異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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翌日。
「昨日は大変だった……」
しんしんと降り積もる雪をスコップで掻きながら、ミナはハァ~とため息をついた。
このところため息が多くて嫌になってきたが、それはもうすべて邪神とバグの仕業と諦めてスコップを振るう。
時間は早朝。
一輪車に乗せて雪捨て場へもっていくのが面倒になったミナは、こっそりと炎の魔法で雪を溶かしては側溝に捨てていた。
「しかし、よく積もること……一回戦はこのくらいにして、また昼くらいにやろう」
ただでさえ昨日は大変だったのだ。
昨日は、文との約束通りミナが今野夫妻の子供たちを預かることとなったが、そもそも育児などグリッチ・エッグで200年以上前に妹のお守りをしていたことがあるくらいで全くの未経験。
4歳児の元気さに振り回され、相手をしていたミナと付き合わされた岬はへとへとになってしまった。
ルルは、ミナが文を酔っ払わせた自業自得であるがゆえに我関せず、と子守を手伝うことはなく、時折思い出したように菓子類を持ってきたりタブレットで惟神テレビの配信を見せてやったりしていた程度であった。
ミナはいつも通り朝食の用意を終えると、雪かきで冷えた体を温めるために風呂に入る。
保温スイッチは切れていて、寒さもあってかぬるめの水となっていたが、それは加熱の術でどうにかした。
体をかけ湯で軽く流してから熱めの湯に肩まで浸かる。
「あ゛~……」
(やっぱり日本のユニットバスは快適だわ……)
グリッチ・エッグの機械技術は未だ発達してはおらず、進んでいる場所でも近世から近代に差し掛かる程度のところばかりだ。
そのため魔法が一般的でなく、かつ燃料になる植物や石炭、泥炭、あるいは魔力が籠る鉱石などに恵まれない土地では風呂に入ることはまずできない。
たとえそれらの燃料が豊富でも、水が貴重で風呂になんか使えないという土地も珍しくないので、一層風呂に入れる場所は限られる。
もちろんミナたちのように魔法に長けた身であればそこらへんは自由だが。
ミナの身長は、三郎の少し小太りだが中背といったところであった体と比べると15㎝は低くなっている。
小さくなったおかげか、記憶にあるより湯船の広さは快適だった。
少し痩せ気味だが整った体つきは、当然三郎のだらしない体とは別物だ。
いくら冒険を繰り返したことでついた筋力があっても、質量のせいで力負けすることもある。
なのでミナはもう少し太りたかったのだが、ハイエルフはそうそう簡単に成長してくれないらしい。
この250年ほど、つまり前世の記憶を思い出し冒険に出る前からは体形は全く変わっていないのだ。
ミナは右手で左の二の腕をなでると、ああ女の肌だなあ、と嘆息する。
(最初の頃は違和感しかなかったっけなあ……)
三郎だった自分、ミナだけだった自分、二つが混ざった今のミナという自分。
その整合性を取るのに何年かかったか、もうミナは忘れてしまっていた。
たとえ三郎の記憶のほとんどを自らの死体から回収した今でも、その整合性はきちんととれている。
(あなたはだぁれ、ってか?らしくもない)
ぶくぶくと吐息で湯に泡を作って、ミナは熱い湯に沈んでいく。
外では、雪が深々と積もっていた。
その日の昼頃、早朝に雪かきした後になおも10㎝は積もった家の前の歩道の雪を雪かきしていると、ミナに話しかけるものがあった。
「精が出るねぇ、ミナちゃん」
「あ、菅木さん。こんにちは」
菅木と呼ばれた中年の女性にミナは頭を下げて、スコップを地面に立てた。
