異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第243話 「俺もそうするべきだと思うぜ」

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―――艦長室。

 

『常在戦場』と戦前にはよくあった右読みの横書きで大書された額縁が飾ってあり、執務机と簡単なベッドが置いてある質素な部屋であった。

 

「早く皆避けてぇ!内蔵が出るぅ!」

 

『だから無理をするなと言ったろうが』

 

夕はその言葉を吐いて、ホバーを使って自分の上に載っている廻たちとともに、ミナの上から避ける。

 

そして空間に出た仲間たちはそれぞれ上からバラけて地面に降り立った。

 

「……ここにハゲが居る?」

 

ミナが訝しげに周囲を確認し、常在戦場の額縁を見つめた。

 

「多分、アレね」

 

『うむ。異常な熱量を感知する―――ルルくんはどうか』

 

ミナに続き、回もその額縁にあたりをつけて、一番バグに詳しいルルへと視線を向けた。

 

「ええ、僕もそう思いますね……臭い、臭すぎる……岬さん」

 

「はいなのです」

 

ルルに向けられた視線と言葉に、岬は額縁へと杖を向けてレインボー・フラワーの詠唱を始める―――すると。

 

『ふ、ふふふふ。ウワーッハハハハハ!そこは違うぞ、違うなぁッ!フハハハハハハ!』と部屋中に哄笑が響いた。

 

それは間違いなく―――

 

「久しぶりね、記憶の魔王―――オンマジン」

 

ミナはその哄笑に覚えがあった。

 

その耳障りが大笑いに、ミナはギロと額縁を睨めつける。

 

『ファファファファ!今度こそ貴様を記憶の海に封じ、殺してくれよう!その額縁に魔力を込めるがいい。そこが貴様らの墓場となる!』

 

―――ミナは数瞬逡巡し、仲間たちへ視線を送る。

 

『金髪女。行かぬと言う手はない。ここは―――ここで殉じたものが居た以上、墓場だ。墓所を貶めるものがいれば、それを祓うのはなんだ?』

 

夕が―――もうすっかり腕は修復されている機械人形の女が、ミナの翠の瞳を見つめ返す。

 

『否やはない』

 

廻が、何のためらいもなく続けると岬も、恋も首を縦に振った。

 

「俺もそうするべきだと思うぜ」

 

空悟がそう言って、隣のルルを見る。

 

「―――十割罠でしょうが、行かなければならないのはミナさんが一番良くご存知のはず。僕は永久にあなたのしもべですから、ついていくだけです」

 

少年はそう微笑んで、ミナはその言葉と瞳に顔を赤くした。

 

「わ、わかったわ……反対も無し。罠があれば食い破る。いつもの通りにやりましょう」

 

一瞬言い淀んだミナだが、次の瞬間にはもう冒険者の顔で額縁を見つめている。

 

ルルはその隣に立って、「ここは僕が」と杖を掲げた。

 

「任せるわ」「承知」

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。我が手にあるものを我が手に依らずに駆動せしめよ。幻想の手は我が目の中にあらん。ファントム・ハンド」

 

彼の発動した幻の手が、額縁に触れると―――

 

周囲の空間が急激に広がっていくのを全員が理解した。

 

『ウワーッハハハハハ!ここは通常空間であって、そうではない!貴様らの記憶の中の世界なのだ!!ここは先程とは違う!貴様ら自身の想起が敵となるのだ!』

 

―――瞬間、闇の向こうから出てきたものは―――

 

「ゴブリンが大量に乗ったシャーマン戦車なのです!?これはあたし?それとも廻さんや夕ちゃんの!?」

 

『どちらでも構わん。殲滅することだけは決定している』

 

夕がそうして機関砲を向ける―――

 

闇からはまだシャーマン戦車、すなわち第二次大戦中の米軍の主力中戦車M4が続々と上に魔物を載せて出現してくる。

 

「ルル!」「承知!」

 

その言葉と同時に、シャーマンの3インチ砲が火を吹いた。

 

バズン、ドゴンと轟音が響くが所詮はシャーマン―――行進間射撃がうまくいく戦車はWW2のものには存在しない。

 

それは岬の記憶か、廻と夕の記録によるものかそのままで、爆炎と硝煙を振りまくも意味をなさず。

 

「ここはあたしたちが守るのです!」

 

「ねーちゃんたちは魔法に集中してくれ!」

 

