異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第241話「ちょっとした幕間」

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扉を抜け出た先は、何もない通路……地図が正しければ、このまままっすぐ行けば機関室―――つまり動力炉が存在する空間へとたどり着くはずであった。

 

「あーあー、テステス。そっち聞こえてる?」

 

ミナは夢の後に残ったひそひ草に語りかけてみた。

 

『はいなのです、聞こえてますですよ』

 

すぐに岬の声が響き、次いで『よく聞こえる。これから廻と交代するゆえ、その場で待て』と夕の声が聞こえた。

 

「あ、ちゃんと通じるわね。了解。じゃあ少し待機するわね」

 

そうミナが応えると、『我々が制御していないと本当に危険―――とはいえお前と女男はどうにかなるだろうが、空悟殿が死ぬからな。くれぐれもその場から動くな』と念押しをしてきた。

 

「大丈夫。流石にその手の指示は守るわよ」

 

言われたミナは、バッグから座布団を3つ出して二人に配り、「休憩しましょう」と微笑む。

 

「やれやれ。大変な目にあったな」

 

「まさか昔の自分と話す機会が来るとは……30代でなくてよかった。絶対ぶん殴ってたってばよ」

 

空悟とミナは口々にそう言って笑って、ふとミナはルルを見た。

 

「……」

 

「なんですか?」

 

「……なんでもないわ」

 

なんでもないのに、ミナは彼の額にビシリとチョップを食らわせる。

 

「痛いじゃないですか」「……ごめんね」

 

ミナは―――三郎の複製体を吸収したことで、より不安定になっているのだろうかと自分の心を訝しみながら、普段なら口から出ない言葉を紡いで嘆息した。

 

その様子にルルは「……僕を受け入れてくれるつもりになっていただけました?」と言い出したので、もう二回ビシビシッと額にチョップを食らわせた。

 

「痛いじゃないですかぁ」「痛くしてるのよ!調子に乗るんじゃありません!」

 

―――否、これは絶対に偶然や気の迷いではない。

 

三郎を吸収したことと関わりがないが、ミナは頭の中で何が悪いのか。

 

―――ルルの顔が何故かまぶしく、可愛らしく、きれいに見えてしまう理由を探して―――

 

「あんたってやつはァ!!」

 

「あば!?」

 

思い当たるフシがあったので、今度はどこかの北斗七星な暗殺拳の使い手のごとくにルルの顔面にチョップがぐしゃりとめり込んだのであった。

 

それを親友がニヤニヤと笑いながら見ているので、ミナは「空悟てめぇもかッ!?」とブルータスに裏切られたカエサルのような顔をすることになる。

 

―――で、それが―――この船に入る前よりもルルがきれいで可愛く見えるのがどのような理由かと言えば、どちらかと言えばくだらない話に属するものであり、また別のお話なのだった。

 

 

 

―――ちょっとした幕間。

 

これは先程までの水門三郎の夢と記憶と時間の世界での出来事。

 

ルルは目の前を歩く少年を見て、そしてその隣を歩く主を見て、ふむ、と小さく頷いた。

 

「どうしたい、ルル君」

 

「いえ、少し考え事を」

 

ルルは考えていることをおくびにも出さずに、無表情でそう返してまた少年を、かつての水門三郎の幻影を見つめた。

 

「……ふむ」

 

「大体考えてることは分かった。がんばれよ」

 

顎に手を当て思案する彼の肩を叩いて、空悟はニヤリと笑う。

 

その表情にルルは察して「見抜かれましたか」とため息を吐いた。

 

「そりゃそうよ」と空悟は返し、ミナに気づかれないように表情を戻す。

 

男同士で以心伝心というやつであった。

 

(今のうちに昔の三郎に影響を与えれば、今の三郎……ミナの方に影響を与えられるかもしれねえもんな)

 

(逃す手はないんですよねえ……)

 

そう、ルルは自分の容姿に自信があったし、何より第二次性徴がきちんと始まる前の子供なら男にべたべた触られても嫌悪感はないタイプなのだった。

 

時間とは複雑で、時間と記憶の中より作られた複製と言えどどういうつながりを持つか。

 

それを知っているとすれば時間神ルアックかこの迷宮を作り出しているバカもといカイロスのみであろう。

 

今のうちに仲良くなって、あわよくばその女の子とほぼ変わらない容姿に惚れさせてしまえば―――とこのノーライフキングの少年が考えるのも無理からぬことであろう。

 

「ミナさん、随分歩き通しですしそろそろ休みませんか。そこの子供は一般人ですし」

 

ルルはしれっとそう言って、ミナへと笑顔を向ける。

 

ミナはその笑顔に「うん、なんか企んでるなら顔面ぶん殴るからね?」といきなり前置きをしてきた。

 

「いやですねえ。僕は何も企んでなんかいませんけど?」

 

これが並の人間であれば冷汗の一つも流しただろうが、この存在は不死の王、本来新陳代謝だの汗だの涙だの排泄だのとは全く無縁の闇の生物である。

 

その程度の制御は簡単であった。

 

「てめーがその表情してる時は、なんか企んでるときなのよねえ?」

 

「流石に冒険の邪魔になるようなことは考えてませんって。それだけは信じてくださいよ」

 

きっとこの冒険の後に効くことになることだ、とルルは内心でほくそ笑む。

 

おそらく普段のミナならすぐにルルの企みを見抜いていたのだろうが―――

 

(あーもう!なぜだ!くそう!どうして今更100年も一緒にいるのに、なんでバカの顔が可愛く見えるんだバカ野郎!!)

