異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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――― 一方その頃。
ミナは自分の母校の地下がダンジョンになっていることにため息をつく。
三郎と空悟の母校、惟神小学校は地下に倉庫が―――昔は一つあった。
ところが……都市伝説や怪談のように、僅かな油断で夏休みに閉じ込められ、あわや餓死しかけた児童が一人出たことを契機に完全に閉鎖され、三郎たちが在学中にはすでに地下へ降りる階段の一部を残してコンクリートで埋め立てられていたはずであったが……
『うわぁ、なにこれ……!?すごい!なんかすごい!!』
「ちょっと黙っとれガキンチョ。うーわーこんなもんまで用意してくるとは……」
それは―――それは、なんともはや、ミナは嘆息というか、呆れるしかない。
「俺には覚えないんだが、このダンジョンめいた場所は……?」
ミナは空悟のその言葉に、ふぅっと嘆息して答える。
「オレがガキの頃、何度も繰り返してみた夢―――をダンジョンにしたヤツだよ、これは……」
忌々しげにミナはそう言って、一歩踏み出す。
「―――まずここは中学の時に見た夢。だから、今のこいつが知るはずがない」
ミナはそうして天井を見ると、それがそのままズズズズと崩れる音を立てて落ちてくる。
「うお……って落ち着いてんな」
「ああ、脱出方法はある。どりゃあ!」
おもむろにミナは天井をぶん殴った。
すると、そのまま人が一人通れそうな穴が空いた。
「ほう。そう言う仕掛けですか」
『すごい……なんかすごいねこれ!』
従者とかつての自分がそれぞれに驚いているのを見て、ミナは「いいから急いで飛び込むわよ」と言ってその穴に飛び込む。
ミナが飛び込んだ瞬間に、景色は一変する。
「景色が変わった……つまり、これはお前がクリアすれば次に行くってことなんだろうな」
空悟がそうして今度は―――どこかの家の和室に変わった周囲を見回す。
すると……
『えっ……え。ここは……!?』
三郎が目に見えて狼狽し始める。
その様子に、ミナはフッと笑って瞑目した。
「実際どこなんですか、ここは。ミナさんは知っているようですけども」
「んー……多分前世で4歳か5歳のときに見た夢よ、これは。本気で怖かったから忘れらんねえやつ」
ミナは、そうして怯えるかつての自分の頭にポンと手を置く。
「大丈夫。これは幻だから」
優しく笑っていると、周囲から急にマグマが湧き出してきた。
「うぉっ……!ってこれか、お前がよく話してた夢って」
空悟はその夢がどんなものだったか、三郎が話していたことを思い出す。
祖父母の家に泊まりに行って、そこが突然マグマに覆われて自分だけが取り残される夢。
その夢があまりに怖すぎて、現実の体が動いたのか、無理やり目を開けて覚醒した……とかつての三郎は言っていた。
「三郎くん、この夢からどうやって起きたか覚えているでしょう?まずは目をつぶって」
ミナはそう優しく三郎の肩に手を置く。
『う、うん……覚えてるって……えっと』
彼が目をつぶったことを確認して、ミナも目をつぶる。
「『目をつぶって、無理やり指でまぶたを開く』」
二人はそうして、同じ動作を行う―――と。
すぐさまに周囲の景色はざぁと変わって、今まであったマグマもその熱も雲散霧消していた。
「なるほど……ミナさんが夢破りの呪法を知っていたのはそう言うわけですか」
ルルは得心したとばかりにそう言って、ミナの傍に来た。
「どういうこった?」
「現実の体を夢の中から動かし、魔力を込めた指で目を開くことで、サキュバスやインキュバスの夢の呪法を破ることが出来るのですが……何故かミナさんはそれを最初から知っていました。似たようなことをしたことがあったからなのですね」
空悟の質問にそう返して、ルルはミナに「大丈夫ですか?」と声をかける。
「うん、大丈夫。ガキの頃何度も見た夢だし、大したことはないわ……っと」
『怖かったァァ~!』
立ち上がったミナの足に、かつての自分がひっついてくる。
「はいはい、大丈夫大丈夫。泣かない泣かない」
臆面もなく泣いているかつての自分に、ミナは苦笑するものの……
「……」
「はいはい、ルルはちょっとその顔やめれなさい」