前世では高校卒業以来ほとんど話したことがなかった人だが、茜の養女という名目でご近所付き合いを始めてからはたまに話す相手だった。
「まだ三郎くんは帰ってこれないのかい?もう2か月は経つじゃない」
「……まだまだ義兄は帰ってこれませんよ。ひどく疲れていましたから」
「そうかい……」
ミナの寂しそうな言葉に、心からの心配を滲ませた言葉を菅木さんはつぶやいた。
思えば、小中の頃は彼女をスガのおばちゃんと呼んで慕っていたし、お隣でもあることでお世話にもなっていたので、三郎が、かつての自分が二度と帰ってこないことを伝えられないのは心苦しい。
きっとこの人が次にかつての自分の顔を見るのは、水門三郎の死を偽装するときになるだろう、と思うとそれは一層胸を締め付けることだった。
「ま、元気になって帰ってくればいいやね。それはそうと、聞いたかい?インターチェンジの方でね……」
そこからは取り留めもない世間話が続いた。
雪が降り積もる中、よく話すものだ、と彼女を車庫の屋根下に誘導しながらミナは思う。
「そうそう!すごい話を聞いたのよ!なんでもね、護国神社の地下から戦車が見つかったんだってね!」
そんな中、そんな話が出た。
「へ、へぇ~すごいですねぇ……」
少し言いよどむミナだったが、菅木さんはそのままの勢いで話し続ける。
「なんでも旧日本軍が戦争でアメリカが来た時のために隠してたんじゃないか、って神主さんが言ってたわよ。クリスマスには駅前で戦車が走ってたそうだし、ホント物騒よねえ」
おばちゃんの言葉に、ミナは内心で護国神社の神様に感謝する。
このニュースが全国を駆け巡るのは数日の後のこと、最終的に調査が終わり科戸護国神社に九七式中戦車が奉納されるのは2年の後のこととなる。
おばちゃんの話はまだまだ続いていたが、ミナはそろそろ昼食の準備をしないといけない時間だと気づき会話を打ち切ろうとした。
その時である。
菅木のおばちゃんの口から気になる言葉が紡がれたのは。
「実はね―――神主さんが戦車調べてる警察の人から聞いたって言ってたんだけど、なんか戦車があった場所の地下に不自然な空洞があるかもしれないんだって!あの神社なんなのかしら!」
「……もうちょっと詳しくお話を聞いてもいいですか?菅木さん」
そうしてミナはおばちゃんにその件のもう少し詳しい話を聞くことになった。
―――昼食を摂るのが少し遅くなってしまったのは言うまでもない。
その日の13時過ぎ。
遅めの昼食を摂りながら3人は菅木のおばちゃんの話をしていた。
「そういうわけで神様に預けてきたチハたんが見つかったと思われる神社の地下になんだか未発見の空洞があって、それを警察が調べてるらしいんだけど、なんかおかしいらしいのよね」
「おかしい?」
ミナの言葉に五穀米のチャーハンを食べる手を止めてルルが聞いた。
「唸り声が聞こえるとか、サーモグラフィーが壊れたとか、そんな話を神主さんがしていたらしいわ。ぶっちゃけ眉唾だけど、あそこが神様のいる場所だっていうなら、放っておくのは精神衛生上よろしくないわね」
ミナは付け合わせのラッキョウをかじる。
「ふむ……」
「科戸護国神社かー中学の時に行ったきりですね、あたし。あそこって昔っから変な噂あるのですよね」
チャーハンにソースを少々かけながら岬が話に混ざってくる。
「店長、それ美味しいんですか……?」
「意外と。ソーライスって食べないですか?」
ソーライスとは文字通りウスターソース掛けご飯のことである。
昭和恐慌の頃が由来とされ、阪急百貨店のエピソードが有名なご飯の食べ方の一つだ。
「うーん、まあソーライスは時間ないときとかに食べてましたけど、前世で……それはともかく、噂ってどんなの?」
ネギの味噌汁に唐辛子を振りかけながらミナがそう聞くと、岬はソースのかかったチャーハンを頬張ってそれを飲み込むと話し始めた。