キュラキュラというキャタピラ音が響く中、二人の魔法少女は杖をクロスさせた。

 

「「光よ!肉に還り壁となれ!マジカル・プロテクト!!」」

 

二人の魔法障壁が展開し、そして。

 

「暁の子、西に吹く希望王ゼビュロスよ!汝の吐息は竜の巣となり、竜の巣は全てを吹き飛ばし、もって清野をもたらさん!起きよ!風の竜!!」

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ―――地獄の業火を呼び覚ませ。我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ―――フレアー・クリメイション」

 

『世界を支配する偉大なるロジックよ―――大気の法則を書き換えよ―――水の素、呼吸の素、そのいくつかを融合せしめ、致命の破壊を風と成せ。フュージョン・エクスプロード』

 

ミナのストームドラゴンに合わせて、二口水晶によって灼熱と核熱の魔法がルルの口より紡がれる。

 

それは、炎龍と化した風龍が大口を開けてシャーマンの上の魔物たちを拐っていき―――すぐにも核爆発の爆発が発生して、戦車を半数ほど吹き飛ばした。

 

「いよしっ!」

 

「今更数で押されても―――ねえ!」

 

勇者と不死の王はそう不敵に笑って、一歩後ろへ下がる。

 

『後は我々に任せ給え。脚部対戦車砲起動』

 

『背部対艦噴進魚雷展開―――掃滅する』

 

既に内部も炎竜によってあぶられているだろうに、まだ向かってきているM4に廻と夕は躊躇うことなく対戦車武装を開陳する。

 

ドドドド、と廻の対戦車砲が火を吹く。

 

一発一発は口径はせいぜい25mmといったところだろうか。

 

しかし、それはシャーマンの90mm近い主砲防盾を軽々と突破し、次々に擱座・炎上させていく。

 

そして、既に30両ほどまでに減ったシャーマンたちは、しかし教条通りに必中の距離にまで近づいて精密射撃を行ってくる。

 

バゴゥムと轟音がして、それが岬たちの張った結界にぶつかって弾けていった。

 

「おお、すごいわね。二人でなら、もう私のプロテクションと同じくらい」

 

「まだ半分ですか!でも成長はしてるってことですね!ありがとうなのです!」

 

結界に魔力を注ぎつつ、岬はミナの褒め言葉にそう返す。

 

「夕ねーちゃん!今だぜ!あいつら全部止まった!」

 

『うむ―――対艦噴進魚雷、発射』

 

恋の指示に、夕はすぐさまそら飛ぶ魚雷を発射し―――それは空中で弾頭を分離し20ほどに分裂した。

 

『一発一発が駆逐艦を戦闘不能にできる分離徹甲弾頭だ。食らって死ね』

 

そう、それは即ちクラスター対艦ミサイルという、夕のサイズでは全く意味をなさないであろう兵器―――

 

だが、廻の脚部対戦車砲がそうであるようにその威力は異次元のそれだ。

 

ガドドドドドドドッ!と爆炎と轟音を上げて着弾したクラスター弾は、戦車たちを吹き飛ばして、そこに何も残さない。

 

100両以上はいたはずのM4戦車も、その上に乗っていた大量の魔物たちも跡形もなく吹き飛んで、その残骸も記憶からの生成物らしく消滅していった。

 

「まさかこれで終わりじゃあ……」

 

岬がそう言って、杖を地面に立てるが―――

 

もちろん、そんなことがあるはずもなし。

 

今度はいつか見た90式戦車に手足の生えたような物体―――改の会の両脚戦車が10両ほど出現する。

 

「ミナちゃん、これもしかしてですね?」

 

「そうよ、きりがないわ。以前と全く同じ。私達の記憶の中からランダムに強敵を出して、疲弊させてくるの」

 

冷や汗を流す岬にミナはそう答えて、「なんのためのスターピアス、なんのための時の精霊か」と歌うように呟いて、精霊への呪文を唱え始める。

 

「かすかな願いに寄り添うもの、湧出づる泉の精にして過ぎ去りしと過ぎゆくとありうべきを司るもの。深き泉の女王ヴァダーよ。我が問いに答え、禍時を浄化せん。彼の者らを時の軛に縛り給え、その体、鉛のごとく―――時よ、進むな。時よ曲がれ―――」

 

