異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第251話 「うわぁぁぁぁぁ!ださいいいいい!!こんなの嫌じゃぁぁぁぁ!」

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「うわぁぁぁぁぁ!ださいいいいい!!こんなの嫌じゃぁぁぁぁ!」

 

「ええい、騒ぐなクソババァ!もうすぐ野郎が位相を戻してくるんだから!文句なら後で聞くわよ!!」

 

渋々ミナが学院でもらった大魔導士のローブを羽織った祖母が、だせえのなんのと泣きわめくのに辟易しつつミナは客人碎を構えて毒づいた。

 

空を見れば、落とした三つの顔をかつて戦った魔王の顔に変えて、記憶の魔王がゆらゆらと空間から現れようとしている。

 

その様子に空悟は「ちょっとお前のばーちゃん、この状態で役に立つのか?」と耳打ちをしてきた。

 

「まぁ、その辺はオレも心配だけどな……なんとかなるんじゃねえか?」とミナはフッと遠い目で笑った。

 

「まあ、そうですね。あの時は本当に大変でしたから」

 

同じくルルが遠い目で微笑む。

 

―――かつてカレーナが命を森に返したときのことのようであったが、その際に何があったのかを聞く勇気も時間も今のこの場にはひとかけらも存在しない。

 

「なーにが大変じゃ!我、何も悪くない!あの時は!」と振り向いてガーっと吹きあがる彼女に反省の色はないようであった。

 

「どの口で……まあ、いいわ。いけるの?いけないの?」

 

「お主の代わりに精霊術を使えばいいのであろ!使えば!全く老人に厳しい孫じゃのう……」

 

やれやれと言って、彼女はミナの放った腕輪を受け取った。

 

それは、「精霊銀」と呼ばれる特殊なミスリルで作られた腕輪である。

 

装着するだけで精霊への働き掛けを強化するものだが、ミナは普段使いはしていないものであった。

 

「ほう、良いものではないか。もらって良いのかの」

 

「いいわよ、私には数あるブースターの一つでしかないし。それじゃあ、みんな行きましょう!」

 

受け取ったものが予想外によかったのか、孫にねだる祖母であったが、孫娘はそれを何の衒いも逡巡もなく許して槍を構える。

 

「わかったのです……来るのです!」

 

岬が神妙な顔つきで空を見上げると、ゆらゆらと揺れていた魔王の影が目を見開き、バリン!と空間を割ってこちらの世界に再び顕現した。

 

『フハハハハハハ!ウワーッハハハハハ!!』

 

三郎の父の声と顔で魔王は哄笑する。

 

その様子に、ミナは一瞬カチンと来るが、隣のルルがダメですよ、と言わんばかりに真顔で首を横に振るものだから―――

 

「わかったわよ。倒すことを優先にする―――ルル、力を貸して」と答えて渋面を作る。

 

ミナはカレーナが戦線に加わったことを計算に入れて、客人碎で一気に倒すつもりなのだ。

 

『そううまくいくと思うか?』

 

冷却を終えた夕がそう聞くと、ミナは肩をすくめる。

 

一瞬祖母を見つめ、すぐ視線を夕に移して「そこはやってみて、ね。幸いにしてうちのばーちゃんは強いから」と返した。

 

―――その言葉に、カレーナは「まあ見とれ」とニタッと笑った。

 

「よくも我の麗しい肉体を、あのように無様に操ってくれたのう」

 

『よもや貴様の記憶そのものを奪取されるとは、流石に上位精霊ども、神々に愛された勇者よ。誇るがよいぞ、うぬが孫をな』

 

笑みを消して忌々し気にカレーナを睨んだ魔王に、勇者の祖母は「おだてて出るのはシルフのため息ばかりじゃぞ、ブ男め」と嗤う。

 

「ブ男ってかまあ怪物というか」

 

「ミナちゃんのお父さんの顔見たいですけど、魔獣ジ○○ンについてたらどんな顔でも同じく怪物なのです」

 

『少なくとも二目と見られぬ化物にブ男とは、いささか優しすぎではないだろうか』

 

恋、岬、夕が次々に目の前のどう見ても某有名RPGシリーズの4作目ほどから出てきた、複数の顔がくっついたモンスターによく似た魔王にそのように感想を述べていく。

 

『醜いなど戦争をすることに関係があるかね?ハハハハッハ!戦場で倒れれば、如何に美しいものでも兵や民の慰み者となり、醜い屍をさらすのみ!ハハハハハ!』

 

