異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第242話「はい、OKです」

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―――動力室。

 

廻と夕が交代した後、休憩という名のルル査問会が終わりを告げ、三人はその扉の前にいた。

 

「じゃあ、頼むわよ」

 

心なしか硬い声でルルにそう言って、ミナは一歩下がった。

 

「承知しました。偉大なるロジックよ。あらゆる封緘を解きたまえ。我は鍵、我は証なり。我は道を作り、我は扉を開けし者となるなり。オール・オープンド」

 

あらゆる扉や蓋、封印に類するものを開けるアンロック系魔法の最上位、オール・オープンドが唱えられると、ルルの手は鍵の形の光に覆われ、扉には同じく光で出来た鍵穴が生まれる。

 

「はい、OKです」

 

ルルはにっこりと笑って、ミナの目を見据える。

 

すると、ミナは顔を赤くして目を逸らすものだから、ルルは空悟に目を向けて少しだけ「これでいいのか」と聞いているような困惑の瞳を向ける。

 

自分でそうなるようなことをやっておいて何を言うか、とばかりに空悟は肩をすくめて苦笑し、「んじゃ行くかあ」とそれ以上はおくびにも出さないで扉を開けた。

 

勿論、何が起きてもよいように完全武装、完全防備だ。

 

竜の兜も微かに輝き、準備は万全である。

 

「そうだな。行くしかないな……行くしかな」

 

ミナは二つため息を吐いて、ルルに恨みがましい涙目を向けてそうして空悟が潜った扉を抜けていく。

 

重い鉄扉を開けた向こうには、窓から小さな青い空が浮かぶ黒鉄の炉が一つ。

 

それ以外は何もない。

 

レバーや操作盤もない。

 

ただただ、だだっ広い空間に炉が一つだけ存在していた。

 

「これがア号空間流体接続機関か……」

 

『こちらで制御してこの姿にしている。後は、事前の打ち合わせどおりにその炉に意志を流し込めば停止するはずだ』

 

廻の生真面目な声が空間に響いた。

 

その通りにミナが炉の窓。

 

おそらくは白き空に直接接続していると思われる無限動力炉に手を触れた―――

 

瞬間、ズ、ズズズズズ……と大きな音がして、炉が光を失っていく。

 

『―――艦内機能、停止率〇.九九……いいだろう。これでこの艦の機能は艦橋と動力室の一部、艦長室以外は停止した。これでキングストン弁を抜くことができるようになった。一旦、艦橋へ戻ってきてくれ』

 

「了解ー。ここまで来るのに凄まじく時間がかかった……」

 

イーガックの時計を見れば。おおよそ4時間。

 

本来の歩行距離にすれば、わずか200メートル程度しか移動していないというのにこの時間である。

 

「魔王は艦長室へ来い、と言ったのね?」

 

『なのです』

 

「わかった。合流しましょう―――」

 

ミナは嘆息して、引き返そうと後ろを向いて―――なにか気配がしたので、そっと振り返った。

 

しかし、そこには何もいない。

 

それはルルも同じだったようで、首を横に振って自分も何かを感じたことを伝えてきた。

 

流石に真面目な事をしているのに、ミナの顔は赤くはならず、しかし不可解な気持ちを残して。

 

「……どうした?」

 

「いや、なんでもねーよ」

 

親友の言葉にそう返して、岬たちの待つ艦橋へ戻るのであった。

 

 

 

戻る道は平穏であった。

 

魔物たちもエネルギーの供給が絶たれたせいか姿を見せず、ストレートに艦橋へと戻ってこれた。

 

「ただいまぁ……あー疲れた」

 

「おかえりなさいなのです。やっぱり襲撃はされてしまったですねえ」

 

げんなりしたミナに、岬がお茶を差し出しながらそう言って微笑んだ。

 

「ありがと。そりゃ仕方ないけど、ねえ……」

 

はぁ、とミナはため息をついて、瞑目する。

 

「―――ちょっと予定外のことで、私ちょっと休みたいわ……」

 

視線の先には、「あーこれはちょっと僕の魔法では修復できそうにないですね」とフェニックス・ライドによって焼けただれた艦橋の半分を見聞しているルルがいた。

 

「くそー……もしやこれも邪神の狙いか……?」

 

「ルルくんのことなら、もう諦めましょうですよ。あんな変態でもちょっとは好きなのですよね?」

 

「うんうん。寝てる間におっぱい揉んでくる変態でも」

 

どっかと床にあぐらをかいて、頬杖を付いたミナに魔法少女たちが容赦なくそう言ってきて―――

 

