異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第248話『空間接続。再検索。再実行―――』

 

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一方、夕と空悟は。

 

『……支配の王笏を持ちし大いなる竜よ……!』

 

『―――チェストォォォォぉぉ!!』

 

竜の頭を持つその人形が両手に持つシャープクロー、竜牙刀と呼ばれる骨で作られた刀に、夕が裂帛の気合を以て輝く剣を振り下ろした。

 

夕の新兵器、熱切断刀である。

 

しかし対するは本物の竜の骨にも匹敵する刀。

 

破壊するには物理以上の力を必要とするのである。

 

「キィィッェェェェェェェェッッ!!!」

 

空悟の猿吠が響き、大上段よりヒートソードを助けるかのように斬鉄剣が竜牙刀を叩く。

 

叩いて、それはヒートソードの熱と斬鉄剣の強度に耐えかねてパカンと熱した骨が割れるが如き音を立てて共に真っ二つとなった。

 

「硬いなあ、全く!」

 

『うむ……隙あらば竜変化しようとするのが厄介だ』

 

夕はそうして、また『オオオオオオオオオ!!』と咆哮を上げて、ミシミシと巨大化―――リボーン・ドラゴンの術を再び使おうとあがく。

 

「やらせるかぁ!」

 

空悟は短くそう叫んで、竜の兜に集中する。

 

竜の兜が輝けば、その光はそのまま巨大化していく龍人へと吸い込まれて行く―――

 

吸い込まれた光によって、龍転生の秘術は効力をなくして竜人の姿は元に戻っていった。

 

『てぇいッ!』

 

『ウォォォォォッ!!』

 

しかしながら竜人の膂力は凄まじく、ミナと長時間の格闘戦が可能な新躯体でもほぼ互角である。

 

脅威としては、戦略兵器の魔王よりも高いものであった。

 

(解析―――戦闘力は私達に匹敵する。膂力一.〇三。防護力〇.八七……未知の変身能力。魔法―――強敵だな)

 

夕はその機械の心でそう評価して、拳を握りしめた。

 

その拳を鎧うのは、ミナのオリハルコンの手甲である。

 

周囲を見れば、ミナは祖母の姿をした人形に苦戦しており、そして廻とルルはもう一方に勝利しつつある。

 

(毒瓦斯戦術はこいつには効果がないな)

 

『空悟。主たる格闘戦は任せる。貴様が動かねば、あの龍もどきの力を抑えられない……私は、準備をする』

 

判断を終えた夕は、ガゴォン!と自分を狙うボフの腕から生えた鉤爪を殴り飛ばして後退した。

 

「準備か!何をするかはわからんが、頼むぜ!」

 

『頼まれた』

 

夕は足裏のキャタピラを駆動して、滑るように10メートルほど後ろへ下がり、エネルギーをチャージし始める。

 

相手は龍である。

 

小型のガドゥルと思って対処せねならない。

 

―――今回の改修によって追加された最大の武装を使うときは今である。

 

(現在の熱量充填率から測って、あの龍転生とやらを空悟が止められるのは後二―――否、一度が限界だ。ならば)

 

『展開開始』

 

ならば、新兵器によって龍となった男を殲滅すべし。

 

夕の結論は決まった。

 

『脚部、床部固着。腕部、最適化開始』

 

―――それはなんであるか?

 

空間の精霊と契約したミナの力―――即ちノトスの力を解析した結果、薺川博士が作り出した武装。

 

それはこの信濃に搭載された武装の超小型版である。

 

『空間接続。再検索。再実行―――』

 

夕の目がチカチカと明滅する―――

 

『オオオオオオ―――偉大なる龍よ―――龍よ―――』

 

「させるか馬鹿野郎ッ!!」

 

空悟の斬鉄剣が閃き、ボフの角を切り落とす。

 

竜の兜が輝き、その熾りつつある龍化をまた一度止め―――空悟は悟る。

 

もうこれ以上、こいつがドラゴンになることを防ぐのは難しい、と。

 

「これ以上は限界だぞ、夕ちゃん!」

 

鉤爪を斬り飛ばし、尾を弾き飛ばし、牙を刃で防ぎながら空悟は叫ぶ。

 

叫んでいるうちに―――

 