そんな当たり前のことを高笑う肉と顔の塊を見て、空悟は「喋るだけ無駄だから……って、そう言えば10分以内に倒したのに情報くれないのか、変な物体」とはたと気づいて声を上げた。

 

『空悟、そんなもの嘘に決まっているだろう。少なくとも我らには先程で手に入れた―――魔王を邪神が次々と復活させているという情報だけで十分だ』

 

夕の隣で拳を握る廻がそう言って、『それ以上に知っているとも思えんしな』と仮面の下で口角を吊り上げる。

 

『八対一であるが、卑怯とは言うまいな。毎度毎度雑兵を大量に繰り出してくるのはそちらだ』

 

廻はわずかにいら立ちを含んだ言葉でそう言って、『皇軍も行儀のいいものばかりではなかったが、お前の言うような現実ばかりだと思われるのは、あの時代に生まれたものとして抗議させていただく。実力行使によってな』と脚部の対戦車砲を展開した。

 

『それを証明したければ、我が記憶を打ち破るがいい!』

 

その瞬間、大気を強烈な酒の臭いが満たしていく―――

 

「これ、もしかして汝が昔に戦ったとかいう酒の魔王かの?」

 

「だろうね!バーチャン、有効なのは氷の術だ!」

 

祖母の問いに返答し、ミナは精霊へと呼びかける言葉を紡ぐ。

 

一瞬遅れて祖母もまた精霊への祈りを紡ぎ、それはまるで妙なる調べのように空間を満たしていった。

 

「「厳しき凍てつく蒼き孤狼フェンリルよ!吹き荒れ大地を凍てつかせよ!その牙ですべての熱をひれ伏させよ!」」

 

瞬時、魔狼の咆哮が周辺を一瞬で凍てつかせていく。

 

アルコールの凝固点はマイナス80度―――冷気への耐性を持つものなら十分に耐えられる気温である。

 

無論、全天候型の兵器である廻・夕は言うに及ばず、空悟・岬・恋の生身組もその程度の対策は既に取られている……

 

酒の魔王の攻撃の大半はこの方法で防ぐことが出来るのだ。

 

続けてルルのデス・ウォールによる防護を行うための詠唱が始まる。

 

周囲の極寒から味方を守るためでもあり、同時に―――

 

ドドドドンッと戦略兵器の魔王、そして―――巨大な口を持つ魔王が兵器や火炎弾を放ってくる。

 

「ちぃ!これ結構強い攻撃なのです!」

 

岬がマジカルプロテクトを発動し防御するも、障壁は一度の防御で消えてしまった。

 

「『破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ。その赤き牙を盾と変えたまえ……デス・ウォール!』」

 

重なる二つの言霊は、二重の障壁を作り出す……

 

デス・ウォール重ねがけは物理的に突破するにはミナでも苦労するものだ。

 

火炎弾を吐いたもの……暴食の魔王は即ちあらゆるものを喰らい、あらゆるものを吐瀉する魔王だ。

 

かの存在の中に眠る吐瀉物には、想像を絶するものが存在することをミナは知っている。

 

故に、物理防御が最大の重点である。

 

「なぁ、あれが吐く一番やばいやつってなんだ?」

 

「そりゃあ、当たり前にビームだよ!どうやって飲んだか知らねえが、太陽や星、月の光を飲んだもんを吐いてくるんだよ!」

 

ミナは客人碎に力を入れ、空悟にそう返すと「前衛はお前と廻さん、夕ちゃんに任せるぜ!戦略兵器の魔王はともかく、武具の魔王が出してくる魔王兵に気をつけろ!」と叫んだ。

 

「名前からして強そうだな、それ!」

 

空悟は残ったロケット砲と弾丸を地面に刺すように配置すると、「もう全弾行っていいな?」と確認を取る。

 

ミナ、廻、夕がうなずき、その言葉を待たずに空悟はロケット弾を一発発射した。

 

その弾頭は……暴食の魔王の隣りにある、もう一つの魔王の顔。

 

即ち武具の魔王の顔へとドォンという轟音を立てて衝突した。

 

『ほう!我の魔王顔に傷をつけると、なかなかの錬金術師が作ったものと見える!』

 

魔王が面白そうにそう笑うと、『訂正しろ。博士は科学者だ』と冷却を終えた夕が怒りをあらわにした。

 

その怒りに呼応するかのように、空悟は無言でロケット弾を連射する。

 