嫉妬を隠しもせずにかつての自分に向けている従者をたしなめて、再び広がった空間を眺めした。
「んー……ここからは……」
「ああ、間違いねえな。これはマ○オだな。お前こう言う夢、よく見てたの?」
空悟がそう聞いてくるが、ミナは「え?まあ熱とか出したときは、謎のアクションゲームかシューティングゲームの夢見てたけどさ……」と返して、まだ怯えているかつての自分を見た。
「でもしかたなくね?」
昔の、地球人だった頃の自分はよくそう言う夢を見た。
体調を悪くしたときに、よくそう言う夢を。
―――今は見ることはない……上古の森人故に、そんな記憶を整理するための夢を見ることはないのだ。
ミナはそれを寂しいとは思わない。
多くの上古の森人にとって、この世界は現に見る夢のようなものだからだ。
『おい、孫よ。いかん者がきよるぞ』
鞘の中のカレーナの剣は警告する。
『お姉ちゃん、なにそれ……?』
三郎が聞いてくるが、今は無視して剣を抜く―――抜いて、まっすぐ前から徐々に徐々に大きくなってくる馬の蹄の音を聞いた。
「おう、さ……お前さんよ、俺は猛烈に嫌な予感がしているんだが」
「あーうん、そうだな、オレもだよ」
一瞬三郎と言いかけた空悟に聞かれて、ミナはふうっと息を吐く。
「全力戦闘準備だ、ルル、く―――親友」
ミナは―――カレーナの剣を鞘に仕舞って客人碎を抜く。
それに呼応して、空悟も竜の兜をかぶり、ルルは二口水晶を腕に着けた。
『ど、どういうこと……?まさかぁ……』
三郎がとたんに怯えだすが、ミナは平然としていることに空悟は「なんとなく次に来るのはわかったぜ。あれもまートラウマもんだからな」と唇をへの字に曲げた。
「夢に見るほど怖いものが前世のミナさんにはあったんですね」
ルルがなんだか面白いなあ、とばかりにニッコリ笑うと、ミナは「後で覚えておけよてめー」と低い声で言って勇者の槍を左前に構えた。
パカラッパカラッと軽快な音が鳴り、近づくに連れてガシャッガシャッという重装鎧の擦れる音が聴こえてくる。
―――それは巨大な剣を携えた西洋騎士であった。
「やっぱりこれか!」
『―――我は忙しい。1分だけ時間をやろう。その間に力を示せるかな!?』
ミナが叫ぶように言った言葉を無視して、西洋騎士はそう宣言する。
―――ミナは内心で、ああ、これホントに嫌なボスだったなあ、と述懐する。
それは某大作RPGシリーズの3~5作目の中ボス……というか、召喚魔法を覚えるために必要な試練としてのボス戦として用意されたキャラクターであった。
それ以降のシリーズにも登場するが、ミナにとって印象深いのはその3作である。
初めて触れたのは父親が買ってきた中古のゲーム機であった。
そのボス―――北欧神話の大神オーディーンと同じ名を持つそれは、どういうわけか斬鉄の力を持つ大剣を片手で操り、それでモンスターを一撃で殺してくれるのだ。
いわゆる雑魚散らし用の魔法であるが、これが敵に回るとずいぶんと厄介で、レベル帯では耐えられない全体斬撃をしてきたり、1分以内に倒せないと問答無用で全滅させてきたりするボスとなるのだ。
1分以内、と零したので、おそらく今目の前にいるのはは5作目のそれと思われた。
「しかしこいつかぁ……どっちかっつーと、俺はデ○ンズ○ォールのが怖かったがな!」
本気で即死攻撃を食らわされてはかなわないと、空悟は二丁機関銃で射撃を始めた。
客人碎を起こしている時間はない。
確実に滅ぼすために、ミナはその柄に力を込める。
「水の娘ウンディーネ、火の子サラマンダー、風の乙女シルフ、土に棲むノームよ―――我に世界を支える四つの力を与え給え!火に弱きものには水を、水に弱きものには炎を!風は土を衰えさせ、土は風を防ぐ―――戦乙女ワルキューレよ!四つの力を束ね、時に応じ我を守り給え!」
ミナのレギンレイヴと―――
「世界を司る偉大なるロジックよ。勇者の身に力を。腕に、足に、目に、指に。強く、速く、正しく、巧みに―――フィジカル・エンチャント・オールボディ!」
『世界を支配する偉大なるロジックよ。刃に光を、光は刃となれ。光芒は鋭く、敵を斬り穿ち滅ぼすべし。シャープグレイヴ!』
ルルの二口水晶によって同時に二つの強化魔法がミナの体と携える槍に宿る。
『―――グングニルを食らうが良い』
西洋騎士は盾らしきもので空悟の射撃を防ぎつつ、槍をルルへと向ける。
一瞬でも攻勢を許せば、斬鉄の刃を食らうハメになる―――!