「なんでもですね。科戸山の地下に旧日本軍の秘密研究所がある、っていう奴ですね。80年代から90年代くらいにUFOがどーたらナチスがどーとかノストラダムスがうんたらって番組が流行ってた頃にそんな噂がありましたのです」
ミス〇ル矢〇とか懐かしいですねー、と岬は笑った。
西暦1999年を過ぎてノストラダムスの大予言が外れるまではそういうテレビ番組が多く放送されていたのは厳然たる事実である。
そして、それらがすべて嘘っぱちのヤラセであったことも。
「あんな番組、今放送したら炎上間違いなしですねっ!ミステリーサークルとか、本気で怖かったのに!」
味噌汁をすすって岬が言うと、ミナも首肯して笑う。
「ただ、実際に科戸山には陸軍の測候所がむかーしあったって父が言ってましたです。そして、それは今も遺構として残っているのだとか。あたしは行ったことないですけど、山道に脇道があって、そこから行けるそうです」
「なるほど……カーチャンにもその話聞いてみて行ってみましょうか。明日あたり。ルルもそれでいい?」
チャーハンの最後の一口を食べてミナが言うと、味噌汁を音を立てずに飲み終えてルルは「神殿に行かないのであれば」と答えた。
「よし、決まり。店長はどうします?」
「やだもー店長はもうやめてくださいです。そのうちごまかしきれなくなるですし……こうなった以上、なんともどうしようもないのです。前の生活を取り戻すのはあきらめましたですよ」
岬はそう言って今度は醤油をチャーハンにかける。
「それはわかりましたけど……」
「敬語もやめてほしいです」
「じゃあ、お言葉に甘えて……岬、それはわかったけど……そのチャーハン、美味しい?味薄かった?」
ミナが聞くと岬は笑って、「割と。チャーハンの味は薄くないです。変化が欲しい年ごろなんです。後、明日はついていきますですよ」と答えたのだった。
余談だが、結局のところ彼女がごまかしきれなくなる前に元に戻ることはなく、店舗は本部直営となり、彼女自身は収容されているはずのサナトリウムから脱走して行方不明ということになったのは言うまでもない。
それを茜や茜の友人のサナトリウム経営者がどのようにごまかしたのかも、それによってコンビニ本部がどういう炎上をしたかについても詳しく語られることはないだろう。
さらに翌日。
科戸山の東側、標高500mほどの場所にあるという旧陸軍の測候所跡を目指して3人は歩いていた。
―――大雪の中を。
「へ、変身させてくださいでーす……」
熟練の冒険者であり、当然冬山登山なども幾度となく行っているミナ、そもそもアンデッドであり寒かろうが暑かろうが死ぬことのないルルと違って、登山経験もないただの一般人である岬はひぃひぃ言いながらなんとかついてきていた。
ひぃひぃと喘ぎながらでもついてこれているのは、肉体の若さによるものか、それとも魔法少女もどきになっているためなのか。
彼女はよくついてきていたが山道を半分ほど進んだところでギブアップの様子を見せていた。
「しゃーないわねーほら、おぶってあげるからこっち来てよ、岬。変身なんか真昼間にしたら大騒ぎだし」
そう言ってミナは岬に背を向けて、彼女を背負う準備をする。
いくらこんな大雪の日だからと言って、いや大雪の日だからこそ、ここまでにチラチラと登山者の姿が見えていたため、当然魔法少女に変身などしたら大変なことになるはずである。
昔と違って、今は登山者でもスマホなどの録画機材を持っているのだ。
「あ、ありがとうですミナちゃん!」
体が幼くなって精神も引っ張られているのか、それとも仕事から解放されて本来の性格が戻ってきたのか、あるいは単なるやけくそなのか。