ミナがそう唱えると、不機嫌な顔の泉の精霊が虚空より現れ、無言でその手を周囲にかざしていく。

 

これもまた初めて使う術だが、古代語魔法の時に関する魔法の応用でもあるその術は、素直に発動してくれた。

 

即ち、タイムスロウ。

 

それもタイムストップに近い、殆ど時間の流れを封じてしまう―――後からミナがちゃんと実験したところ、同じ古代語魔法の10倍以上の効率が確認された精霊術である。

 

ズシン、ズシン、と地面を揺らし動いていた戦車たちは、すぐさまに動きをほとんど止めてしまう。

 

その様子に少し気を良くしたのか、ドヤ顔をして時間の精霊は消えていく。

 

表情ムカつくとミナは思い、フッと短く息を吐いた。

 

その様子に、「これ、連打するだけで勝てるだろ。ロ○サガのクイックタイムか?」と空悟はわずかに呆れる。

 

「そうだなぁ……ただ、魔王や邪神は時間の中に生きていないから、あんまり効かないんだわ。だけどな」

 

ミナはそうして、客人碎をバッグから取り出した。

 

「―――だからこそ、間抜けを見つけるのには役に立つ。ルル」

 

「承知。イーガックの時計は、正常な時間の流れを記録しています。だとすれば―――やはり急造の再生怪人、というやつですね。以前と全く同じなら、僕らにはどうにでもなる」

 

そうほくそ笑むルルに、ミナはいつもどおりの笑顔を返して―――そうして獰猛に牙をむき出すような笑みを浮かべる。

 

「まだ邪神は私達を舐めていると見える―――邪神の空洞で死んだもの、帰還したものたち、かつての仲間たちを舐めている」

 

そんなミナに、夕は『そうか……あのハゲ男との戦いで、戦友を失ったのだな』と聞く。

 

ミナはふっと寂しい顔をして、笑っていない目で両脚戦車たちを睨めつけた。

 

「―――『数を詰めた小箱』の龍司祭のボフ、格闘家のストーファを犠牲にして私たちはあの戦いに勝利した―――彼らが残したもののおかげで、私は記憶の魔王など物ともしない」

 

怒りか、悲しみか、憎しみか、そのすべてか。

 

彼らと永遠の別れをして、もう1年が経つ。

 

「さぁ、記憶の魔王よ。貴様の場所はもう見えた。記憶に隠れている姑息な奴め」

 

ミナはそう言って、空悟に目配せをする。

 

「おう!爆弾でも放ればいいんだな?」

 

彼はそうして、手榴弾を3つほどスリングを使って投擲する―――バンバンバンッと連続でそれらが爆ぜた。

 

「あのときは、ボフの竜魔法ブリザードブレスで霧を作り、その中で流れがおかしい場所をストーファが殴り倒したけどさ。時間の精霊術を得た今、それはより簡易にわかるというものなんだわさ」

 

ミナはその爆発で起きた硝煙の流れを風と火の精霊の動きで察する―――すると時間が遅くなった世界で、一箇所だけ精霊の動きが阻害されていない場所があった。

 

事実、その場所だけ硝煙が「普通」に流れている。

 

10分の1以下の速度になっている空間で、である。

 

魔王や邪神は時間の中に生きてはいない。

 

即ち、時間に関する魔法は効果が薄い。

 

しかし、力ある魔法や攻撃で偽装を見破れねば、それを観測することはできない。

 

かつては龍司祭と格闘家の決死の攻撃で。

 

今は、ミナの時間精霊術で偽装の余裕を魔王はなくしているのだ―――つまり、そういうことであった。

 

「―――あの煙がそこだけ早い部分に集中攻撃よ!」

 

「わかったぜ、ねーちゃん!!」

 

恋が叫び、分身たちが魔法を次々と放っていく。

 

同時に『対艦噴進魚雷、殺人光線、同時発射』『殺人光線、対戦車砲の掃射を開始』と人造人間たちの攻撃も始まった。

 

「よおおおおおおしッ!!」と叫んで、空悟は残った弾薬をすべて叩き込む勢いで射撃を始め―――ルルはその様子を見て、ミナにコクリと首を縦に振る。

 

「最大火力で仕留めるわよ!」「承知」

 

二人がうなずき合って、ミナは客人碎を起こそうとし、ルルが二口水晶で呪文を唱え始めた―――その時。

 

 

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