そう思ったミナは、すぐにも走り出して。
「させねえよ―――庚申流槍術―――奥義!無比流怜!!」
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、という言葉通りにミナはまず払いにて西洋騎士の乗る馬の脚を斬る。
『ヒヒィィーーーン!』
そして、そのまま―――左に構えた盾を持つ腕を突いた。
『むぅっ!?』
バランスを崩し盾を取り落とした騎士王に、彼女は空中で二回ほど縦に回転して勢いを増した槍の穂を叩きつける。
『舐めるでないぞ!!』
斬鉄の刃ではなく、投擲しようと構えていた槍で騎士王はそれを受けようとするが―――
その姿はまるで幻のように消えて―――
『なにッ!?』「残像よ!」
ミナの槍の穂が、騎士の背中から心臓を深々と穿っていた。
『お、お姉ちゃん、すげえ……』
過去の自分からの称賛が聞こえるが、それも一瞬のこと。
『ふ、ふはははははは―――ははははははは!美事!!』
騎士はそう大笑いして、そのまま地に崩折れて消えていく―――
後には、一振りの剣。
斬鉄の刃が残っていた。
その形は……
「……日本刀じゃないか」
その斬鉄の刃は、その剣の元ネタどおりに刀へと変化している。
「……斬鉄剣じゃないか」
「そういえばあの大怪盗の三代目も異世界転移してたよな」
「あー、オレあのエロ漫画出身の漫画家好きなんだよね。何が淫乱うどんだよ」
勇者と刑事はため息を付きながら、地面に突き立つその日本刀について物申していた。
「ああ、あのアニメーション面白いですよね。戦略爆撃機を真っ二つにする話など、ミナさんがいつか真似しそうで」
ルルが話に混ざって、本当に面白そうに笑うもので、ミナは「やめてちょうだい……マジでありそうで困る……」と頭を振った。
「ま、そうだよな。この船沈められなくて、薺川博士に管理任せるようなことになったらそのうち米軍のB-2爆撃機とか撃墜しなきゃならなくなるかもな」
空悟のジョークに、ミナは「勘弁しろや……」と呟いてうなだれる。
うなだれた先には……
『すっごい……すっごいお姉さん……!』
かつての自分が憧れの目で自分を見ていて、内心うぎゃあと悲鳴をあげるしかない。
「……ルル、私、どうすれば良いのかしら」
「とりあえずここを切り抜けることを考えるべきでは……ほら、ここからはアクションゲームの時間のようですし」
ジト目で従者に聞いた勇者に、ルルはそう返して前を見た。
すると、そこには―――大量の動くきのこ……リビング・マッシュルームや凶悪な顔の亀、あるいはゾンビや棍棒を持つ蛮族、そして骸骨や何故か琵琶法師が地面から湧き出してくる。
ガーゴイルらしきものや、食虫植物、槍を手に持った全身タイツに見える人型の悪魔も同じように。
それを指揮しているのか、細い目をした十二単の女性―――どことなく妖怪めいた雰囲気を漂わせている美女が空中に浮かんでいるのを見て、ミナは嘆息した。
「えーと、マ○オに魔○村、ワル○ューレの冒険と……源平討○伝ですかね」
ルルが出てきた敵を分析してきて、ミナは「どこでそんなん知ったのよ……」と更にうなだれる。
「いえ、お義母様から手ほどきを受けまして」
どうやら震源地は茜であったようだ。
ミナはその事実にはぁーっと大きなため息をつく。
「カーチャンも余計なことを吹き込んでからに……」
ミナはそうして、カレーナの剣を抜いて「突破するわよ」と言って、前に一歩出る。
「親友。お前はその子を頼む」
「ああ、わかってるぜ。ほら」
ミナの指示に、空悟は三郎を背中に背負って―――先程手に入れた斬鉄剣を片手で構えた。
「呪われてはないから、それはそのまま使っててくれ……今津鏡よりも強そうだ」
ミナがそういうと、「わかった」と短く返し、そして「しっかり捕まっていろよ、少年」と笑った。
『う、うん!』
三郎の困惑しつつもしっかりした返事とともに、レトロゲームめいた洞窟の突破行が始まるのであった。
どんな日常回が読みたいですか?
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メインキャラのエピソード
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サブキャラのエピソード
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敵キャラについての深掘り
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