『オオオオオオオオオ―――偉大なるかな、偉大なるかな。我、遠き日に支配の王笏携え君臨したものへと変生なるべし!!』

 

龍司祭の詠唱が終わる。

 

この間、おおよそ30秒。

 

龍司祭の背に翼が生え、牙も、爪も、尾も見る間に巨大化して―――それは一個の成龍へと変生していく。

 

「こりゃあ……まあ、そりゃそうだなぁ!三郎の仲間だもんなあ!」

 

その姿は、もう既に5mを有に超える巨体と化した。

 

『ゴアァァァァァァァァツ!!』

 

雄叫びを上げ、ミシリミシリと軋みを上げて、龍の形は完成していく。

 

空悟は転がるように後ろへ下がると、再び斬鉄剣を構えて「まだかい?!」と夕にわずかに声を大きくして確認を取った。

 

『―――問題ない』

 

夕は一言答えて『再検索、完了―――空間接続、完了。状況、緑。暗黒物質流入開始』

 

その言葉とともに―――唐突に。

 

夕の目の前に暗黒の空洞が開いた。

 

『―――障壁展開。大気流出防止措置、完了。暗黒物質変換開始―――』

 

夕はその展開され、機械がむき出しになった両腕を空洞へと挿入し―――しばし瞑目した。

 

『ガァァァァァァァァァッ!!』

 

雄叫びを上げるドラゴンの口には、エネルギーが―――おそらくはレーザーブレスを放つのであろう。

 

空悟の目にも、それはまずいとわかるほどの光量であった。

 

「くっ……!」

 

だが、空悟には信じて待つしかない。

 

ドラゴンの圧力に、唇から苦しい吐息をひとつ吐くと刑事は瞠目してドラゴンを見据える。

 

その力を僅かなりと削ぐために、竜の兜に力を込め、輝かせる―――

 

ならばこそ。

 

夕は内心で、「その信頼に答えねば」と呟いて最終シークエンスへと入った。

 

『空間接続、解除。暗黒物質―――充填百二十%―――』

 

夕の瞳が輝き、余剰のエネルギーが電気として放出され、空気の絶縁に抵抗してバチバチと音を立てる。

 

『―――空悟、後ろへ下がってほしい』

 

夕の頼みに、空悟はコクリとひとつ首肯して彼女の後ろへ下がる。

 

『―――ガァァオオオオオオオオンッ!!』

 

レーザーブレスの準備ができたのか、ドラゴンは吠える。吠えに吠え、光が空間に満ちて―――

 

『耐衝撃、耐閃光防御―――索敵、正常。『七式星雲砲改』―――斉射!』

 

対を成すような、黒い光が夕の腕と腕の間に生成された。

 

七式星雲砲改―――それはなにか。

 

暗黒物質―――ダークマターを、作り出したワームホールから抽出、変換して生成されたエネルギーを打ち出すエネルギーボールである。

 

この超空母「信濃」の主砲として採用されている七式星雲砲の小型改良発展版であり、空間の精霊ノトスの能力を解析して完成されたものだ。

 

生成されるエネルギー球は、いかなる理由か可視光へ変換されない黒い光―――赤外線と僅かな紫外線のみを放つ黒い球となる。

 

『―――ガァァァッ!』

 

ボフであったドラゴンはその威力を察知したのだろう。

 

それがレーザーブレスを発射する―――刹那。

 

エネルギー球は夕の腕を離れ、発射された。

 

それはレーザーブレスとぶつかり、そのエネルギー故に衝突して光を放ち、そして。

 

『……問題はない』

 

夕は小さく笑み、誇らしげに胸を反らした。

 

瞬間、黒いエネルギー球は閃光を突破して―――ドラゴンをほぼ総て焼き尽くす。

 

着弾の瞬間、音もなく龍の形が崩れ、燃え、次いで。

 

ドオオオオオオオオオオオン!と巨大な爆発音が響いた。

 

『私自身は大変矮小だが、薺川博士の科学力は絶対に近い―――勝った』

 

夕は普段の彼女らしくなく、酷薄な笑みと自信たっぷりの声音を放って、腕の展開を解く。

 

「……やべーな、暗黒物質キャノンってか……」

 

息を呑む空悟の呟きを残して、かつてミナの戦友であった龍司祭の男の形をした人形は消滅したのであった。

 

 

 

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