異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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『閃光弾発射』
廻が脚部砲から二つ閃光弾を放ち、格闘家ストーファの形をした人形の目眩ましを図る―――が。
『―――シィッ!』
未知の金属で作られた手甲が、正確に1秒前の廻の位置を貫いてくる。
間違いなく視覚に頼らない探知を行っていると廻は判断し、隣のノーライフキングへと意見を求めた。
『これはどういうものなのかね?』
「気、ですね。彼はミナさんとは流派が異なりますが、気功術を収めています。インフラビジョンの真似事を、精霊使いでも森人でもないのに使いこなしているわけです」
ルルは援護のために杖に魔力を溜めつつ、そう答えて唇を歪めた。
「僕のような死者の気配、負の精霊力もちゃんと探知できるのですから、大したものですよ」
感嘆している場合か、と言いたいところではあるが、彼が集めているエネルギー量が膨大であるということを考慮し、廻は『なるほど』とだけ答えて、格闘戦の構えに入る。
『シャアッ!!』
シュカッ、シュカッと空気を切り裂いて手刀が二つ、否、無数に飛んでくる。
先端速度は亜音速にも達しようか。
『ぬぅ……』
廻はそれを寸でで避け、払い、いくらかは避けきれずに手甲で受ける。
すぐさま廻も通常の骨格を持つ人間であれば、避けることが難しい角度からの抜き手を敢行するも、しかし同じように防御されていた。
そうして、その攻防が数秒繰り返され―――「避けてください!」とルルの声が響き渡った。
『「偉大なるロジックよ。五光の剣の形を成したまえ。剣を鍛えるは鍛冶の技。なれど作り出す秘密は論理が産む故に。サモン・シャドウグレイブ!」』
全く同じ声音が重なって、ひとつの呪文をなしていく。
瞬時、空には300を超える刀剣の影が映し出されていた。
「行け!」
ルルがそう口にすると、剣たちは複雑な軌道を描き、誘導弾のように男へと殺到した。
『―――ヌン』
小さくそう呟くと、手甲、脚甲を持って幻影の剣を次々に撃ち落とし始める。
「―――やはりこの程度は貫けませんか。ですが」
ルルはそうして廻に目配せをする。
『うむ。脚部対戦車砲、起動―――発射』
廻の脚部から大型の機関砲がせり上がり、刹那の間に発射された。
ドドドドドドドッ!と口径25mmの対戦車機関砲―――現代では対物ライフル程度の大きさの弾丸。
しかし、それは未知の技術によって加速された電磁投射砲である。
弾頭もまたAPFSDSと呼ばれる現代の装甲貫徹理論と廻や夕の装甲と同じ材質で構成された最上級のものだ。
それはおそらくは、最新鋭の戦後第3.5世代主力戦車をも擱座させる威力であろう。
相手は肉の体を持つリザードマンだ。
如何に硬い皮膚を持つ彼らであっても、防護は難しいだろう。
幻影の剣を囮に、廻の対戦車砲を持って重要部を破壊するのがルルと廻が考えた戦法であった。
―――無論、それが対応されるであろうことも織り込み済みである。
『―――シャハァァァーーーー!!』
叫びとともに、スト―ファと呼ばれた男の形が発光する。
「やはり来ましたね、気力の全身発光!ですが―――」
『光であれば、否、物理的な分析は私の独壇場である―――』
廻はそうして物理的な衝撃力を伴った発光を分析し、瞬時に回答を出した。
即ち、それは―――『その発光現象により、貴様の防護能力は著しく低下した』。
―――そう。気功術は所詮は体内の生命エネルギーを消費して、爆発的な力を得ているに過ぎない。
即ち、こうした飽和攻撃に対抗するためにエネルギーを放射するのは効率が大変悪い。
本来は身体能力の強化をしたり、庚申流組討術のように敵の体内に気を送り込んで破壊するのが効率の良い使い方である。
―――本来の彼であれば、仲間に頼るなり後退するなりしようがあったのだろうが。
『所詮は操り人形に過ぎんか』
