異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第249話「わぁ、これはどういうことなのですでしょう」

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―――戦友の人形が消滅する。

 

その仲間たちの戦果に、ミナはニヤリと笑った。

 

親友は強い。強くなった。

 

高位の龍司祭は龍とならざるとも、龍に等しい戦闘力を持つ。

 

それを夕と二人がかりではあるが、夕に負担を与えずに渡り合う姿を見てミナは安堵する。

 

「オレの親友はやっぱすごいな」

 

「ミナちゃん、昔話は転生後の話ばかりですけど、いつか前の話もしてくださいね!」

 

魔力弾を放ち、ドライアードの蔦を焼き切りながら岬はそう言って微笑んだ。

 

「恥ずかしいから、そのうちね、そのうち!」

 

誰がおっさんだった頃の自分の話など聴きたいと思うだろうか、とミナは嘆息して祖母の人形が繰り出してくる精霊術へと対抗する。

 

「四界の王たる者たちよ!我が触れたるものを契約の軛より解き放ち給え!塵は塵に、灰は灰に、精霊は自ら然るべき姿へ還るべし!」

 

ざぁ、と全ての精霊術が霧散していく―――ミナは既に地水風の上位概念である、星と時間と空間の精霊の助力を得ている。

 

精霊封じの術の威力もまた上がっているのだ。

 

そして精霊術を使わなくとも、弓術こそ熟達したハイエルフたちには劣るものの―――ミナは剣術、槍術、棒術、短剣術、神聖魔法、古代語魔法、陰陽術、etc,etc―――

 

グリッチ・エッグでは一般的な戦闘術理にはほぼ全てに精通している。

 

如何に魔王の力があろうとも、ミナのほうが全盛期のカレーナよりも強い―――と言える。

 

しかし、浄化の力を持つ岬、記憶の魔王を相手にする時に有利となる感情を操る魔法を使える恋をサポートにしても追い詰めきれてはいない。

 

それはなぜか?

 

『うーむ。精霊封じでは生命力そのものは封じれんからのう。生命の精霊術に専念しておるわ、あの人形』

 

鞘の中のカレーナが分析し、へっ、と突き放すかのような声を出した。

 

「わかってるけどさぁ……」

 

『我、炎の術は苦手じゃ。女じゃし上古の森人故の。でもお主は得意じゃろ?使って焼き尽くせ』

 

火は生命力の根源のひとつではあるが、同じく生命力の破壊の基礎である。

 

体内では化学反応という形で、あらゆる生命は「ゆっくり燃えている」のとほぼ同義であることは言うまでもない。

 

しかし爆発的な燃焼は生命に危機を与える―――発熱が一定を超えれば、人の構成するタンパク質に致命の変化をもたらし死に至らしめるように。

 

炎に触れれば、焼け、そして死ぬように。

 

―――体内で生命を育む女性は、ゆっくり燃やすこと、つまり生命の術法に長けている。

 

男は逆で、炎の術法に長けることが多い。

 

ミナは―――その魂が男と混ざっているためか、生命の術よりも炎の術を得意とし、それはフェニックスやジンと契約していることからも明らかである。

 

「ミナさん!」

 

スト―ファの人形を滅殺したルルと廻が合流する。

 

ルルが心配げにミナに声をかけると、ミナは「無事よ。これからこのモドキを焼き尽くす!手伝いなさい、私の従僕!」と叫ぶように返して、マスターリングを嵌めた指輪を人形へとかざした。

 

急激な精霊力の消失からもう回復したのか、人形は再び精霊術の詠唱を始めている。

 

阻止しなければ面倒なことになるのはもう明らかである。

 

『ここは私がいこう。焼き尽くす術というのであれば、岬と恋の力も必要なはず』

 

廻が左半身に構えて拳を突き出すと、ミナは無言で首肯する。

 

岬、恋もそれに首肯して魔法のために力を蓄え始めた。

 

そして、龍の爆光を背にして夕と空悟も合流してくる。

 

「無事みたいだな、俺も廻と一緒にあれを止めるでいいか?」

 

「ああ、そうだ。頼むぜ。格闘能力は全然だけども、自由自在にスライムと植物生やしてして、めっちゃ面倒だから気をつけてくれ」

 

ミナにそう言われて、空悟は「了解」と返して斬鉄剣を正眼に構えた。

 

『……エントよ……森の王、暗く静かな深き森よ……』

 

『おっと、ありゃまずいのう。エントの術なぞここでで使われたら偉いことじゃわい』

 

カレーナの人形が唱えだした術法の詠唱に、本物は嘆息して警告を出す。

 

『偉いこととは?』

 

七式星雲砲改を使った影響か、シュウシュウと全身から湯気を立てて―――おそらくは冷却モード中である夕が、そのように問うとカレーナは『うむ』と肯いて続きを答えた。

 

『あれはクリエイト・フォレストの術。完成には今少しかかるであろうが、完成すれば周辺……こちらの単位だと多分十きろ四方を己の意のままになる『黒い森』にしてしまうのじゃ』

 

「どっちかというと高位の精霊術を使うダークエルフが、特に好んで使う術ね。グズグズしていられないわ」

 

ミナは肯いてルルと恋、そして岬を見た。

 

「―――岬と恋はフェニックス・ライド。ルルはフレアー・クリメイション―――私は、ジンを呼び出すわ!」

 

ミナはそう言って術の詠唱を始める。

 

その言葉に全員が動き出す。

 

―――この後には、記憶の魔王との戦いが待っているのだ。

 