「うっせぇわ……うおお……どういう感情示していいかわからないわこれぇ!」と叫んでしまう。

 

そんな様子がおかしくて、空悟は思わず声に出して笑ってしまった。

 

「はっはっは。まあいいじゃないか」

 

「まあいいじゃないか、じゃねえよ!おめーか?!おめーの差し金なのか!?」

 

ミナはそっぽ向いてそう毒づく―――と、目の前に見聞を終えたルルがいた。

 

「空悟さんは関係ないですよ。僕が、なんか優しくしたら良いことあるかな~とミナさんの前世に優しくしただけですから!」

 

「憤怒ッ!!」

 

えへん、と胸を張った馬鹿の顔面にミナは拳を思いっきり叩きつける。

 

ベコリとへこんだその顔のまま、「ひひゃいんへすか」と言ってきたので「痛くしてんのよ!!」とミナは叫んで―――

 

動力室の制御が終わったため、接続を解除した夕と廻の方を見た。

 

「いい加減漫才やってる場合じゃないわ。そっちの方はどうでした、廻さん」

 

『うむ。艦長室まではこの艦橋から直通、というか艦長席から行ける―――が、7人は定員超過にも程があるな』

 

廻は顔の凹んだルルに、内心で敬礼をしながらそれをおくびにも出さずにミナにそう言った。

 

「……いえ、大丈夫でしょう。時間の精霊とも契約したし」

 

その様子はひそひ草を通じて艦橋にも通じていたので、ミナはサムズアップをして笑った。

 

『方法は?』

 

『艦長席がこのまま下方へと沈み込んで、その後隔壁が1秒ほどで閉まるようになっているが……』

 

夕と廻が交互にそう言っ手、ミナを見る。

 

「ふっふ。そりゃあもう―――理論上、できるとは言われてたけど、不可能だった魔法を多分今の私たちなら使えるはずだから大丈夫」

 

理論上、つまりぶっつけ本番にはなってしまうが、それはそれで致し方ない、と顔をもとに戻そうとしているルルの後頭部をバシッと叩く。

 

「はっ!?ああ、やっともとに戻りました―――ミナさん、やるんですね?」

 

「そーよ。息を合わせなさい。いいわね?」

 

ミナはそうして集中を始め、精霊へと静かに呼びかけていく―――

 

「かすかな願いに寄り添うもの、湧出づる泉の精にして過ぎ去りしと過ぎゆくとありうべきを司るもの。深き泉の女王ヴァダーよ―――時を繰る力をこの地に注ぎ給え」

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。叫びまわる時計の針を止めよ。我らを過ぎゆくもの、過ぎ去りしもの、ありうべきものから解き放ち、しばし時の中で憩いを―――」

 

精霊の言葉が、ヴァダーを呼び出し周囲の時間のベクトルを修正していく―――

 

「今よ!艦長席動かして!」

 

『承知』

 

ミナが指示して、すぐに艦長席は床に飲み込まれていく。

 

そしてぽっかりと穴が空いたその場所が装甲に覆われようとしていく―――前に。

 

「時よ止まれ―――汝は美しい。タイムストップ!!」

 

ルルの古代語が最後まで唱えられると、周囲の空気流れすらも凍ったように止まって―――

 

『みんな、息が続いているうちに中に飛び込んで!』

 

とミナが艦長席の沈んだ空白を指さして、すぐにも飛び込んだ。

 

―――全員が息ができない。空気が自分の皮一枚の部分以外は流動をほとんどやめていることに気づいて。

 

その意図に気づいた廻と夕が次に。

 

空悟が一瞬混乱した恋を抱えて飛び込み、次いでルルが。

 

最後に岬が中へと侵入し―――

 

すぐに―――シャッターが閉まり、艦長席はそこに存在していたと見ていないものが見れば全くわからぬようになくなっていたのであった。

 

 

 

「なるほどです。タイムストップの魔法のテストでもあったのですね?」

 

―――岬は沈んでいく艦長席ですし詰めになった一番下に居るミナにそう声を掛けた。

 

「そ、そうなのよ……お、重い……総重量何キロだこれ……?」

 

『装備・荷物等を含め、おおよそ700kg近くになるな。平気か、金髪女』

 

「な、なんとかへーき……!お腹が千切れそうだけど……!」

 

ミナは一番最初に入ったため、その後に入ってきた全員を受け止める羽目になっていたのであった。

 

「ミナさん、無茶はしないでくださいね」

 

「へーきだってば!あー、早くついて!お願い!」

 

そのミナの願いが叶ったのは、それから数秒後のことであった。

 

 

 

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