 

心の中に生まれたわずかな自覚でだいぶ苦しんでいたので、気づくことはなかったのであった。

 

『なぁ、ねーちゃん何むずかしい顔してんの?』

 

そんなミナに過去の三郎が、心配してきて―――ミナはやはり内心で悶絶するのであった。

 

 

 

「飴玉はどうです?」

 

『も、もらう……』

 

笑うでもなく、猫なで声でもない。

 

女にしか見えない不死の王は、わずかに、ほんの少し、ミナに感づかれない程度に三郎に優しくしていく。

 

空悟はその様子に、(いつもなら気づいてるだろーなー)と傍観者の立場でくすりと笑った。

 

そうなのである。

 

普段ならそんなことをルルがしていれば、ミナは絶対に気づいただろう。

 

気付いてルルの顔面にチョップを食らわせていたことだろう。

 

しかし、勇者は気づかない。

 

気付かれないほどささやかに優しくしてあげる。

 

それだけで十分である。

 

小学生の少年はちょっと年上のお姉さん、3歳かそこらも上に見えれば十分であろう。

 

優しそうなお姉さんに優しくされれば、それだけで十分落ちる。

 

まあ余程惚れさせられなければ、1ヶ月もすれば忘れているのが小学生男子というものではあるが、それはそれ。

 

ほんの僅かにでも影響があれば良い、という大変姑息な戦法である。

 

とはいえ、ミナが祖母や前世のせいで恋愛に興味がなく、性的欲求の対象としての男も必要としていない以上、取れる策はすべて取っていかねばならないとルルも空悟も考えていた。

 

「おぶってあげましょうか?」

 

『へ、平気……』

 

あんまり平気には見えなかったが、ルルは一言「そうですか。頑張りましょう」と言ってまた一歩下がって後衛に戻る。

 

(どうやら効果的なようだ……)

 

ルルはもじもじしている三郎を見て、満足そうにうなずく。

 

それにしても、とルルは考える。

 

―――ミナは自分の前世について、だいぶネガティブな印象があるようだが、ルルには通り一遍の普通の子供に見えている。

 

此方の世界に来る前も、来た後も、茜や空悟と関わりあいがない場所では、彼女は前世についてはあまり語ることはなかった。

 

語ったとしても此方の世界の技術や歴史だけで、彼女となった彼の話を聞いたことは数えるほどしかない。

 

余程自信のない人間だったのだろうか、と訝しむが、ミナと三郎を同一視出来ているのは空悟と茜だけだ。

 

大学時代からの友人だった文も、今のミナとかつての三郎がつながっていないようだし、ルルは少しだけ不可解に思う。

 

そして、もう一つ。

 

今の三郎にそのような自信がない人間であるという影はない。

 

やはり邪神に歪められた結果なのだろうか、と思う。

 

だとすればやはりもう2~3回殺してやらなければいけないな、とルルは考えて小さく嘆息した。

 

そうこうしてるうちにへばってきたのか、三郎の歩くスピードが衰えてきた―――のと合わせてゾンビが数体地面から出てくる。

 

『Uuuuuuuu……』

 

「チッ!また出やがった!魔○村やめい!」

 

ミナがそうして剣を抜き放ち、ゾンビの首を落としていく。

 

仲間が滅びていくのも構わずに唸り声を上げて襲いかかってくるゾンビたちから、三郎を守りつつルルは主の勇姿を見つめた。

 

『お姉ちゃん……?』

 

「大丈夫ですよ。ええ、平気ですとも。僕のミナさんは強いのですから」

 

―――それからも彼がミナに吸収されるまで、何くれとなく世話をし、お菓子を上げたり、休ませてあげたりとルルは三郎をいたわり続けるのであった。

 

『なぁなぁ、オネーチャンはあのネーチャンのなんなんだい?』

 

「何、と言われると困りますが、ずっとあの方と一緒にいることを誓った身ですよ」

 

指を振って、それ以上は秘密だとばかりに微笑んであげると、三郎は顔を真っ赤にして目を逸らした。

 

(惚れたなこれは)

 

傍で見ている空悟はそう考えて、ドットの世界から漏れ出てきたような魔物たちを倒し続けているミナを見た。

 

(ま、鈍いお前が悪いんだ。ガキの頃の方がよほど素直だったよな)

 

内心で彼はそう言って、くつくつと笑うのだった。

 

 

 

「姑息!姑息!姑息ぅ!死ねぇ!!」

 

「うぐぐぐぐぐ……」

 

ミナは上記の事実に気づくと、ルルの首を猛烈な勢いで締め上げ始める。

 

おそらく彼が物理攻撃ほぼ無効のリッチーでもなければ、首がポトリと落ちているであろう万力の如き力で、だ。

 

「おーい、いい加減にしとけよ」

 

『然りだ。夕との交代も終わった。動力室の確認と停止、不能であれば破壊を頼む』

 

空悟の静止の声とともに、ひそひ草から廻の声が聞こえてきた。

 

「……次やったらチン●もぎ取るからな!!」

 

ミナは怒りか、羞恥かで顔を真っ赤にしてルルを放り出した。

 

「……ところでだな、三郎」

 

「なんだよ空悟!?」

 

「実際どうなんだ?あの過去の三郎は、ルル君に惚れてたのか?それとも、お前に惚れてたのか?」

 

何もかも台無しにする勢いで、空悟はあっけらかんとそう質問をして。

 

「知るかぼけぇぇぇぇぇぇ!!!!!ややこしくしようとすんなアホがあああああああ!!!!!!」

 

熟れたリンゴのように真っ赤になったミナに、絶叫を向けられるのであった。

 

 

 




投稿忘れるところだった!!!

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