岬が店長だったころと比べるとだいぶ遠慮がなくなっていることに少し嬉しくなる。
少なくとも恐怖におびえているよりはいい傾向だろう。
そういえば向こうの世界に残してきた妹もこんな感じでわがまま言っていたっけな、と思いミナは苦笑した。
岬を背負った少女は、岬の体重分深く雪に沈む足を滑らせないよう気を付けながら、登っていく。
ハイキング用の山道は定期的に雪かきがなされてはいるが、昨日今日の大雪で完全に道が見えないほど積もっている。
落下防止のための金属柵が設置されている道のため、ミナやルルのような熟練の冒険者であればいくら雪が積もっていようと滑り落ちる可能性は低いが、用心は用心である。
そうしてしばらく歩くと、山道に分かれ道があることに気づいた。
「ははー、あそこね。神社行く時にはあんまり気にしてなかったけど……っていうか、人が完全に通ってないせいかべらぼうに雪が積もってるわね」
ミナは覗き込むようにそちらを見ると、呪文を唱える。
「凪の日はいと優しく嵐吹かば厳しき水の娘ウンディーネよ。水面の下に生きる者たちのごとく、我らの口に鰓を与えたまえ」
水色の光がミナと岬の体に灯り、それが消えるとミナは「さて行くかぁ」と自分の腰のあたりまで雪が積もった山道へとまっすぐに歩いていく。
「今の何ですかぁ?」
「水中呼吸の魔法。雪崩にあって生き埋めになった時に生存確率が上がるやつ。多少だけど防寒にもなるの」
「雪崩……ひぃ……」
ミナのなんでもないといった風情の言葉に岬は小さく悲鳴を上げて身じろぎするが、ミナはそのまま歩いていく。
「だ、大丈夫なんですよね?」
「大丈夫。水中呼吸の効果が効いてるうちなら雪の中でも呪文唱えられるから脱出くらい簡単だって」
「本当ですよね?だいじょぶですよね?」
何度も何度も大丈夫か聞く岬に、(この人本当に39歳だったんだろうか)と思いながらミナはなだめるように笑う。
その様子にルルは肩をすくめてタブレットを取り出し、地図を確認する。
目的地まではあと1㎞ほどだった。
「なんというか、フツーのコンクリの建物ね」
開口一番ミナはそう言って、雪に埋もれた建物を見つめる。
建物の入口には「陸軍気象部 神森支部出張所」とかすれた文字で書かれた看板が見て取れた。
既に森の中に飲み込まれようとしているその建物は、確かに数十年以上の時間を感じさせる古さが厳然として存在しながらも同時に、人の手が入っていないのであれば崩壊していても不思議のない月日を経た建物であるにもかかわらず、崩れる様子もなく立ち尽くしている。
「―――誰か住んだりとかしているのかしら?」
不思議に思いながらも、ミナは入口らしきドアへ続く道の雪をバッグから取り出したスコップでわきによけていく。
そして数分もたつ頃には、そこには道ができていた。
「また積もっちゃう前に行くわよ」
「承知しました」「はーい」
二人の返事に、うん、とうなずくとまだしっかりしているドアを開ける。
ギギギ、という音がして中に入ると、そこは意外にも広く―――
「!?」
ミナは入った瞬間、嫌な予感がして外へと大きく飛びのいた。
「っわ!?」
「この気配……」
岬はミナの背中が目の前まで来たことで驚き、ルルはそこに何かを感じて黒く捻れた杖をバッグから取り出して構える。
瞬間、ドガンと轟音が走り、ドアに巨大な爪痕が刻まれた。
「岬!変身して!私は防御魔法かけるから、ルルは出てきたやつに攻撃!」
「わかりましたです!」「承知」
杖を取り出して岬がマジカル・アナンに変身すると同時に、ミナはプロテクションを、ルルはファイアボールの呪文の詠唱を終えた。
バキン、バキン、とドアが悲鳴を上げる。
そうして、のそりと、ドアどころか入り口をそのもの破壊しながら四つん這いで出てきたものは―――3mをゆうに超える巨熊であった。