バゴン!ドゴン!と衝突音が繰り返されるが、空に浮かぶ顔の塊が怯むことはなく、効いているようにはあまり見えなかった。

 

「どうすりゃ死ぬんだ、あいつ?」

 

空悟はロケットランチャーを投げ捨てると、斬鉄剣を引き抜いて親友に聞いてみた。

 

すると、回答は「ま、ダメージ与えていけば死ぬ。本体に自動回復はないぜ―――ただ、死ぬ寸前まで攻撃の手は衰えないから注意だ」と答えてきた。

 

即ち、猛攻に耐え、ちまちまとダメージを与えながら、大技で始末するのが最善ということになる。

 

「厄介なバケモンじゃのう」

 

カレーナが右手を掲げ、精霊術の準備を始め―――不本意そうにルルがそれに続いて古代語魔法を唱え始める。

 

「海の底へと消えしもの。泡と潰えし麗しき人魚たちの姫―――尊き水底の女王マリーナよ。深き水底より一時、鋭き槍を我がもとへ。水に潜みし禍を、剣と放て美しきものよ!」

 

「偉大なるロジックよ。我が手を媒介し、鋭き蜘蛛の糸を作り出さん。弱き一条の蜘蛛の糸と侮るなかれ。其を破ること能わず、汝は大いなる理に切り裂かれよう。ブレードネット!」

 

ウォーター・アローの上位版、水の槍を作り出すウォーター・ランスの術。

 

そして、触れると切れる蜘蛛の巣を作り出すブレードネットの魔法が唱えられ、今まさに武具の魔王が生み出そうとしている魔王兵の素へと殺到する。

 

ドシュリと水の槍がぶつかり、その素は弾けてビタビタと地を汚していく―――次いで、ブレードネットによって切り裂かれた魔王兵の素は消え去っていった。

 

「―――焼け石に水じゃが、準備には十分じゃろ」

 

カレーナはフッと笑って、「さて次はどの術を使うかのう」とニヤつく。

 

「真面目にやって―――いや、あなたの真面目はその程度だったことを思い出しました」

 

ルルが不機嫌にそう言って、それから空悟と夕、廻に目配せをする。

 

魔王兵の素を吹き飛ばされた武具の魔王顔は『ギシギシギシギシギシリ―――軋むが歯車のごとく楽しむ、愉しめ、嬉しもう』と意味をあまりなさない言葉とともにまた魔王兵の素をその口からビタビタ、ビタビタと垂れ流していく。

 

「うわきったな」

 

カレーナの嫌悪の言葉と同時に、『―――殺人光線』『照射開始』とロボットたちが声を合わせてレーザービームを放った。

 

放たれた熱量は魔王兵の素を灼いていく。

 

―――同時に凍結したアルコールを巻き込んで、魔王の足元を高温の炎で焼き尽くしていくが―――

 

ガシャリ、ガシャリ、ガシャガシャガシャ、と軋むように落とされた素から魔王兵―――中身のない鎧。

 

雑多な武具を装備した、同じ形の鎧が、軍隊のごとくに整列して40ほど生まれくる。

 

『―――敵性体発生を確認』『……分析―――問題ない。燃料の損耗を防ぐため、格闘戦にて対処する。問題ないか、頭目』

 

発生し侵攻を開始する魔王兵と、それを援護するかのように魔王顔の吐き出してくるロケット弾や岩石を機関銃で迎撃しつつ、夕がそう許可を求めてきた。

 

ミナは即答する―――「もちろんやっちゃって!」と。

 

『承知。噴進弾等の対処はデス・ウォール防壁に依拠する』

 

廻は拳を構え、その隣で空悟は「っしゃ!」とどこかの鏡の世界で戦う仮面の戦士のような気合を入れて走り出す。

 

夕も一瞬遅れてそれに続き、前哨戦と言える防衛戦が始まった。

 

―――ミナは槍に、勇者の槍に意識を集中する。

 

ルルはその後ろに回り、古代語魔法を唱えつついつでもミナが槍を開放しても援護できる態勢に入った。

 

「じゃああたしたちも援護なのです」「うん!」

 

前衛と後衛の間に魔法少女二人が入り、その後ろにカレーナがいて精霊への呼びかけを行っている。

 

「……ルル」「はい」

 

主従は短く声を交わすと、小さく笑うのであった。

 

 




2周年であります。
でも書き溜め完全に尽きました。
日曜日更新されてなかったら、そう言うものだと思ってくだされ……

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