手早く決めなければならないが、油断するわけにもいかない。

 

ミナは契約している炎の精霊の片割れ、転生と再生を司る火の鳥フェニックスと対になる、焼き尽くすもの、破壊の王ジン……またの名をイフリートの召喚を始める。

 

「寄り添いしもの、破壊するもの、怒りの象徴、遍くを破壊する王者、最期の願いを叶え総てを灰に導く葬送の守護者ジンよ―――」

 

その魔力にて不死鳥を呼ぶ岬たちと対となる、破壊の炎がミナの指輪から生まれていく。

 

「鋼の秘密を暴くもの、啄まれし王より火を賜りて人へと齎す妖のものよ!我が手に葬列の赤い花を。冷たき死に青く最期の熱を与えん―――さぁ、我とともに総てを焼き尽くす怒りとならん!吼えよ!炎の魔神!!」

 

詠唱が終わると、ミナの後ろに端的に言えばランプの魔神のような―――アラブ風の大男が立っていた。

 

その大男はニヤリと笑みを浮かべると、炎そのものへと転じていく……

 

服を燃やし、肌を赤き炎へと変えて、やがて青く―――より高温の炎へとそれは変化していき、周囲に高まる森の精霊力を焼き消していく。

 

そう、それ即ち炎の魔神。

 

そして同列にある森の上位精霊エントの力をかき消していくのを見れば、ミナのほうがカレーナの人形よりも精霊を支配する力が高い事を示していた。

 

その事実を確認したミナは、ふと笑みを浮かべる。

 

「―――破壊の後には再生がある」

 

『何をするつもりじゃ、お主?』

 

カレーナは、その時ミナが浮かべた笑みに「自分」を感じたので、そう聞いてみた。

 

するとミナは笑みを消して「コケにされたんだから、コケにし返すだけなのだわ。御婆様にあられましては、悪いようにはいたしませぬ故」

 

ミナは慇懃に、歌うように嘯いて、ルルに振り返る。

 

「承知いたしました―――我が前のものすべてを焼き尽くし原初の姿へ葬送せよ―――フレアー・クリメイション!!」

 

「行け、炎の魔神よ!」

 

二つの炎が、破壊と葬送の炎が放たれる。

 

瞬間、前衛で生えてくる蔦や若木を切り倒していた三名は―――

 

「やべっ!」『退避するぞ』『応とも』と口々に横に飛ぶようにその炎を避けていた。

 

『……森よ、生まれよ。我に従え』

 

呟くように艶めく声でカレーナの偽物はクリエイト・フォレストの最後の詠唱を完了させる―――が、こちらが早い。

 

森の王が記憶の中より現れ出でる前に、魔神の口腔から放たれた火炎と不死の王の杖から放たれた火球が、女の容に着弾する。

 

燃え上がるは破壊の炎。

 

並の人間ならば近づくだけで消し炭にする超高温の炎だ。

 

葬送の魔法を巻き込んで、火炎は青く、青く―――やがて白く白くなっていく。

 

『う……』

 

カレーナもどきは、そうして炎の中で崩れ落ちていく……

 

「今よ、二人とも!」

 

ミナは白い炎が青く赤く温度を落としてきたことを見て取り、二人に指示を出した。

 

「えっでももう……」「いいから!」

 

もう倒したんじゃないの?と疑問を呈する恋に、ミナはそう有無を言わせない言葉で続ける。

 

「わかったのです!破壊の後の再生―――なのですね!」

 

岬はその言葉の意味を悟り、恋に「さぁ」と促した。

 

「わかったよ、なんだかわからねえけどやってやるぜ!」

 

恋は岬の言葉に元気よく答えて、岬と抱き合い詠唱を始めた。

 

「「鋼の秘密が暴かれた!封ずるものよここにあれ!天空より炎天を纏い、来たれ輪廻の守り神!マジカル・フェニックス・ライド!!」」

 

二人は温度を下げつつある破壊の炎へと、再生の火炎を鳳凰の形を持ってぶつかる―――!

 

シュオオオオオオオンとなにかが消えていくような音が空間を支配する。

 

―――そうして破壊の炎は再生の炎と合一し、徐々に小さくなっていき……

 

やがて残るは、灰。真っ白な灰……

 

カレーナの形をした人形は、スライムごと完全に燃え尽きたように見えた。

 

燻る不死鳥の炎を見遣ったミナは、二ッと笑って精霊語を語り始める。

 

「鋼の秘密を封ずるもの、生命の冒涜者にして守護者たる不死鳥よ。転生の炎を持って再生せよ、その身体を―――邪悪の軛を打ち砕き、その肉なりしものを我等の元へ」

 

妖精の勇者の祝詞に、燻る炎は―――

 

「わぁ、これはどういうことなのですでしょう」

 

「キラキラしてるんだけど……」

 

それを纏う魔法少女たちから、その炎は煌めきを放ちながら離れ行き……不死鳥の形を再びとると、サラサラと星の輝きを白い灰に降らせて消えていく……

 

―――後には横たわる肉の人形が一つ。

 

しかし、その手足はピクリとも動く気配はなく、ただ命があることを示すかのようにその胸は上下に動いている。

 

『よ、よもやこのような方法で我からそれを奪うとは……!』

 

今まで声も気配もなかった記憶の魔王が、そう焦りと怒りを含んだ声音で零す―――

 

そう、そこに眠っていたのはカレーナの人形そのものであった。

 

 




書き溜めもーないっす。

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