「ぴぃ!?なんですかこれッ!?」
「熊属モンスターのウェンカムイ!これがいるってことは、すでにここはダンジョンと化しているってわけか!」
岬の悲鳴と同時に展開されたプロテクションの防御壁が光を放つ。
ルルは小さく「ファイヤーボール」と唱えて、杖の先の火球を巨大な熊へ向かって飛ばした。
ボン、と炸裂音がしてウェンカムイの右肩が吹き飛び、腕がそのまま地面に落ちた。
「ファボォォォォォォ!!」
「開けた瞬間すごいバグの気配でびっくりしました。なんだかどんどん起きる事態がひどくなっていやしませんか?」
ルルが呆れ顔でそんな事を言うが、ミナは構わずバッグから銀色の穂先と蒼色の柄を持つ2m半ほどの馬上槍と思しき直槍を取り出した。
「いいから片付ける!岬もなんでもいいから援護して!」
槍を大上段に構え、ミナは走る。
雪のせいでミナたちに逃げ場所はなく、地の利が有利に働くのはウェンカムイのほうだが、ミナの膂力は見た目とは異なりオークキングのそれを上回る。
「わっわかりましたです!魔法光線発射ァ!!」
直截すぎる名前を岬が叫ぶと、ウェンカムイに向かって構えられた杖からピンク色の光が走りウェンカムイの左目を貫いた。
「ガァァァァァッ!?」
腕と目を失ったことで理性をも喪い、痛みに叫び突進するウェンカムイだが、すでに遅い。
「よいしょぉッ!!」
大上段から振り下ろされた槍の穂先は、まるで豆腐でも斬ったかのように抵抗なく、ウェンカムイの脳天から顎にかけて真っ二つにしていた。
何が起きたかわからないまま、ウェンカムイは突進の勢いのまま岬の目の前に展開されていたプロテクションにぶつかって停止する。
「ひゃあぁ!?」
目の前で真っ二つになった熊の顔が透明な壁にぶつかってぐちゃぐちゃにへしゃげるのを間近で見てしまった岬の悲鳴が上がると同時にミナが地面に着地して、戦闘は終了した。
馬上槍から血を拭いバッグにしまったミナは「さすがはアダマンタイト製」とつぶやいてから、二人に向き直った。
「……私としては一時撤収もやぶさかではないんだけど、二人ともどうする?」
時間はまだ昼の11時過ぎ。
一時撤収するというのであれば、十分な時間だ。
「ダンジョンアタックするなら、一旦戻って準備したいですね。僕の記憶が正しければ、携帯食の類は珍味系を除いてほとんど邪神の空洞で食べきってしまってますよね?」
ルルがメガネについた雪を布で払い、雪が残した水分を拭いてかけ直す。
「そーね。モンスター食べたりしてたもんね、最後の方。岬もそれでいい?」
「あたしに異論はありませんです。こんなでっかい熊が中にいっぱいいるんなら、もうちょっと魔法の使い方を勉強してからにしないと、あたし死んじゃいますです……」
変身を解いてへなりと地面に座り込んで、岬も撤収に賛成した。
念の為バッグの中身を書いたノートをバッグから取り出して確認すると、携帯食はもう数食分しか残っていなかった。
「よし、撤収!食べ物と飲み物、キャンプ道具を揃えてからの再アタックにしましょう!」
ミナは宣言して再び岬を背負い、道を引き返す。
―――前に。
ミナはウェンカムイに破壊された入り口と看板に、リペアーの魔法をかけて修繕するのだった。
明けて翌日。
ミナたち3人はホームセンターで買い物をしていた。
ロープなどの消耗品、缶詰やショートブレッド系保存食、ジャーキーなどの干し肉系保存食などおおよそ冒険に必要な物品を買い求めるためだ。
その後は家で岬用にもう少し本格的な靴などの装備品を無限のバッグから見繕う予定である。
「どうしたい、お嬢さんがた。登山にでも行くのかい」
「ええ、まあ。似たようなものです」
鉢巻を巻いた店員からそう言われて、ミナはぺこりと頭を下げる。