廻はそう呟いて、額にエネルギーを収束する。
『殺人光線、全力放射―――!』
廻がそうして地面に脚を踏ん張り、全エネルギーをリザードマンの胸部へ向ける。
―――スライムの耐熱能力ではこの攻撃は耐えることが出来ない。
ルルもまたそのように分析していたが、彼はグリッチ・エッグの魔王がどれほど規格外かを肌で知っている。
故に、ルルは殺人光線の着弾を待って新たな呪文を唱え始める。
『ギ。ァァァァァァァァァァァッ!!』
案の定、殺人光線の光を浴びても、なお胸部はジュウジュウと蒸発しながらもストーファを模したものはこちらへ向けて歩いてくる。
『真魔龍王気功術……奥義……!』
「いけない!全力で防御してください、廻さん!!」
『電磁障壁展開―――戦術防御態勢』
廻は反撃による妨害をすることなく、ルルの助言に従って防備を固める。
『天満降服……!』
男は両拳を握り、胸を逸らす。
腰だめに構えられた拳からは、雷光が迸り、何処よりか雷鳴すら聞こえてくる。
人知を超える現象が人の体より現れるのを、廻は目の当たりにして―――
『望むところ』と小さく笑った。
―――元より、我らもこの艦も「同じ」だ。
人を打ち負かし、人の秩序を超えて、四方に平和をしろしめす。
そのために生まれたものなれば、例え異世界とはいえど、蜥蜴の体を持つといえど、人に負けられる道理なし。
内心でそう思考して廻はさらに薄く、薄く笑う。
―――ならばミナやルルは何だというのか、私も随分失礼な男だな……
廻は苦笑しつつも、全身に力を籠め来るべき一撃に備える。
ここまでおよそ1秒に満たない時間であった。
『秘拳・神羅雷龍掌!!』
神速の套路が廻の電磁バリアへと衝突する―――その天に満つる雷光の如き一撃は、電磁バリアを削り取っていく。
そう、恐るべきことに、割る、突破するといったものではなく、その掌から発せられる膨大な電磁力によって電磁バリアを削り、こじ開けているのだ。
『……本当に人なのかね、彼は!』
「それを言えば僕は人ではありません―――」
ルルは一言だけそう答えると、精神を集中していく。
その様子に、廻は目の前の蜥蜴人がどれほどの力を電磁バリアへ掛けていて、後どの程度この攻撃は続くかを計算した。
―――持続時間、推定〇.七秒!
『「―――破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ。多くの神々に仕えし毒天使の剣を下賜されよ。執行するは我が手なれば、許されよ、許されよ、許されよ。三度唱えても赦されぬ痛みは筵と褥に帰りゆき、滅びと亡びを対価にて、罪科と災禍は禊がれん―――ポイゾナスルイン!!」』
ルルと二口水晶の口から紡がれた闇なる神への願いは、正しくルルの手に現れて流れゆく。
それは滅びの毒。
杖を剣と見立てて流れ出すそれは、あらゆる生命体と有機物を醸し腐らせ土へと返す亡びの砂。
滅びの剣、死の矢、神の毒―――
対人、対都市の暗黒魔法としては最も強力なもののひとつである。
それは廻をすり抜け、蜥蜴人の容へと殺到した。
『ナ……ガ……!』
「いくら毒に強いリザードマン、如何に邪神の端末の粘液を纏おうとも、如何な貴方が気功術を極めた存在であろうとも、その気を使い果たした瞬間に、神の毒を喰らってはひとたまりもないでしょう」
本来の彼ならば、このような敗れ方はしないだろうと。
崩れ行くストーファの形をしたものを見遣り、そして防御態勢を続けている廻に笑いかける。
「彼らが恐ろしかったのは、連携がとてもうまかったからです。あなたと夕さんのように、彼らは兄弟のように連携がうまかった……あれは所詮、人形ですよ」
その言葉に、廻は『頼もしい戦友だったのだな』と答えて戦闘態勢を解いた。
「ええ、とても」と呟いて、まだ苦戦しているミナたちを見据えて。
「救援へ」『承知』
二人はそれだけ言って、駆けだしたのであった。
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