異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第246話 『うぇー……あれ、我の中に何かおるのう……』

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敵方は所詮は人形である。

 

―――ミナやルルの記憶の中にある彼らの動きしか出来ない。

 

記憶の魔法が作り出す記憶人形は、即ち記憶どおりにしか戦えない。

 

そして記憶とは曖昧模糊であり、偽の記憶が作られることなどさして珍しくもないことである。

 

イメージに過ぎないそれらは、相対するものの記憶を読み取り、イメージを反映して強くもなれば弱くもなる。

 

そして目の前に現れた三体の人形は―――

 

ミナに敗れたものたちである。

 

カレーナは言うに及ばず、ストーファもボブもミナたちのパーティとかち合ったことがあり、そこで誤解から戦いになってしまったことがあるのだ。

 

強くはあったが、客人碎を起動したミナの敵ではないだろう。

 

無論、魔王が中身をいじっている可能性もなくはないのだが、それを考えることこそが魔王の目論見である。

 

先だっての「岬の父」もそうして生まれた怪物なのだ。

 

故にミナは何も考えない。

 

無心に槍を祖母の形をしたモノへと振り下ろした。

 

風を切る音。

 

その一瞬で女は肩から斬り潰され肉塊へと変じる―――はずであった。

 

しかし。

 

バウゥン!となにかクッションのような柔な弾力にその刃は弾き返されて―――女の形をしたものはニヤッと笑った。

 

「この感触―――いかん!」

 

「ミナさん!世界を支配する偉大なるロジックよ―――地獄の業火を呼び覚ませ。我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ―――フレアー・クリメイション!!」

 

バンッと弾かれるように後方へ跳んだミナへの追撃を許さぬように、ルルは葬送の火炎を送り込む。

 

ドゥンと轟音を起こして、地面を溶かしながら着弾したそれの中で―――また女が笑った。

 

『うぇー……あれ、我の中に何かおるのう……』

 

カレーナの言葉のとおり、女からは何かが染み出してくる―――そこから少し離れて侍る龍司祭と格闘家も同じだ。

 

「―――うっわ。最悪」

 

オーティズム・メロディーの影響か、まだ表情をなくしたままの恋がその染み出したものを見て、心底嫌なものを見たかのように舌打ちしてそう溢す。

 

―――そうだ、あれは……

 

「―――ピンクのスライム―――スフルタトーレの前の姿か!ってこたぁ、あん時出てきた気持ち悪い劣化品も……」

 

そう、そういうことなのだ。

 

邪神の端末―――搾取の魔王と言っていいだろう存在―――

 

奴は記憶の魔王から、一部の力を搾取し、使っていたに違いない。

 

「気づくのが遅かった……!気づいていれば対処もできたものを!」

 

あえてミナと彼女の知人―――それもこの世界で出会った者たちの姿だけを借りていたから気づかなかったのだ。

 

『ウワッハッハハハハハ!おっと教えるべき秘密が一つ知られてしまったぞぉ?フフフフハハハハハ!』

 

虚空から魔王の哄笑。嘲笑。

 

ミナは「やかましい!鬱陶しいわ!!」と叫んで短剣を一つカレーナの形をした何かへと投げた。

 

『脅威度上昇―――全く感知できなかった。魔王級と判定する。どうする?』

 

廻がそうして、短剣を受け止めて溶かしてしまったそれの戦力を判定した。

 

「―――当然、殲滅するわ。廻さん、ルル。スト―ファをお願い。夕ちゃんと空悟はボフの方。ばーちゃんもどきは私と岬と恋ちゃん!行くわよ!」

 

ミナが吠えると、全員が走り出す―――

 

『―――吼えよ、風の竜』

 

「―――暁の子、西に吹く希望王ゼビュロスよ!汝の吐息は竜の巣となり、竜の巣は全てを吹き飛ばし、もって清野をもたらさん!起きよ!風の竜!!」

 

カレーナもどきが、全身からピンク色の液体を滴らせつつ風の竜を呼ぶと、ミナもまた風の龍を呼び出して対抗する。

 

ごうごうと風の竜同士が食い合い、押しつぶし合う。

 

「死ねぇ!」

 

『―――ドライアードよ』

 

振り上げた槍を絡め取るように、虚空より蔦が生えてくる。

 

『記憶から作られておるからのう!触媒も精霊力の有無も関係はないか!』

 

鞘の中の本物が吠える。

 

―――記憶より形作られたものと言えど、精霊力までは複写は出来なかったはず。

 

間違いなく、以前の闘いよりもパワーアップしていることをミナは悟り、小さく舌打ちをした。

 

「―――ほとんど天変地異なのです!ミナちゃん!」

 

「ええ!攻め立てるわ!こいつは―――ばーちゃんだとすれば、接近戦はポンコツよ!」

 

蔦を切り払いミナは叫んで、空を飛び格闘戦を仕掛ける岬にアドバイスをする。

 

カレーナは精霊術の大家であり、また弓術に長けたハイエルフの最高峰と言って良い戦者である。

 

しかし、その膂力のなさは致命的なほどである―――

 

『ぶっちゃけ言えば、我きんとれ……であったか?筋肉を鍛えるということをしたことがなくてのう。冒険者現象の助けを得ても手弱女でしかないんじゃなぁ』

 

岬はそのカレーナの言葉を聞きながら、もどきの肩口に飛び蹴りを食らわして―――スライムの防御力を加味しても、十分なダメージが与えられることを確認する。

 

その鎖骨はボギュリという嫌な音を立てて容易に砕け折れた。

 

「真面目に弱いのです!筋肉を感じないのですよ!」

 

―――しかし、その陥没して鬱血した肩部はすぐにスライムが補填したか、それとも記憶の存在ゆえに再生したか元の弾力を取り戻していく。

 

「岬、油断しないでね。あのハゲの人形は、一撃で倒さないといくらでも再生するわ」

 

「はいなのです!艦橋での戦いでそれはもう!」

 

岬は叫び、回し蹴りを女へ叩き込む。

 

今度は、ボヨンという弾力とともにそれが弾き返された。

 

「ちぃ!対応してきているのです!」

 

岬はそうして弾力を利用して空へ飛び上がり、今度はスピニングスタイルへと姿を変えた。

 

「これならどうなのです!超魔力ゴマァァァァッ!!」

 

両手に握った独楽を岬はぶつける。

 

回転する独楽は、スライムを押し飛ばして人形の本体へと傷をつけるはずである。

 

だが……

 

『大気の壁を仮初の封印とせよ』

 

バヂィン!と弾ける音がする。

 

ギャリギャリと独楽と風がぶつかり、やがて。

 

女の形が精霊に紡がせたサイクロン・ウォールは、独楽をその旋風によって明後日の方へと弾き飛ばした。

 

「やっぱりだんだん強くなってきてるわね……!」

 

ミナは客人碎を風車と回し、祖母の形が飛ばしてきた風の刃を叩き落としながらそう呟いた。

 

戦いはまだ続く……周りを見遣れば、当然のようにかつての戦友の形を相手に苦戦している仲間たちがいた……

 

 

 

 

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