どうも顔を覚えられたようで、こちらが遠慮しなくていい人だとわかるとあのようなラフな口調で話しかけてくる若い店員だった。
話し込むと彼が上役に叱られるかもしれないと思い、ミナはもう一度会釈すると棚のとんかつソースの小瓶を取りカゴに入れて次へ向かう。
「まあ結局のところ、あっちの世界と同じ意味での冒険者がいないこっちの世界なら登山に思われるわよね」
ひぃふぅみぃと袋に入れたショートブレッドの数を確かめながらミナは笑った。
グリッチ・エッグの冒険者は、多くのハイファンタジー世界の冒険者とほぼ同義だ。
未踏破地域への探検やダンジョンの攻略、財宝の探索だけではなく、隊商や要人の護衛もすれば、薬草や鉱石の採取も行うし、モンスターの討伐や戦争への傭兵参加などの荒事も、都市内部での調査などの探偵めいた仕事も行う何でも屋である。
当然現代世界にそれに相当する職業はなく、冒険者の必要とする物資を求めれば誤解されることもあるだろう。
ミナもルルも、現代世界では作られたものの品質の良さに舌を巻くが、それだけではなかった。
魔法にまつわるものや爆発物を含む危険物は―――補充の手段がないのだ。
「……魔法剣の修繕とか私できないし、銃刀法とか危険物取扱規則に触れるようなアイテムもなかなか買えないだろうし、これは問題だわ」
「この事態が続くとすれば、ですけどね」
ルルはロープを引っ張って強度を確かめると買い物かごに入れてそう言った。
ミナは、むむむ、と少し唸ると「最悪、自作しないといけないものもあるか」とつぶやいた。
とりあえずは壊れないように取り扱うのが一番ね、と岬が集めてきた缶詰を確かめながら結論を出したミナはカートに買い物かごを乗せて歩き出した。
「岬、缶詰安くていいの持ってきたわね」
「自炊する時間もない、お金もない。そんな一人暮らしが長いと、安売りの缶詰と見切り弁当が命をつなぐんですよ……コンビニの期限切れお弁当は勝手に食べると最悪横領で訴えられるですし……」
遠い目でえへへ、と虚ろな笑いを漏らす岬にミナは「それはお気の毒様……」と生ぬるい笑みを返すのが精いっぱいだった。
(うん、やっぱり彼女は行方不明ってことにした方が本人のためだこりゃ)
そんなことをぼんやり思いながら、ミナが昔読んだ漫画で、ヒロインだった18歳くらいの合法ロリを戦いから遠ざけるために記憶を改ざんして7~8歳の子供として同じく記憶を改ざんした老夫妻に預けていって終わった漫画があったことを思い出す。
(続編どうなったんだっけ。そっから読んでないから知らないけど、今度探してみようかしら……)
流石にあんな風に岬を扱うことはできないなあ、と考えながら粉末栄養ドリンクを籠に入れて笑う。
そうして、無事に買い物は済むはずであった。
ちなみに、その漫画の続編は見つからなかった。
カオシックルーンEsとカルドセプトの続きはずっと待ってました。
待ってたんです。でも、両方とも作者の病気じゃあ仕方ないじゃないですか!
追記
アンケート投票ありがとうございました。
週1~2度が一番多く、毎日投稿+定期お休みも多かったので、
だいたい週に2~3回を目標に投稿して、書き溜めが尽きてしまったら
お休みという形式を取らせていただきます。
よろしくおねがいします。
今後(8月中旬以降)の更新についての日にち間隔
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毎日投稿で定期的にお休み
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週に1~2度
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月に1度程度