ!もはや物理的な攻撃など無意味!』

 

モニターの魔王が哄笑する―――その瞬間、岬は不敵な笑みを浮かべた。

 

「何が無意味ですって!?あたしの魔法を食らってから物申せなのですよ!!」

 

岬は、気持ちを―――後ろにいる廻とその妹機であり苦戦している夕を守るために切り替える。

 

自然、姿はスピニング・スタイルから普段の姿へと戻った。

 

後は……

 

「岬ちゃん!あたいも!」「ええ!魔力を貸してくださいなのです!」

 

―――二人の魔力が高まっていく。

 

それに応ずるかのように、その怪物は膨れ上がっていく。

 

それは恋の恐怖―――だけではもはや説明できない状態へと至りつつあった……

 




ヨーヨーとくれば独楽。これは定説。

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